秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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最近スランプです。


人形師は秋色の姉に会う

「先生・・・・・眠いです」

 

「我慢しろ。5分もしない内に着く」

 

結局、秋と橙子は深夜0時まで宝具を出していた。小学生の秋にはキツかった様だ。今も助手席で船を漕いでいる。

 

「此処か・・・・・」

 

橙子と秋が乗った車は門の前で停まった。表札には“衛宮”と書かれている。

 

「おい、バカ弟子。着いたぞ」

 

「すぴ~すぴ~」

 

秋は夢の世界に旅立っていた。橙子は無言で握り拳を作り、秋の頭に狙いを定める。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

ゴッチン!!

 

 

「~~~~~~~~~~!?!?」

 

全力で振り下ろした。秋は余りの痛さに目を覚まし、悶絶した。

 

「寝るなと言ったろバカ弟子」

 

「それでも殴る必要は無いですよね!?」

 

「知らん。寝たお前が悪い」

 

「うぅ~先生の鬼!悪魔!スパルタママ!レオニダス1世!」

 

「誰がスパルタの語源を作った国の王だ。もう一発喰らわせるぞ」

 

橙子は握り拳を作って秋に見せつける。秋は「うっ」と呻き声を上げた。

 

「さっさと降りろ。凛とやらに会うぞ」

 

「は~い・・・・・」

 

秋は渋々といった感じでシートベルトを外して車から降りた。玄関の前に行くと橙子が呼び鈴を押した。

 

「は~い」

 

呼び鈴を押して暫くすると家の中から足音が聞こえてきた。扉を開けて出てきたのは衛宮邸の主、衛宮士郎その人だった。

 

「士郎さん。お久しぶりです」

 

「秋じゃないか!今まで何処に行ってたんだ!?」

 

「あはは・・・・・魔術師に弟子入りしてたんです」

 

秋は橙子を指差す。

 

「僕が弟子入りした魔術師の蒼崎橙子さんです」

 

 

ゴッチン!!

 

 

「指を指すなバカ弟子」

 

「殴らなくてもいいですよね!?あと、ごめんなさい!」

 

士郎は秋と橙子のやり取りを見てビックリしている。

 

「え、えっと・・・・・初めまして。衛宮士郎です」

 

「蒼崎橙子だ。ふむ・・・・・お前も魔術師の様だな」

 

橙子は士郎の事を魔術師と見抜いた。

 

「しろーーう!お茶~!」

 

「凛・・・・・とりあえず上がってください」

 

士郎は秋と橙子を居間に案内した。

 

「凛さん」

 

「秋!?アンタ今まで何処に居たのよ!」

 

凛も士郎と同じことを言った。

 

「先生。この人が遠坂凛さんです」

 

「遠坂・・・・・御三家の1つか。確かに才能はあるな。いささか優雅さに欠けるがな」

 

橙子は凛を観察するように見る。凛の格好は寝転びながらファッション雑誌を読んでいて、起き上がった状態だ。遠坂家の家訓“常に優雅たれ”の欠片も無い。

 

「初めましてだな、冬木の管理者。私は蒼崎橙子。そこのバカ弟子の師匠だ」

 

「蒼崎・・・・・橙子?」

 

凛は蒼崎橙子と繰り返して呟く。

 

「蒼崎橙子って・・・・・も、もしかして封印指定の人形師、蒼崎橙子!?」

 

「ほぉ、私も有名になった物だな」

 

「僕、先生って仕事しないヒッキーだと思ってました。そんなに有名な人なんですね」

 

 

ゴッチン!!

 

 

「いったぁ~~~~~!?」

 

「誰がヒッキーだ、バカ弟子」

 

 

学習しない秋だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで?封印指定の人形師が私に何のよう?」

 

「もきゅもきゅ(猫被ってない・・・・・)」

 

凛は初っぱなから素の状態で話を聞く体勢でいる。秋はそんな凛を煎餅を食べながら見つめる。

 

「なに、バカ弟子が聖杯戦争に参加していたと聞いてな。生き残りの参加者に興味が湧いたんだ」

 

橙子は煙草をふかしながら答える。

 

「弟子って・・・・・秋、この人に弟子入りしたの?」

 

「もきゅもきゅ・・・・・ゴックン。はい。先生に弟子入りしましたよ。・・・・・まともに魔術の事は教えてくれてませんけど」

 

秋は橙子をジト目で睨む。

 

「今日からちゃんと教えてやる。だから、黙って煎餅でも食ってろ」

 

「は~い!」

 

橙子の言葉に納得した秋は煎餅を頬張る。

 

 

ぶーぶー!ぶーぶー!

 

 

「ああ、すまない。私だ」

 

橙子はポケットからケータイを取り出し、メールを確認する。秋と士郎は普通に機械を使いこなしている橙子に驚いた。

 

「「(魔術師でも機械使える人がいるんだ)」」

 

身近に機械音痴が居る分、士郎の驚きは大きいだろう。

 

「・・・・・少し出掛ける。悪いが2時間ほど秋の面倒を頼む」

 

橙子はケータイをしまうと立ち上がった。秋は橙子の服の裾を掴んだ。

 

「離せバカ弟子」

 

「・・・・・・・・・・」

 

橙子は離すように言うが秋は手を離さない。秋の手は僅かに震えている。

 

「はぁ・・・・・安心しろ。必ず戻ってくる。だから、大人しく待っていろ、秋」

 

「あっ・・・・・」

 

秋は“置いていかれる”と言うことにある種のトラウマを抱えている。ジャンヌ・ダルクという短い間だったが心の支えを失った秋はかなり不安定な状態にある。そんな秋を橙子は知ってか知らずか安心させるように頭を撫でた。

 

「・・・・・はい!」

 

秋は笑顔になり、手を離した。

 

「良い子だ」

 

橙子は微笑み、衛宮邸から出ていった。

 

「意外・・・・・封印指定って聞いてたからもっと怖い人と思ってたわ」

 

「人は見かけによらないってことだな。凛みたいに」

 

「ちょっと!どういう意味よ!」

 

「言葉の通りだと思いますよ~」

 

 

バシュン!バシュン!

 

 

秋と士郎の顔の真横を赤黒い弾丸が通り過ぎた。撃ったのは笑顔で指鉄砲の構えをしている凛。ガンドと呼ばれる北欧が起原の魔術。使い手の魔力により物理的破壊ができる魔弾にもなる。

 

「ふ、ふふ・・・・・言ってくれるじゃない2人とも」

 

凛はゆっくりと立ち上がった。

 

「童心に帰って鬼ごっこをしましょうか2人とも。鬼(狩人)は私ね?逃げる(獲物)のは2人。さあ、逃げなさい。10秒だけ待ってあげるわ」

 

この時、ようやく2人は悟った。“逃げないと自分たちは狩られる”っと。そうなれば2人の行動は早かった。士郎は急いで縁側まで逃げて窓を開け、庭に逃走。秋は反対に玄関の方に逃げた。

 

「待ちなさい士郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

凛は士郎を追ったようだ。秋は内心で士郎に謝りながら玄関近くの茂みに身を隠してほとぼりが冷めるのを待つことにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

橙子はある場所に向かっている途中、メールの内容を思い出す。メールの送り主は幹也だった。メールの内容は秋に関することだった。

 

『秋君の身元がわかりました。名前は織斑秋。電話番号と兄姉の写真を乗せておきますね』

 

そのメールを確認した橙子は車に乗るとすぐにメールに書かれていた番号に電話、会う事を取り付けた。

 

「(秋の話だと兄姉が居るんだったな。全員で来るか。1人で来るか)」

 

橙子は喫茶店の隣にある駐車場に車を停める。

 

「ふむ・・・・・」

 

橙子は店内を見回す。

 

「(見つけた)」

 

店内の奥に呼び出した相手が座っていた。呼び出した人物は中学生か高校生ほどの少女だった。

 

「いらっしゃいませ!お一人ですか?」

 

「いや、待ち合わせだ。それとホットコーヒーを1つ頼む」

 

「かしこまりました!」

 

ウエイトレスは厨房に戻っていった。

橙子は待ち合わせをしている人物が座っている人物の席にまで行き、椅子に座る。

 

「お前が秋の姉か?」

 

「貴女が・・・・・」

 

少女は橙子の事を睨む。

 

「(睨みは秋の方が上だな。こいつには“必死さ”が足りない)私は蒼崎橙子。お前の弟を保護した者だ」

 

「・・・・・織斑千冬です。この度はありがとうございます」

 

「(親に捨てられて大人を信じられない・・・・・そんな目をしているな)単刀直入にいう。お前の弟は私が引き取る」

 

橙子の言葉を聞いた千冬は目を見開き、硬直した。

 

「お待たせしました~。ホットコーヒーです」

 

ウエイトレスは注文した商品を置いて厨房に戻っていった。

 

「どういう・・・・・意味ですか?」

 

「言葉の通りだが?」

 

絞り出すよう呟いた千冬の言葉を橙子は切り捨てた。

 

「お前たち姉弟の事情は秋から聞いている。だから、これから“重荷”になるであろう弟を私が引き取ると言ったんだ(何より私の弟子だしな)」

 

「ふざけるな!何故、赤の他人のお前がアイツを引き取るんだ!」

 

千冬は激怒する。回りの客も何事かと橙子逹の方に注目する。

 

「逆に聞くが小娘1人で何人いるか知らんが弟妹を養えるのか?」

 

橙子は煙草を取り出し、吸い始める。

 

「私が3人を守っていく!お前たち大人の救いなどなくても暮らしていける!」

 

「社会を舐めるなよ小娘。中学か高校かは知らんが大人の援助無しで暮らせていけると思うな」

 

橙子は冷静に正論を述べていく。

 

「私たちを捨てた親と同じ大人など信じられるか!」

 

 

「ーーーーーーーーーー“織斑秋斗”」

 

 

「っ!?」

 

赤の他人の橙子が自身を捨てた親の片割れ、父親の名前を言われたことに驚き、今日二回目の硬直を起こした。

 

「あのバカとは同期でな。顔見知りの仲だったよ」

 

橙子はホットコーヒーを飲み、喉を潤す。

 

「だから、これは私なりの優しさだ。これから先、必ずお前は弟妹の誰かを捨てる事になる。なら、早めに決めておいて損はない」

 

橙子は煙草を灰皿に押し付ける。

 

「それに・・・・・お前の所に居てもアイツの才能は延びない。輝かない。腐っていく一方だ。そんな事は私が認めない」

 

それは秋の魔術師としての才能を一目で見抜き、育て上げる事を選んだ橙子だから言える。

 

「決めたらこの番号に電話してこい」

 

橙子は電話番号が書いてある紙を置いて、会計を済ませて帰っていった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

残された千冬は唇を噛み締めて俯いていた。




次回から時間が飛びます。

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