【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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―鉄の森―
第4話 仕事


 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のあるマグノリアの街につく。馬車に揺られている間、ナツはずっと気持ちが悪そうだった。ナツは乗り物に弱いらしい。

 街に着くと、まずはマカオの息子のロメオを探すことになった。元々、仕事に行って1週間も帰ってこなかったマカオを探しにナツが来たらしい。ルーシィはナツについていっただけとのこと。

 ロメオに母親はいないらしくマカオ一人で育てているのだとか。なおさら無茶な仕事を受けるべきではなかったのではないと思った。

 

「あ、いたぞ。おーい、ロメオー!」

 

 ――私より小さい子じゃないか。

 

「父ちゃん、ごめん……おれ」

「今度友達に言ってやれ。てめぇの親父は怪物19匹も倒せるのかってよ」

 

 泣きながら、うん。と返事をしていた。相当、不安だったのだろう。自分が余計なことを言わなければ、自分のお父さんが無茶をすることもなかったとロメオはわかっていたのだ。

 

「……そこの人は?」

「助けてくれたんだよ。この人がいなかったら、本当に死んじまってたかもな」

 

 先ず、普通の人が雪山に何の装備もなしに来ること自体だめなのだが、それは言わないでおこうと決めた。

 

「ありがとう。ステラ。止めてくれなかったら、ロメオは今頃」

「まあ、バルカン19匹も倒したし。息子のためだって思えば……ね?」

 

 そのあとロメオは父ちゃんすげー。とか、ありがとうとか色々と言っていた。

 

「ありがとう。ナツ兄に、ステラ。ルーシィ姉も!」

「あれ、オイラは?」

「……逆になにしたの?」

 

 あはははっ。と皆が笑う。ごめんね、ハッピー。とロメオが言ってもいじけてしまってハッピーは聞く耳を持たなかった。ちょっと可哀想だけど、ハッピーはこういう立場だということか。

 

「そんじゃ行くよ。ステラをギルドに案内しなきゃいけないからな」

「うん。じゃーねー、ナツ兄!」

 

 そう言って姿が見えなくなるまで手を降っていた。ナツ兄にルーシィ姉なんて、随分と慕われてるんだ。

 その後ギルドにつくまで街の中を通っていったが、思っていたよりもマグノリアの街は広かったし活気があった。

 

「着いたぞ、ここがオレたちの(ギルド)だ」

「あいさー!」

 

 やっぱり、街が街だけにギルドも大きかった。ここに沢山の魔道士が集まっているんだ。そう思うと、少し興奮した。

 

「おーっす。ただいまー」

「おお、ナツ帰ったか……って、誰?」

 

 その声に反応して皆がこっちに注目する。……自己紹介するべきなのかな? どうしたらいいのかわからなくて、少し混乱していた。でも、まあ……とりあえずは自己紹介だろう。

 

「えーっと……ステラ、です」

「また新人連れてきたのかナツ」

「羨ましいねぇ」

 

 なんだろう。緊張しているわけではないが、何だか話しにくい。なんか、見るからにおかしな人が沢山いる。絶対口には出さないけど。

 ちょうどカウンターになっているところの机に座っている人がマスターらしい。思っていたよりも、小さい人だった。年齢がじゃなくて、体が。

 

「また新人さんね。私はミラジェーン。気軽にミラって呼んでね?

困ったことがあったら何でも聞いていいから」

「よろしくお願いします」

 

 マスターの横にいた女性が声をかけてきた。カウンターの中にいるのだから、ウエイトレスだろうか? あら、私と同じ髪色なんて呟いている。随分とおっとりしている人だ。

 そういえば、ギルドに入るために何をするのか聞いておくんだった。試験とか、そういうものがあるのか。それとも、契約とか?

 

「じゃあ、ギルドマークつけるから、好きな場所教えて?」

「え? なんか手続きとかいらないんですか?」

「必要ないわよ。強いて言うなら、ギルドマークを入れるくらいだけど」

 

 無いならそのほうが楽でいいか。ギルドマーク……ナツと同じ場所……は止めよう。

 

「それじゃあ、左腕のところにお願いします」

 

 上着を脱いで腕を出すと、スタンプみたいなものでポンッとつけてもらうだけだった。本当に簡単だ。

 

「つーか、ナツ。お前随分とボロボロじゃねぇか。バルカンにやられたか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ステラと勝負して負けたんだよねー。ナツー」

 

 ギルドの誰が言ったのかわからないが、あるいは全員が言ったのか。「はい?」なんて間の抜けた声が広がった。

 いつの間にかまた私に視線が集まっていくのに気づいてはいたが、ミラジェーンに色々と訪ねているので気づいていないフリをした。

 

「情けねえなナツ! 年下の女の子に負けたってのか!」

 

 そういって誰かがナツの頭をポンポンと叩いた。見ると、上半身裸の黒髪のナツと同じくらいの青年だった。

 

「なんだとタレ目野郎!」

「やんのか吊り目野郎!」

 

 そのまま取っ組み合いの喧嘩になってしまった。

 

「……ルーシィ、あの人は?」

「グレイっていうの。なぜかナツと仲が悪いのよね」

 

 子供の罵倒より幼稚な言い合いも混ざった何とも言えない喧嘩だ。こういう人が多いギルドなのだろうか。

 

「よさんか貴様らぁ!」

「ぷぎゅ!」

 

 マスターが大きな巨人になって、二人を押しつぶした。初めて見る魔法だ。それにしても、戯れ程度の喧嘩とはいえ、ナツと互角に戦うグレイの2人をすぐに止められるマスターは相当強いのだろう。

 

「ねえ、あたしの家に来ない?」

「ルーシィの家に?」

 

 そんな2人のことは放っておいて、私はルーシィに家のことで相談したところ、しばらくは泊めてあげると言ってくれた。宿を探すのは大変だろうし、お言葉に甘えることにした。

 

「それじゃあ、よろしく。ルーシィ」

 

 

 

――

 

 

 

「どう? いいところでしょ」

 

 街の中のとある建物の一室、そこに住むルーシィの家にお邪魔させてもらうと、ご機嫌な様子だった。

 

「7万にしては間取りも広いし収納スペース多いし、真っ白な壁、木の香り、ちょっとレトロな暖炉までついてる! そして何より1番素敵なのは……」

 

 ……随分と荷物が少ない。それに、まだ封も取れてない荷物もある。まだ引っ越してから日が浅いのだろうか。

 

「ねえ、聞いてる?」

「ん……ああ。すごく素敵だよ」

 

 考え事をしようと黙っていた私を覗き込むルーシィ。少し不機嫌そうなのは、私の空返事のせいか、話を聞いていないせいか。

 とりあえず、今日はギルドで歓迎会だなんだと騒がれたせいで疲れている。あれだけ騒がしいギルドだと思わなかった。ミラジェーンに寮も勧められたが、遠慮することにしよう。

 

「……眠い」

「お風呂に入れてあげる」

「え、いや……自分で……」

「いいから、いいから〜」

「ちょっ……」

 

 有無を言わさず脱がされる。一瞬、ルーシィの手が止まった。振り向くと、背中の火傷痕を見つめていた。

 

「その……ごめん」

「……別に気にしてないよ」

 

 その哀れみを含んだ目で見られるから嫌なんだ。とは言えなかった。それを言えばルーシィを傷つけてしまうから。

 

「それで……脱がせた状態で放置しないでお風呂まで案内してよ」

 

 それを聞いて慌ててルーシィが脱ぎ始めた。……先に風呂に案内してくれればいいのに、焦っているのだろう。本心を告げなくて良かった。

 

 

 

/

 

 

 

 眠そうにしている私の頭や体を甲斐甲斐しく洗ってきた。自分でやると言っても拒否できなかったのは先程と同じだ。体くらい自分で拭けると先に上がり、ソファーに寝転んでいた。

 

「ベッドで一緒に寝ようと思ってたのに」

 

 目を閉じている私を既に寝ていると勘違いしているらしい。起きてました。とは言いづらく、そのまま狸寝入りをする。

 丁寧に布団をかけて、部屋の明かりもすぐに消してくれた。しかし、少しだけ明かりが残っているのが不思議で少し目を開けると、机に向かってルーシィが何かを書いているのが見えた。なんか、楽しそうなのが伝わってくる。

 多分日記だろうと思い。そういうのはこれ以上詮索したら失礼な気がして、さっさと眠ることにした。

 

 

 

 

/

 

 

 

 

「そうですよ。おいて行かれたんです」

 

 まわりから見ても不機嫌そうにカウンターに頭を突っ伏す私。そんな様子をニコニコしながら見下ろすミラジェーン。

 

「仕方ないわね。ルーシィの初仕事だってはりきっていたし」

「初仕事? ルーシィは前からギルドにいたんじゃないんですか?」

「少し前にナツが連れてきたのよ。聞いてなかった?」

 

 ルーシィの家に封のされている荷物が多かったのはそういうことだったのか。昼過ぎまで寝過ごした自分のせいだが、起こしてくれれば良かったのに。

 

 

「これでも飲んで元気出して?」

 

 顔を上げると、白い液体の下に赤い液体の飲み物がおいてあった。牛乳? 赤いのは何だろうとじーっと見ていると「いちごよ」とミラジェーンが言った。

 

「混ぜて飲むのよ?」

 

 言われたとおりにストローでかき混ぜる。少しピンク色っぽくなったけど、果肉は赤く残っている。……甘くて、いちごのツブツブがくせになりそうだ。

 

「飲んだわね?」

「……へ?」

 

 笑顔を崩さずに変なことをいうミラジェーンに思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「お金、ないわよね?」

 

 ……ああ、やられた。

 

「グレイー! この娘も連れてってあげて」

 

 ミラが大声で入り口の方の人を呼ぶ。ちょうどそこに、ナツと喧嘩していた上裸の人がいた。

 

「えぇー! なんで俺が!」

「この娘も造形魔法を使うのよ。同じ魔法同士なら、気が合うと思って」

 

 ……あれ? 私が造形魔法使うって、どこで聞いたのミラさん。

 

「……俺はグレイだ。よろしくな」

「ど、どうも」

 

 正直、この黒髪の人は苦手な感じがした。なんというか、しつこく絡んできそうなというか、先日ナツにしつこく絡んでいて見ていて引いた。

 

「オレは氷の造形魔法だが、お前は?」

「雪です」

「へえ、珍しいな。中途半端――」

「は?」

「いや、悪い! そういうつもりじゃ――」

 

 はっきり言って、そんな酷いことを言われて第一印象は最悪だった。

 ナツと仲が悪いのも、二人が同レベル……まさか火と氷だからという単純過ぎるものじゃないだろうか。まあ、それは置いといてまずは服を着てほしい。なぜ下も脱ぎ始める。……突っ込んだほうがいいのか。

 

「グレイ。服」

「うおっ!? すまん、つい癖で!」

 

 ミラさんに突っ込まれて気づいたらしい。ナツに変態呼ばわりされるわけだ。しかも癖ってなんだ。癖って。

 

「捕まったほうがいい」

「あら、グレイは何度か捕まってるわよ」

 

 うん。なんか、わかってた。

 

 

 

/

 

 

 

 仕事の内容は村を襲った盗賊団を退治してくれ。というものだ。遠いので、汽車で近くの街まで行って、そこから歩くそうだ。

 

「なんだ、お前は乗り物平気なのか」

「え?」

「いや、ナツの野郎は乗り物に弱くて、すぐに酔っちまうんだ。だから、滅竜魔道士は乗り物に弱かったりするのかなって」

「ああ……そういえば馬車で気持ち悪そうにしてたっけ」

「やっぱアイツの根性が足りねえのかな。情けねえ」

 

 ナツのアレは見ていると同情したくなるくらい酷かった。……というか、もし私が乗り物に弱かったらどうしていたのだろう。馬鹿にされていたのだろうか。

 

「そういえばよ。ナツに勝ったんだって? ……なんだよ。その『うわ、来たよ』みたいな顔」

 

 思わず顔に出てしまっていたらしい。

 

「だって、グレイとナツって仲悪そうで、そういうの面倒になりそうで……」

「ナツとは事あるごとに喧嘩してて……まあ、オレが言うのも何だが互角なんだよ。だから、ナツを打ち負かしたっていうお前に興味があってな」

「……運が良かっただけです」

「……なんか、オレが思っている以上に深い訳がありそうだな。聞かれたくねえなら、これ以上はやめとくよ」

 

 小さく首を縦に振る。意外と物分りの良い人らしく、私が話に乗る気じゃないのも察知してくれたようだった。正直、第一印象とはだいぶ違って、意外と話しやすい人なのかも知れないと思いつつあった。

 ……機会があれば、話してもいいかな。なんて少し考えていた。

 

 

 

/

 

 

 

 列車から降りて、村までは歩いて何時間もかかる。だが、村はすでに盗賊団に占領されている。だから、依頼主は駅のあるこの街にいるそうだ。そんな辺境だからこそ狙われてしまったのだろう。

 まずは依頼主から話を聞くことにした。とりあえず、待ち合わせ場所の酒場に行くそうだ。

 

 酒場だからか、日が暮れる前からいる客は少なかった。グレイはすぐに依頼主を見つけて話を聞く。20代くらいの若い男が、今回の依頼主だった。顔には包帯が巻いてあり、いかにも争ったあとのようだ。

 

「あなた達が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士ですか」

「ああ、それで、今回の依頼だが――」

「殺してください」

「は?」

 

 その男の言葉を聞いて、グレイと顔を見合わせる。盗賊団を退治してくれという依頼だと聞いていたから私は尚更驚いた。いや、そうでなくても「殺してくれ」なんて聞けば誰でも驚く。

 

「そういう依頼なら、他をあたってくれ。悪いがオレ達は――」

「村の者が何名も、そいつらに殺されたんです」

 

 グレイも思わず言葉を詰まらせる。だが、だからといって、そういう依頼を受けるわけにもいかない。

 

「そう言われてもよ。こっちにだって規則があるんだ。他の奴らにまで迷惑がかかっちまう。その筋の奴等に話をするべきだ」

「ただの盗賊団だと思っていた奴等は、闇ギルドだったんです。そのせいで、だいたいの者は怯えて断っちまうんです」

「……グレイ。闇ギルドって?」

「評議会から認められてない。もしくは追放されたギルドさ。オレ達と違って、法律なんて関係なく悪事にも手を染める。人殺しだって平気でしやがる奴等だ」

 

 悪人の集まり。ということだろうか。それなら、なおさら放っておくわけにはいかないはずだ。

 

「お前の言いたいことはわかってる。だがな、闇ギルドといえど、ギルド同士の戦争や喧嘩ってのは評議会から禁止されているんだ」

 

 私の考えは表情(かお)に出てしまっていたらしい。何かを言う前にグレイから切り返されてしまった。

 

「そういうわけだ。悪いがこの話は無しにしてもう」

「私の妻のお腹には子供がいたんです……だから、逃げ遅れてしまった。私は他の街に出稼ぎに行っていたものですから、帰ろうと村の近くまで行って、そこで逃げのびた人から話を――」

「ちょっと待ってくれ。ステラ、外で待ってろ」

 

 男の話を遮って、グレイが私にそう言った。

 

「でも……」

「いいから外に行け、早くしろ」

 

 グレイの剣幕におされて、外に出る。……私も馬鹿じゃない。男の声が段々と震えていたこと気づいていた。だから、その先の話もある程度は予想がついた。

 きっと、その女の人は殺されている。男の依頼は言ってみれば復讐だ。だが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士である以上、ギルドの規則は守らなければいけない。そういった依頼は受けてはいけないのだ。正直、私がギルドに所属していなければ、この話を受け入れていた。その気持ちが、少しでもわかるからだ。

 何分くらい経っただろうか。グレイが浮かない顔をして出てきた。

 

「待たせたな……。ダメだな。全く聞き入れやしない」

 

 わかってはいた。今回の依頼は受けられないと。それでも、このまま放っておけない。放っておくわけにはいかない。

 

「どうするんですか、村やあの人は」

「軍隊に相談もしたそうだが、相手は魔道士だ。返り討ちにあったらしい。それから軍隊は見てみぬふりだ。

退治だけならやると言ったんだが、あくまで殺しを望んでいる。って、断られちまった」

「けど、相手は何人も殺してる。それなのに、軍隊が動かなかったら、誰がその村を救うの?」

 

 そうだ。その男は復讐を望んでいるとしても、全員が殺しを望んでいるわけじゃないはずだ。ただ村に戻りたい人もいるだろうし、そうした人たちを含めて放っておくことはできない。

 

「……まあ、相手が闇ギルドだからビビってるわけでもねぇし。

だけどよ、相手はギルド1つだ。流石に二人で勝てるかわからねぇぞ?」

「グレイはいいの?」

 

 規則に違反するのだ。バレれば怒られるだろう。それ相応の罰も受ける。仲間にも迷惑がかかるが……それでも、グレイは、いいのだろうか。そういう意味の確認だった。

 

「新人のお前だけ危険な目にあわせるわけにもいかないだろ。それに、お前の初仕事だ。見届けてやるよ。どうせ他のことで評議会から怒られるだろうしな」

 

 そう言いながらグレイは笑っていた。規則を破ろうとと何であろうと、目の前で起きていることから目を逸らすような人たちじゃない。それがわかって嬉しかった。

 

「ありがとう、グレイ」

「それじゃあ、村に行こうぜ。奇襲して一気にカタをつけてやろう。

相手はギルドだ。ヤバくなったら無理せず逃げろよ?」

「わかってるよ。負ける気は無いけど」

 

 

 

/

 

 

 

「ったく、結局歩くはめになるのかよ……」

「仕方ないよ。闇ギルドに襲われた村に近寄りたいと思う人はいないだろうし」

 

 見事に誰からも断わられて、村までは歩いていくことにした。と言っても、村までは遠い。それなら――

 

「空から行こうよ。私、飛べるから」

「まじか! じゃあ、頼むぜ!」

 

 造形魔法で翼を作って、そのままグレイを掴んで空へ上がった。村のだいたいの方角はわかっているから、灯りですぐにみつかるだろう。流石に、暗い道を森まで突っ切って村に行くには危険だし。

 

「器用だな。造形魔法で飛べる奴なんてなかなかいないぞ」

「最初は浮くので精一杯だったよ。今は自由に飛べるけど」

 

 簡単そうに見えて、意外と難しいのだ。元々、造形魔法はあくまで形を与える魔法。一度つくった魔法の形から動かすのは、センスも必要なのだ。

 

「グレイは、動かない造形なの?」

「まあな。オレには向いてないらしいから、動かすことはさっさと諦めちまったよ」

 

 グレイは剣とか槍といった。動かない造形がメインの魔道士なのだろう。でも、別におかしくはない。動かない。と言っても、飛ばしたり、凍らせる範囲は自由だし、遠距離でも近距離でも、動かせる造形とは対して差がないのだ。

 

「頼りにしてるからね、先輩」

「なんだよ、その呼び方。からかってるのか?」

 

 

 

/

 

 

 

「結構な数じゃねーか。こりゃ骨が折れそうだな」

 

 茂みの中から村の様子を確認する。全員敵で間違いないとすれば結構な数だ。100人位はいるだろうか。正面から突っ込むのは無謀だろう。相手は軍隊を退けるくらいなのだから。

 

「あいつら、紋章がバラバラだ」

「数だけの奴らってことかな」

「大方、ギルドマスターに当たる奴が逮捕されて壊滅しかけた奴らの集まりってところだろ。軍隊も情けねえな。そんな奴らに負けるなんてよ」

 

 そこは魔法を使える者と使えない者の差なのだろう。まあ、憶測なのだが。

 

「オレたちが代わりにやってやるか」

「正面からやるの?」

「ああ、やってやろうじゃねぇか!」

 

 心配は無用だったらしい。グレイは元から正面突破するつもり。それ相応の実力を持っていると期待していいはずだ。

 

氷欠泉(アイスゲイザー)!」

 

 敵の真下から、氷が勢い良く噴き出した。何十人という人がいとも簡単にふっ飛ばされていった。

 

「スノーメイク・白狐!」

 

 呆気に取られている奴らを倒すのは簡単だった。統率も取れていない攻撃。ただ、一人ずつ向かってくる敵を蹴ったり、殴ったりするだけでよかった。逃げようとする奴等は白狐に任せていた。

 意外なことに魔法を使える者も一部だけのようだった。たまに飛んでくる魔法に少し驚くが、避けられない攻撃じゃない。闇ギルドなんて、建前だけのハッタリのように思えた。

 

「正規ギルドが! なめやがって!」

 

 換装という魔法だろうか。剣を構えていた男がいつのまにか槍で突撃してきた。しかし、その程度でしかない。

 

「なめてるのは貴様らのほうだ」

 

 ……もし妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入っていなければ、私はこいつらを殺していたかもしれない。だが、それは駄目だ。

 私の気持ちを汲んで、この村を救う決断をしたグレイを裏切ることになる。

 

「……本当に寄せ集めって感じだな」

 

 それにしても、全く張り合いのない戦いだ。グレイの愚痴は最もだと私も思う。連携もなければ、互いに足を引っ張っている始末。烏合の衆とはこのことだろう。

 そのおかげで、思っていたよりも遥かに簡単に殲滅は終了した。

 

 

 

/

 

 

 

 結局、闇ギルドの奴らを全員倒したあと、あとの始末は軍隊に任せることにした。一応、村はもうすぐ安全になると最初の依頼者に伝えようと、グレイと街に戻ってきた。

 しかし酒場に戻ると、既に男はいなかった。かすかに残っていた匂いをつけて、たどり着いた場所は街の宿だった。とりあえず話を聞こうと宿の人に男を呼んでくれと頼んだ。もしかしたら、断られる可能性もあった。少なくとも依頼を断ったのだから。

 

「先程はすみませんでした」

 

 男の第一声。……私にとっては意外だった。話を聞くと、妻は逃げ遅れたのではなく、既に村にいなかったそうだ。陣痛が起きたので、村が襲われる前にこの街の病院にいたそうで、それに気づいたのは私たちとわかれてから、逃げた村人としっかり話をしたときだったそうだ。

 

「村の他の犠牲者には申し訳ないが、妻が無事で安心したんです。詫びの意味でも、後日改めて依頼をギルドに送ろうとしたのですが……」

「もう大丈夫なはずだ。残りがいる可能性もあるが、いたとしても軍隊でも対処できる」

「これは報酬です。受け取ってください」

 

 差し出されたお金は、ギルドで見た下手な討伐系の仕事よりも多かった。

 

「いいのか? オレたちは依頼を受けてないんだぞ」

「いいんです。これは村を救ってくれたお礼ですから」

 

 数えると50万J(ジュエル)はあった。二人でわけて25万J。初仕事にしては上々のような気がした。相場がわからないが、グレイの反応から悪くはなさそうだ。

 男は立ち去る私たちに何度もお礼を言っていた。最初に依頼の話をしたときとは別人のようにすら感じるほどの優しい表情だった。

 そしてグレイは気づけば既に脱いでいる。しまった。なんて言っているけど夜中に街中で裸って……また捕まるんじゃないだろうか。そもそも、どうやったらそんな癖がつくのか。

 

「初仕事は成功……かな?」

「いいんじゃねーの? ま、あとでマスターに怒られるかもしれねーけどな」

 

 とにかく、私の初仕事は無事に終わった。これでマグノリアで家を探すお金もできたし、上々だろう。

 初仕事がナツと一緒じゃなかったのは少し残念ではあったが、グレイがそんなに悪い人じゃないと知れたし、同じ造形魔道士としてグレイとも仲良くやっていけそうな気がしていた。

 

「……脱ぎ癖さえなければ」

 

 なぜか今さっき着た服を脱ぎはじめたグレイをみて、ため息混じりにそう呟いた。

 

 


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