「なあ、千冬姉。これもしかして手抜き――」
「馬鹿者。すべて塗装済みだ」
開封されたコンテナの中――そこに文字通りの『
「次世代型技術実証試験機、『
『打鉄』よりも薄く直線主体の装甲に、見るからにパワーのありそうな大型スラスターユニット。脚部には補助スラスターも積んでいるようだ。踝や肩先には姿勢制御のためなのか小さな翼状のパーツが取り付けてある。
――どう見ても機動性能重視です、本当にありがとうございました。
「それで、こいつは何をテストするための機体なんだ?」
俺が尋ねると、千冬姉は話すのを躊躇うかのように口を噤んだ。
ん、もしかしてマズいこと訊いちゃったか?
「……一夏、
「一応、授業でさわりだけは」
尋ねた彼女に曖昧ながら応える。
確か山田先生は『オリジナルコアだけが使える機能で、操縦者とISの適合数値が一定以上の時に使用可能な固有の補助システム』だと言っていた。コアの数自体が限られているのもあって、まだろくに研究も進んでいないらしい。
でも、そのこととなんの関係があるんだろうか。
「この機体は単一仕様能力の運用を前提に設計された機体だ。搭載しているコアもお前に合わせて選んである」
「俺に合ったコア?」
「正確には
んん……? 俺をコアに対して最適化してるってことだよな、それ。
一体どういう――。
(まさか――――!)
ひとつだけ思い当たるモノがあった。
そうだ、ひとつだけ確証の持てる奴がある。
「……なあ、この機体のコアってまさか――」
「ああ。お前が
恐る恐る尋ねた俺に、千冬姉は険しい表情で答える。
『白騎士』。
三年前に発生した、国際大会襲撃事件の主犯。誘拐された俺が装着させられ、選手と観客を襲うよう仕向けられた所属不明のIS。
――そして、立ち向かう千冬姉の利き腕をいとも容易く
その核が、この機体に積み込まれているっていうのか……?
「案ずる必要はない。この機体に組み込むにあたって、念入りな
千冬姉が動揺する俺の肩に手を乗せる。気遣いのこもったその手から、しかし温もりが伝わってくることはない。
――当然だ。その腕に血は一滴も通っていないのだから。
「最悪あの時のようになったとしても誰かを傷付けることはない。安心して乗れ」
「――できない。無理だよ千冬姉」
俺は反射的に、そう口に出していた。
この機体が怖い。まるで乗るなと警告するように、全身が竦んで動けなくなっている。訓練機に乗っている時はこんなこと一度も感じなかったのに、なんで今さら――。
「ゴメン、この機体は……。こいつだけは、受け取れない」
気付けばそんな言葉がこぼれ出ていた。
けれども、千冬姉は冷めた眼差しを向けるだけだった。
「一夏。残念だが、お前の意思が介在する余地はない。これはお前自身が選択した道だ」
「だけど……っ!」
「受け入れろ、お前がこの学園にいる理由を。その存在意義を。研究に協力しないと言うのであれば、彼らはいかなる手段を講じてでもお前を
なおも反論する俺に、彼女は言葉という刃を突きつける。
それは脅しではなく、嘆願。
「ひとりの生きた人間でありたいなら。――私たちの知る『織斑一夏』でありたいのなら、黙って指示に従え」
俺に
「っ…………!」
喉元まで押し迫っていた声を呑み込む。
恐怖に震える体に鞭を打つように、俺は『白式』へと一歩足を踏み出した。
「理解してくれたようで何よりだ。では、セッティングを始めるぞ」
千冬姉が指示を出し、吊り下げられていた機体が床に下ろされる。
息を潜める純白の獣は、俺を迎え入れるかのように――あるいは一度逃がした獲物を今度こそ顎に捕えるかのように――その外装をゆっくりと開放した。