【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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―エドラス―
30話 最強の男


「あぁ……船って潮風が気持ちいいんだな……乗り物っていいもんだなー! おいー!」

 

「……元気なことで」

 

 波に揺れる船を堪能し尽くしているナツ。本来なら、乗り物全般は乗ってすぐに酔う体質であり、楽しめない体質……なのだが、ウェンディの魔法のおかげで乗り物を満喫していてた。

 

「あ……そろそろトロイアが切れますよ」

 

 ウェンディがそういった次の瞬間、酔って転ぶナツ。

 

「――おぷぅ……も、もう一回かけて……」

 

「連続すると効果が薄れちゃうんですよ」

 

 少なくとも、楽しめるのは魔法が効いている間だけ。ちょっと可哀想だとは思う。

 

「本当にウェンディもシャルルも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るんだね」

 

「私はウェンディがいくっていうから付いていくだけよ」

 

「楽しみです! 妖精の尻尾!」

 

 本当に楽しそうだなぁ……。なんて思いながら、そのやり取りを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で……ウェンディとシャルルだ」 

 

「よろしくお願いします」

 

 事の成り行きは、エルザが全部説明した。新たなメンバーの加入に、ギルドが沸き立つ。シャルルを見てハッピーのメスだとか、ウェンディに年齢を聞く、ウェンディに年齢を聞いた者をエルザが睨むなど色々起きる前兆がしてならないが、ウェンディにとってはギルド全体が楽しそうなのが印象的だったようだ。

 

「シャルルは多分ハッピーと同じだろうけど、ウェンディはどんな魔法を使うの?」

 

「ちょっと! オスネコと同じ扱い!?」

 

「私……天空魔法を使います。天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)です」

 

 ウェンディの自己紹介で、妖精の尻尾が驚いて静まり返る。流石にこんなに幼い子が滅竜魔導士というのは信じてもらえないのだろうか。

 

「おぉ!? すげぇ!」

 

「滅竜魔導士だー!」

 

「ナツやステラと同じか!」

 

「ガジルもいるし四人だぞ! 四人!」

 

 驚いて沈黙してしまったが、いつものように嬉しさと珍しさで騒がしくなっていた。

 珍しい魔法である滅竜魔法を覚えている。ということを信じてもらえたことが嬉しかったのか、ウェンディは笑顔になっていた。

 

「……なあ、なんでオレらには、猫がいねぇんだろうな」

 

 珍しい人に声をかけられた。振り向いてみると、ガジルが横に座っていた。

 

「……まさか、変に仲間意識持ってないよね」

 

「そりゃあ……ねえよ」

 

 一瞬、言葉に迷ったようなガジルだが、私の返答を聞くなり、すぐに席を移動してしまった。まさか、"猫がいない"ことに結構ショックを受けてるのだろうか。少し可愛げのあるところもあるんものだ。

 

「今日は宴じゃあー!」

 

 マスターの一言により、いつも以上に騒がしくなる。ウェンディは、飲めや食えやのどんちゃん騒ぎを目にして自然と笑顔になっていた。

 

「楽しいところだね、シャルル」

 

「私は別に……」

 

 こうして、ウェンディとシャルルの二人は無事妖精の尻尾のメンバーへとなった。

 ……私の片腕がなくなっていることには、気を遣ってか誰も理由を尋ねることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)……じゃと」

 

 その宴のあと、マスターに私とエルザが呼び出され――私が腕を失うことになった詳しい経緯を話していた。

 エルザに連れ出される私は、完全に借りてきた猫状態だった。

 

「ステラのおかげで、ナツは助けられ……ギルド連合の全員も救う形になりました。しかし……」

 

「まさか、自分の腕を犠牲に絶対氷結とはの……」

 

「そもそも、勝手に連合に参加したのも問題です」

 

 化猫の宿(ケットシェルター)のマスターに頼まれた……と言っても、彼はもういない。なにか余計なことを言えば、火に油を注ぐことになりかねない。

 

「……ステラ、楽園の塔でお前は死ぬつもりだったな」

 

 言われて、ふと思い返す。そういえば、楽園の塔が崩壊する前に……思いっきりエルザのことを殴って気絶させたことを思い出して妙な汗が出てきた。

 

「えっと……あれは、仕方ないというか……でも、死ぬつもりは、なかったというか……」

 

「どれだけ私たちが心配したと思っている。一ヶ月昏睡してたときだって、みんな気が気じゃなかったんだ」

 

 怒られると身構えていた私だったが、エルザの伝えたかったことにようやく気づく。今までずっと、私は仲間とうまくやっていけてない。ラクサスのように、疎まれる存在だと思っていた。

 しかし、バトルオブフェアリーテイルのあと、私が目覚めたあと、今日みたいな宴モードで、自分が大切な仲間だと思われているとわかって、すごく嬉しかった。

 

「……もっと自分を大切にしろ。もう、お前は一人じゃないんだから」

 

 そう言って、エルザはマスターに一礼して立ち去った。……しばらく沈黙が続いて、大きなため息が聞こえた。

 

「エルザの言うとおりじゃの」

 

「……はい」

 

 今回は相当怒られるだろうな。と覚悟していた。しかし、マスターは怒るどころか私の身を案じているようだった。難しい顔をしながら、何やらぶつぶつと呟いている。

 

「他に体に異常は出ておらんか?」

 

「……エーテルナノの傷も治癒してもらいましたし、異常はない……と言いたいですが」

 

「……腫瘍のほうは、ダメだったか」

 

 ウェンディの天空魔法。ナツの毒も解毒して、平衡感覚を司るトロイアという魔法で乗り物酔いも治していた。私のエーテルナノの傷も治してくれた。

 しかし、アンチエーテルナノ腫瘍はその名の通り、エーテルナノを――魔力の元を通さない腫瘍。天空魔法でも、治せなかった。

 

「ウェンディには、悪いと思ってます……」

 

 アンチエーテルナノ腫瘍。このことを知っているのは、マスターとポーリュシカ、あとはミストガンだけだ。しかし、ウェンディにはニルヴァーナにいる際に話してしまっていた。まさか、ウェンディが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るとは思ってなかったこと。そして、私自身が軽く考えすぎていて、話してしまったことを後悔していた。

 結局、ウェンディには他の人には言わないと約束させることになってしまい。変に彼女に重荷を背負わせることになってしまった。

 

「すぐにとは言わんが、話すべきと思うがの」

 

「そう……ですね。自分の中で整理がついたら、話そうと思います」

 

 私がみんなに話せばいい。でも、その先はどうなる。治せない病気を治すために、みんなが奔走するなんて、望んでいない。でも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)なら、そうするだろう。

 ……もっとも、逆の立場になったら、私も諦めずに治療法を探すのだろう。

 

「でも、体の調子はいいんです。……片腕ない状態で言っても馬鹿みたいですけど」

 

 軽い冗談のつもりで言ったが、もう一度大きなため息をマスターがついた。やってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう? ギルドにも慣れてきた?」

 

 ウェンディがギルドに来て数日。私よりもよっぽど、彼女は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に溶け込んでいた。

 

「はい」

 

「女子寮があるのは気に入ったわ」

 

「そう言えば、ステラさんやルーシィさんはなんで寮じゃないんですか?」

 

「うーん……そういうの苦手だったから。入ってすぐに収入と良い条件の部屋を買えたからね」

 

 風呂に入らない私は、ギルドのシャワー室で充分だし、マグノリアには銭湯もある。帰って寝る。エイリアスのいたときと、変わらないスタイルだ。

 

「あたしは寮の存在最近知ったのよ……てか、月10万J(ジュエル)よね……払えない可能性も……」

「ははは……まあ、ナツがモノ壊すからね……」

 

 たぶん、寮に入っていたら私も地獄だっただろう。昼過ぎまで寝て、自由に……いや堕落している生活なんて、エルザなら、それを許すわけがない。まあ、エルザがいるから寮は安心というのもある。

 

「大変だー!」

 

 飛び込んで来た妖精の尻尾のメンバー。そして、その直後に鳴り響くマグノリアの鐘の音。

 

「何!?」

 

「……鐘の音?」

 

 鐘の音が聴こえた。その音を聴いて、ギルドが一段と騒がしくなる。……しかし、敵襲という雰囲気ではない。私やルーシィより前の古参のメンバーが嬉しそうにしている。

 

「ギルダーツが帰ってきたァ!」

 

「あいさー!」

 

 その中でも一段と騒ぎだすナツとハッピー。『ギルダーツ』という名前にウェンディが首をかしげていた。

 

「ギルダーツ?」

 

「あたしもあったことないんだけど……妖精の尻尾最強の魔導士何だって」

 

「へぇー!」

 

 ウェンディの目がきらきらしている。妖精の尻尾最強なんて、子供ならワクワクするのだろう。

 妖精の尻尾最強って、エルザとミストガン……それにラクサスだと思っていた。……それよりも強い魔道士。

 

「その人、何しに行ってたんだろう」

 

「知りたい?」

 

 いつのまにかミラジェーンが私たちの近くに来ていた。

 

「三年ぶりよ、帰ってくるの」

 

「三年も!? 何してたんですか!?」

 

「勿論、仕事よ……」

 

 そう言ってミラは光筆(ひかりペン)を取り出して。何か書き始めた。

 

「みんなが普段受けているクエストは、誰にでも受けられる普通のクエスト。

 

その一つ上にあるのがS級クエスト、S級魔導士だけが受けられるクエストね。

 

それで、さらにそのもう一つ上……これがSS級クエストよ」

 

「……初めて聞いた」

 

「まあ、ステラたちにはまだ早いもの」

 

 確かに、S級ですら大変だった私たちには遠い話だろう。 

 

「じゃあ、そのギルダーツはそのSS級クエストに行っていたの?」 

 

 ルーシィの言葉に、首を横に振って否定するミラジェーン。そのまま、説明を続ける。

 

「まだ上があるのよ。SS級クエストよりも上……10年クエスト。10年間誰も達成した事がないから10年クエストなのよ。

 

それで……ギルダーツのクエストはさらに上……100年クエストに行ってたの」

 

 ミラジェーンの言葉に驚き、困惑した。それだけのすごいクエストを受けられるほどの実力者。

 

 気のせいか街まで騒がしい。いや……それを知らせたのはマグノリアの鐘の音。つまり、ギルドのメンバーだけでなくマグノリアに住む者達もまたそれを知った、ということである。

 

『マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。町民の皆さん!速やかに所定の位置へ!繰り返します――』

 

「100年クエスト……100年間、誰も達成出来なかったクエスト、か」

 

 機会があれば、話くらい聞けるかも知らない。 

 

「それにしても騒ぎすぎじゃないかしら」

 

「マグノリアのギルダーツシフトって何〜?」

 

「外に出て見ればわかるわよ」

 

 明らかに一人に対する態度ではない。ミラジェーンに言われるがままに妖精の尻尾の扉を開けて、マグノリアの様子を観察していると……

 

「これは……」 

 

 思わず言葉がでなくなる。町の入口から妖精の尻尾までの一直線上が、きれいに割れた。道や建物も、例外なく真っ二つに別れて……新たに道ができた。

 

「街が、割れたー!!」

 

「ギルダーツは触れたものを粉々にする魔法を持ってるんだけど……ボーッとしてると民家を突き破って歩いてきちゃうの」

 

「どんだけ馬鹿なの!? その為に街を改造したってこと!?」

 

「凄いねシャルル!」

 

「えぇ……凄い、バカ」

 

 鎧で歩くが音を鳴らしながら、一人の男が入ってくる。

 

「ギルダーツ! オレと勝負しろ!」

 

 いつも通りのナツの挑戦状、周りもため息混じりに呆れていた。

 

「おかえりなさい」

 

「む……お嬢さん、たしかこの辺に妖精の尻尾ってギルドがあったはずなんだが……」

 

「ここよ、それに私ミラジェーン。」

 

「ミラ?

 

 

 

 

 

 

 

 

おおーー!! ……変わったなぁお前! つーか、ギルド新しくなったのかよー!!」

 

「外観じゃ気づかないんだ……」

 

 ミラジェーンに言われようやく気がついたようで、ミラジェーンの肩に手を置いて変わった事やらなんやらを色々喜んでいた。

 街のギルダーツシフトができた理由の全てが、そこにあった気がする。 

 

「ギルダーツ!!」

 

「おおっ! ナツか! 久しぶりだなぁ……」

 

「オレと勝負しろって言ってんだろー!」

 

 そう言いながらギルダーツに殴りかかるナツ。そのままギルダーツに投げ飛ばされて天井に勢いよく突っ込んで、めり込んでいた。

 

「また今度な」

 

「や、やっぱ……超強ぇや」

 

「いやぁ、見ねぇ顔もいるし。ほんとに変わったなぁ……」

 

 ギルドが新しくなったのはギルダーツが留守の間。そして新メンバーも、殆どがギルダーツがいない間に入っている。昔の姿と今現在の姿を見比べて、感慨に耽っているのだろう。

 

「ギルダーツ」

 

「おぉマスター! 久しぶりーっ!」

 

「仕事の方は?」

 

「がっはっはっはっ!!!」 

 

 ギルダーツが帰ってきた。つまり、それは100年クエストが何らかの形で終わったということだ。

 当然、ギルドのメンバーや私はギルダーツがクエストクリアしてきたことを信じていた。

 

「だめだ。オレじゃ無理だわ」

 

「何ッ!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「あのギルダーツが、クエスト失敗!?」

 

 全員が驚いていた。妖精の尻尾最強と呼ばれる男にクリア出来ないクエスト。一体どんな内容なのか。

 

「そうか……主でも無理か」

 

「すまねぇ、名を汚しちまったな」

 

「いや……無事に帰ってきただけでも良い。わしが知る限りこのクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」

 

「オレは休みてぇから帰るわ。ひー、疲れた疲れた……ナツゥ! 後でオレん家来い、土産だぞーっ! がははっ!」

 

 そう言ってギルダーツは入ってきた扉とは別の場所……壁を破壊しながら外へと出ていったのであった。

 

「ギルダーツ! 扉から出ていけよ!」

 

 ……妖精の尻尾最強魔道士は、名に恥じないぶっ飛び方をしているなぁ。ほんと、妖精の尻尾らしい。

 

「んじゃ、オレもっ……と!」

 

「やめろナツーー!?」

 

 ギルダーツを真似てギルドの壁をぶち壊してナツが出ていった。変な人が帰ってきたが、相変わらずの日常だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日から数日たったある日。

 

「……ふん、だいぶ調子はいいみたいだね」

 

 物凄く嫌だったが、注射を嫌がる子供のようになっていても仕方ないので、ポーリュシカのところにきた。

 会って右腕が無いのを見つけるなり、そりゃあもうすごかった。ここまで怒ってきたのはエイリアス以来だ。

 

「魔法を使ったって割には、腫瘍の方も大きくなってないね……」

 

「……よかった」

 

「調子に乗るんじゃないよ」

 

 ……やっぱり苦手だ。しかし、何度も世話になってるし、医師として、一人の人として私を心配してくれてのことだというのはわかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天気が悪くなってきたなぁ」

 

 診察も終わり、さんざん文句も言われた。しかし、嫌なことが一つ終わって帰る足取りが軽かった。

 それとは反対に、どんよりと重い空気と黒い雲。誰が見たって雨が降りそうだってわかる。……しばらくすると、雨が降り始めた。みるみると雨足は強まっていき、豪雨になった。

 

「あーあ、最悪だ」

 

 せっかく気分が良くなっていたのに、これじゃあ台無しだ。ポーリュシカの住んでいる森から街に帰るまでに、全身ずぶ濡れになっていた。

 そんな土砂降りの雨の中、見覚えのある人が二人がいた。でも、意外な組み合わせ……いや、あり得るのかもしれない。

 

「どうしたのさ、ウェンディ……それに、ミストガン」

 

 私の登場にどちらも驚いている様子だった。……ミストガンには確認したいことがあったけど、ウェンディと二人だけで会話してたってだけで、私の中で答えは出ていた。

 

「やっぱり、7年前にウェンディを助けたのはミストガンだったんだ。

 

……楽園の塔で聞いていた話の通りなら、7年前にジェラールは、既にゼレフに取り憑かれていたからね」

 

 ラクサスの言っていた、Anotherは、違うって意味……Another(違う)ジェラール。普通に考えれば、そういうことなのだから。

 

「ステラさん! 大変なんです、急がないとみんなが! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)が!」

 

 今にも泣き出しそうになりながら、ウェンディが私に訴えてきた。どう見ても、ミストガンが一枚噛んでいる。

 

「もうすぐここは、アニマに吸い込まれる。君たちだけでも……逃げるんだ」

 

「1から聞きたいんだけど、そんな時間は無いってこと」

 

 アニマが何なのかわからないが、吸い込まれるなんて……とにかく、街から逃げないといけない。しかし、仲間たちを置いていくわけにはいかない。

 

「なら、ウェンディは頼んだ」

 

 そうミストガンに告げて、ギルドに向けて駆け出した。空を見上げると、暗い雲の中に空間が歪んでいるのが、ハッキリと見えていた。

 

「無理だ! もう時間がない!」

 

「スノーメイク"(ウィング)"!」

 

 片手での造形、ただでさえ時間が惜しいのに手間取ってしまう。……雨に当たって溶けるなんて、情けないくらい脆い造形だ。でも、ギルドまで飛べればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、着いた!」

 

 扉を蹴破って雨の中ギルドに突っ込んできた私に、思わずみんな動揺していた。

 

「お前、何考えてんだよ! まさかと思うが……濡れないためとかそういう――」

 

 グレイに注意されるが、それを振り切って大声を出す。

 

「ミストガンが、今すぐ街を逃げろって。詳しい話は後だ! 疑うなら外に出て空を見ろ!」

 

 当たり前だが、ほとんどの人は"何言ってるんだ?"って状態だ。……でも、エルザやグレイ、マスターが空を見て、その状況を伝えれば、嫌でもみんな動くはずだ。

 

「空って、ずっと雨なんだから――」

 

「いいから見てみろ! 時間が無いんだ!」

 

 ギルドが、ようやくざわつき始めた。すると、雨の中、最初に外に出て空を見上げたのはエルザだった。

 

「雲が……吸われている」

 

 エルザが呟くと、それを確認するために次々ギルドにいた人が外に出て空を見上げた。

 

「みんな急げ! 街の人にも声をかけながら逃げるんだ!」

 

 エルザがそう宣言した、次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

 もう、そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 私も含めて、その日……妖精の尻尾は消え去った。


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