【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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―悪魔の島―
第8話 掟破り


「よし、今回も無事に終わったな」

 

 魔物の牙を担ぎ、満足そうに歩くエルザ。相変わらず怪力だ。

 今回の依頼は魔物の討伐。山を荒らして、他の動物にも迷惑をかける。下手したら人里に降りて悪さをするということで、退治ではなく討伐だった。

 エルザと一緒に仕事をしてから、大体討伐系の仕事だった。おかげで生活に困る事はない。危険だが報酬がとてもよかった。

 

「それにしても、あれだけ大きな魔物を蹴り飛ばすとは流石だな。おかげで潰されずに済んだよ」

「蹴り飛ばすより早く、魔物の牙を折ったじゃないですか。しかも素手で……」

「フフ……そうだったかな?」

 

 おどろいたのは、エルザは素で強いということだった。剣術や槍術、武器の扱いに長けているが、それを支えるだけの肉体の強靭さがあった。

 魔法無しでも充分に強い。そりゃあ、魔法に頼り切っているナツや私が勝てない訳だ。

 

「そろそろギルドに戻ってもいいかもしれないな」

「ラクサスはいないんです……よね?」

「まだ気にしてるのか」

 

 ラクサスに色々と言われて、飛び出してからギルドに数回戻ったが、私のことを悪く言う人はいなかった。ナツやグレイ、ルーシィと談笑していたおかげかもしれない。

 私のことを特に邪険にしてないことはわかっている。しかし、彼は私自身も知らない何かをしっていそうで、怖いのだ。

 

「彼、マスターとは正反対な性格な気がするんです」

 

 ギルドに数人しかいないS級魔導士の一人。実力はマスターの孫という名に恥じないものだが、歪んだ性格から慕うものは少ないらしい。

 

「昔はああじゃなかったんだがな。あいつも苦労してるんだろう」

 

 そう言われても昔を知らない私は怖いという印象しかない。

 

「それにしても、獣や魔物の類と随分戦い馴れていないか?」

「元々、山で住んでいましたし。狼やら熊なんて肉食動物と食うか食われるかなんてやってましたから」

「そ、そうなのか。意外だな」

 

 私の年齢からそんなとこしているのが意外だったのか。それとも、山に住んでいたことなのか。何が意外だったのかあまりわからないが、少しだけ引かれた。

 

 

 

――

 

 

 

「お久しぶりです、ミラさん」

「ただいま戻りました。……何かあったのか?」

 

 ギルドに戻ると、何だかみんな落ち着きがなかった。何かを心配している素振り、中には呆れるような人もいた。

 

「エルザ、ちょっと話があるの」

 

 いつもニコニコしているミラさんからは想像できないくらい真面目な表情だった。そのせいか、エルザの顔も気が引き締まったような感じだ。そういえば、何だか静かな気がする。ああ、そうか。ナツとルーシィ、グレイにハッピーもいない。それだけでこんなに静かになるのは不思議なものだ。

 ナツとルーシィにハッピーはなんだかんだでチームのようになっていた。最初の仕事のあとに色々と嘆いていたのに、結局チームを組むのが、少し羨ましい。

 

「……帰って早々すまないが、仕事だ」

 

 険しい表情でエルザが戻ってきた。そろそろナツたちと仕事に行きたい。なんて言い出せるような雰囲気ではない。それだけ重要な依頼なのだろうか。

 

「いや、仕事というのは違うな。マスターからの命令だ。ギルドの掟を破った者を捕らえに行く」

「掟を? それならエルザだけで行くほうが」

「破ったのはナツとルーシィにハッピーだ」

 

 その名前を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

 

 

――

 

 

 

「あの島に近づく船はいないよ。海賊だって避けて通るんだ」

 

 港町についてから、何度その言葉を聞いただろうか。ガルナ島は悪魔の島や、呪われた島とも言われていて、誰も気味悪がって近づかないらしいのだ。しかし、港町にナツたちの姿はない。

 

「まさか、泳いでいったのか」

「いくらナツでも、さすがに。ルーシィも一緒ですし、それは無いと思いますけど……」

 

 それにしても、グレイはどうしたのだろうか。聞いたところによると、ナツたちを止めに向かったということだったけど。港町にいないということは、ガルナ島に向かったということだろうか。

 グレイも向かったにしては一向にガルナ島に行く手段が見つからない。どうしたものかと考えていると「仕方ない」なんてエルザが呟いた。……それを諦めの言葉と一瞬でも捉えた私がバカだったとすぐに思い知らされる。

 

「船を奪うぞ」

「えっ?」

 

 そういって、エルザが指をさす先には海賊船があった。これから船を奪われる海賊たちに対して、少し同情する。

 

 

 

――

 

 

 

 あっと言う間に海賊たちをなぎ倒し、エルザは船長に舵を取らせた。言っておくが、私は何もしていない。たった一人でエルザがなぎ倒していったのだ。エルザは相当怒っている。動きに無駄がない。

 ナツたちが行ったS級クエストは本来、マスターに認められた一部の人だけが受けられる危険な仕事。S級魔道士のみがいける仕事。同伴もいいらしいが、その仕事に勝手に行ってしまったのだ。

 ギルドの掟を破るこのはマスターを裏切ること。そう考えるエルザは、ナツたちに決して容赦はしないだろう。

 

「ナツたちを見つけ次第、ギルドに連れて帰る。掟を破った罰はその後だ」

「罰って、なにをするんですか?」

「なにって、最悪の場合は破門だろう」

 

 思わず言葉に詰まる。

 そんなのあんまりだと思った。しかし、ナツたちが招いたことだ。新人の私が庇う事なんて出来ない。

 

「……約束したのに」

 

 ポツリと嘆いた。それは、一緒にいてくれるといった、あの日の約束のこと。考えてみれば、ギルドに入ってからナツと一緒に仕事に行ったことがない。いつもルーシィとばかりで、私の事を誘ってくれたこともなかった。

 今回だって、ルーシィを連れて行っている。私は……ナツにとって何なんだろう。本当は厄介物でしかないのかな。

 

 

 

――

 

 

 

「エルザ――

 

 

 

――さん?」

 

 巨大なネズミに襲われているところをエルザが助けた瞬間、ルーシィの顔は明るいものだった。

 しかし、エルザがルーシィに怒りを顕にした顔を向けた瞬間、「さん」と付け足したのだ。それくらい、今のエルザは恐い。

 

「ルーシィー、無事だっ――!?」

 

 パタパタと呑気に飛んで来たハッピー。しかし、エルザを見るなり、脱兎の如く逃げ出した。……が、すぐに捕まり、尻尾を掴まれて逆さ吊りとなった。

 

「無事みたいだね」

 

 私の一言目はそれだった。どうして、なぜ。そんな言葉を押し殺した。

 

「……勝手にS級に行ったことはダメだってわかってる! でも、今この島は大変なことになってるの! 氷漬けの悪魔を復活させようとしてる奴らがいて、そいつらのせいで、村の人が悪魔にされて――」

「――興味がないな」

 

 エルザが来た理由がわかったルーシィは弁明しようとした。しかし、エルザの一言によって止められた。

 

「せ、せめて最後まで仕事を」

「仕事? 違うぞルーシィ」

 

 手に持っていた剣を、ルーシィの首元に向ける。それ以上、喋るな。ということだろう。

 

「貴様らはマスターを裏切ったんだ。ただで済むと思うなよ」

 

 エルザはすぐにルーシィの腕、そしてハッピーを縛っていた。……どっちも、抵抗なんてしなかった。

 

「……ナツはどこだ?」

「多分、村のあった場所で他の魔道士と戦ってると思います」

「村のあった? 今はないの?」

 

 あった? その過去形に疑問を持ってしまう。今は無いからそう答えたのだろうが、どうして無くなったのか気になって、ルーシィに尋ねた。

 

「ステラ、余計なことはしなくていい。私たちはナツたちを連れ戻しに来ただけだ。この仕事のことは、正式に受理されたギルドに任せればいい」

「そ……それだと遅いの! 今にもデリオラって悪魔が復活しそうで!」

 

 びくびくしながらも、ルーシィは言葉を続けた。エルザが、もう一度ルーシィに剣を向けようとして――ステラが「待って!」と、間に入った。

 

「なんのつもりだ……」

「ギルドの掟を破ったことは許されません。けど、何が起きているか把握くらいするべきじゃないですか?」

「関係ないな。私たちの仕事じゃない」

「でも……」

 

 ルーシィが必死に話そうとしているのに、それを遮って知らぬ存ぜぬはあまりにも酷だ。

 

「グレイはやられて……デリオラを復活させようとしている零帝とかいう魔導士がいて、早くしないとこの島の人たちも――」

「余計なことを話すなと――」

「待って!」

 

 エルザの剣幕が、私に向いた。いや、正確には私がルーシィとエルザの間に割って入った。

 グレイがやられたなんて、信じられなかった。でも、それなら尚更放っておけない。

 

「今の貴様に、そんなことをいう資格はない」

「それは……わかってます。けど、グレイを倒すような危険な魔導士が復活させようとする悪魔なんて放置するなんて」

「S級クエストとはそういうものだ。だから正式に受理されたギルドに任せるべきなんだ」

「それで間に合わなくなったら、誰が責任を取るんですか」

「その責任をこいつらが取るんだ。だから、最悪は破門なんだ」

「――っ! 見損ないました。それなら、私は今ここでギルドを辞めます!」

「……なんだと?」

 

 そんなのギルド内部の問題だ。この島の人たち、助けを求めている人たちがそれで納得してくれるはずがない。

 それで取り返しがつかなくなったら、ナツたちを破門にして済む問題じゃなくなる。

 

「私は残ります」

「ふざけるな! ステラ!」

「連れ戻せと命令されたのは私ではありません」

「……貴様もマスターを裏切るつもりか?」

「これが私の信じる道だ。それでギルドを抜けることになっても、後悔はしない」

 

 自分勝手なのはわかっている。せっかく居場所を作ってくれたのに、自分から離れるなんてのも馬鹿だと思う。

 ギルドに属する人間としてはエルザが正しいのかもしれない。でも、それで良いと私は思えない。

 

「貴様には失望したぞ」

 

 それでいい。そう言おうとした瞬間に体に鈍い痛みが響いた。

 揺らぐ視界の中で、エルザが私に攻撃をしたのだということだけはわかった。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

「赤い雪?」

 

 グレイが目覚めると自分の手のひらに、赤い雪の結晶を見つけて少し驚いた。自分が氷の魔導士だから溶けずに残っているわけではない。

 変な雪だと気になったが、仲間が待っていることを聞き、村人に告げられた場所に向かった。

 縛られているルーシィとハッピー。そして、機嫌の悪そうなエルザ。ステラも縛られていた。

 

「お前はナツたちを止める立場ではなかったのか?」

「おいおい……どういう状況だよ」

「それはこっちが聞きたいな。ナツは何処だ?」

「む、村に戻ってもいなかったの。敵の魔道士が二人倒れていたけど……」

 

 グレイが聞きたいのはそうじゃなかった。マスターからエルザとステラが暫く一緒に行動することは聞いていた。それなら、ステラもナツたちを連れ戻しに来た立場のはずだ。なぜ縛られているのか。

 

「ふむ、それならナツはここがわからなくて迷子になっているということか。あとはナツだけだ。さっさと見つけて帰るぞ、グレイ」

「帰るって……ルーシィから聞いてないのか?」

 

 涙目になりながら、ルーシィは横に首を振った。話しても駄目だった。そう訴えていた。

 

「大体読めたぞ。エルザ、ステラはルーシィの話を聞いて、反抗したんだろ」

「……知らないな。もう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士じゃない」

「なんだって?」

「こいつが決めたことだ」

「まさかとは思うが、ギルドを辞めてまで――なんて言っちまったのか、こいつ」

 

 エルザの言い方。そして、ルーシィの様子。自分の放った言葉に更に険悪な表情になったエルザの様子を見て、グレイはため息をついた。 

 

「見損なったぞ、エルザ」

「何?」

「この島の話を聞いたはずだ。それでも、何も思わないのか?」

「興味がない。ただ、掟を破った者を連れ戻しに来た。それだけだ」

「ステラも納得しなかったんだろ。オレも同じ立場なら、反抗するぞ」

「……貴様まで、マスターを裏切るというのか」

「そっちの言い分はわからなくもねぇ。けどよ、これはオレが選んだ道だ」

 

 エルザはグレイに剣を向ける。しかし、グレイは臆するどころか素手で剣を握り払い除けた。そして自分の意思をハッキリと伝えたのだ。

 

「……最後までやらせてもらう。斬りたきゃ斬れよ」

 

 そのまま立ち去るグレイをエルザは斬らなかった。だけど、そこまで言われて黙っているエルザにと同じように、場は凍りついている。

 

「え、エルザ……おおお、落ち着いてよ」

「そ、そうだよ。グレイは昔の友達にやられて気が立ってるだけなんだよ」

 

 ルーシィとハッピーが、エルザの怒りを抑えようと弁明する。ルーシィの方が落ち着いていない。とは口にはしなかった。

 

「……話にならない」

 

 そういってエルザは剣を振り下ろした。ルーシィたちを縛っていたロープだけを切るために。

 

「まずは仕事を片付けてからだ」

 

 エルザの顔から険しさは消えていた。

 

「勘違いするなよ。罰は受けてもらうぞ」

 

 釘を指すようなエルザの言葉に、一人と一匹は「あい」と悲しげに返事をした。

 

 

 

――

 

 

 

「……それにしても、気絶させることはねーだろ」

 

 あとを追いかけて来たエルザに今は仕事を優先すると言われて、自分の覚悟が伝わったのだとグレイは安堵した。

 しかし、エルザがステラのことを気絶させてたのはやりすぎだと感じていた。今も、ルーシィやハッピーは連れてきたのに、ステラだけは起こしていないことに違和感があった。

 

「デリオラもゼレフ書の悪魔だろう。彼女がまた暴走するかもしれん」

「だったら連れてこなきゃよかったんじゃねぇか?」

「まさかゼレフ書の悪魔が関わっているとは思っていなかったからな。彼女には悪いが、事が片付いたら説明するさ」

 

 それを抜きにしても気絶させたことは謝るべきだとグレイは思ったが、流石にそれを今言うべきじゃないと言葉を飲み込んだ。

 

 

 

――

 

 

 

 誰かの気配を感じてゆっくりと目を開ける。すると、一人の女性が立っていた。

 

「誰、ですか?」

「……何者だ。私の声が聴こえただけでなく、この氷の中に意識を移すなんて」

「意識を移す? なんのことですか」

「無自覚でやっているのか。君は不思議な娘だな」

 

 敵ではなさそうだ。でも、私はエルザに殴られたか何かで意識を失ったはずだ。それなら、これは夢だろうか。

 

「その紋章、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士か。それなら、敵じゃないな。失礼した」

「いえ……それより、あなたは誰でここは何なんです?」

「私の名はウル。この島に運ばれた悪魔を封じた魔導士で、グレイの師だよ。君が私の意識の中に入り込んでいるんだけど、まあ別に構わないさ」

 

 とりあえずここが夢のようで夢じゃないことはわかった。しかし、色々と疑問ばかりででくる。

 

「君に頼みがある。私がデリオラを倒すまでの時間を稼いで欲しいんだ」

「突然言われても……私も色々とあって、デリオラの復活は阻止するつもりですけど」

「……大丈夫だ。君の仲間も、グレイが説得したみたいだからな」

 

 グレイが説得したということは、エルザのことだろう。彼女も協力してくれるなら大丈夫だろう。私の言葉ではなびくことはなかったのが不満だけど。

 

「色々と説明したいが時間がない。すまない、あとは頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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