朝日が草原を照らしだす。草原には腰まである豊かな金色の髪を三つ編みにし、所々に鎧が装着され、手には彼女を象徴する宝具の聖旗を持っている。
「秋。ここでお別れです」
彼女は目の前にいる自身のマスターに別れを告げた。
「・・・・・・・・・・」
10歳にも満たない子供は俯いたまま動かない。彼女はそんな彼を抱き締めた。
「秋。私はサーヴァント。聖杯戦争が終われば私が消えるのは定めなんです」
「イヤ・・・・・ずっと一緒にいて、ルーラー」
「我が儘を言わないで。それに私はまた、秋と会える気がするんです」
「ホント・・・・・?」
「はい。だから、泣かないでください」
「泣いてない」
「ふふふ・・・・・そうですね。秋は強い子ですもんね」
ルーラーと呼ばれた少女は少年の頭を撫でる。
「私は今回の聖杯戦争に参加できて幸せです。秋の様な優しいマスターと共に戦えたんですから。それが例え、イレギュラーな形でも」
“ルーラー”のクラスは本来召喚されないエクストラクラス。そして少年は偶然、ルーラーを召喚し、偶然、魔導の世界に片足を突っ込んだ。
「秋。これは私からの贈り物です。そして、この贈り物に誓って必ず再会する事を約束します」
「これは・・・・・?」
ルーラーは少年に真っ白な布を羽織らせた。
「その布は私のスキルで作った聖骸布です。その聖骸布は真っ白な、何の変哲もない布。これからの秋の人生でその聖骸布は色を着け、模様を描き、聖骸布としての概念を得るはずです」
ルーラーは少年の目線に合わせるようにしゃがんだ。
「嬉しかったんですよ?私の生前の最後を悲しんでくれる人がマスターに為ってくれて」
ルーラーはエーテルを出しながら少しずつ体が透けていく。聖杯戦争が終わると“座”と呼ばれる所に英霊達は帰還する。
「だから・・・・・ごめんなさい、秋」
「うっ!」
ルーラーは少年の首筋を手刀で叩き気絶させる。ルーラーは気絶した少年を支えながら涙を流す。
「ごめんなさい・・・・・ごめんなさい・・・・・!貴方を危険な目に合わせて・・・・・!私が召喚されなかったら貴方は普通の生活を送れた筈なのに!普通の人生を歩めたのに!」
ルーラーは涙を流し、謝罪しながら少年を近くにある樹に凭れさせる。最後に聖骸布をかける。
「さようなら・・・・・秋」
ルーラーは最後にそれだけ言うとこの世界から去っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少年は1人、深夜の新都を彷徨い歩いている。少年は聖杯戦争の時に“寺の魔女”に言われた言葉が頭の中を埋め尽くしている。
『その子、2度と普通の生活に戻れないわよ』
少年は回りから姉兄と比較されていた。長女は生活能力が無い代わりに高い運動能力を持つ。次女はそんな欠点を補うように生活能力が高い。長男は運動もでき、小学1年生ながらに小学6年生レベルの問題を解ける。それに比べて少年は勉強も運動も平均的。だから、少年は姉兄とは比べられない物を探した。そして行き着いたのが魔導の世界。それは本当に偶然だった。長女に入るのを禁じられていた蒸発した両親の部屋で見つけた魔術書には1ページを除いて全てが白紙だった。その1ページには魔法陣が書かれていた。少年はある晩、その魔法陣を庭先に描き、エクストラクラス“ルーラー”を召喚した。
「ルーラー・・・・・」
ルーラーは少年にとって初恋の人だった。だが、ルーラーは消えた。少年にとってそれは受け入れがたい現実だった。
「僕に帰るところなんて無いよ・・・・・」
少年はそう呟くと路地裏に入った。路地裏に入ると廃墟の入り口があった。少年は廃墟を見上げる。
「ここにしよ・・・・・誰にも見つからないだろうし」
少年は廃墟に入った。
「あ・・・・・れ・・・・・?」
廃墟に入ってすぐに少年の視界は突然歪みだし、少年は倒れた。理由はストレスと起きて今まで飲まず食わずから来た体力の限界からだ。
「あはは・・・・・死ぬの・・・・・かな?」
少年の体力を冷たいコンクリートの床が容赦なく奪っていく。
「これで・・・・・ジャンヌの所に行けると・・・・・良いなぁ」
少年は段々と瞼を閉じていく。
「やれやれ・・・・・魔術協会からの刺客かと思って鞄を持ってきたが無駄みたいだな」
瞼を閉じる前に見たのはオレンジ色の髪の女性と旅行鞄大の匣だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、子供。どうしてこの場所がわかった」
女性ーーーーー蒼崎橙子は倒れている少年に問いかける。しかし、少年は反応しない。
「?おい、どうした」
橙子は倒れている少年に近づく。
「気絶しているのか?」
橙子は倒れている少年の体を調べる。
「呼吸が浅い・・・・・それに体温も低い。衰弱しているのか?」
橙子は少年を担ぐ。担いだ瞬間、少年が持っていたポシェットから1冊の本が落ちた。本の表紙には剣十字が書かれている。橙子はその本を見た瞬間、驚愕により目を見開いた。
「ッ!どうして・・・・・どうして“夜天の書”を持っているんだ!?」
“夜天の書”。魔術協会により最大級の禁忌指定を受けている魔術書。夜天の書が禁忌指定を受けているのは本自体が魔力炉にして“他人の魔術を行使できる”からだ。例を言うなら魔術師Aが使った魔術を記録・解析して本の所有者が行使できるように変換する。魔術師からしたらたまったものでは無い。代々受け継いで来た魔術を簡単に使われてはその魔術師の家系の努力は無くなったにも等しいからだ。
「これは・・・・・聞く必要があるな」
夜天の書は“数十年も前に魔術協会から盗まれた”。犯人は時計塔に在席していた1人の生徒。今でも魔術協会は犯人の行方を追っている。
「やれやれ・・・・・とんだ貧乏くじだ」
橙子は夜天の書を拾い上げ、階段を登って4階の事務所に向かう。橙子は事務所に入るとソファーに少年を寝かせる。
「点滴をしておけば十分だろ」
橙子は何処からか栄養剤の入った袋と点滴棒を持ってきた。チャンバーから出ている管の先の注射針を少年の静脈に刺す。
「これで良いだろ」
橙子は少年のポシェットの中身を出していく。ポシェットの中から出て来たのは、白い布に小銭入れ、さっき見つけた夜天の書だけだった。
「身元に繋がるものは無し・・・・・」
橙子は夜天の書を開く。
「何も書いてない?」
夜天の書は本来なら何千という魔術を記録している。だが、今の夜天の書には魔術の記録が一切無い。
「う・・・・・此処は?」
「目が覚めたか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「目が覚めたか?」
少年の目に写ったのは橙子では無く、夜天の書だった。
「返して・・・・・その本・・・・・返して!」
「断る。この本は危険な物だ。子供が持っていて良いものじゃない」
「関係・・・・・無い!その本を・・・・・返して!」
すると、橙子が持っていた夜天の書が少年の叫びに共鳴するように青黒く輝きだす。
「(共鳴している!?まさか、夜天の書があの子供を所有者として認めているのか!?)」
夜天の書は橙子の手から離れると少年の頭上に移動した。ページが勢いよく捲れていき、文字と絵が書かれていく。
「(マナを吸収しているのか!?)」
最後のページまで書き終わると閉じ、少年の腕に収まった。少年は夜天の書を大事そうに抱き締める。
「子供。お前は魔術師か?」
「子供じゃない」
「知らん。それより答えろ。お前は魔術師なのか?」
少年は幼いながらも橙子を睨む。
「安心しろ。もう、その本を奪ったりしない」
少年はその言葉を聞くと安心したのか睨むのを止めた。
「魔術師擬き・・・・・です」
「魔術師擬きか。名前は?」
「・・・・・秋」
「名字は?」
「・・・・・言いたくないです」
少年ーーーーー秋は俯いて拒絶した。
「まあ、良い。その本は何処で手に入れた?」
「居なくなった親の部屋・・・・・です」
「親?名前は?」
「確か・・・・・桃香と秋斗だったはず・・・・・」
「桃香と秋斗・・・・・秋斗?おい、顔をよく見せろ」
「ぷにゅ!」
橙子は秋の顔を掴んで凝視する。
「確かに・・・・・アイツの面影があるな。お前、魔術回路は何本だ?」
「40本って言われた」
「40本・・・・・はは、まさに“鳶が鷹を生む”だな。お前に興味が湧いた。どうだ?私の下で魔術を学ばないか?それに、私の考えではお前、帰る場所が無いだろ?いや、正確には“帰れない”、か?」
「・・・・・・・・・・ッ!?」
「どうする?決めるのはお前だ」
橙子は秋の顔を離す。秋は俯き、小さく呟く。
「魔術を学べば・・・・・回りを見返せますか?」
橙子は秋の言葉を聞くと笑い出した。
「あはははははははははは!!!回りを見返したいのか!?ああ!十分見返せるとも!お前には才能がある!素質がある!自分に自信を持て!」
自信。それは秋に欠如している物だ。
「僕を・・・・・僕を弟子にしてください!!」
秋は今、新たな1歩を踏み出した。橙子は秋の答えを分かっていたかのように笑う。
「ようこそ、血にまみれた魔導の世界に。私は蒼崎橙子。今からお前は私の弟子だ。気張れよ?私は指導に妥協は許さないからな」
「はい!よろしくお願いします、先生!」
今、此処に、秋色の少年と封印指定を受けた人形師の師弟関係が誕生した。
主人公設定
名前・⬜⬜秋
年齢・6歳~7歳?
身長・120㎝
属性・不明
起源・不明
特性・不明
所有する魔術礼装・夜天の書、名も無き聖骸布
第五次聖杯戦争の生き残り。蒸発した親の部屋から古びた魔術書でルーラーを召喚。触媒は同室にあった干し草。基本的にルーラーと共に他のサーヴァントの監視をしていた。