【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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23話 雷轟

 エルザだけでなく、ギルド全員の協力によって、神鳴殿は全て破壊された。

 

「馬鹿な……」

 

 それを知ってラクサスは驚き、ナツは当たり前だろ。と言いながら笑った。

 

「みんな同じ輪の中にいるんだ。その輪の中に入らねえ奴が、どうやってマスターになるんだ?」

 

 ラクサスが雄叫びをあげた。雷のように激しく魔力を放出させて、その威圧にナツが吹き飛ばされそうになる。

 

「支配だ! 駆け引きなど最初から不要だった! 圧倒的なこの力こそ、オレのアイデンティティなんだならなァ!!!」

「それをへし折ってやれば、諦めがつくんだな! ラクサス!」

 

 ナツがラクサスを殴る。しかし、全く効いていなかった。ラクサスが軽く振り払っただけで、ナツは簡単にふっ飛ばされて、痺れて動けなくなってしまった。

 

「ったく、なさけねえな。火竜(サラマンダー)

 

 そんな様子を見かねて、横からガジルがラクサスを殴り飛ばした。

 

「ガジル!? ラクサスはオレがやる、邪魔すんな!」

「仕方ねぇだろ。神鳴殿の反撃で他の奴らは動けねえ。気に入らねえがやるしかねえ。共闘だ!」

「んな!? お前となんか組めるかよ、ガジル!」

「アレはギルドの敵だ。ギルドを守るためには仕方ねぇだろ」

「お前がギルドを守る?」

「守ろうが壊そうがオレの勝手だろ!」

 

 話は終わったか? と余裕を見せながらラクサスが話しかける。誰であろうとオレの前に立つ奴は消し去る。そう宣言して二人に殴りかかってきた。

 

「お前と組むのはこれきりだ!」

「当たり前だ! いずれテメェとも決着をつけてやる!」

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「じぃじ! じぃじ!」

 

 無邪気に誰かを呼ぶ声に、気がついて立ち上がる。マグノリアの街の中……しかし、妙な雰囲気だった。人はいるのに、気配がない。

 

「おお、ラクサス!」

「じぃじは、ファンタジアに参加しないの?」

「今年はお前と一緒に見る約束じゃろ」

「やった、やったー!」

 

 ラクサスと呼ぶ声に振り向くが、そこにいたのは小さい男の子だった。その先に、マスターが立っていた。

 マスターと一緒にファンタジアを見れると無邪気にはしゃぐ姿は、今のラクサスからは想像できなかった。

 

「これは……記憶?」

 

 色褪せたような、景色。それでも、誰かの大切な思い出。

 

「どうじゃあ、ラクサス! あれが妖精の尻尾の魔道士じゃ!」

「すげえ、すげえよじぃじ! オレのじぃじは最高のマスターだ!」

 

 マスターがラクサスを肩車して、巨大化していた。二人で仲良く、ファンタジアをみている。ラクサスの目は、キラキラと輝いていた。

 

「じぃじは、今回はファンタジアに参加しないの?」

「お前の晴れ舞台じゃ。客席で見させてもらうよ」

「じぃじのとこ、見つけられるかな……」

「わしのことなどどうでもよいわ」

 

 ……これは、さっきよりもあとのことだろうか。

 

「うーん、じゃあさ! オレ、パレードの最中、こうするから!」

 

 そう言って幼いラクサスは右手を上げて人差し指と親指を立てていた。

 

「なんじゃい、そりゃぁ」

「メッセージ。じぃじのとこを見つけられなくても、いつもじぃじのことを見てるよって証!」

「……ラクサスゥ!」

「見ててな! じぃじ!」

 

 

 

 

 

 

 

「こういうのなんていうんでしたっけ? 親の七光りか、ぶふー!」

 

 何処かの酒場か、カウンターでそんなことを言いながら笑って吹き出す男がいた。

 次の瞬間には、ラクサスがその男に殴りかかっていた。

 

「テメェにオレの何がわかる!」

 

 

 

 

 

 

 

「ラクサス、お前はファンタジアに参加せんのか」

「あぁ? オレはガキの頃からアンタの孫だからってだけで、周りから色眼鏡で見られてんだぞ!」

 

 また急に場面が切り替わった。今より少しだけ幼い姿のラクサスが、マスターと言い争っていた。

 

「ただでさえ居心地悪いってのに、あんな恥かかせやがって! なんで親父を破門にそやがった!」

「……奴は妖精の尻尾に害をもたらす。たとえ家族であっても、仲間の命を脅かす奴をギルドには置いてはおけん。そうやって先代もギルドを守ってきた。それが妖精の尻尾じゃ!」

「だったらオレも追い出すのか? そしたらオレは親父の立ち上げたギルドに入って、アンタを潰す!」

 

 

 

 

「流石はマスターの孫だな。あの年齢でS級になるとはな」

「アイツ、マスターマカロフの孫なのか。そりゃあ強いわけだ」

「マスターの孫だから――」

「ああ、マカロフの孫の――」

 

 

 

「黙れぇぇぇ!!!」

 

 ラクサスの怒号とともに全て消え去った。

 

 これは……ラクサスの記憶――誰も彼を一人の男として認めなかった。誰からも本当の姿を見てもらえなかった孤独。

 どんなに強くなっても、どんなに頑張ってもたった一言「マスターの孫だから」それで片付けられる。それがどんなにラクサスにとって苦痛だったのか。今まで誰も、気づいてあげなかった。

 

「ラクサス……」

 

 それは私にはわからない苦痛だ。誰かと重ねられて、比べられることなんてなかったから。

 きっと、責任や重圧もあったのだろう。それがいつからか歪んでしまった。誰も気づいてやれなかった。

 ……マスターに気づいてほしかったのかもしれない。慰めてもらいたかったのかもしれない。どうすればよかったかなんて、誰にもわからない。

 

「あなたに何ができるの?」

 

 もう一人の()が、呟いた。そうだ。私の声なんて届かないかもしれない。でも、この嘆きを聞いて何もしないなんて、私にはできない。

 

「でも、今は仲間だから。同じギルドの仲間を放っておけない」

「……そう」

 

 私も戦うんだ。同じ仲間として。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「嘘だろ……なんも、ダメージ受けてねえのか!」

「いくらコイツが強えからって、竜迎撃用の魔法をこれだけ食らって無傷なんて、ありえねえ!」

 

 最初こそナツたちとラクサスは互角。いや、ラクサスのほうが優勢だった。しかし、少しずつ息が合い、コンビネーションを決められるようになってきたナツたちが優勢になり、ほとんどの滅竜魔法をラクサスは食らっていた。

 しかし、無傷。……そう、最初から効いていなかった。ステラの滅竜魔法も、ナツやガジルの滅竜魔法も効いていなかった。

 

「そいつァ簡単なことだ。ジジイがうるせえから黙ってたんだがな。特別に見せてやる」

 

 ラクサスの腕に鱗のような模様が浮かび、誰が見ても牙だとわかるくらい歯が尖った。そして、体格も先程の倍になる。

 

「雷竜の――」

「お前も、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)だったのか!? ラクサス!!」

 

「咆哮!!!」

 

 閃光とともに、激しい爆発と雷がナツとガジルを直撃した。……たった一撃で、二人は立ち上がれなくなった。

 

「まだ、息があんのかよ……

 

 

お前らも、エルザも、ミストガンも……ジジイもギルドの奴らも……マグノリアの住人も……全て消えされェェェ!!!」

 

 ただでさえ高くなった魔力が、さらにバカでかくなる。あまりの魔力に、ガジルは震え、ナツはその魔力に気づいた。

 

「この感じ、じっちゃんの……」

「……聞いたことあんぞ、マスターマカロフの超絶審判魔法。術者が敵として認識した全てを葬り去るって……あの――」

 

「そうだ! 妖精の法律(フェアリーロウ)だ!」

 

「やめて! ラクサス!」

 

 すぐ近くにまでレビィが来ていた。しかし、誰もそれに気づけなかった。

 

「よせっ!  来んじゃねぇ!!!」

 

 ガジルの声が響く。それでもレビィは足を止めない。

 

「ラクサス……あんたの……あんたのおじいちゃんが……マスターが!  危篤なの!!」

 

 その言葉に、その場にいたもの全員に同様が走る。

 

「……ジジイが?」

 

 レビィの言葉にナツとガジルは目を見開き、言葉を無くしラクサスも驚愕の表情を浮かべる。

 その表情に、一度は気持ちが揺らめいたのだと。マカロフに会ってくれるのではないか。そう考えていたのに、それを裏切るようにラクサスは笑いだした。

 

「ちょうどいいじゃねえか……これでオレがマスターになれる可能性が、再び浮上したわけだ」

「そんな……」

「お前は……なんで……そんな――」

 

 今にも術を発動しようとしたラクサスの背後に人影が見えた。

 

「――ステラ!?」

「貴様ッ!!!」

「ラクサス……私には、その苦しみはわからないし、何が正しかったのかもわからない」

「何を――」

「でも、本当に大好きなんでしょ? 妖精の尻尾や……じぃじのことを……」

 

 次の瞬間、ラクサスにステラが殴り飛ばされた。

 

「テメェ……ジジイから妙なこと聞きやがったな」

 

 倒れたステラの髪を掴んで、ラクサスが持ち上げた。痛みで顔を歪めたステラだったが、それでも言葉を続けた。

 

「マスターやギルドの仲間に……誰かから、一人の男として認められたかった。でも、こんなことしても、誰も――」

「テメェに……何がわかる!」

「――わからない! でも、これが正しくないって、誰もこんなことで認めてくれないってわかる! だから、私は……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士として、仲間として……止めてやるんだ!」

「黙れぇぇぇ!!!」

 

 殴りかかろうとするラクサスを持ち上げて、ステラはそのまま柱に突っ込んだ。そのまま何度も殴るが、ラクサスに髪を掴まれて投げ飛ばされる。その手が離された瞬間に、咆哮を繰り出した。

 

「この……死に損ないがァァァ!」

「だあぁぁぁッ!」

 

 殴り合い。しかし、うまくステラが避けて対応していた。

 逆上したラクサスは、それに気づかずに単調に殴りかかっていた。

 

「がはっ――うわぁぁぁッ!! がっ!」

 

「やめてステラ! もう、戦わないで!」

 

 しかし、攻撃をまともに食らっていなくても既にボロボロだったステラは、自分の攻撃の衝撃ですらダメージを食らっていた。

 それを見たレビィが声をかけるが、ステラは止まらなかった。

 

「雷竜の崩拳!」

 

 ナツの鉄拳とは比べ物にならない広範囲の魔法に、思わず空中に飛んで逃げた。すぐにラクサスも追ってくるが、ステラも翼をつくって宙を舞う。

 

「引き摺ってでも、マスターのところに連れて行く!」

「二度と口を開くな! この餓鬼が!」

「白き竜よ、その爪で世界を白く染め上げろ――」

 

 詠唱を始めたステラに閃光とともに飛んだラクサスの蹴りが直撃した。しかし、ステラは何とか意識だけは保っていた。

 

雪花氷嵐撃(せっかひょうらんげき)!」

 

 氷のように鋭い造形を腕や足に纏い、花が舞うように連撃を繰り出した。滅竜魔法を込めた造形は、見事にラクサスを斬りつけていた。

 

「――だあっ!」

 

 最後に力を込めて地面まで叩き落とした。……ステラも造形魔法の翼が消えて、地面に墜落した。

 苦しそうに咳き込んで、ステラは起き上がれそうになかった。レビィが駆け寄り声をかけたが、それに答える余裕もなさそうだった。

 

「まだだァ!」

 

 またしても雷の轟音が鳴り響く。ラクサスは立ち上がった。そして、また妖精の法律(フェアリーロウ)の発動をしようとした。

 それに気づいたステラも立ち上がろうとするが、先程以上の魔力で吹き飛ばされて近づけなかった。……ナツやガジルも同様に飛ばされて、止めに入れなかった。

 

「オレは一から創り上げる! 誰にも負けない、皆が恐れ慄く、最強のギルドを!」

「そんなことしても……マスターは越えられない!」

 

 最後の力を振り絞って、ステラが吠えた。だが、それを聞いてもラクサスは笑って聞き流した。

 

「消えろ! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)ゥ!」

「ラクサス!!!」

 

 

 

 

 

 眩い光がカルディア大聖堂を呑み込み、その光は街中を呑み込んだ。激しい魔力が、眩い光とともに弾け飛んで対象者に降り注いだ。

 

 

 

 

 

「……オレは……ジジイを越えた……」

 

 誰も彼も消え去り、そこに立っているのはラクサスだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、はずだった。

 

「……言ったはずだ、引き摺ってでもマスターのところに連れて行くって」

 

 砂埃の中から影が現れて、そう呟いた。……見れば他にもいくつかの影。

 ステラ、ナツ、ガジル、レビィ。全員無事だった。

 

「バカな……あれだけの魔力を食らって、無事で済むわけねえ!」

「街の人も……ギルドのメンバーも全員無事だ」

「フリード!?」

 

 傷だらけのフリードが立っていた。ラクサスと別れたあと、ジュビアとカナを仕留めたが……キレて本来の力を取り戻したミラジェーンに敗北したのだ。

 

「そんなはずはねえ! 妖精の法律(フェアリーロウ)は完璧だった!」

「そうだ。だから、これがお前の本心だ」

 

 妖精の法律(フェアリーロウ)は術者が敵と認識した全てを滅ぼす超絶審判魔法。

 

「お前がマスターから受け継いでいるのは、何も力だけじゃない……仲間を思うその心」

「ち……違う! オレの邪魔をするやつは全て敵だ! 敵なんだ!」

 

 魔法に心の中を見透かされた。と、レビィは呟いた。本当は、敵ではなく仲間と認識していることを魔法によって――だが、それをラクサスは否定した。

 

「オレは……オレだァ! ジジイの孫じゃねえ! ラクサスだァァァ!!!」

「あはははは! そんなことに拘るなんて、どっちのほうが餓鬼なんだか!」

 

 そんなラクサスの叫びをステラはかき消すように大声で笑いだした。

 ステラの魔力の質が笑い出すと同時に変わったのをその場にいた全員が感じ取った。

 

「……そうか、テメェが」

 

 ようやくお出ましかと、ラクサスが笑う。ジョゼを倒したのはジジイじゃねえ。この(ステラ)だと、確信した。

 ラクサス以外の全員に悪寒が走った。特にフリードは自分と戦ったときに微笑(わら)ていたのはこいつの方だと、嫌な予感が的中した。

 

「来いよ! ステラ!」

「言われなくても、そうするさ!」

 

 先ほどまで咳き込んで倒れていた姿からは想像できないほどの疾さだった。そして、カウンターも鋭かった。ラクサスが殴ってきた勢いを利用して、顎めがけて肘打ち。そして、その表情(カオ)は嬉しそうに笑みを浮かべている。

 冷静になったラクサスの動きも先程より研ぎ澄まされていた。しかし、妖精の法律(フェアリーロウ)で魔力を消費していたためか、一撃に今までの重みはなかった。

 

「雷竜の咆哮!」

「雪竜の咆哮!」

 

 ラクサスの咆哮にも素早く反応し、同じように咆哮を放って相殺。

 やるじゃねえか。と呟くラクサスに対して、ステラの表情はどこか浮かないものになっていた。赤く染まった瞳からも、光が消えた。

 

「駄目だ。こんなの、つまらない」

 

 妖精の法律(フェアリーロウ)によって、ラクサスは魔力を相当消費していた。それをステラは察したのだ。

 

「……どういう意味だ?」

「やめた。(ステラ)が怒るから。今の貴方にそこまでする意味もない」

「何言ってやがる」

「マスターの危篤を聞いてから気が散ってるくせに。心配ならさっさと行ってやれ」

「……ジジイは関係ねえって言ってんだろ」

 

 バチバチと雷を発生させて、ラクサスの全身に力が入る。魔力も高まった様子をみて、へえ。とステラが呟いた。

 

「あれだけの魔法を使って、まだそんな力があるんだ」

「強がるなよ、雑魚が! 雷竜奉天画戟(ほうてんがげき)!」

 

 武器の形状をした雷が、ステラ目掛けて投げられる。しかし、すでにステラは視界から消えていた。

 

「滅竜――」

 

 後ろから声が聞こえて振り向こうとしたラクサスだったが。ラクサスの背後をとったステラの手には造形魔法で刀が構えられていた。

 

「雪月花"一閃"」

 

 大聖堂の中が一瞬で雪景色に変わった。それに気づいたときには、既にステラは振り向いたラクサスとは逆の方向に立っていた。

 ナツやガジルたちが呆気にとられていると、ラクサスが膝をついて、そのまま倒れた。

 

「ラクサス!」

 

 フリードがラクサスに駆け寄る。確認すると傷はなく、気を失っているだけのようだった。

 

「さて、あとはマスターのところに――ッ……」

 

 それはオレがやろう。とフリードが言葉を返そうと振り向くと、ステラが膝をついて苦しんでいた。口を抑える手は赤く染まり、そして顔にまでエーテルナノの侵食による模様浮き出ていた。

 

「ステラ!」

 

 ナツとレビィがその様子を見てステラに駆け寄った。エーテルナノの侵食なんてどう対処したらいいのかわからず、ただ声をかけることしかできなかった。

 ステラの呼吸が少し落ち着いたのを見計らって、ナツがステラを背負ってギルドに運ぶことになった。

 

「ラクサスのこと、頼んだぞ」

 

 ナツがそう言い残して、フリードと倒れているラクサス以外のメンバーはギルドに戻っていった。


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