秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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・・・・・・何も言わないで。


秋色の少年は聖女を想い続ける

春華が伽藍の堂に転がり込んで一ヶ月。伽藍の堂は一変した。春華が転がり込む前の伽藍の堂は書類や設計図が散乱していた。社員の幹也が片付けをしてはいたが、片付けをするスピードより散らかるスピードの方が早く、負けてしまった。春華が来たことにより、伽藍の堂は整理整頓が行き届いた事務所に生まれ変わった。この事に黒桐幹也は感動し、涙を流しながら、

 

「ありがとう・・・・・本当にありがとう!」

 

春華の手を握りながら礼を言うほどだった。そんな春華は今、

 

「お昼できましたー!」

 

三人分の昼食を作っていた。伽藍の堂の食事は春華が来てから全ての炊事洗濯家事掃除を受け持っている。

 

「もう!橙子さんも図面書くの止めてこっち来てください!」

 

「あー、わかったわかった。お前は私の母親か?」

 

伽藍の堂の主、蒼崎橙子は煙草を加えながら料理が置かれているダイニングテーブルの前に近寄る。

 

「今日は炒飯か」

 

「はい!私は秋を起こして来ますね」

 

春華の事務所に隣接している秋と春華の部屋の扉を開く。部屋の中はベッドが二つ、片や綺麗に整頓されたベッド、片や羊皮紙や英語で書かれた本が散乱しているベッド。そして、机の上で本に埋もれながら寝ている春華の弟。

 

「秋。お昼ご飯出来たよ?」

 

春華は怪しい本を退かし、秋の体を揺する。

 

「んっ・・・・・あと」

 

「あと?」

 

「あと・・・・・魔術王が人理焼却するまで」

 

「いつそれ!?それと誰、魔術王って!?人理焼却なんて物騒なこと言わないの!!」

 

春華は寝言で物騒なことを言っている秋の頭をどこからか取り出したハリセンで叩いた。なお、ハリセンにはエクスカリハリセンと書かれている。

 

「んあっ・・・・・?もう、朝?」

 

「朝じゃなくて昼だよ!ほら、顔洗って来て。お昼ご飯出来てるから」

 

秋は背中を伸ばしながら立ち上がり、洗面所に入っていった。春華はハリセンをベッドの下に入れ、洋服ダンスから秋が今日着る服を取り出していく。していることが完全に母親である。

 

「今日は昨日より寒いからヒートテックと・・・・・」

 

春華は取り出した服を秋のベッドに置く。

 

「服だしてくれたんだ」

 

顔を洗い終わった秋が戻ってきた。

 

「うん。居候してる身だからね。これくらいしないと」

 

(それに・・・・・こうゆうことしてると、ま、まるで夫婦みたいだし)

 

春華は普段、学校では品行方正な生徒で教師からの信頼も厚い。だが、実際は秋のことになると脳内が桃色になる。そんなことを露知らず、秋は寝間着を脱いでいく。

 

「・・・・・・・・・・」

 

春華は秋の生着替えを顔を赤くしながら凝視していた。

 

「・・・・・いつまで見てるつもり?」

 

「っ!?ご、ごめんね!?すぐに出るから!!」

 

春華は慌てて部屋から出ていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ああ、そうだ。秋。依頼が来てるぞ」

 

昼食中、秋の対面に座っている橙子は懐から封筒を取り出し、秋に渡した。秋は封筒の封蝋を破り、中身を取り出す。

 

「これは・・・・・また、時間がかかりそうな依頼ですね」

 

秋は食事中ということを忘れ、手紙の内容を読んでため息を吐いた。

 

「先生。しばらく学校の方は休みます。更識からの依頼も全て断っておいてください」

 

「ほお・・・・・?お前がそこまで言うほどか?」

 

「ええ。どうも面倒な案件みたいです」

 

秋は読み終わった手紙を折り畳んで、破いた。

 

「内容は?」

 

「ーーーーーー冬木一帯で霊脈の乱れあり。至急調査されたし」

 

「それだけか?なら、学校を休む必要は無いだろ?」

 

「続きがあるんですよ。どうも、この霊脈の乱れは人為的みたいです。もしかしたら・・・・・・もう一度、聖杯戦争が起きるかも知れません」

 

「なに・・・・・・?」

 

橙子は秋の言葉に聞き返す。

 

「待て、馬鹿弟子。聖杯はお前が参加した聖杯戦争で破壊されたんだろ?何故、その結論に至る?」

 

「僕も詳しいことは凛さんから聞いてないんですけど、セイバーさんが破壊したのは小聖杯と呼ばれるアインツベルンが用意した子機みたいな物らしいんです。そして、親機に当たる大聖杯はこの冬木の何処かにあるらしいんです」

 

「なるほどな・・・・・・お前はアインツベルンがまた、聖杯戦争を始めようとしていると思ってるんだな?」

 

「はい。でも・・・・・・可能性は低いと思いますけどね。アインツベルンは前の戦争で最高傑作のホムンクルス『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』を失って、そこまでの余力は残ってないと思います」

 

秋はそれだけ言うと立ち上がって、近くに置いてある夜天の書を手に取る。

 

「でも・・・・・・もう一度聖杯戦争が起きたなら、『彼女』に会えるかも知れないんですよね」

 

秋は最後に呟いて、伽藍の堂から出ていった。

 

「やれやれ・・・・・・いまだに引きずっているのか、アイツは」

 

「あの、蒼崎さん。秋が言っていた『彼女』って誰ですか?」

 

「・・・・・・・・・・まあ、構わないか。アイツは今も一人の女に惚れ込んでいる。聖杯戦争でアイツのサーヴァントだった、ルーラーにな」

 

「ルーラー・・・・・・」

 

春華は自身のライバルの名前を呟く。

 

「お前も聞いたことがあるんじゃないか?英仏百年戦争のおり、旗を振り、兵士達を鼓舞した救国の聖処女。オルレアンの乙女(ラ・ピュセル)、ジャンヌ・ダルク。それがアイツの心を今も縛り続けている女だよ」


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