【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
崩壊の始まったニルヴァーナ。クロドアは慌てふためき、跳ね回ることしかできなかった。
禍々しい魔力とともに一人の男が
「クロドア……どういうことだ」
「も、も……申し訳ありません!」
ゼロのあまりの気迫にガタガタと怯えながらクロドアはドクロの部分を地面につけ土下座らしき行為をしていた。
「役立たずが!」
「ぎゃひ!?」
その行為も虚しくあっけなくクロドアが踏み潰されて木片が飛ぶ。……杖からは魔力も何も感じなくなった。完全に壊されたのだ。
「……まあいい。このオレ自ら破壊すれば済むことだ」
朦朧とする意識、それなのに嫌な予感だけははっきりとする。
私は怒りからか、恐れからか、震えていた。
「お前ッ……ナツは……」
「壊すには惜しい男だったよ」
「――あああぁぁぁ!!!」
翼を広げてゼロに飛びかかろうとした。しかし、翼は一瞬で崩れ去り、ゼロに近づくこともできずに倒れた。
そのとき、瓦礫が目の前に落ちてきて――気づくと私は腕を引っ張られていた。そのまま崩れる瓦礫の間を抜けて、ゼロから遠ざかっていた。
「はなせ! ジェラール!」
「ここは引いて、エルザたちと合流するべきだ」
「けど――」
「ドラゴンフォースを解放したナツですら勝てなかったんだ、今の君では無理だということは自分が一番わかってるはずだ」
魔力もなく、腕も足もまともに動かない。戦ったところで勝ち目はない。いや、戦いにすらならない。
「……っ、わかった」
認めたくなかった。私が戦えないことをじゃない。ここで逃げるということは、ナツがやられたこと。ゼロがナツを壊したという、その言葉を認めることなるからだ。
「……ナ、ツ?」
そんなはずはないと、嘘だと何度も自分に言い聞かせる。それでも、思い出せない。
ナツの声、顔、姿……。
崩れるニルヴァーナのように、私の中で大切な何かが忘れ去られていた。
――
「よかった、無事だったか!」
崩れるニルヴァーナから脱出すると、すぐにエルザと合流できた。他の
「全く! ウェンディに無茶させないで頂戴!」
シャルルがジェラールを見るなり詰め寄ってきた。ジェラールが壊すはずだった魔水晶は、しっかりとウェンディが破壊したらしい。しかし、そのせいで魔力を消耗して気絶したところにジュラが助けに来てくれたようだ。
「これで全員揃ったようだな」
……どうしてジェラールは私のところに来たんだ?
マスターゼロを倒すために……いや、私の代わりに誰かがゼロと戦っていた……。ジェラールは、その誰かに、魔力を……。
「まだだ、ゼロを倒せてはいない」
思考を遮るようにジェラールが言葉を放つ。それを聞いて連合のメンバーは驚きを隠せなかった。
「オレの魔力を食らって、ドラゴンフォースを開放したナツですら勝てなかった。今の我々では、ゼロに勝つのは――」
「ナツとは……誰だ?」
「……なんだと?」
エルザの質問にジェラールが思わず言葉を止める。
「ナツだ! ナツ・ドラグニル!
「……いたか? そんなやつ」
「そもそも、その……あなたは誰?」
ジェラールの必死の形相とは違い、問い詰められたグレイやルーシィはキョトンとした様子で、それよりも突然私を背負って脱出してきたジェラールに驚いている様子だった。
「ステラ、まさか……お前まで……」
ジェラールの言っている意味がよくわからなかった。お前までとは、どういうことだろうか。
「みんなー!」
翼の生えた猫――ハッピーが空から私達を見つけて呼んでいた。
「
「いっ……」
殴られたように頭が痛んだ。何か忘れてる……? ナツって名前は……
「ほう、まだ残ってるとは面白いな」
声と同時に気持ちの悪い魔力が現れた。振り向くと瓦礫の上にマスターゼロが立っていた。
「貴様、なにをした!」
「ククク……ナツ・ドラグニル。壊すには惜しい男だったが、既に無に食われた……はずなんだがな」
何を忘れているんだ。ナツって、誰なんだ。
「まだ食われずに残っているのかもな。だが、もうすぐ忘れるさ」
「一体、なんの話をしている!」
「鬼哭の門の向こう側。あの
あ……ああ。思い出した。
なんで、何もわからないんだ。顔も、姿も……大切な仲間なのに。
「違う、私は――そんな――!」
「落ち着くんだ、ステラ!」
ジェラールの手を振り払って、痛む足や手を構えてゼロに飛びかかった。
ナツにとってはどうでもいい約束かもしれない。もしかしたら、こんな思いを残しているのは私だけかもしれない。
それなのに、それを忘れていた。私がここにいる理由――大切な約束。
「ナツを、返せぇぇぇ!!!」
「……ニルヴァーナを壊した礼だ。貴様もあの
「――
ゼロが手を上下に手をかざす。すると、何かが溢れ出てきた。それは、まるで閉じ込められていた亡霊が、飛び出すかのように。
「いっ……!?」
かき消された。滅竜魔法が、きれいさっぱり。……いや、喰われた。そのまま体に纏わりついて、身動きが取れなくなった。
「ステラさん!」
「っ……来るな! 逃げろ!」
纏わりつかれたときに、妙な感触があった。その違和感の正体に気づいたときには、周りにいた仲間たちも亡霊に呑まれていた。
何とか抜け出せたのはジュラと、その近くにいたウェンディだけだった。
「なんだ、これは!」
エルザが剣を振り下ろしても、ジュラが魔法で固めた岩で攻撃しても、亡霊はどんどんと広がっていった。
「無駄だ。無の住人に攻撃は効かない」
違和感の正体、ナツをやった魔法はこいつかもしれない。そうなると、このままだと私たちも呑み込まれて、存在すら消え去ってしまう。
「……このまま、やられるくらいなら!」
「この腕ッ、くれてやる!」
右腕だけに残っている魔力を回す。いや、もう残っているだけの魔力では、完全な
「――やめろ、ステラ!」
その魔法を知っているグレイが叫ぶ。しかし、今の状態ではこれしかない。
「
全ての亡霊を氷の中に閉じ込める。制御が効かずに仲間まで巻き込む心配もあったが、
「無駄だ! そんな魔法を喰い破って――」
「見つけた、ナツ!」
確かに感じた
「――わりぃな、ステラ」
崩れ去る右腕。でも、失った
「滅龍奥義、不知火型! 紅蓮鳳凰剣!」
金色の炎を纏ったナツが、翼を広げた鳳凰の如く、凍りついた亡霊を砕きながらゼロに突っ込んだ。あまりにも一瞬で、気づいたときにはニルヴァーナの瓦礫の中へと消えていった。
「この、バカが……」
朦朧とする意識の中、グレイが私を支えていることはわかった。……泣いているように見えたのは、私の気のせいだろうか。
「……ナツ」
「大丈夫、だろう」
いくら経っても姿を表さないナツを探そうと何人かが動こうとした瞬間、ハッピーの立っていた地面が風船のように膨らみ、そして割れた。
「愛は仲間を救う……デスネ」
「ナツさん!!」
砂の中から出てくる
「
「色々あってな……大丈夫、味方だ」
予期せぬ敵の登場に驚くシャルルだったが、事情を知っているジュラが宥める。
そして、ナツがリチャードから下ろされて地面に立った瞬間に、ウェンディは嬉しさのあまり、ナツに飛びついていた。
「ナツさん! 本当に、約束を守ってくれた……ありがとう。ギルドを助けてくれて!」
「みんなの力があったからだろ? ウェンディの力もな。今度は、元気にハイタッチだ」
「――はい!」
――
「全く、無茶をして……」
「いてっ……」
グレイに背負われているステラに近づいてきたエルザは少し呆れたような様子でデコピンをしてきた。気丈に振る舞おうと無理をしている笑顔だというのはバレていた。動くのが辛いということも。
異変にようやく気づいたナツが、ステラに駆け寄った。そして、その腕を見て言葉を失っていた。
そして、その様子を見て初めてウェンディもステラの腕がなくなっていることに気づいた。
「……そんな顔しないで。謝るのも無しだよ」
「けどよ……」
「この話はおしまい。今は勝ったことを喜ぼう? ほら、さっきみたいにハイタッチ」
「――ああ」
ナツは仲間の思いに答えてくれた。ステラには、それだけで充分だった。
「……で、あれは誰なんだ?」
グレイが話題を変えようと、少し離れた位置に立っているジェラールを見て呟く。そういえば、とルーシィも会話に入る。天馬のホスト? なんて的はずれなことも言っている。
「……ジェラールだ」
「――何っ!?」
「あの人が!?」
エルザが名前を伝えると驚いていた。その様子を大丈夫かな。と心配そうに眺めるステラに、ふてくされているナツ。
「だが、私たちの知っているジェラールでは無い」
「記憶を失っているらしいんです」
過去にジェラールに助けられたウェンディも事情を説明する。
「いや、そう言われてもよ……」
「大丈夫だよ、ジェラールは本当はいい人だから」
ジェラールの元にエルザが向かう。何やら話し合っているようだ。ジェラールと話すエルザの雰囲気を感じ取りながら、周りも大丈夫だろうと思っていた、そのときだった。
「メェーン!?」
場の空気を壊すように一夜の声が響き渡った。
「トイレの
ぶつかった何か。その場にいた全員が、それが術式だと気づいたときには、周りを同じ服装や武器で纏めた者たちに囲まれていた。
「……手荒なことをするつもりはありません。しばらくの間そこを動かないで頂きたいのです。私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」
「新生評議院!? もう発足してたの!?」
「我々は法と正義を守るために生まれ変わった。如何なる悪も決して許さない」
そう言って、――リチャードを指差した。
「我々の目的は六魔将軍の捕縛……そこにいるコードネーム・ホットアイをこちらに渡してください」
「ま、待ってくれ!!」
「いいのデスネ、ジュラ」
微笑みながらジュラの肩に手を置くリチャード。それは、償いをしたいという彼の真意を伝えるのに充分だった。
「リチャード殿……」
「善意に目覚めても過去の悪行は消えませんデス。私は一からやり直したい」
たった一度の善行で過去の罪が赦されることはない。それは善に目覚めたリチャード本人が一番良くわかっていた。
「……ならば、ワシが代わりに弟を探そう」
「本当デスか!?」
「弟の名を教えてくれ」
ジュラの言葉にリチャードが微笑みながら弟の名を告げる。
「名前はウォーリー、ウォーリー・ブキャナン」
「ウォーリー!?」
その名前に聞き覚えがある
「その男なら知っている」
「なんと!?」
エルザの言葉に、ジュラとリチャードの二人が驚く。先程の妖精の尻尾の面々以上の驚き方だった。
「私の友だ……今は元気に大陸中を旅している」
エルザのその言葉に、リチャードは涙を流し、嗚咽を漏らしていた。闇ギルドに堕ちてまで探していた弟が元気で暮らしている。それだけで、彼の心は救われた。
「これが……光を信じるものだけに与えられた、奇跡という物デスか! ありがとう、ありがとう! ありがとう!」
そして、リチャードは評議院に連行される。しかし、その表情はとても穏やかで、何の未練も感じさせなかった。
だが、まだ何か用件があるのか、術式の解除はされなかった。
「もう良いだろ! 術式を解いてくれ! 漏らすぞ!」
「やーめーてー!」
一夜のとんでもない発言に、ルーシィが思わずツッコミを入れる。しかし、そんな様子すら完全にスルーして、ラハールが言葉を放つ。
「いえ、私達の本当の目的は六魔将軍如きではありません。」
そう言いながらラハールは指を向ける。リチャードが六魔将軍として捕まった。そう、もう一人捕まらなければならない男がいる。
「評議院への潜入、破壊……エーテリオンの投下……もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう」
いくら善に目覚めても、過去の罪は消えないのだ。
「貴様だジェラール! 来い! 抵抗する場合は、抹殺の許可も降りている!」
「そんな!?」
「ちょっと待てよ!」
「その男は危険だ。二度とこの世界に放ってはいけない……絶対に!」
ラハールが強く言い放ち、各々が文句を飛ばす中。エルザとジェラールは暗い表情で顔を沈めていた。