【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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29話 独りじゃない

「ジェラール・フェルナンデス、連邦反逆罪で貴様を逮捕する」

 

 ジェラールに手枷がはめられた。彼は一切抵抗をすることもなく、素直に受け入れていた。

 

「待ってください! ジェラールは記憶を失っているんです! 何も覚えてないんですよ!!!」

 

「刑法第13条により、それは認められません。もう術式を解いてもいいぞ」

 

「で、でも――」

 

「いいんだ、抵抗する気は無い。……君のことは最後まで思い出せなかった。本当に済まない、ウェンディ」

 

「……この子は昔、あんたに助けられたんだって」

 

「……オレは君たちにどれだけ迷惑をかけたのか知らないが、誰かを助けたことがあったのは嬉しい事だ。

 

……エルザ、色々ありがとう」

 

 シャルルからウェンディが自分を気にかけてくれる理由を聞き、ジェラールはどこか満足したように見えた。

 悲しそうな顔をするウェンディ。そして、悲しそうな顔をしている者がもう一人いた。エルザだ。顔を俯かせていて表情は見えないが、拳を握り締めていた。

 

「他に言うことはないか?」

 

「あぁ……」

 

「死刑か終身刑はほぼ確定だ。二度と誰かと会う事は出来ないぞ」

 

 ラハールの言葉にジェラールは何一つ反応しなかった。まるで、それが償いかのように。反対に、ルーシィやウェンディは驚きや悲しみでその表情が崩れていった。

 

「待ってよ」

 

 一人で満足して、勝手に納得して、罪の自覚がないまま罰を受けるなんて、許せない。

 

「……逃げないでよ」

 

 なんのことだからわからないという表情(カオ)をジェラールはしていた。

 

「一人で納得して、残された人たちはどうするのさ」

 

「……オレは――」

 

 

 

 

 

 

「行かせるかぁっ!!!」

 

 大声がして振り返ると、ナツが飛び出していた。ナツは評議員に殴りかかり、波をかき分けるように押し進んできた。

 

「ナツ!?」

 

「相手は評議員よ!?」

 

「どけぇ! そいつは仲間だ! 連れて帰るんだァァァ!」

 

「と、取り押さえなさい!」

 

 ラハールは一瞬だけ困惑しながらも、すぐさま部下達にナツを取り押さえるように命令を下した。そうして、ナツが大量の評議員に囲まれそうになり――部下の一人をグレイが弾き飛ばした。

 

「グレイ!!!」

 

「こうなったらナツは止まらねぇからな! 気に入らねぇんだよ……! ニルヴァーナの破壊を手伝ったやつに、一言も労いの言葉もねぇのかよ!」

 

 グレイのその言葉にそれぞれの思うところが爆発した。

 

「それには一理ある……そのものを逮捕するのは不当だ!」

 

「悔しいけどその人がいなくなると、エルザさんが悲しむ!」

 

「もう、どうなっても知らないわよ!」

 

「あいっ!」

 

 ジュラや一夜、ハッピーにルーシィまで、皆大義名分を掲げて評議員を殴ったり、魔法を飛ばしたりしてジェラールへの道を作っていく。

 ……一番、ジェラールに近づいていた私は、何かをする前に地面に押さえつけられて、拘束された。

 

「……っ、全く相変わらずだ」

 

 まさか、ナツがジェラールを"仲間"だというとは思っていなかった。でも、それはナツだからこそ……エルザのことを思っての行動なんだ。

 そんな様子を、ジェラールはだだ眺めていた。

 

「っ……! お願い、ジェラールを連れていかないで!」

 

 悲しむ者をなくすために、それぞれの思いを胸に抵抗していた。"やめてくれ"そんな一言を言い出せない。ジェラールは、そんな表情(カオ)をしていた。

 

「来い、ジェラール! お前はエルザから離れちゃいけねぇ! ずっとそばに居るんだ! エルザの為に! だから来いッ!

 

俺達がついてる! 仲間だろ!」

 

「全員捕らえろ!!公務執行妨害及び逃亡幇助だ!」

 

「ジェラァァァァァル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい! そこまでだ!」

 

 エルザの声が響き渡った。それにより争っていたギルドの面々も評議員も全員が動きを止めていた。

 

「騒がして済まない、責任は全て私がとる。

 

 

 

……ジェラールを、連れて、行け……」

 

「エルザ!」

 

 握り締めていた拳は、いつのまにか解かれていた。ジェラールを助けに真っ先に動きたかったはずの人が、それを飲み込んで押さえ込んだ。

 この場にいた誰よりも、悲しく、悔しそうな表情を浮かべながら。

 

 

 

「……そうだ、おまえ(・・・)の髪の色だった。

 

 

さよなら、エルザ……」

 

「ッ!……あぁ」

 

 そう言い残して、ジェラールは連行された。最後の一言の意味は、恐らくエルザだけが分かっている大切な言葉なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウェンディ、良かったの?」

 

 魔力が回復してきて、私の治癒をしているウェンディに、シャルルが納得できなさそうに言い放つ。

 

「……私よりジェラールのことを知っているエルザさんがそうしたんだから……私も、そうしなきゃいけないんだと、思う。それに、ジェラールがそうしたかったんだと、思うから」

「……あんたがそう思うなら、私は何も言わないわ」

 

 理不尽だとか、傲慢だとか、評議員自体に思うところはあった。それでも、ジェラールの罪とは別だ。それに、その一番の被害者だったエルザがそうしたのだ。……私個人の憤りなんて、小さいものだ。

 それに、確かにジェラールは、自分自身の言葉でエルザに何かを伝えたのだから。それだけで充分だ。

 

 ふと、空を見上げた。月は隠れて、空は緋色に染まっていた。朝焼け、空を染める緋色は太陽が訪れを告げていた。そんな当たり前の光景が、なぜだか壮大なもののように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫?」

 

 覗き込む顔が誰だかボヤケてわからない。ただ、髪色からルーシィだということはわかった。気づけば、着替えをする手が止まっていたらしい。

 

「眠い……だけだよ。ほんと、だって」

 

 疑う素振りを見せるルーシィに念を押す。嘘はついていない。ただ、本当に眠いだけ。

 今は連合のメンバー全員が化猫の宿(ケットシェルター)でお世話になっている。マスターからお礼と手当がしたいということで、お言葉に甘えることになったのだ。

 しかし、まだやることがある。ニルヴァーナは破壊した。……化猫の宿(ケットシェルター)のマスターに確認したいのだ。

 

「うわっ――」

 

 眠いのに考え事をするんじゃないなぁ……。と尻もちをついてから後悔した。おかげで少しだけ眠気が収まった気がする。

 

「ステラさん、お手伝いしましょうか?」

「……ごめん」

「気にしないでください」

 

 見かねたウェンディに声をかけられて、手伝ってもらうことにした。どうも今着替えてる服はニルビット族に伝わる織り方とか、何とか、ルーシィたちが会話している。

 ……片腕がこんなにも不便だとは思わなかった。

 

 そのあと、すぐ私だけがマスターに直接呼ばれた。なにやら、頼みがある。とのことだった。

 私も尋ねたいことがあったから、すぐに行くことにした。……ウェンディとシャルルはいないときに、聞いておきたいのだ。

 

「なぶら、よく似合っておる」

 

「……まさか、そのためだけに呼んだわけじゃないですよね」

 

 あまりにも予想外のことを言われ苦笑いする。

 

「……その腕、申し訳ないことをした」

 

 私の右腕の方を見てそう言うと、深々と頭を下げてきた。

 

「そんなこと……っていう話でもないですけど、仕方ないですよ。別に貴方のせいじゃないですから」

 

 多分、ニルヴァーナの破壊なんてことを頼まなければ。と思っているのかもしれないけど、もし連合のことも知らず、ナツを失っていたら。

 

「仲間を救えた。それでいいんです」

 

 ……正直、未だに寝ている()になんて言われるか、そっちのほうが心配だ。

 

「なぶら、我々が思念体だということは……もうお伝えしましたな」

 

「……ええ」

 

「我々が……いや、ワシが頼みたいのはウェンディとシャルルのことです」

 

「……やっぱり、そういうことなんですね」

 

「なぶら」

 

 マスターの言葉が止まる。……私が直接尋ねたかったのは、ニルヴァーナを止めるという目的を果たした今、思念体である化猫の宿(ケットシェルター)の人たちが、どうなるのかということだった。

 

「ニルヴァーナという我々の負の遺産。それを破壊できるものを待ち続けるのがワシの使命だった。その役目を終えた今、もうこの世に存在し続けることも、難しいのです」

 

「……だから、ウェンディとシャルルを頼む……か」

 

「あの少年と同じ、真っ直ぐな瞳をしておる……あなたの仲間方も、だからこそです」

 

「あの少年?」

 

「……この話はしておりませんでしたな。なぶら、あとで全てを皆さんの前でお話します」

 

 ……ウェンディの話と合わせるなら、たぶんあの少年とは、ジェラールのことだろう。だが、何かがおかしいのだ。このことは、彼に確かめれば、わかる……はずだ。

 それにしたって、このギルドは、ウェンディのためにつくられたギルドだなんて……未だに信じられない。

 

「……正直、私一人で背負うには大き過ぎる話です。彼女の自身、心の整理がつかないでしょう。

でも、できるだけ支えられるように……とは思います」

 

「申し訳ない……なぶら……」

 

 そう言って、化猫の宿(ケットシェルター)のマスターは、もう一度深々と頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話が終わり外へと出ると、集落の中央で化猫の宿とギルド連合軍のメンバー全員が集まっていた。……私の立ち位置が明らかにおかしくて、そそくさと仲間の方へ走った。 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)……そしてウェンディにシャルル。

 

よくぞ六魔将軍オラシオンセイスを倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う。ありがとう……なぶら、ありがとう……」

 

「どういたしまして! マスター・ローバウル! 六魔将軍との激闘に次ぐ激闘! 楽な戦いではありませんでした! 仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!!」

 

「「「さすが先生!!!」」」

 

「ちゃっかり美味しいところ持っていきやがって」

 

「あいつ誰かと戦ってたっけ?」

 

「まぁ、言ってることは間違いじゃないと思うよ」

 

 周りの辛辣なコメントに思わず笑いそうになる。それにしても、あの人の本当の姿は……いや、筋肉ダルマでも、今の三等身でも、キモいことに変わりない。

 あらためて、六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いを終えたのだと実感する。周りの表情も明るくなっていた。

 

「この流れは宴だろー!」

 

「あいさー!!!」

 

 見るからにテンションが高くなっているナツとハッピー、そしてそれよりもさらに、テンションの高い青い天馬の面々が騒ぎ始めた。

 

「一夜が!」

 

「一夜が!?」

 

「活躍!」

 

「活躍!!!」

 

「それ――」

 

「「「「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!!!」」」」

 

「さぁ、化猫の宿の皆さんもご一緒にィ!?」 

 

「ワッショイ! ワッショイ!」

 

「ワ――」

 

 謎のダンスを踊りだした青い天馬の面々。そして、それに便乗して踊り出すエルザと私を除いた妖精の尻尾の面々。一夜の提案も虚しく、ウェンディとシャルルを除いた化猫の宿のメンバー全員が神妙な面持ちで黙っている。

 調子に乗ってテンションが上がっていた面々は、その空気に面食らって固まるしかなかった。

 

「……皆さん、ニルビット族のことを隠していて、本当に申し訳ない」

 

「そんなことで空気壊すの?」

 

「全然気にしてねーのに……な?」

 

「マスター、私とシャルルも気にしてないですよ?」

 

 ウェンディの言葉を聞き、ローバウルは深呼吸をした。真剣な表情から、全てを話すのだろうと感じ取れた。

 

「……皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いて下され。

 

まず初めに、ワシらはニルビット族の末裔などではない、ニルビット族そのもの。400年前にニルヴァーナを作ったのは……このワシじゃ」

 

「400年前って……え……?」

 

 ローバウルが語る真実。その言葉に誰もが驚きと動揺を隠しきれていなかった。……ウェンディとシャルルの二人が、一番困惑していた。

 

「400年前……世界中に広がった戦争を止めようと、善悪反転の魔法"ニルヴァーナ"をつくった。

ニルヴァーナはワシらの国となり、平和の象徴として一時代を築いた。しかし、強大な力には必ず相反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその闇を纏っていった。

 

……バランスを取っていたのだ。人間の人格を無制限に光に変えることは出来なかった。闇に対し光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる……人々から失われた闇は、我々ニルビット族にまとわりついた」

 

「そんな……」

 

 聡明なものは、それによって引き起こされた結果を聞く前にわかってしまった。

 

「地獄じゃ……ワシらは共に殺し合い、全滅した。生き残ったのは……ワシ一人だけじゃ」

 

 全員が驚愕のあまり黙りっぱなしになる。400年前に隠されていたニルヴァーナの真の闇と物語。話の大きさに困惑しているようだった。

 

「……いや、今となってはその表現も少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在。

ワシはその罪を償う為……また、力無き亡霊であるワシの代わりにニルヴァーナを破壊出来る者が現れるまで……400年、見守ってきた。今、ようやくその役目が終わった」

 

「そ、そんな話……」

 

 ウェンディが震えていた。その不安は的中し、ローバウルだけでなく、化猫の宿の面々の体が光り輝いて、次々と消えていく。

 

「マグナ!? ペペ!? 何これ……皆!?」

 

「あんた達!?」

 

「なんで、なんでみんなが消えて!?」

 

「……今まで騙していて済まなかったな。ウェンディ、シャルル……ギルドのメンバーは皆、ワシの作り出した幻じゃ……」

 

「人格を持つ幻!? 何という魔力なのだ」

 

 ジュラが驚いて言葉を漏らしていた。

 

 

「ワシはニルヴァーナを見守るためにこの廃村に一人で暮らしていた(・・・・・・・・・・・・・)。七年前、ある少年がやってきた……一人の少女を抱えて『預かってほしい』と言われたのじゃ。

少年のその真っ直ぐな瞳にワシは、つい承諾してしまっていた。一人でいようと決めていたのにな……そして、ここがギルドだと嘘をついた。幻の仲間たちを生み出してな……」

 

「バスクもナオキも消えないで! みんないなくならないで!!!」

 

 全ての真実を聞き涙を流し始めるウェンディが思わず叫んでいた。それでも、あまりにに残酷で優しすぎる真実は、全て現実なのだ。

 ローバウルは微笑んでいた。もう、思い残すことはないと言わんばかりに。

 

「ウェンディ、シャルル……もうお前達に偽りの仲間はいらない……本当の仲間がいるではないか」

 

 ローバウルはそう言いながら、ウェンディの後ろにいる私たちを指差した。そして、満面の笑みでウェンディたちを見る。ロウバウルは、瞬きをすれば消えてしまいそうなほどに、霞んでいた。

 

「お前達の未来は始まったばかりだ……」

 

「マスターー!!!」

 

「皆さん本当にありがとう……ウェンディ、シャルルを……頼みます」

 

 手を伸ばし駆け出すウェンディ。しかし、その手は届くことなく……ローバウルは姿を消した。

 その後すぐに、ウェンディに刻まれたギルドの紋章も消えていった。役目を終えたかのように。

 

「マスタァーーーー!!!」

 

 涙を流すその姿を……かつての私に重ねていた。そんなウェンディにゆっくりと近づいて、抱きしめた。

 ウェンディが泣き止むまで、ずっと抱きしめていた。……幼かった私が、そうして欲しかったように。

 

 

 

 

 

 


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