【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
壊れてしまったものを見るように、私を見ていた。それでも、私は信じたい。これが間違えになってもいい。
どんな風に見られてもいいんだ。ただ大事なものを守りたいだけだって、忘れないでくれればいい。
だけど、その答えが間違えになるなら、私は裏切ってしまう。仲間も、世界も、なにもかも捨ててしまう。
それでも信じたいというなら、私も信じるよ。
――
「……夢?」
曖昧な意識過ぎて、何があったのかわからない。今までのように、私と
……思い出せない。あれは自分の言葉なのか、それとも――
「目が覚めたようじゃの」
不意に声をかけられて、思わず体が跳ねた。振り向くと、扉の近くにマスターが立っていた。
「……あの世?」
「バカを言うな。ワシはちゃんと生きてるし、お主も生きてる」
危篤って言われてたのに元気に立ってるからあの世かと思ってた。あれ、私って、何してたんだっけ……。
考え込む姿を見て、マスターが大きくため息をついた。
「色々と話しておかねばならんな……。ステラ、体の調子はどうじゃ?」
「……少し頭が痛いです」
体が重い気がするが、それよりも頭がぼんやりする。冴えない感じだ。
「エルザから聞いた。エーテリオンを破壊し、あげく魔力を上げるために食ったそうじゃの」
「……ナツも食べましたよ」
「わかっとる」
マスターはそのまま説明を続けた。そもそも、エーテリオンを止めたときに大量のエーテルナノを浴びたせいで、私の体はおかしくなり始めたらしい。
元々、魔道士は空気中のエーテルナノを自然に摂取して魔力を回復するが、魔力が空っぽの状態で大量のエーテルナノを摂取することで体がオーバーヒートしてしまう。その状態すらまずいのに、更にエーテリオンを食ったせいで、体は限界だったのだと。
それが模様のようなひび割れ。その状態でも普通なら魔法を控えて安静が絶対だった。それなのに――
「ラクサスと全力で戦ったせいで、エーテルナノによる侵食が内部の奥深くにまで進んでしまっておる」
私はいつものように。いや、それどころか全力で戦った。……曖昧だけど、そういえば私は
「……思い当たる節があるようじゃの」
「そういえば……ラクサスはどうなったんですか」
「それも追々話すわい」
「……ちょっと待ってください。そもそも、私って、いったいどれだけ寝ていたんですか」
嫌な予感がして尋ねると、マスターが人差し指を立てていた。
「一日?」
「一ヶ月じゃ。一ヶ月間ずっと、お主は目を覚まさなかった」
そんなに長い時間寝てるつもりはなかった。正直、楽園の塔の一件で四日寝ているときより寝ていないつもりだった。
いかにも信じられないといった
「ポーリュシカに診てもらったところ、侵食したエーテルナノによって腫瘍ができていた。
「アンチ……エーテルナノ?」
「しかも、それが頭――脳内に。それだけでなく、体の至るところにも小さいものができている」
「……それが、できると……どうなるんですか」
聞かなくても答えはわかっていた。それでも聞かなきゃいけなかった。確信が欲しかった――本当は、信じたくないから聞いた。帰ってくる答えが、私の想像と違うものであって欲しかったから。
「本来は取り除けば助かるんじゃが……お主のは……」
さっきのマスターの言葉を思い出す。頭、脳内にできているというマスターの言葉思い出して、答えを待たずに更に質問した。
「……いつ死ぬんですか」
「正確なことはわからん。長ければ数十年は持つかもしれないし、一年で死んでしまうこともある」
私の場合はできた場所が悪すぎた。取り除けば助かる病気と言うが、頭の中にできたものを取り除くことなんてできる医者はこの
本来は長年の魔力のオーバーヒートが原因で体内に悪性の塊が出来る病気。しかし、エーテルナノの侵食や短期間の魔力のオーバーヒートによって発症してしまったらしい。
「そのことを知ってるのは……」
「ワシとポーリュシカだけじゃ」
「……このことは誰にも言わない。そう約束してください」
「しかし、これ以上戦い続けては……」
「そんなの運ですよ。魔法のせいでその病気が進む確証もないんですよね」
「それはそうじゃが、少しでも可能性は下げるべきだと思う我の」
「明日死ぬかもしれない。それに怯えて、小さな希望にすがって生きるくらいなら、今まで通り過ごす。そのほうが、よっぽど楽しい」
強がりだ。今でも信じられない。だって、明日死ぬかもしれないなんて、実感がない。
エイリアスに言ったら、怒られるだろうか。いや、言わないほうがいい。このことを知ったら、治すために彼は無茶をする。見ず知らずの私を拾って育ててくれるほどお人好しなのだ。彼の人生にこれ以上重くのしかかることだけはしたくない。
「……それで、ラクサスはどうなったんです」
これ以上考えても仕方ないので、話を切り替えてもらうことにした。
バトルオブフェアリーテイルのあと、ギルドの仲間を危険に晒したということでラクサスは破門……雷神衆にはお咎め無し。ナツや色んな人と揉めたらしい。いくら家族とはいえ、特別扱いはできん。と寂しげにマスターは告げた。
ラクサスはやり過ぎたんだ。ギルドを思う気持ちが強すぎて、空回りしてしまった。
どこか憑き物が取れたような顔で、ラクサスは素直にギルドを出ていって旅をしているらしい。
……あと何か忘れているような。
「そうだ。ミストガン」
「……そのことならエルザにも聞かれたが、すまんが奴のことは知らんのじゃ。無口な奴での」
ラクサスは何か知っている様子だったけど、そのラクサスも今はどこにいるかわからないし。ミストガンがジェラールと同じ顔で、正体が何なのかは謎のままになってしまった。
そのあと、もう一回ラクサスの話に戻った。私はすっかり忘れていたが、ラクサスが滅竜魔法を使えること。
彼は小さい頃から体が弱く、それをどうにかするために父親が滅竜魔法を使えるようにする
そんなものがあるのも初耳だが、それを差し引いたってラクサスは化物じみた強さだ。体が弱いなんて想像できない。
「……これで、ギルド内のゴタゴタも片付いたんですかね」
「まあ、そうじゃの……」
「……なにかあったんですか?」
「いや、これからそれを確かめに行くところじゃ」
そういえば、マスターの服装が評議会に行ったときと同じ正装だ。今気づいた。
「ある闇ギルドの動きが不穏だということで、定例会で話し合いをすることになっておる。まあ、大丈夫じゃろ」
「……時間、大丈夫ですか」
しまったぁ!? という顔をしていた。青ざめた顔で部屋を出ていく。
「……とりあえず、シャワーでも浴びようかな」
気怠い体を起き上がらせて、部屋を出る。
目に映ったのはギルドの人たちがいつも通り依頼をこなし、バカ騒ぎをして過ごす姿だった。
ステラがその光景に苦笑を浮かべていると、みんながステラの姿に気づいたようだった。
「えっと……おはよ」
シャワーどころじゃなくなったのは、言うまでもないだろう。