【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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26話 戦争乱入

 化猫の宿(ケットシェルター)のマスターの話では、ニルヴァーナの封印はまだ第一段階が解かれた状態。つまり、誰かがニルヴァーナの封印場所を見つけたに過ぎないとの話だった。

 白い光の柱の下にニルヴァーナがある。すぐにその光を見つけて、飛んでいった。しかし、肝心な、黒か白のどっちの色が解放手前だったかを忘れてしまった。

 

「……それで、これはどういう状況なわけ」

 

 光の近くでは、見たことのない男が二人。そして、エルザが抱きかかえているのは……ジェラールだった。

 

「うぬは、何者だ」

「……いや、お前は敵だな」

 

 どう見ても悪人って顔だ。聞いた私が馬鹿だった。

 

「ステラ……なぜお前が……」

 

 エルザは怒るよりも困惑している様子だった。こっちだって、ジェラールがいる状況を問い詰めたい。

 

「その紋章、妖精の尻尾(フェアリーテイル)か。なるほど、増援というわけか。しかし、あと一歩遅かったな!」

 

 男がそう宣言して両手を広げると、地響きとともに地中から何かが現れ始めた。

 ここにいたらまずいと判断して、エルザとジェラールを掴んで空に飛んだ。

 

「ステラ! なぜここにいるんだ!」

「そんなに怒んないでよ。頼まれたんだ、化猫の宿(ケットシェルター)のマスターに」

「それはどういう……」

「話すと長くなる。片付いたらちゃんと説明するから」

 

 エルザと対象的に、ジェラールは静かだった。それに気づいたエルザが、ジェラールに対して口を開いた。

 

「……自律崩壊魔法陣を解け」

「オレは……」

「さっきも言ったはずだ。"生きてあがけ"と」

 

 よく見るとジェラールの体に妙な魔法陣が描いてあった。だいぶダメージを受けているのはそのせいらしい。

 完全に姿を現したニルヴァーナ。生き物のように動く姿。その大きさ。マスターの話の通り、上に巨大な古代都市がある。

 とりあえず、落ち着いて話をするためにエルザたちを降ろすことにした。

 

「それにしても、なんでジェラールが?」

「オレは――」

「どうも記憶がないらしい。今はニルヴァーナを止めるために協力してくれている」

「記憶って……楽園の塔のことも覚えてないってこと?」

「……すまない。君にも酷いことをしたらしい」

 

 本当なのか疑問だったが、楽園の塔で見たジェラールとは別人のようで、記憶がないというのも納得できた。

 夢で会ったことも覚えていないのだろう。しかし、雰囲気は似ている。

 

「まずはニルヴァーナを止めなければ」

「完全に起動してしまった以上、自律崩壊魔法陣は効かない」

 

 打つ手がないと悔しがるジェラールに対して、大丈夫と声をかける。

 

「最低でも六人の魔導士がいれば、ニルヴァーナを破壊できる」

「なに!? 本当か!」

化猫の宿(ケットシェルター)のマスターの話では、ニルヴァーナは大地から魔力を吸収して動いていて、その魔力を吸収しているのが足の付け根にある魔水晶(ラクリマ)って聞いた。それを同時に破壊できれば、コレを止められるってさ」

「なら、あと3人か」

 

 何にしても、他のメンバーと合流するのが先だろう。

 

「私は上から探してみるよ。そのほうが早そうだし」

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ――」

 

 そうして、エルザたちと別れて空から探そうと飛ぼうとして、ふらついた。

 

「……やはり、一ヶ月も寝たきりだと魔力以前に筋力が低下しているんだ。そもそも、化猫の宿(ケットシェルター)まで、どうやって――」

「話せば長くなるって言ったでしょ。大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから」

 

 そういって、エルザに止められる前に飛び去った。ミストガンのことを含めて、説明するのが面倒だし、今はニルヴァーナを止めることが最優先だからだ。

 

「それにしても、こんなに大きいのか」

 

 あまりの大きさに、ため息が出る。これだと、例え見つけても合流するのは大変そうだと考えていると、遠くのほうで爆発と炎が上がるのが見えた。

 あんなことするの、ナツしかいないだろうと確信して、その方向に飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっき、ニルヴァーナ復活のときにいた二人の男のうちの一人が翼の生えた巨大な蛇に乗ってナツと戦っていた。ナツの背中を掴んでハッピーが(エーラ)で飛んでいる。

 

「ナツ! ステラだよ!」

「んな!? なんでお前がいんだよ!」

「助けに来たんだ。……随分と苦労してるね」

 

 気のせいかナツとハッピーが辛そうだ。明らかに顔色が悪い。

 それに、この男の手と……この魔力の感じは――

 

「滅竜魔道士か。お前」

「その通り、オレは毒竜のコブラ。テメェらとは違う第二世代の滅竜魔道士さ」

「第二世代?」

「ラクサスと同じだよ! 本物の滅竜魔道士じゃないんだ!」

「オレからすれば、お前らのほうが偽物だがな。(ドラゴン)なんて、この世にいねえんだから」

「イグニールはいるって言ってんだろ!!!」

「いねえよ! (ドラゴン)は絶滅したんだ!」

 

 挑発に乗ったナツがコブラに殴りかかったが、簡単に避けられて地面に蹴り落とされた。

 

「うぷ……」

「わー!? ごめん、ナツ!」

 

 急いでハッピーが空に飛び上がる。しかし、ふらふらとしている。

 

「毒が回ってきたみたいだな」

「ごめん、ナツ……オイラ……もう……」

「気にすんな! オレもフラフラだ!」

「そこは気にしようよ!?」

 

 どうにもこのコブラという男の魔法――毒にやられているらしい。もうハッピーがフラフラで、今にもナツを落としそうだ。

 

「交代だ、ナツ」

「あ!? 横取りするなよ! つか、なんでいるんだよ!」

「……うるさい」

 

 造形魔法で鳥をつくって、二人を乗せる。ナツがまた速攻で酔ったのを見て、ナツにとっては乗り物だからだめだったかと後悔する。

 さてと、まずは造形魔法で遠距離から様子を見てみようかと、構える。

 

「聴こえるぞ、まずは造形魔法か。そんなもの、当たらんさ」

「ソイツは心の声を聴けるんだ!」

「アドバイスどーも」

 

 思ったことを指摘されて多少動揺したところに、ハッピーがアドバイスをくれた。心の声を聞くなら……

 

「でも、何発か食らってるよね」

 

 その割にはナツに殴られたあとがある。それを指摘されて、コブラが舌打ちする。

 

「何も考えずに戦うやつなんて、初めてだったもんだからな。だが、お前みたいなやつなら楽勝さ」

「そうかな?」

 

 目をつぶって意識を自分に向ける。眠っている()に声をかけるように、呼びかける。

 

「さて……滅ぼしてやるよ、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

「――テメェ、一体!」

 

 困惑するコブラを見て、狙い通りだと確信できた。あいつにも、()の声は聴こえている。

 

「雪竜の咆哮!」

 

 ――さて、次行くぞ!

 

 私は、そのつもりだ。だから、そう技を宣言した。しかし、実際は造形魔法で避けても追尾するように攻撃を繰り出した。

 

「どういう事だ! 何が起きてやがる!」

 

 滅竜魔法で蛇の上からコブラを蹴り落とす。自分でも驚くくらい攻撃の切り替えがうまくいく。それこそ、体が勝手に動く感じだ。

 

「クソが!」

 

 咆哮らしき攻撃をしてきた。あれを食らったらナツとハッピーのようにじわじわと毒に追い詰められるのだろう。それはゴメンだと攻撃をかわして着地し、懐に潜り込む。

 

「な!?」

 

 ――ナツと同じ"乗り物に弱い"と思った?

 

 私も乗り物に弱いと予想して、まさか地面に降りると思っていなかったのか、懐に潜り込まれて驚いたのか、こっちは声が聴こえないからわからない。でも――

 

「――聴こえても、この距離なら避けられない」

 

 ――極寒の息吹よ。白きせかいに埋めつくせ

 

極零氷雪(ゼロフィルブリザード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬でコブラを凍りつかせる。意外とあっけなかった。なんて思っていたら、すぐ近くにもう一つ魔力があった。

 ニルヴァーナの封印を解いたときにいた、もう一人の男だった。

 

「まさか、コブラをこうも簡単に片付けるとはな」

「……助けないの?」

 

 凍りついたコブラをコンコンと叩く。私とコイツが戦っているときに、助太刀に入っていれば、助けられたかもしれないのに。

 

「ふん、正規ギルドに負けるクズなどいらんわ」

 

 あまりにも最低な言葉に呆れる。自分の仲間を道具としか思っていないのだろう。

 

「この先、仲間などいくらでも増やせる。ニルヴァーナによってな、ハハハ――」

 

 そう言って大笑いしているところに距離をつめて腹を殴り飛ばす。

 

「雪竜の咆哮!!」

 

 そのまま追い打ちをかける。不意打ちとはいえ、見事に飛んでいった。ふっ飛ばされた男は呆気に取られた顔で倒れていた。

 なんて奴だ。といった感じで睨みつけてきた。

 

「正規ギルドのクズにやられるよ?」

「ふん、言ってくれる。常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!」

 

 螺旋状の魔法が一直線に飛んでくる。横に跳んで回り込もうとしたが、魔法も私の動きにあわせて曲がってくる。

 

「無駄だ、何処までも追い続けるぞ!」

「スノーメイク"雪洞(かまくら)"」

 

 魔法を防ごうと盾をつくる。しかし、簡単に貫通してきた。

 

「無駄だと言ったはずだ!」

 

 勝ち誇ったような表情が見えた。ただ、壁を壊しただけだというのに、いい気なものだ。

 

「雪竜の鋭爪!」

 

 蹴りで軌道を逸らす。さっきまでの表情が嘘のように、冷や汗をかいている。

 驚いている隙をついて距離をつめる。そのまま滅竜魔法で殴って、蹴って――

 

「――"雪花氷嵐撃"!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情けなく倒れている男に近づいて、体を足で踏んづけた。しかし、反応がない。意識はあるが声をあげる力も残っていないらしい。

 

「これで終わりだ」

 

 造形魔法で刀をつくり、振り上げる。首元に一突きすれば――

 

「そこまでだ!」

 

 何者かの威圧を感じた。また敵かと感じた気配の方向を向くと、グレイとルーシィ、そして、とてつもない威圧と魔力を放つ坊主の男が立っていた。

 

「なんで……お前がここに」

「む、知っている人物か」

「あたしたちの仲間よ。ほら、肩のところに紋章があるでしょ?」

「うむ、そうであったか」

 

 グレイの呟きに、坊主の男が反応して、ルーシィがフォローを入れていた。先程までの威圧が消え去る。この坊主の人も連合のメンバーということか。

 

「その者にはまだ聞くことがある。これを止める方法を聞かねばならんからな」

「止める方法はわかってるからね。こいつを生かす理由はない」

 

 敵なら確実に始末する。それに、用無しならなおさらだ。刀を振り下ろそうとして、飛んできた岩に弾かれた。

 何をするんだと叫ぼうとするより先に、ルーシィが叫んだ。

 

「やめて! ステラ!」

「……後悔しても知らないから」

 

 倒れている男の元を離れて、ルーシィたちのほうに歩いていく。なにか、ぶつぶつと呟いているのが聞こえて、振り向いた。

 

「ま、まさか……この私がやられるとは……ミッドナイトよ、後は頼む。六魔は決して倒れてはならぬ……もし、六つの祈りが消える時……あの方が……」

 

 不気味なことを呟いていた。なんのことかと問い詰めるよりも早く、男は気を失ってしまった。

 

「つーか、なんでお前がここにいんだよ」

「話せば長くなる。今はニルヴァーナを止めることが先だ」

「……そうだ、これ……止めて、く、れ……」

「な、ナツ!?」

 

 やばい。そういえば造形魔法でつくった鳥の上に乗せたままだった。急いで着地させて、ナツとハッピーを降ろす。

 降ろしても辛そうなのは、ニルヴァーナが乗り物だからだろう。

 

「みなさぁーん!」

 

 声のするほうを振り返ると、そこには青く長い髪を揺らしながら少女がかけてきた。

 

「ウェンディ、無事だったか」

 

 グレイがその少女のほうを見ながら名前を――この子が、ウェンディ。"天空の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)"か。よくみるとハッピーに似た白い猫が横を飛んでいる。

 

「やっぱり、この騒ぎはあんた達だったのね。それで、その女は誰よ」

 

 不安そうな表情で走ってくるウェンディ。ため息をつきながら呆れた表情を浮かべ、ウェンディの隣を飛んでいる白い猫が、私のほうを指差してきた。

 

「ちょっと、シャルル。失礼だよ」

「気にしないで、私はステラ。ステラ・ヴェルディア。ナツたちの仲間だよ」

「そうだ! この都市、私たちのギルドに向かってるみたいなんです!」

「その化猫の宿(ケットシェルター)のマスターから頼まれた 。ニルヴァーナを破壊するために」

「本当ですか!?」

 

 慌てるウェンディを"大丈夫だから"と声をかけて落ち着かせる。マスターから聞いた話を要点だけ簡単に説明した。

 そして、ルーシィたちからも情報をもらう。六魔将軍(オラシオンセイス)は残り一人――さっき私が倒した男はブレインと呼ばれていたらしい。

 司令塔、マスターのような男だったらしく、倒せばニルヴァーナが止まると思っていたようだ。

 

「早く……治してくれ……うぷ……」

「……とりあえず、ナツたちの治療をお願いできる? 毒にやられたみたいで」

「はい! 任せてください!」

 

 とりあえず、六人以上の魔道士がニルヴァーナにいた。これで破壊できる。……あと1つの問題を除いて。

 

「ステラ殿、お主……」

 

 この坊主の男――聖十大魔道士の一人であるジュラは私の異常を察知したらしい。何も言わないで、という意図で人差し指をたてて口に当てる。それに対して無言で頷いてくれた。

 

 治療が終わっても元気にならないナツにウェンディが慌てふためいたが、ナツが乗り物に弱いということを聞いて、トロイアという魔法をかけられると……ナツが元気になった。

 

「これ、あれだなぁ…乗り物って実感がねえのが……なあ、ルーシィ! 乗り物の精霊とかだして――」

「やめろ、バカ」

 

 空気の読めないナツの頭をぶん殴る。

 

「いてえな! ステラ!」

「ちょっとは空気を読め! ……妖精の尻尾のギルドが狙われてたら、どう思う……少しは考えて行動して」

 

 後半の声は小さく、ナツにしか聞こえないように話した。流石にナツも理解したらしく、小さく頷いていた。

 

「取り敢えず、ニルヴァーナを止める方法を説明する」

 

 大まかに説明をした。それぞれ6つの魔水晶を同時にすること、そのために必要な魔道士は足りていること。

 

「……あとは、どうやって同時に破壊するか」

 

 それが一番大きな問題だ。1つでも残っていると、他の魔水晶を修復してしまう。それではニルヴァーナを破壊できない。

 

「やっぱり、こいつを制御するほうがいいんじゃねえか?」

 

 破壊するよりも簡単だろうと、グレイが提案する。

 

「でも制御するのはこの場所だってホット………リチャードが言ってたし」

 

 ルーシィがぽつりと呟いた。どうも、わざわざ移動してきたのは、ここが制御する場所だと聞いていたからだそうだ。

 

「リチャード殿がウソをつくとも思えん」

 

「止めるとかどうとか言う前にもっと不自然な事に誰も気づかない訳!?」

 

 ジュラたちの話を聞いていて、シャルルが疑問に持ったことを叫ぶ。

 それに対して私も含めて全員がなんのことか気付いていない顔をしている。

 

「操縦席は無い、王の間に誰もいない、ブレインは倒れた、なのに何でこいつはまだ動いているかって事よ」

 

「――まさか、自動操縦!? すでにニルヴァーナ発射までセットされて……」

 

 シャルルの疑問を聴いて、グレイが仮説に辿り着いて言葉を漏らしたが……最後までは言わなかった。全て言葉にしなかったのは、ウェンディが体を震わせ、瞳には涙を浮かべているのを見てしまったからだろう。

 

「どうしよう……このままじゃ……」

 

 ウェンディは口に手を添えながら嘆いた。

 

「大丈夫!ギルドはやらせねえ。この礼はさせてくれ」

 

 ナツはウェンディを励ますように、言葉を続けた。

 

「必ず止めてやる!!」

 

 

 

 

 

 


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