【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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32話 エドラス王国

「……そうか! あいつら!」

 

 ネクが持ってきた手紙らしきものを読むなり、慌ただしく準備をし始めるメビウス。

 

「すぐに出るぞ、思った以上に事態が進行してる。君の仲間を助けられなくなる。ネク! 足とアレを準備してくれ!」

 

「アレって……ステラ! それは――」

 

「君の故郷も危ないんだ、急いでくれ」

 

 ネクが静かに頷いた。そうして、慌ただしく一人と一匹は準備を始めた。足とアレの準備が気になって仕方なかったが、それを聞けるような余裕もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度乗ったことのある魔導四輪と似ている乗り物だったが、その速さは比べ物にならないほどだ。足というのは、移動手段のことだったのか。

 ネクはメビウスのお腹の方で、私は背中側。本来は一人乗りの二輪車らしく、少し窮屈だった。

 

「……王国の狙いが掴めたんだ。きっかけさえあれば、あいつらは今回のアニマで得た魔力を使って、叛逆を起こすつもりだ」

 

「叛逆? 一体誰に……」

 

「……ネクの故郷、エクスタリアに対してだ」

 

「僕たちはエクシードって呼ばれてる存在で、この世界で唯一体の中に魔力を持ってて、空を飛べるんだ」

 

「エクシードの王は神であり絶対の存在で、何かを命じれば人間は従うしかない……エクシードの王は人間を消し去れるっていう話が常識なんだ」

 

「……でも、僕たちはそんな崇められるような存在じゃない」

 

 ネクが俯いている。そんなネクの頭をメビウスが撫でた。

 

「君は悪くないよ」

 

 何か深い事情があるのだろう。お気楽な性格をしていそうなネクが、見る影もないほどしょぼくれていた。

 

「王は前々からエクシードたちを疎ましく思ってたんだ。渇望するほどの永遠の魔力が目の前にあるのに、自分たちは有限の魔力を使わなければいけない現実。数十年前に開発したアニマで向こうの世界(アースランド)から得た魔力を利用できるようにるようになったのに、それすらエクシードに管理される。常に何をやれこうしろと命令されれば従うしかない」

 

 エクシード……ネクがそうならハッピーやシャルルも同じ種族だろう。彼らが王が恐れるほどの何かを持っているようには思えない。ならば、エクシードの王は想像もつかない化物なのだろうか。

 

「……恐れる圧倒的な力なんて、存在してないのにさ」

 

「存在しない? でも、さっきエクシードの王は神であるって……」

 

「いや、今のエクスタリアを治めているのは王女様でね。その現王女は、未来が見れる力をうまくつかって、今も危ない橋を渡っているのさ」

 

「未来が見れる? それこそ、本当に神のような力では?」

 

「人々が恐れているのは、神による裁きの鉄槌。絶対的な存在、力だ。未来が見えたって、それが自分の都合の良いものとは限らないし、さっきも言ったけど、実際にはそれを変えられるような直接的で強大な力は無い――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――でも、彼らはうまくやったんだ。2つある王国の未来を見て、存続する方へ加担した。直接手を下さず、国を滅ぼしたという結果を得た」

 

 メビウスの声に怒りが混じる。そして、ネクが震えていた。

 

「僕たちは、メビウスの国を見捨てたんだ」

 

「でも、君は私を助けてくれたじゃないか。……その恩返しさ」

 

 そう言って、メビウスはネクに笑顔を向けていた。

 

「……ごめん、こっちの話に入っちゃった」

 

「大丈夫です。……それより、私の仲間を救えなくなるっていうのは」 

 

「ラクリマとぶつけて爆発させて、王国に魔力の降り注ぐ……この世界(エドラス)に魔力を自然発生させるきっかけをつくるつもりらしい。ほら、あそこに見える浮遊島。ラクリマと割と近い位置にあるアレがエクスタリアだ」

 

 そう言ってメビウスが指を指した方向には、とてつもなく大きなラクリマと、ネクの故郷らしい浮遊した島の上に国が――エクスタリアが確かにあった。

 そして、そのエクスタリアの横の浮遊島に巨大な魔水晶。

 

「君が捕まってる情報を得たときあたりに、あの魔水晶(ラクリマ)が現れた。あれがアースランドの街1つ分の魔水晶だと情報屋から仕入れてね」

 

「それは、どういう……」

 

「……こっちの世界(エドラス)では魔力が有限だって話はしたよね。それを得るためにアニマという魔法で君がいた世界(アースランド)の魔力を得たんだ」

 

 ……あの魔水晶が、仲間たちの今の姿。そういえば、()もそんなことを言っていた……そのあとの拷問のような仕打ちで、すっかり忘れていた。

 

「本来、君はアニマで捉えられるはずなかったんだ。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は特殊な魔力で守られているはずだから……けど、なぜか君だけ捕らえられてしまった」

 

「……それじゃあ、私以外の滅竜魔導士は無事なんですか」

 

「無事だった。けど、今王国に二人の滅竜魔導士が捕らえられているっていう情報が入ってね。あいつらが、滅竜魔導士の魔力で何かをしようとしているのはわかっていたから、君の存在がわかったときにすぐに助けたんだけど……」

 

「このままだと、奴らが必要とする魔力が全て揃うんだ。……何をするのかは最近までわからなかったけど、それを近々実行するみたいで」

 

 二人……? ナツとウェンディに……ガジルがいるはずだ。そうなると、誰かはまだ無事なのか。

 

「それで、一体エドラス王国は何をするつもりなんです?」

 

「――ごめん、お喋りはここまでみたい。さて、準備はいいか? このまま王国に突っ込むからな」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何考えてるんですか!? というか飛ぶなんて聞いてないですよ!」

 

 いきなり乗り物の横に翼が現れたと思ったら、王国の城めがけて高台から飛んだ。そして、よくわからないまま激突。乗り物から出てきたクッションみたいので助かったけど、死んだかと思った。

 

「いや……もう事が進んでるから隠密しても意味無いんだ」

 

「そういう問題じゃ――」

 

「ステラ!」

 

 名前を呼ばれて振り返る。そこには、私の知っているルーシィと、ハッピーにシャルルがいた。

 

「お、よかった。君の仲――」

 

 ただならぬ殺気。それを向けられたメビウスは、腰からナイフを取り出して、その殺気を放っている者の攻撃を受け止めた。

 そのまま銃を向けて何発か放って距離を取る。

 

「空気読んでくれないかな」

 

 そうして、メビウスは殺気を向けてきた相手――エルザと戦い始めた。

 

「まさか……エドラスのエルザが敵なのか……」

 

 エドラスはもう一つの世界。全てが私の元いた世界(アースランド)と何もかも同じはずがない。そう理解していても、実際にエルザが敵なのは精神的に堪える。

 

「え……ちょっと、何が起きてるのよ!? あの人誰!?」

 

「ネク! さっき渡した紙に竜鎖砲のエネルギー抽出室の場所が書いてある!」

 

「王子を誑かし、数十年間逃げ回ってた貴様が姿を現すとはな!」

 

「ったく、多少の無茶は承知の上だったのに最初からエルザに会うとはね」

 

 そう言ってホルスターから銃を抜いた瞬間に発砲するメビウス。着弾した箇所が大きく爆発して、王国兵が吹っ飛んで道が開けた。

 

「何なのよもう!」

 

 ルーシィが叫ぶ。その台詞、そのまま自分が言いたいくらいだ。

 色々と説明されていないのに、既にメビウスはエドラスのエルザと交戦状態で聞き出せそうにない。

 

 

 

 

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「Code:ETD、国家領土保安最終防衛作戦の裏で軍備強化を続ける王国に違和感はあったんだけどね。まさかExceed Total Destruction――天使全滅作戦だとはね」

 

「我々人間の未来のために必要な犠牲だ」

 

「そうやって言い訳して、同じ過ちを繰り返すのか」

 

「……貴様らの国が我らの王の提案を受けていれば、あの犠牲は避けられた」

 

 怒りを覚えるどころか呆れてしまうメビウス。それはどう頑張っても、あり得なかった未来だからだ。

 

「お前さえ差し出せば、貴様らの国は――」

 

「滅んださ。私には運命を変える勇気も力もなかったからね」

 

 メビウスが溜息をつく。

 ――自分たちを追ってくる大人が、王国兵が、この世界の全てが恐ろしかった。……いや、正確には未だに恐ろしい。魔力という存在のために、命を軽々しく扱うこの国のすべてが。

 

「今は、力がある……と?」

 

 バカにするように嘲笑混じりに呟くエルザ。

 

「まーね。実際こうして、こんなもの(ナイフと銃)で妖精狩りと張り合えてるんだから」

「そうか、ならば――これを受け止めてみせろ!」

 

 エルザの武器が光りだす。魔法にド素人でも感じ取れるほど、高密度の魔力が槍の先端に練られて、眩い光を放っていた。

 その眩さにメビウスは距離感を失ってしまい、振り下ろされた槍を受け止めそこねて体に当たり――城全体を揺らす振動と轟音が響いてメビウスはふっ飛ばされた。

 武器を構え直すエルザ。しかし、追い打ちはかけなかった。

 

「大して効いていないな。どういう絡繰りだ」

 

「……あれ、バレた? 近づいてきてくれれば、そのまま首でも掻っ切ろうと思ってたのに」

 

 何事もなかったかのように、メビウスが立ち上がる。

 

「何年も王国の手から逃れ続けた女が、こんな程度でやられるとは思ってないさ」

 

「まあ、隊長たち相手だと一筋縄じゃいかないか」

 

 仕切り直しと左手のナイフと右手の銃を構え直すメビウス。エルザも同じように構え直す。

 

「おいおい………エルザがいるじゃねーか」

 

「何を言っているグレイ――な、私……だと!?」

 

「な――!?」

 

 自分と瓜二つの人間がお互いに同じような驚き方をする。場にいる全員が困惑するが、メビウスが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を見るなりある一点に指先を向けた。

 

「ステラなら、この先だ。他の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を助けに行ってる。早く行ってやれ」

 

「貴様――」

 

「っと! そっちから吹っ掛けて来たのに、他に手出しなんて欲張りなことさせないよ」

 

 状況がなかなか読めないアースランドのエルザとグレイだったが、自分たちに飛びかかろうとしたエルザ()を止めてくれた者がとりあえず味方なのだろうと判断して、走り出す。

 

「これは、こっちが有利になってきたかな」

 

 どういうわけか、アースランドの魔導士が開放されている。自分の知らないところで、まだ有利になる要素が残っていると確信したメビウスは思わず笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

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「っ! きりがない!」

 

 思っていた以上に敵が多い。慣れない武器()の性能が高いおかげで王国塀を蹴散らせている。

 

「ステラ! あんまり無駄撃ちすると魔力が切れちゃうから注意して!」

 

 ネクに言われてマガジンを再確認する。もう既に半分も残っていない。焦ってはいけないとわかっている。しかし――

 

『うわああああ!!!!』

 

 ナツの叫び声が聴こえる。冷静にならないといけないとわかってはいるが、早く助けに行きたいという気持ちが強く出てしまう。

 ルーシィはエドラスでも魔法が使えたということだが、今は謎の拘束具のせいで魔力を抑えられていて使えないらしい。

 

「邪魔だ! どけ!」

 

 きりがない。このままじゃ武器が使えなくなるのが先だ。しかも、仲間(ルーシィ)を庇いながら戦うこっちが不利だ。

 それに……思った以上に武器の反動が大きい。両手ならまだしも、今の私が片手で扱えるような反動じゃない。

 

「怯むな! 数は圧倒的にこっちが有利だ! それに、あいつは武器になれてないらしい!」

 

 手が震える。何発か外してしまった。それに気づかれて王国兵が更に勢いづく。

 

『きゃああああ!!!』

 

 ウェンディの叫び声――もしあいつなら、もう少し冷静になれたかもしれない。

 

「――皆! 私から離れろ!」

 

「ステラ!? 何する気!」

 

 やるしかない。もう距離を取っていたら弾があたらない。それに、残りのマガジンは1つ。やるなら今しかない。

 王国兵の集団へと走る。そのまま先頭にいる奴に体当たりする。

 

「――こいつ、無謀にも突っ込んで来やがった!」

 

「このまま取り押さえろ!」

 

 そのまま手あたり次第に引き金を引く。当てずっぽうだ。でも、取り押さえようと囲んでくれたおかげで外れることはない。

 ……しかし、自分にもダメージがある。威力が強すぎて、この距離だと暴発と変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何とか、なった」

 

 息が上がって呼吸が苦しい。左腕の感覚がもうない。銃を握っているかどうかすらわからない。

 

「ステラ、無茶し過ぎよ……」

 

 駆け寄ってきたルーシィに怒られる。仕方ないじゃないかと言い返す元気もない。

 

「行こう、早くナツたちを――」

 

「いたぞ! エクシードとアースランドの魔導士だ!」

 

「な……まだ、あんなに!」

 

 最悪だ。これだけの数を倒したというのに、それ以上の数の王国兵が迫ってくる。

 

「一旦ここを離れ――」

 

 ネクが声をかけるが、既に後ろにも既に王国兵が立ち塞がっていた。

 

「あと少しなのに……」

 

『あああああ!!!!』

 

 二人の叫び声が響き渡る。

 

 

 

 

 ――どうして、魔法が使えないんだ。今こそ、ここで力が必要なのに!

 

 

 

 

 

 

 

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い――どうして私はこんなに弱いんだ、あいつがいないと何もできないのか……ふざけるな、ふざけるな! 認めるか、私だって滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ、私は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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