【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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24話 崩壊する体

 壊れてしまったものを見るように、私を見ていた。それでも、私は信じたい。これが間違えになってもいい。

 どんな風に見られてもいいんだ。ただ大事なものを守りたいだけだって、忘れないでくれればいい。

 だけど、その答えが間違えになるなら、私は裏切ってしまう。仲間も、世界も、なにもかも捨ててしまう。

 それでも信じたいというなら、私も信じるよ。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「……夢?」

 

 曖昧な意識過ぎて、何があったのかわからない。今までのように、私と()が会話するような夢ではなかった。

 ……思い出せない。あれは自分の言葉なのか、それとも――

 

「目が覚めたようじゃの」

 

 不意に声をかけられて、思わず体が跳ねた。振り向くと、扉の近くにマスターが立っていた。

 

「……あの世?」

「バカを言うな。ワシはちゃんと生きてるし、お主も生きてる」

 

 危篤って言われてたのに元気に立ってるからあの世かと思ってた。あれ、私って、何してたんだっけ……。

 

 考え込む姿を見て、マスターが大きくため息をついた。

 

「色々と話しておかねばならんな……。ステラ、体の調子はどうじゃ?」

「……少し頭が痛いです」

 

 体が重い気がするが、それよりも頭がぼんやりする。冴えない感じだ。

 

「エルザから聞いた。エーテリオンを破壊し、あげく魔力を上げるために食ったそうじゃの」

「……ナツも食べましたよ」

「わかっとる」

 

 マスターはそのまま説明を続けた。そもそも、エーテリオンを止めたときに大量のエーテルナノを浴びたせいで、私の体はおかしくなり始めたらしい。

 元々、魔道士は空気中のエーテルナノを自然に摂取して魔力を回復するが、魔力が空っぽの状態で大量のエーテルナノを摂取することで体がオーバーヒートしてしまう。その状態すらまずいのに、更にエーテリオンを食ったせいで、体は限界だったのだと。

 それが模様のようなひび割れ。その状態でも普通なら魔法を控えて安静が絶対だった。それなのに――

 

「ラクサスと全力で戦ったせいで、エーテルナノによる侵食が内部の奥深くにまで進んでしまっておる」

 

 私はいつものように。いや、それどころか全力で戦った。……曖昧だけど、そういえば私は()に意識を任せてまで戦っていた気がする。思い出そうとすると頭が痛くなるのはそのせいか。

 

「……思い当たる節があるようじゃの」

「そういえば……ラクサスはどうなったんですか」

「それも追々話すわい」

「……ちょっと待ってください。そもそも、私って、いったいどれだけ寝ていたんですか」

 

 嫌な予感がして尋ねると、マスターが人差し指を立てていた。

 

「一日?」

「一ヶ月じゃ。一ヶ月間ずっと、お主は目を覚まさなかった」

 

 そんなに長い時間寝てるつもりはなかった。正直、楽園の塔の一件で四日寝ているときより寝ていないつもりだった。

 いかにも信じられないといった表情(カオ)をしているステラをみて、またマスターは大きくため息をついていた。

 

「ポーリュシカに診てもらったところ、侵食したエーテルナノによって腫瘍ができていた。所謂(いわゆる)、アンチエーテルナノ腫瘍と呼ばれるものじゃ」

「アンチ……エーテルナノ?」

「しかも、それが頭――脳内に。それだけでなく、体の至るところにも小さいものができている」

「……それが、できると……どうなるんですか」

 

 聞かなくても答えはわかっていた。それでも聞かなきゃいけなかった。確信が欲しかった――本当は、信じたくないから聞いた。帰ってくる答えが、私の想像と違うものであって欲しかったから。

 

「本来は取り除けば助かるんじゃが……お主のは……」

 

 さっきのマスターの言葉を思い出す。頭、脳内にできているというマスターの言葉思い出して、答えを待たずに更に質問した。

 

「……いつ死ぬんですか」

「正確なことはわからん。長ければ数十年は持つかもしれないし、一年で死んでしまうこともある」

 

 私の場合はできた場所が悪すぎた。取り除けば助かる病気と言うが、頭の中にできたものを取り除くことなんてできる医者はこの大陸(イシュガル)にはいないと。

 本来は長年の魔力のオーバーヒートが原因で体内に悪性の塊が出来る病気。しかし、エーテルナノの侵食や短期間の魔力のオーバーヒートによって発症してしまったらしい。

 

「そのことを知ってるのは……」

「ワシとポーリュシカだけじゃ」

「……このことは誰にも言わない。そう約束してください」

「しかし、これ以上戦い続けては……」

「そんなの運ですよ。魔法のせいでその病気が進む確証もないんですよね」

「それはそうじゃが、少しでも可能性は下げるべきだと思う我の」

「明日死ぬかもしれない。それに怯えて、小さな希望にすがって生きるくらいなら、今まで通り過ごす。そのほうが、よっぽど楽しい」

 

 強がりだ。今でも信じられない。だって、明日死ぬかもしれないなんて、実感がない。

 エイリアスに言ったら、怒られるだろうか。いや、言わないほうがいい。このことを知ったら、治すために彼は無茶をする。見ず知らずの私を拾って育ててくれるほどお人好しなのだ。彼の人生にこれ以上重くのしかかることだけはしたくない。

 

「……それで、ラクサスはどうなったんです」

 

 これ以上考えても仕方ないので、話を切り替えてもらうことにした。

 バトルオブフェアリーテイルのあと、ギルドの仲間を危険に晒したということでラクサスは破門……雷神衆にはお咎め無し。ナツや色んな人と揉めたらしい。いくら家族とはいえ、特別扱いはできん。と寂しげにマスターは告げた。

 ラクサスはやり過ぎたんだ。ギルドを思う気持ちが強すぎて、空回りしてしまった。

 どこか憑き物が取れたような顔で、ラクサスは素直にギルドを出ていって旅をしているらしい。

 ……あと何か忘れているような。

 

「そうだ。ミストガン」

「……そのことならエルザにも聞かれたが、すまんが奴のことは知らんのじゃ。無口な奴での」

 

 ラクサスは何か知っている様子だったけど、そのラクサスも今はどこにいるかわからないし。ミストガンがジェラールと同じ顔で、正体が何なのかは謎のままになってしまった。

 

 そのあと、もう一回ラクサスの話に戻った。私はすっかり忘れていたが、ラクサスが滅竜魔法を使えること。

 彼は小さい頃から体が弱く、それをどうにかするために父親が滅竜魔法を使えるようにする魔水晶(ラクリマ)を体に入れたらしい。

 そんなものがあるのも初耳だが、それを差し引いたってラクサスは化物じみた強さだ。体が弱いなんて想像できない。

 

「……これで、ギルド内のゴタゴタも片付いたんですかね」

「まあ、そうじゃの……」

「……なにかあったんですか?」

「いや、これからそれを確かめに行くところじゃ」

 

 そういえば、マスターの服装が評議会に行ったときと同じ正装だ。今気づいた。

 

「ある闇ギルドの動きが不穏だということで、定例会で話し合いをすることになっておる。まあ、大丈夫じゃろ」

「……時間、大丈夫ですか」

 

 しまったぁ!? という顔をしていた。青ざめた顔で部屋を出ていく。

 

「……とりあえず、シャワーでも浴びようかな」

 

 気怠い体を起き上がらせて、部屋を出る。

 

 目に映ったのはギルドの人たちがいつも通り依頼をこなし、バカ騒ぎをして過ごす姿だった。

 ステラがその光景に苦笑を浮かべていると、みんながステラの姿に気づいたようだった。

 

「えっと……おはよ」

 

 シャワーどころじゃなくなったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 


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