【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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27話 目標を失わず

 ニルヴァーナを止めるためには今集まっている魔道士では足りない。そこで、私とウェンディそして、シャルルと共にエルザとジェラールを探しに行くことにした。

 ウェンディを連れて行ったのは、私の怪我の話をしておこうと思ったのと、彼女が「ジェラールなら何か……」と呟いたのを聞いたからだ。少なくとも、彼女はジェラールを知っている。

 

「ステラさんも……滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)なんですか?」

「うん、そうだよ」

「連合のメンバーじゃないのに、どうしてここにいるのよ」

 

 どこか優しい感じで質問をするウェンディに対して、シャルルは結構キツイ感じだった。

 

「ウェンディに、治して貰えないかって、ある人から言われて化猫の宿(ケットシェルター)を訪ねたんだ。そこで、マスターに頼まれたってわけ」

「私に治して貰う?」

「……うん。このままだと私、長くないみたいでさ」

 

 突然の告白に、ウェンディとシャルルのどちらも驚いていた。どういうことよ! と、すぐにシャルルが質問してくる。

 袖をめくって、エーテルナノの傷を見せた。傷を見て、二人とも言葉を失っていた。

 

「高濃度のエーテルナノを浴びすぎて、腫瘍もできてるらしくてさ」

「そんな、今すぐ治療を――」

「今はやるべきことがある。それに、すぐに死ぬわけじゃないから平気だよ」

「でも……」

「大丈夫だって、こうして魔法だって使えてるんだから。」

 

 実際、今も造形魔法で翼を作って飛んでいる。大丈夫なはずだが、話すタイミングを誤ったかもしれない。ウェンディに余計な心配をかけさせてしまった。

 

「あれ、エルザじゃない?」

 

 シャルルが真っ先に気づく。私は、おーいと声を出してエルザに手を振っていた。

 

「無事だったか」

 

 エルザがウェンディたちを見て呟いていた。

 ジェラールを見て、どこか恥ずかしがるウェンディ……どうしたのだろう。

 

「……君は?」

 

 ジェラールの一言でウェンディが止まった。……なにか事情がありそうだ。

 

「ジェラールは記憶が混乱している。何も憶えていないらしい」

「オレの知り合い………だったのか?」

 

 ウェンディはかつてジェラールに助けられたらしい。7年前に竜とはぐれてから、今のギルド、化猫の宿(ケットシェルター)に来るまでお世話になったとのことだった。

 

「……とりあえず、今はニルヴァーナを止めないと。ナツたちも無事だった。とりあえず合流したほうがいいはず」

「そうだな――」

 

 エルザが何か言おうとしたとき、ニルヴァーナが音をたて揺れ始めた。

 

「まさか、ニルヴァーナを撃つのか!!?」

 

 エルザがニルヴァーナを撃とうとしていることに気付き叫んだ。

 

「――っ! ウェンディ、エルザたちの案内を頼む」

 

 時間があるものだと思いこんでいた。完全に私のミスだ。止めないといけない。絶対に。

 飛び上がろうとして、エルザに腕を掴まれた。

 私がニルヴァーナの発射を阻止しに行こうとしているとわかったのだろう。

 

「――よせ! 闇に呑まれるぞ!」

「馬鹿言うな、()に闇も光もないんだから!」

 

 既に発射口とみられる箇所に光が集まっていた。どうする。どうすれば――

 

 ――()に代われ!

 

 焦る私に対して、頭の中に声が響いた。一瞬躊躇うと、早くしろ! と叫ばれた。気づいたときには体が勝手に動いていた。

 

「……あそこだ」

 

 化猫の宿(ケットシェルター)とニルヴァーナのちょうど中間の地点に着地する。

 

 

 口を大きく開けて天を向く……自分の魔力と大気中の魔力を合わせた魔力の塊を真上に作り出して、構える。

 

 

 

 

 

 

 

 ――消えろ!

 

 

 

 

 ニルヴァーナの発射に合わせて、それを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニルヴァーナから発射された魔法を消し去る。どんな魔法だったのかわからないが、阻止できたようだった。

 

「……ふう」

 

 それにしても、さっきの魔法は何だったのか、()に尋ねる。

 

 ――咆哮だけど。

 

 あんな威力で咆哮を放つなんて、そもそもお腹に力を込めて吐くものじゃないのか、咆哮って。

 

 ――自分の魔力、魔法を核にしてつくりだす。周りの魔力も上手く使ってるの。

 

 意味がわからないが、なんとかニルヴァーナの発射を相殺できた。それどころか、ニルヴァーナの動きも鈍くなっている気がする。

 しかし、体が思うように動かない。

 

「……まずい」

 

 ――滅竜奥義を2回も放って、今の咆哮……動けると思う?

 

 そう言われながらも、少しずつ体に力が入るようになってきた。しかし、戦えるだろうか。

 

 ――しばらく寝るから、こっちも限界。

 

 そう言い残して、意識を落としてしまった。

 ……どうして、私に協力するようになったのか。少し前まで、私は意識を渡さないようにしていたのに、気づけば簡単に向こうの意識と入れ替わっている。今なら、私の意識を塗りつぶしてしまうことだって、()にはできるのだろう。

 ……やっぱり、よくわからない。前は私のことを気に入らないって感じだった。目的も違うはずだったのに、今では私のやるべきことを代わりにやっている……といった感じな気がする。

 

「……早く戻らないと」

 

 これ以上考えても仕方ないと思考を遮って何とか立ち上がる。しかし、思ったように体が動かない。ニルヴァーナに乗り込むには時間がかかりそうだ。

 しかし、急がなければ。幽鬼の支配者のジュピターのときのように、元を破壊できなければ意味が無い。

 

 

 

 

 

 

 

『み――、聞こえ――』

 

 頭の中に声が響いた。()じゃない。そうなると、一体誰の声だろうか。

 ふと空を見上げると、天馬の形をした飛行艇らしきものが飛んでいた。多分、あそこからの通信――念話だろう。

 

『聞こえるかい! 誰か、無事なら返事をしてくれ!』

 

『ヒビキか!?』

 

 聞き覚えのある声。エルザの声が響いた。

 

『エルザさん? ウェンディちゃんも無事なんだね』

『私も一応無事だぞ』

『先輩! よかった!』

 

 知らない声頭の中をも飛び交う。しかし、反応からして仲間なのだろう。

 

『ステラ! 大丈夫なのか!』

「えーっと……これ、話せば聞こえるの?」

『『誰?』』

 

 エルザの声に反応して、あたふたしながら返事をするが、私のことを知らない人から最もなことを言われた。

 

『私たちの仲間だ。ナツやウェンディたちと同じ、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤ)のステラだ』

『仲間か、心強い。それにしても滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が3人も揃うなんてね』

『しかしどうなっている? クリスティーナは確か撃墜されて……』

『壊れた翼をリオン君の魔法で補い、シェリーさんの人形撃とレンの空気魔法(エアマジック)で浮かしているんだ』

「……ふぅ、ごちそうさまでした。ニルヴァーナ発射は阻止できた。ギルドは無事だよ」

『そうか……っ!』

 

 一瞬、念話が途切れかかった。見ると、クリスティーナと呼ばれる飛行艇が落下を始めていた。

 

『僕達の事はいい! 最後に、これだけ聞いてほしい。時間がかかったけど、ようやく“古文書(アーカイブ)”の中から見つけたんだ! ニルヴァーナを止める方法を!』

『その話は知っている。ステラから聞いた。しかし、タイミングを同時に計れないんだ』

 

 ……あまりにもあっさりと告げるエルザに"え?"と間の抜けた声をヒビキが上げていた。

 なんだか、申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。

 

化猫の宿(ケットシェルター)のマスターから聞かされたんです。6つの魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊すれば、ニルヴァーナを止められるって」

『いや……話を知っているなら早い。君たちの頭にタイミングをアップロードするから、あとは――』

『無駄な事を……』

 

 念話がまた切れたのかと一瞬思ったが、すぐに低い男の声――聞き覚えのある声だ。

 

「お前、生きていたのか!」

 

 思わず噛み付くように声を上げた。

 

『オレは六魔将軍(オラシオンセイス)のマスター、ゼロだ。お前か、この(ブレイン)を痛みつけた小娘は』

『僕の念話を“ジャック”したのか!?』

 

『まずは褒めてやろう。ブレインと同じ“古文書(アーカイブ)”を使える奴がいるとはな。手始めにテメェらの仲間を4人破壊した。聖十大魔道士に、滅竜魔導士、氷の造形魔導士、精霊魔導士、あと猫か』

「嘘だ……お前なんかに、ナツたちが負けるわけない!」

『馬鹿な! あのジュラまで!?』

 

 私以外の人も思わず声を上げていた。それを嘲笑うかのようにゼロは説明を続けた。

 

『オレは6つの魔水晶(ラクリマ)のうちの一つの前にいる。オレがいる限り、同時に破壊は不可能だ! ハハハハハ!!!!』

 

 ぶつりと嫌な音を立てて、ゼロとの念話が切れた。

 

 

『――こっちは2人だ!』

『私もいるぞ、縛られているが』

「縛られてて大丈夫なんですか?」

『メェーン……今こそ力の香り(パルファム)を解放する。期待したまえ』

 

 なぜだろう。この声を聞いていると……背中がぞわぞわする。凄く寒気を感じるのだ。

 

『っと……こっちは3人だ』

『『グレイ!』』

 

 やられたと聞いていたグレイの声を聞いて安心する。やっぱり、あんな奴に負けるはずがなかった。

 

『ナツとルーシィ、ハッピーも無事だ。ジュラに守ってもらったんだが、爆発に巻き込まれて気を失ってた……ジュラは不意打ちでやられちまって無理だ』

『……とりあえず、6人以上いるみたいだね。君たちの頭に地図と魔水晶(ラクリマ)にそれぞれ番号を振った、重ならないようにバラけて……』

 

 念話に雑音が入り始める。ヒビキの魔力が限界らしい。

 嫌な魔力……それに匂いを感じ取って、行く場所をすぐに決めた。

 

「1だ。ここに、アイツがいる」

『なら、オレも1に行くぞ。さっきコブラを横取りされたからな!』

 

 あれはナツの自業自得だ。と思ったけど口にはしなかった。

 

『大丈夫なのか?』

 

 心配するエルザ。それに対して一番先に反応したのはナツだった。

 

『心配すんなって、オレとステラにかかれば、あんな奴どうってことねえ!』

「……うん。任せてよ」

 

『なら、オレは2だ』

『3に行く! 本当にゼロいない?』

 

 順にグレイとルーシィが告げる。

 

『私は4へ行こう。ここから1番近いと香り(パルファム)が教えてくれている!』

『教えているのは地図だ』

『そんなマジでつっこまなくても……』

『私は5に行く』

『では俺は――』

『お前は6だ』

『他に誰かいんのか? 今の誰だ!』

 

 今の声はジェラールのものだ。なぜエルザがわって入って……ナツたちはジェラールの記憶のことを知らないのか? そうならば、混乱を防ぐためか。

 

「……あれ?」

 

 気づくと念話が切れていた。ヒビキの魔力が尽きたようだ。ある意味、いいタイミングで切れたのかもしれない。

 

 翼を造形魔法で作って飛び上がる。だいぶ体も馴れてきた。

 

必ず止める。ナツが交わした約束を守るために。

 

 

 

 

 

 なんとかニルヴァーナに降り立ったが、酷く頭が痛い。

 頭を抑えながら、魔水晶まで向かっていた。

 

「大丈夫かよ、ステラ」

 

 不意に肩に手をのせられて、思わずびっくりして飛び上がる。

 

「……ナツか」

「そんにビビんなって。オレがびっくりするぞ」

 

 魔水晶に近づくにつれて、それとは別に異様な魔力を感知した。魔水晶の魔力ではなく、先程のブレインと呼ばれていた男とは、比べ物にならないほどの魔力だった。かつて戦った聖十大魔道士のジョゼに似た魔力。

 

「ナツ……燃えてきたでしょ?」

「ああ、こんな気持ち悪い魔力初めてだ」

 

 魔水晶の前に立つ男。この男が、六魔将軍のマスター、(ゼロ)。向こうがこちらに気づいて口元がつり上がる。

 

「ようやくお出ましか。滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)

 

 そのゼロを見て、ナツが笑った。

 

「壊れんのはオレとお前、どっちだろうな」

 

 そう宣言して、ナツが真っ先に飛びかかる。真正面から突っ込むとは思ってなかった。

 ゼロは素早く反応して指先から魔法を繰り出そうと構える。私はゼロの懐まで飛び込んで腕を蹴り、魔法を防いだ。

 

「火竜の鉄拳!」

「雪竜の鋭爪!」

 

 ナツが殴り、そのまま私が蹴り飛ばす。ゼロをふっ飛ばしたのを確認して、ナツに怒鳴った。

 

「正面から突っ込んでどうするのさ! もう少し頭使え!」

「作戦Tだって言ったじゃねえか」

「作戦Tって何よ、そもそも言ってない!」

突撃(TOTUGEKI)のTだろ! 当たり前だ!」

 

 瓦礫の中から無傷でゼロが立ち上がる。予想はしていたが、無傷なところを見ると少し驚いてしまう。

 

「この程度か!? 滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)の破壊力は!」

 

 流石にマスターと名乗るだけの実力はあるらしい。全く、ブレインと同じ姿なのに魔力は桁違いで、威圧感や雰囲気も全く違う。

 

「……やるしかないか!」

「ああ! 行くぞ!」

 

 今度は息を合わせて二人で突撃する。それに反応して先程よりも早く、ゼロが指先から魔法を放ってきた。ブレインの魔法と似ていたから、同じように蹴り軌道を逸らした。

 

「ブレインのものと一緒にするなよ!」

「――よけろ! ステラ!」

 

 ナツが叫んだときには、私はふっ飛ばされていた。

 逸らしたはずの魔法が、壁を突き破って戻ってきた。

 

「くそっ!」

 

 止めようと魔法に殴りかかる。しかし、弾かれる。もう一度だと構えて、激痛が走った……ゼロの魔法の衝撃で、手の肉が抉られていた。

 

「――ッああああ!」

「ステラ!」

 

 ナツが全力で殴って止める。右腕を左手で支えて、ようやく止めていた。

 

「……ほう、貫通性の魔法を止めるとは面白い」

 

 握れない。肉が抉られて力が入らなかった。

 

「ごめん、ナツ」

「油断するな――」

 

 ナツの言葉を遮るように爆発音がしてふっ飛ばされた。ゼロは動いていなかった。

 さっき自分たちが入ってきた入り口からの攻撃、新手かと構える。そして、その姿を見て、止まってしまった。

 

「……ジェラール」

 

 そんな馬鹿な。だって、他の魔水晶に行ったはずだ。

 

「ジェラァァァァルゥゥゥゥ!」

「待って、ナツ!」

 

 突っ込むナツに、先程と同じようにジェラールが魔法を繰り出した。しかし、ナツはその爆発を食った。

 

「オレに炎は効かねえぞ!」

 

 そう吠えるナツをみて、ジェラールが笑った。

 

「……そうだな」

「記憶が戻ったのか、貴様」

「――ああ」

 

 ゼロの問いに、ジェラールが小さく頷いた。……記憶を失っていたからと言って甘く見ていたことを後悔した。

 

「ナツという希望をな」

 

 その考えを消し去るかのように、ジェラールが言葉を続けた。

 

「滅竜魔道士。その力は炎によって増幅する。対局はかわらんぞ、ゼロ。ニルヴァーナは止める」

 

 呆気に取られている私とは逆に、ナツはジェラールに近づいて殴った。

 

「ふざけんな! どういうことだ!」

「ちょっと待ってナツ! ジェラールは記憶を失ってるんだ! だから――」

「あの事を忘れたっていうのか! ふざけんな! お前がエルザを泣かせたんだ!」

 

 今にもジェラールをどうにかしてしまいそうなナツを必至に抑え込みながら説得する。

 

「今は、ウェンディのギルドを守るために力を合わせなきゃいけないんだ!」

「頼む、ナツ……」

「ぬぐぐぐく……」

 

「内輪もめなら他所でやれ! 鬱陶しいんだよ!」

 

 しびれを切らしたゼロが、私たちに向けて魔法を放った。造形魔法で防ごうと構えようとして――さっきの傷で上手く構えられなかった。

 ……気づいたときには、ジェラールが私とナツの前に立っていた。ゼロの魔法から、私たちを庇ったのだ。

 

「……オレを始末するのはあとでもできる。こんなにボロボロなんだ。……今は、奴を倒す力を――」

 

 そう言って、ジェラールは倒れかけながら炎を掌に出していた。金色に輝く炎は小さくも確かに力強く燃えていた。

 ナツはその手を掴んで、炎を受け取った。ナツの全身に炎が広がり、それを全て喰らい尽くした。

 

「……ごちそうさま」

 

 その魔力の変化に、寒気がした。私は知っている。ナツのこの姿。そして、この魔力――エーテリオンを取り込んだときと同じだ。

 

「ドラゴンフォースか。滅竜魔法の最終形態――その力は、竜に等しいらしいなぁ……」

 

 ナツの変化を見て、嬉しそうにゼロが呟いた。

 

「……オレの全魔力だ。行け! ナツ!」

 

 ジェラールの言葉が終わると同時に、ジェラールを殴ったときとは比べ物にならない疾さで、ゼロの懐にまで飛び込んだナツは、そのまま殴り飛ばして、追い打ちをかけていった。

 しかし、ゼロも一撃こそ食らったが平然と立ち上がり、ナツの動きについていき――いとも簡単にいなしていた。だが、ナツも体が慣れてきたのか動きが良くなってきている。

 その様子を眺めながら、ジェラールが口を開いた。

 

「時間が来たら、君が魔水晶を壊すんだ」

「そのつもりだけど……ジェラールが壊すはずだった魔水晶は?」

「ウェンディに任せてきた。彼女も滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)、やってくれるさ」

 

 今の私は、ゼロに対抗できない。やられた手に力が入らない――たった一撃でこのザマだ。

 楽園の塔で、私はエーテリオンを取り込めなかった。そして、侵食された。……あそこまでの力を私だけでは引き出せない。

 

「……っ」

 

 同じ滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)なのに、同じ妖精の尻尾(ギルド)の魔道士なのに……

 

 

 

 

 

 何もできずに戦いを眺めるだけの自分に苛つかずにはいられなかった。

 それが最善だとしても、仲間が必死に戦う姿を見ているだけの自分。

 

 

 

 ――あと、5分。

 

 

 ナツもわかっている。この魔水晶(ラクリマ)を壊すタイミングを逃してしまったら、ニルヴァーナは壊せず、ウェンディたちのギルドを守れない。

 ナツとゼロは少しずつ魔水晶(ラクリマ)の側を離れるように戦いを繰り広げていた。

 ナツが上手く誘導しながらゼロと戦って隙を作ってくれている。だから、私はそれを無駄にしたらいけない。

 不意にゼロがこっちを見て不敵な笑みを浮かべた。何かしてくるのかと警戒した次の瞬間――何かが光った。

 

「がはっ――!?」

 

 何かがお腹のあたりを突き抜けた。それしかわからず、そのまま膝をついた。

 

「ステラ!」

「よそ見してんじゃねえよ!」

 

 私がやられたことに気を取られたナツが、ゼロの魔法をくらい、床を突き破って落ちていった。

 ゼロは立ち上がれない私を嘲笑いながら、ナツを追って床の穴に消えていった。

 

「っ……なんだ、お前!」

 

 杖に髑髏をつけたような物体。こいつが攻撃――ブレインが持っていた杖か。

 

「この魔水晶(ラクリマ)を破壊されるわけにはいかないのでね」

 

 油断した。私も、ジェラールやナツも、まさか他に敵がいるとは思っていたなかった。

 

「――スノーメイク」

「させませんぞ!」

 

 倒れた状態で魔法を使おうとして構えた片手を器用に踏み潰された。

 ……このままだと、時間が来てしまう。何とか隙を作って魔水晶を――

 

「あと3分程度と言ったところですかな」

 

 その言葉――いや、時間に私とジェラールは驚いてしまった。

 杖が呟いた時間は、頭に浮かんでいたヒビキがセットした時間とほぼ同じだった。

 

「まさか……ハッキングを」

「ブレインが古文書(アーカイブ)を使えるということは、マスターゼロも――先程、念和をジャックしたのと、同じ要領で行ったのですよ」

 

 ジェラールがハッキングと呟いたのに反応して、杖がペラペラと説明をしていた。

 完全にやられた。相手にタイミングがバレているなんて、思ってもいなかった。

 

「両腕が使えないだけでは不安ですな。その足も潰しておきましょう」

 

 そう呟いた杖が光ると、私の両足に激痛が走った。

 

「あああ――!!!」

 

 動かない。足も手も――こんな、こんな奴に邪魔されるなんて、最悪だ。

 悔しくて、痛くて叫ぶ。それを見て、この杖は笑っていた。

 

「ステラ!」

 

 ジェラールはナツに魔力を全て渡してしまって動けない。ナツはゼロとまだ戦ってるはずだ。

 

「あと1分ですぞ」

「黙れぇぇぇ!!!」

 

 ナツとウェンディの約束。こんな奴に邪魔されて、破れさせてたまるか!

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「あああ―――!!!」

 

「ステラ!」

 

 少女の悲痛な叫びを聞いて、ジェラールはその名前を口にしていた。

 そんな様子を眺めながら、杖――クロドアは笑っていた。

 

「あと1分ですぞ」

 

 あざ笑うかのように、クロドアはステラに時間を告げる。

 魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊して、ニルヴァーナを止められる唯一の機会(チャンス)のタイミング。

 これを逃せば、化猫の宿(ケットシェルター)はニルヴァーナによって闇に染まる。

 

「黙れぇぇぇ!!!」

 

 吠える少女の顔を黙らせるために、クロドアはその顔を蹴り飛ばした。

 息を荒げながら、それでもステラは杖を睨み続けていた。

 

「残念ながら、我々の勝ちですな!」

 

 クロドアがそう告げると、ステラの魔力が途端に跳ね上がった。

 魔力の変化だけでなく、その姿も大きく変化していた。

 翼と尻尾が生えて――まるで、(ドラゴン)のような姿。

 

「があっ!!」

 

 大きく翼と口を広げて、杖に向かって飛び上がる。

 しかし、瞬時にクロドアはそれを避けた。

 

「残念――」

 

 外れ。そう告げるよりも早く、ステラは魔水晶(ラクリマ)に衝突――突進していた。

 大きな音をたてながら、崩れ落ちる魔水晶。

 

最初(はな)っからお前なんて狙ってないんだよ」

 

 そう呟いたステラは、そのままバランスを崩して墜落した。

 ……それと同時に、ニルヴァーナの崩壊も始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 


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