【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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―六魔将軍―
25話 希望


 その後、ポーリュシカに診てもらったところ一ヶ月間寝っぱなしの人間の顔じゃないだとか、なんで痩せてないんだろうね。とか散々言われた。

 魔法を使うななんて言われたことで喧嘩になって、マスターが仲裁に入ったりと騒がしかった。

 とりあえず、アンチエーテルナノ腫瘍のこと以外は問題無しらしい。エーテルナノによる傷も何箇所か残ってしまっているが、治せないしその必要もないそうだ。

 

 

 

 

 それから一週間……バトルオブフェアリーテイルから一ヶ月も過ぎると、いつもの落ち着きを取り戻していた。

 

「……うーん、眠い」

「ステラ、髪伸びたわね。ルーシィの星霊に整えてもらったら?」

 

 カウンターの机に突っ伏してグダっているとミラジェーンが声をかけてきた。

 そういえば、気づいたら肩に乗るくらい髪が伸びている。シャワーを浴びるのに時間がかかるのはそのせいか。

 

「そうですね。短く戻してもらおうかな」

「今の長さでも可愛いのに。ちょっと大人びてる感じで」

「……ミラさんって、突拍子もないこと言いますよね」

「本当のことを言ってるだけよ」

 

 こんな人が魔人……バトルオブフェアリーテイルではフリードを倒したなんて信じられない。

 

「……そういえば、その大きな図は何ですか」

 

 カウンターの近くの空中に文字と図が描かれていた。昨日までなかったものだ。

 

「これ? 光筆(ひかりペン)で描いた闇ギルドの組織図よ」

 

 描いたのオレ。と横で誰かが呟いたがミラジェーンは見事にスルーした。

 リーダス、どんまい。とその様子を見ていた人たちは心の中で呟いていた。

 

「おはよー、ステラ」

「もう昼だよ、ルーシィ」

「え!?」

「ウソ」

 

 あくびをしながら挨拶してきたルーシィをからかって遊ぶ。反応が面白くてついつい笑ってしまう。ハッピーの気持ちがわかる気がする。

 ついでに、私の髪を精霊に整えて欲しいと頼んだのだが、驚くとこにすぐさまその精霊を召喚して、あっという間に事が進んでいった。

 

「どうですか……エビ」

「あら、可愛いじゃない」

「いーなー、私も伸ばそうかなぁ……」

「あ、えっと……ありがとう」

 

 あっという間だったので、注文をつける余裕もなかった。本当は短くしてもらいたかったのだけど、頼んだ手前文句は言えない。

 それに、鏡で見せてもらっても中々に悪くない気がした。この精霊、蟹の見た目で語尾がエビなのは突っ込むべきなのだろうか。

 

「そろそろ人が集まってきたから、闇ギルドについて説明するわよー」

 

 あんまり興味が無い話が始まりそうだったが、嫌な顔をしたせいでミラジェーンの目の前という特等席で聞かされる羽目になった。

 

 闇ギルドも単独で動いているわけでなく、バラム同盟の名の下にいる三つのギルドの傘下でギルドが枝分かれしていること。それによって闇世界を動かしていると簡単に説明された。

 

 へぇ……と興味を持って頷くルーシィが組織図を眺めながら、あーっ! と叫んでいた。

 

「あ……! 鉄の森(アイゼンヴァルト)って!?」

「あぁ、以前ララバイを利用しようとしたギルド。六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下だったのか」

「ジュビアとガジル君が幽鬼の支配者(ファントム)に所属していたときに潰したギルドも、ぜーんぶ六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下でした!」

「……笑顔で言うなよ」

 

 とんでもないことを笑顔で言うジュビアをグレイが少し引き笑い気味に突っ込んでいた。

 

「大丈夫かな。復讐とか考えてないよね……」

「気にすることねえさ。噂じゃこいつら……たった六人しかいねえらしい」

 

 グレイの言葉によかった。とルーシィも安心する。

 

「六人で闇ギルドの同盟の一角を担ってるって、そっちのほうがやばいと思うけど」

 

 軽く呟いたつもりだったが、その言葉を聞いてルーシィは青ざめていた。でも本当の事だ。

 

「そのとおりよ……それに、噂だとこの六人はたった一人で一つのギルドを潰せる力を持ってるって噂よ」

 

 そのままミラジェーンが情報を追加する。そのせいで周りは青ざめるを通り越してしまっていた。

 

「その六魔将軍だが……ワシ等が討つこととなった」

 

 全員が緊張した表情を浮かべていると、不意に後ろから声がした。振り向くと、神妙な表情でマスター立っていた。

 

「お帰りなさい、マスター」

「違うでしょ、ミラさん!?」

 

 とんでもないことを聞いたあとに、普通に挨拶をするミラジェーンに、ルーシィが突っ込んでいた。

 ……そういえば、私が起きてすぐに少しだけその件についてマスターが漏らしていたことを思い出す。不安は的中してしまったわけだ。

 

「またビンボーくじ引いたな、じいさん」

 

 ため息混じりに呟くグレイに、ふむ。と頷いていた。

 

「今回は相手があのバラム同盟、最大勢力の一角じゃ。一つのギルドで戦って勝利したとしてもその後、闇ギルドの連中から報復を受けないとも限らん。そこで……我々は連合を組むことになった」

 

 その後も続いた説明で、連合軍は妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)化猫の宿(ケットシェルター)、この四つのギルドで各々精鋭を数名を選出し、力を合わせて六魔将軍(オラシオンセイス)を討つことになったのだとわかった。決行は一週間後。

 

「そのメンバーは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに落ち込まないの。大丈夫よ、ナツたちなら」

「落ち込んでません。慰めようとしないでください」

「あらあら……」

 

 昨日よりも更に机に突っ伏して、顔もあげずに反論する私をミラジェーンが慰める。

 メンバーに選ばれた人たちはギルドに来ていない。準備をするために忙しいからだ。

 

「まあ、ステラが選ばれなかったのは少し予想外ね」

 

 マスターが私のアンチエーテルナノ腫瘍のことを気にしているからだろう。

 

「あーあ……何かいい仕事あります?」

 

 メンバーに選ばれなかった以上、仕方ない。

 

「ミラさん?」

 

 顔を上げると、すやすやと寝息をたててミラジェーンが寝ていた。周りを見渡すと、一人残らず眠っている。

 

「私が眠らせたのだ」

 

 突然目の前に現れた姿に驚いて、椅子から転げ落ちる。

 

「ミストガン……」

 

 相変わらず顔を隠していた。ジェラールとは別人……のはずだ。狡猾さがないというか、そもそも少し匂いも違う。

 疑う表情をしているステラを見て、ミストガンが口を開く。

 

「君に頼みがあるんだ」

 

 なんで私に。と口に出そうとして思いとどまる。助けてもらった恩もあるし、ここは頼みを聞こうと思った。

 

「……いいですよ」

「場所を変えよう。みんなを眠らせっぱなしにするのはマズい」

 

 その言葉に頷いて、ミストガンについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 予想していたよりもずっと歩いていた。マグノリアの街もとっくに出てしまっている。

 

「あのそろそろ本題に入っても……」

「このまま移動しながら話そう」

 

 今はとあるギルドに向かっていて、そこである人物に会ってほしいというものだった。その人物の名はウェンディ。天空の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)、治癒魔法の使い手らしい。

 

「治癒魔法……まさか!」

「そうだ。君の治療をしてもらう」

「どこでその話を聞いたの」

「ポーリュシカから聞いた。君が言うことを聞かないからどうにかしてくれ……とな」

 

 自分の知らないところで話が進んでいることに少し困る。

 それに、あまりギルドに顔を出さないはずのミストガンが、ここまで親身になってくれることに、なんだか変な感じがする。

 

「どうして、そんなに私を気にかけるんです」

「同じギルドの仲間で、私がそうしたいからだ」

「……そういうことにしときます」

 

 お節介な人と思ったが、それだけで私に対してこれだけ色々とするはずがない。最初に出会ったとき、ミストガンは私を見て驚いていた。私のことを知っているということだ。

 

「じゃあ、もう一つ。ラクサスの言っていたAnother(アナザー)って、どういうことです」

「……それは」

 

 ミストガンの言葉が詰まる。Another(違う)という意味。ラクサスが言おうとしていた、ミストガンの正体に迫る何かだろう。

 

「私は、この世界の人間ではない」

「……は?」

 

 突拍子もない答えに、思わず間の抜けた声を上げてしまった。もしかしたら、本物のジークレインで双子でしたというオチを想像していた。

 

「今言えることはそれだけだ。時期が来たら話そう」

「……あのジェラールとは別人」

「ああ、それは間違いない。君たちの知っているジェラールと私は別人だ」

 

 違う世界。だから、Anotherか。それをどこでラクサスが知ったのか。

 理由は……ギルドを思って招待を探っていた。というところだろう。それが真実なのか確かめる術はないけど。

 

「何一つ進展してない」

「これから変わるさ」

 

 うまくまとめられた。というか、恩人に対してガツガツと質問するのも気が引けてしまって、真実にまで届いていないものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからどれだけ歩いただろう。途中で旅の馬車に乗せてもらって楽はできたが、ここまで2日はかかっている。

 ポーリュシカからマスターに話は通してくれるらしいが、そうしてくれなかったら色々と面倒になる。連合のメンバーに参加できなかった不満から出ていったなんて勘違いされるのは御免だ。

 

 そんな考え事をしながら歩いていたので、ミストガンが立ち止まったことに気づかず、ぶつかってしまった。

 ミストガンは進んでいた方向とは違う空を眺めて、舌打ちをした。

 

「……すまない、ここから先は君一人で行ってくれ」

「……え? いや、ちょっと」

「まっすぐ行けばギルドが見えてくるはずだ」

 

 そう言い残して、忽然と姿を消してしまった。

 

「そんな勝手な……」

 

 そもそも頼みって聞いたのに、実際についていって説明を聞いてみれば、私の治療のため。頼みなんてのも嘘だったわけだ。

 

「……変な人」

 

 思わず呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いた場所はギルドというよりも、小さな村落のようなものだった。私の姿を見て、村の人々がざわつきはじめた。

 敵意は無いという意味で手を上げただけで、何人かに構えられてしまった。

 

「ここにギルドがあると聞いてきたんですが……」

「ええ、この集落自体が化猫の宿(ケットシェルター)というギルドですが、あなたは……」

 

 ……どこかで聞いたことのある名前だ。いや、それよりも自分のことを説明することが先か。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士です。ウェンディという人にお願いがあって来ました」

 

 右肩の紋章を見せると、納得してくれたようでマスターのもとまで案内すると言われた。

 猫のような形をした建物に案内されると、中にマカロフと同じくらいのじいさんが座っていた。この人が、化猫の宿(ケットシェルター)のマスターらしい。

 

「なぶら」

「……なぶら?」

 

 聞いたことのない単語を呟かれて、オウム返ししてしまった。挨拶なのか、意味すらも不明だというのに。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士らしいですよ、マスター。ウェンディに用があるとのことです」

「なぶら……」

 

 あの言葉ずいぶんと汎用性の高いらしい。私には意味がわからないけど。

 

「この傷、ウェンディって人なら治せますか」

 

 百聞は一見にしかず。見せたほうが話は早いだろうと、包帯をとってエーテルナノによる侵食をみせた。

 その腕を見て、深刻そうに口を開いた。

 

「なぶら……わからん。ウェンディは今、ギルドにおらんのじゃ。なぶら、そちらのギルドと連合を組んで――」

六魔将軍(オラシオンセイス)討伐――」

 

 思い出した。連合に参加するギルドの一つだ。滅竜魔道士だし、精鋭として選ばれていても何もおかしくはない。タイミングが悪すぎた。

 私も討伐メンバーに選ばれていれば、ウェンディに苦労せずに会えたということだ。傷さえなければ……。

 

 ――うん、傷がなかったらウェンディに会う意味もないよね。

 

 なんて考えているとツッコミが入る。うるさいぞ、()

 

「お主、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)か」

「どうしてそれを――」

「いや、ウェンディが言っておったのだ。自分と同じ滅竜魔道士が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいると。マフラーをした桜髪の少年――火竜(サラマンダー)や白い少女のことを噂で聞いてから、会って話がしたいと」

 

 そして、その為に討伐に参加したらしい。話を聞いていると、ウェンディという人物は自分よりも年下、しかも攻撃魔法は使えないという事実を知る。

 どうして、そんな少女を危険な作戦に参加させたのか。気になって尋ねた。

 

 どうにもこのギルド、まともに魔法を使える人はほとんどおらず、その作戦に役立つのは治癒魔法を使えるウェンディだけだろうということもあり、参加させたらしい。

 本人も、私かナツに会えるかもしれないと自分から参加を申し出たらしい。

 

 ――いつまで居座るつもりだ。用がないなら帰ろう。

 

 頭の中で素っ気無い声が響く。気になったんだからいいじゃないかと頭の中で私に反論しておく。

 

「……善でも悪でもない。お主ら何者なのだ」

 

 片目を見開いて、マスターが突然呟いた。後ろを振り向くが、誰もいない。

 

 ――へえ。このじいさん、わかるんだ。ちょっと代わってよ。

 

 頭に響いた声で自分たちのことを言われているのだと気づく。

 

「流石はギルドマスター。()に気づくなんて、心の中でもよめるの?」

 

 雰囲気が変わったことも察知したマスターだったが、敵意や殺意は感じられないと呟く。マスターが口を開いて、止まった。怪訝そうに眺めていると、また"なぶら"。と呟いた。

 

「ニルヴァーナの封印が解かれたか」

 

 封印が解かれた?それってまずいんじゃないかと、その正体を知らない私ですら考えてしまう。

 

「なぶら、頼みがあります。ニルヴァーナを……我々の負の遺産を破壊してほしい」

 

 唐突に何を言うのか。そもそもニルヴァーナって、なんだ。

 

「反転魔法、ニルヴァーナ。これを止めていただきたいのです」

「そんなこと急に言われても困る。その魔法ってのが、どんなものかも知らないし、他のギルドの人間を巻き込むのはどうなのさ」

 

 我々の。と、このマスターは呟いた。それなら、自分たちのギルドの問題なのだろう。それを他のギルドに任せたいなら、依頼にでも出してくれ。と悪態をつきたくなる。

 

「……我々は戦えないのです」

「それなら、正式に他のギルドに依頼を――」

「我々は、思念体なのです」

「なに?」

「全てお話します。もし、話を聞いて頼みを聞いてくださるなら……代わりにウェンディたちにあなたの治療をお願いする。それが報酬。それでどうでしょう?」

「……まあ、確かにただで治療してくれっていうのも気が引けるし。とりあえず話を聞いてからで」

 

 渋々だが、話を聞くことにした。仮に受けることになっても、正式に出されていない依頼とはいえ、ギルドマスター直々ならば融通くらい効くだろう。そう思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話をすべて思い出すと、壮大さと偶然に大きなため息をついてしまう。六魔将軍(オラシオンセイス)の狙いが、ニルヴァーナであり、まさかここで連合に合流するのが最適になるとは思っていなかった。

 

「ま、ナツたちと一緒にいる口実ができて良かったと考えるか」

 

 空を羽ばたきながら、ニルヴァーナが封印されていた場所に向かっていた。六魔将軍(オラシオンセイス)が真っ先に狙うギルドがニルヴァーナを封印した我々のギルドであると、マスターも言っていた。それなら、まっすぐ進むだけで見つかるだろう。

 

 

 もう少しで、日が沈もうとしていた。


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