(・・・・・・ここがIS学園)
IS学園。将来有望なIS操縦者、整備士を育成するための学園。秋はそのエリート校の門の前に立っている。秋の周りをIS学園と本島を繋ぐモノレールから下りてきた新入生が通っていくが、誰一人秋の存在に気づかない。
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英雄ロビンフッドの宝具。生涯に渡り顔を、姿を隠して戦ったロビンフッドの逸話が宝具に昇華された物。熱ステルス、光学ステルスの両方を持ち合わせた緑の外套。背景とも同化するため、秋の姿は女子生徒達の視界には映らない。
(布仏さんの部屋は・・・・・・彼処か)
秋は校舎、アリーナ、寮に続く道を姿を消して歩いていく。
(『幽霊』の正体が何かは分からない。でも、ある程度の憶測はできる。『幽霊』の正体が尾ひれがついた噂話程度の
秋はとっさに思考を止めて道沿いにある木に隠れた。宝具によって姿を隠していることも忘れて。
「まったく・・・・・・あの馬鹿者は」
校舎に向かって一人の女性が歩いていた。レディース物のビジネススーツを着こなし、片手に名簿を持っている。
(姉さん・・・・・・!?どうして此処に!?)
織斑千冬。それが女性の名だ。秋がまだ、『織斑秋』だった頃の実姉。橙子に引き取られてから秋は千冬に会っていない。その間に千冬はISの国際大会『モンド・グロッソ』で優勝していた。その功績を称え
(・・・・・・僕とは関り合いが無い話だね。さよなら、織斑千冬さん)
秋は千冬に気取られないように木々の間を抜けて行った。その時、秋は小枝を踏んだ。パキッと小さな音がしたが秋は気にしなかった。
「・・・・・・?」
ただ一人、織斑千冬だけが反応していたことに、秋は気づかなかった。
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「秋はどこに行ったんですか橙子さん!!」
秋が千冬の姿を確認したのとほぼ堂時刻。伽藍の堂では春華が橙子に詰め寄っていた。
「だから何度も言ってるだろ。秋は仕事だ。しばらくは戻って来ない」
「それは何度も聞きました!!私が聞いてるのはその仕事先が何処か聞いてるんです!!」
春華は再度、机を叩く。
「は、春華ちゃん・・・・・・もう、止めようよ?ね?」
橙子に詰め寄る春華を止めているのは、二年前は肩ほどまでだった髪は背中まで伸び、以前まであった明るい雰囲気は鳴りを潜め、おどおどとした少女ーーーーーー元更識楯無、本名更識刀奈。
「幹也さん。ここなんですけど・・・・・・」
「・・・・・・うん、これであってるよ。業者の方には僕が電話しておくから簪ちゃんは書類の整理をお願いできるかな?」
「わかりました」
今日から伽藍の堂で働き出した簪は周りを無視して先輩の幹也に書類の不備が無いか確認してもらっている。
「刀奈ちゃんは秋が何処に行ったか気にならないの!?」
「き、気になるけど・・・・・・秋君に迷惑がかかるし・・・・・・」
二年前のことが尾を引いているのか、秋が出会った頃の刀奈の明るさは消え、何かに怯えるように生活している。
「逆に聞くが、アイツが行っている場所を聞いてどうするつもりだ?」
「もちろん秋を手伝いに行きます!」
春華は二年前より豊かになった胸を張り、橙子に告げる。
「却下だ馬鹿。アイツが行っている場所は呪いに耐性がない人間が行けばすぐに死ぬ。それほど危険な場所にアイツは行っているんだ」
橙子は煙草を取り出す。
「酷なことを言うようだが春華。お前は秋の足枷でしかないんだ」
「私が・・・・・・秋の足枷?」
「そうだ。お前と秋はいわばコインの裏表。光と闇、善と悪、陰と陽と言ってもいい。私たち魔術師は世界の裏側の住人だ。反してお前は世界の表側、光の中の人間だ。秋はお前や織斑千冬、もう一人いる兄とやらが背負う筈だった業を進んでアイツは背負っているんだ」
橙子は机に肘をつき、手に顎を乗せる。
「魔術師の家系の人間はな、魔術からは逃げる事ができないんだ。どれだけ逃げようと、どれだけ拒もうと、『根源』を目指す手段が『魔術』しかないから『魔術という学問』に執着する。まあ、秋は根源なぞに興味はないがな」
煙草の先端から紫煙がゆらりゆらりと虚空に立ち上る。橙子はその煙を見つめている。
「話が逸れたな。春華、私がお前をここに住まわせているのはあくまで秋のメンタルケアのためだ。アイツは起源のせいで壊れやすい。肉体的にも精神的にもだ。私では秋の肉体のケアしかできん。だから、血縁関係にあるお前をここに住まわせているんだ。お前と秋の間に血縁関係が無ければ、秋と接触した時点で秋にお前の記憶を消さしている」
実際、秋が春華を連れてきた時は記憶を消すか一瞬悩んでいた。だが、記憶は消さなかった。何故か。利用できると考えたからだ。秋の精神を安定させ、魔術の精度をより上げるために。
「お前はこれ以上、こちら側に関わるようなことはするな。さもないとーーーーーー
橙子は暗に、秋は戻れなくなるほど魔道に染まっていると言った。
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IS学園の一室では他のクラス同様、生徒達の自己紹介が行われている。唯一違うとすれば、他のクラスと違い
(これは・・・・・・思った以上にキツいぜ。
もしかしたら、この男は
「それでは皆さん・・・・・・一年間よろしくお願いします」
このクラスの副担任、山田真耶が挨拶をするが誰も反応しない、出来ない。何故なら、教壇に立っている女性が異様に窶れているからだ。
(うおっ!アニメでもでかく書かれてたけど、生で見ると尚更でかく見えるな!へへっ・・・・・・この胸も俺の物に出来るなんて、神様サマサマだな!)
ただ一人、織斑一夏は山田真耶の胸元に下卑た視線を向けていて気づかない。本人は隠しているつもりだろうが、口元には気持ちの悪い笑みが浮かんでいる。
(ここから俺のハーレム伝説が始まるんだ!
織斑一夏ーーーーーー否、◽◽◽◽は内心から溢れ出る肉欲を感じながら、
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ーーーーーー集積学園、開幕
・織斑一夏
別次元からの転生者。輪廻転生の理から外れた異物。魂は磨耗しており、生前の記憶を殆ど失っている。残っているのは少しの