「いやあ、助かった。お前のおかげで何とか凌げたよ」
一通り自己紹介が終わった後の休憩時間。俺は箒の席まで駆けつけるなり彼女に礼を言った。
箒とは俺の姉――と言ってもアイツではなく、もっと年上の姉だ――が彼女の実家である剣術道場に通っていた頃に知り合って以来の付き合いだ。小学校、中学校とずっと同じ学校に通っていた俺たちは、ことあるごとにつるんで遊びに行く仲だった。それがまさかこんなところまで続くなんて、人生というのは中々分からないもんだ。
まだ語るほどは生きてないけど。
「ああ、まったくもって情けない自己紹介だったな」
この、人が感傷に浸ってる時に痛いところ刺してきやがって。
「そこまで言うか」
「当然だ。千冬さんがいたら必ず叱責していただろうな」
彼女は昔のことを思い出すかのように少し目を細める。
『千冬さん』というのが、彼女の道場に通っていた俺の一番上の姉だ。剣の腕も十分すごかったが、ISの競技では無類の強さを誇っていた。
その強さを奪う『きっかけ』を作った俺がこんな場所にいるのは、ある意味皮肉な話かもしれない。
「ところで箒、お前いつIS学園なんて受験したんだ?」
俺が尋ねると、彼女はキョトンとした表情で俺を見た。
「二月の中旬だ。お前にも話しただろう?」
「え、そうだったっけ? アルバム委員の仕事で忙しかったからあんまり憶えてないな」
答えるなりため息をつく箒。がっかりしている所悪いが、本当に憶えていないので勘弁してくれ。
「それはともかく、箒が居てくれて良かったよ」
「そうか」
彼女は素っ気なく答えながらも、少し嬉しそうな表情を浮かべる。何だかんだ言っていても、知らない奴ばかりは辛い。きっと彼女も同じことを思っているに違いない。
「アイツも居るけどクラスが違うと中々会う機会もないし」
「アイツ?」
『彼女』のことを口にした途端、箒は怪訝な顔をして訊き返してきた。
ん、どうしたんだ?
「
「ほう……」
彼女の打った相槌は凍てついてしまいそうなほどに温度の低いものだった。
そう、その辺に摸造刀の一本でも転がっていたりしたら即座に引っ掴んで走っていきそうな――ってそれはイカン。幕末の京都の路地裏でもそんな修羅はうろついてないぞ、多分。
「あのー、篠ノ之さん……?」
「なんだ」
血走った目を向ける箒にしばらく引いているうち、授業開始を告げるチャイムが鳴った。