秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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武蔵爆死しました。


霊脈捜査 Ⅰ

橙子は炒飯を食べ終わり、煙草に火を着ける。

 

「アイツはジャンヌ・ダルクが好きで好きでしょうがないんだ。それこそ、聖杯が無くてもジャンヌ・ダルクを召喚できるか探すぐらいにな」

 

春華は黙って橙子の話を聞く。

 

「昔、私は秋の起源を調べたことがある」

 

「・・・・・・起原ってなんですか?」

 

「むっ・・・・・・そう言えばお前は魔術に関して何も知らないんだった。起原は存在全てに刻まれた絶対命令だ。起原が魔術に影響することはあるが、秋が使う魔術はそれが顕著だ」

 

橙子は何かを思い出すように窓の方を見る。窓から見える景色は、橙子が秋を拾ったあの夜から何一つ変わっていない。

 

「アイツの起原は『自壊』。自分で自分を壊すことを表している。アイツの魔術は使えば使うほど自分の体を壊していく」

 

「そ、そんな危ない物を使ってるんですか!?」

 

春華はテーブルを叩く。橙子は素早くコップを持ち上げる。

 

「今すぐ使わせるのを辞めさせてください!!」

 

「何故だ?」

 

「何故って・・・・・・秋は蒼崎さんの子供ってことになってるんですよね!?なら、親として子供のことが心配じゃないんですか!?」

 

「生憎と私はそこまでの情は持ち合わせていない。アイツも魔術師だ。それぐらいのリスクは承知の上で魔術を行使している」

 

橙子は煙草から立ち上る煙を見つめながら話を続ける。

 

「アイツは起原のせいか死に急いでる所がある。自分が死ねばジャンヌ・ダルクに会えるとでも思ってるんだろうな。・・・・・・そんなことをしても無駄だと分かっているだろうに」

 

「・・・・・・なら、何で秋は魔術師なんてしてるんですか?」

 

「ジャンヌ・ダルクとの唯一の繋りだからだろ?秋の支えはそれだけだからな」

 

春華は納得していないような顔をしながら座る。橙子は短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消す。

 

「だから、お前も深くは秋に踏み込むな。いくら姉だっと言っても、秋は容赦なく春華、お前を殺す」

 

橙子の言葉に春華は絶句した。そして、確信していた。秋ならヤりかねないと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここでも無い・・・・・・か」

 

秋は一人、冬木市の主だった霊脈が通っている場所を調べている。冬木市は日本でも有数な霊脈地だ。霊峰富士・日光東照宮に次ぐ霊脈地であることから魔術協会と聖堂教会から眼をつけられている。

 

管理者(セカンドオーナー)の凛さんはイギリス留学中・・・・・・更識からの情報が流れて来ないってことは知らないってことなのか・・・・・・外来の魔術師と繋がっているのか(・・・・・・・・)

 

秋と更識家は協力関係を築いているが、一枚岩とは言えない。現更識楯無と妹の更識簪は秋と橙子とは懇意な関係を築いているが、更識内部には橙子を捕縛して魔術協会に引き渡すべきだと言う派閥が存在する。その筆頭が前更識楯無・更識刀夜である。

 

「まあ、どっちでも構わない。もし、先生に手を出すようなことをすればーーーーーー殲滅すればいい」

 

秋の呟きは風に乗って人混みの中に消えていった。

 

「残る候補は・・・・・・冬木教会と冬木中央公園、柳洞寺、アインツベルンの森かな?近場の冬木教会から探してみようか」

 

秋は冬木教会に向かって歩いていく。秋は人混みを避けるように移動していく。やがて屋根に十字架が付けられている建物が見えてきた。

 

「ここに来るのも久しぶりだね・・・・・・」

 

秋は一度だけ冬木教会に来たことがある。聖杯戦争が始まって間もない頃、士郎と士郎のサーヴァント・セイバー、凛、そしてルーラーと共に聖杯戦争のルールを聞くために来た。

 

「ーーーーーーそれで?何時まで着いてくる気?」

 

秋は教会の扉の前で歩くのを止める。秋を囲むように二十人の男女が現れた。

 

「ーーーーーー蒼崎秋。貴様はお嬢様方に近づきすぎた。ここで死んでもらう」

 

「お嬢様・・・・・・ね。やっぱり更識は僕たちとの契約を反故にしたんだ」

 

「はっ、我ら更識家が傭兵紛いの貴様との契約を守ると思っていたのか?」

 

二十人の集団はそれぞれ短刀、刀、呪符を構える。

 

「安心しろ、蒼崎橙子とも会わせてやろう。あの世でな」

 

「へぇ・・・・・・」

 

秋は眼を細めて、集団を見る。

 

「死ねぇ!!」

 

呪符を持っていた魔術師達が一斉に呪符を投げる。秋が居たところを中心に炎や雷で地面が抉れる。

 

「他愛ない。『傷んだ赤色(スカー・レッド)』の弟子とは言っても所詮は子供か。おい、死体を確認しろ」

 

「「「はっ!」」」

 

三人の男は煙の中に消えていく。

 

「ぎゃっ!?」

 

「な、何故生きてーーーーーー!?」

 

「ぐきゃっ!?」

 

煙の中から男たちの悲鳴が聞こえてきた。煙が晴れる。岩から削り取ったような巨大な斧剣を持った秋が立っていた。回りには縦に切り裂かれた男。叩き潰され、肉の塊になっている男だった物体。上半身と下半身が分裂している男の死体が転がっている。

 

「今、先生をあの名前で呼んだな?死ね、今すぐ死ね、一辺の肉片も残らずに死ね」

 

更識の刺客達は二つの間違いを犯していた。一つ、秋のことを子供だと思って慢心していたこと。二つ、秋の師にして保護者、蒼崎橙子のことを『傷んだ赤色』と呼んだことだ。

 

「本当は黒鍵だけで始末するつもりだったけど、特別だ。ギリシャの大英雄が使ってた斧剣で殺してあげるよ」

 

「虚仮威しに決まっている!!殺れ!!」

 

刺客達は一斉に秋に襲いかかる。

 

「ーーーーーー起動せよ(セット)身体強化・Ⅰ(ブースト・アインス)

 

魔術回路が唸りをあげる。秋は斧剣の柄を握りしめ、振るう。それだけで暴風が巻き起こり、更識の刺客達の命を奪う。

 

「ひ、怯むな!!数は此方の方が上だ!!数で潰せ!!」

 

刺客達は秋から距離をとって攻撃する。だが、秋にとっては刺客達がいる場所は攻撃範囲内。秋は斧剣を地面に突き立て、盾のようにする。

 

「ーーーーーー物質強化・Ⅴ(マテリアルブースト・フュンフ)

 

斧剣に魔力が通る。秋は斧剣を押して、刺客達の攻撃を防ぎながら突進する。

 

「ぜらあっ!!」

 

斧剣を横に一閃。呪符を構えていた刺客達は体を上下に切断される。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・我々は更識の精鋭だぞ?それが・・・・・・それが傭兵紛いの魔術使いに押されていると言うのかーーーーーー!!」

 

リーダー格の男は一歩、後ろに下がる。生物としての本能が警鐘を鳴らしている。だが、逃げようとしない。魔術師としてのプライドがそれを許さない。

 

「残るは貴方だけだよ」

 

「ひっ・・・・・・!」

 

更識の刺客は男を除いて全員死んでいた。秋の顔には返り血が付いている。辺りは血の池地獄、屍山血河と言っても良いほど荒れていた。男は尻餅をつき、後ずさって行く。

 

「た、頼む!?殺さないでくれ!!見逃してくれ!!お、俺は刀夜様に命じられただけなんだ!!」

 

男は秋の足に縋り付いて、命乞いをする。

 

「・・・・・・・・・・」

 

秋はその男のことを冷めた瞳で見つめている。斧剣の柄頭の上に黄金の波紋が現れ、斧剣を波紋の中に戻す。

 

(な、何なんだあの波紋は・・・・・・!?何でこんな奴があんな魔術を使えているんだ!?)

 

秋の前に現れた波紋に驚愕しながらも、男は懐から小太刀を秋に見えないように取り出す。

 

(だ、だが、此処でコイツを殺せば俺の更識内の地位は磐石なものになる!)

 

「ーーーーーー助ける訳ないだろ?先生をあの名前で呼んだんだから」

 

シュパッ!と音が響いた。両手首が宙を舞い、血が噴き出す。

 

「あっーーーーーーぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?手、手が、俺の手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

男は血が溢れ出ている両手首を抱え込む。秋の手には血が滴る黒鍵が握られている。秋の背後に黄金の波紋が現れ、波紋から旅行鞄が出てきた。秋は旅行鞄に近づき、鍵を開ける。

 

「この匣はね、何年か前の誕生日に先生がくれたんだ。僕にとって『彼女』がくれた旗と同じぐらい大切な物なんだ」

 

秋は慈しむような瞳で匣を見つめながら、撫でている。

 

「ーーーーーーさあ、久しぶりの餌の時間だ。そこらに残ってる死体も、目の前の男も好きなだけ食べると良い」

 

秋は匣を倒し、蓋に手をかける。

 

物質強化・Ⅷ(マテリアルブースト・アハト)。貪り喰え、憎悪に蠢く魔の蕀(ヘイトレド・ウェゴース・デビル・イービル)!」

 

ーーーーーー死の門が開かれた。匣から勢いよく蕀のような触手に無数の口が付いた『魔』が現れる。『魔』は触手を伸ばし、死体を貪り、最後に踞っている男を頭から丸呑みにして、匣の中に戻っていった。

 

「ーーーーーーさて、教会の中を探そうか」

 

秋は何事も無かったように教会に入っていった。後に残されたのは刺客達が流した血だけだった。




・身体強化

秋が使う強化の魔術。十段階のレベルがあり、アインスは斧剣を振るうことが出来る。デメリットも少ない。

・物質強化

秋が使う強化の魔術。黒鍵や壁を強化して強度を上げる。十段階のレベルがあり、大抵の物はⅤの時点で自壊する。

・憎悪に蠢く魔の蕀

本来は橙子の物だった物を秋が頼みに頼み込んで誕生日プレゼントとして橙子から貰った。匣の中の『魔』は秋のことを主と認めているのか、秋の言葉には素直に従う。

PS

正式名称が不明なため、作者が勝手に名前を考えました。

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