【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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22話 雷鳴

 ゼレフ書の悪魔を仕留めたという噂や、幽鬼の支配者(ファントム)との戦争ではマスタージョゼと互角以上に渡り合ったという噂。

 しかし、事実として残っていたのは幽鬼の支配者(ファントム)滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)にやられたという話だけだ。

 ステラという少女にはラクサスも興味を持っていた。だが、調べてもナツのように素性は不明。だから直接顔を合わせた。

 『アイツは楽しめそうだ』そう呟いたラクサスは笑っていた。そんなラクサスに、フリードは不安を抱いていた。

 

 

/ 

 

 

 街中を走っていると、本当に至るところで戦いが起きていた。来るときは祭りで騒がしいのかと思っていたが、今思えばあれも仲間同士で戦っている最中だったのだろう。

 目的のために手段を選ばない戦闘ばかりだった。ラクサスの思う壺ということに気づいていない。そのくらい焦っているのだ。

 それにしても、術式は相当厄介だ。踏んでから発動まで少しの時間に抜け出せなければ、その書いてある文字に従うしかない。

 今のところは何とか避けているが、一瞬でも気を抜けば術式にはまって終わりだ。

 

「……やっぱり、フリードって奴を叩くしかないか」

「奇遇だな。オレも貴様を叩くつもりだった」

 

 愚痴るように呟くと、急に目の前に人が現れて、剣を抜いて斬りかかってきた。……少し顔を掠めた。

 まさか、呟いて数秒で目的の人物を発見できるとは思わなかった。

 

「ほう、なかなかやる。術式に気を取られている隙を狙ったんだがな」

「不意打ちとは汚いな」

「戦いとはそういうものだ」

 

 すぐに造形魔法を繰り出した。五匹の狼をフリードに向かわせたが、フリードが一歩下がると、狼たちが術式の中に閉じ込められた。

 

「この中で魔法は消え去る」

 

 その文字通り、造形魔法は跡形もなく消え去ってしまった。

 迂闊に追いかけて、術式のある場所に誘導されても面倒だし、戦いにくい。そう考えて、距離を取りながら自分から追いかけることはしなかった。

 

「逃げるつもりか!」

「アイスメイク"(ウイング)"」

「闇の文字(エクリテュール)"翼"」

 

 意外とあっさりと追ってきてくれて助かった。空中に術式はないだろうから、戦いやすい。

 

「雪竜の咆哮!」

「闇の文字(エクリテュール)"拒絶"」

 

 息吹(ブレス)にそう書かれた瞬間、フリードから遠ざかりステラのほうに跳ね返ってくる。自分の息吹(ブレス)のため、そこまでダメージはないが、視界が奪われる。振り払うと既にフリードの姿がなかった。

 

「闇の文字(エクリテュール)"痛み"」

「……っ!」

 

 下から迫ってきたフリードと魔法を避けようとしたが、避けきれずに右腕に文字を書かれた。

 文字を書かれた腕が軋んで、ズキズキと痛んでいた。……なるほど、あの文字は簡易的な術式のようなものかと理解して、その痛みが激しくなって体が強張る。

 

「安心しろ、手加減はしてやる」

「こんな酷い魔法かけといて、手加減か」

「禁じ手は使わんからな」

 

 禁じ手が何か気になったが、それを使われる前に決着をつけるべきだ。

 痛む体に鞭打って、私は戦いを再開した。

 

 

/

 

 

 互いに避けながら攻撃を繰り出し、決定打になるほどの傷を与える程には至らなかった。

 

「初歩的なこともわからんのか。どんな強力な魔法でも、当たらなければ意味がない」

「それは、お互い様だ!」

 

 そんな状況に、しびれを切らしたのはステラのほうが先だった。

 

「闇の文字(エクリテュール)"死滅"!」

「――いったッ!」

 

 避けずに突っ込んできた。わざと右腕を突き出して文字を書かせて、そのままフリードの剣を握ったのだ。

 

「――なにっ!?」

「一花"氷刃"!」

 

 左手で刀を造形して、フリードを斬りつけた。

 

「雪竜の鋭爪(えいそう)!!」

 

 そのまま一回転して、そのままフリードに蹴り落としを食らわせて、地面に叩きつける。

 

「……っ! 腕が動かないか」

 

 そのまま突っ込んで殴りつけようと思ったが、バランスを崩してしまい、ステラは距離を取った。フリードは剣を落とし咳き込んでいた。

 

「――! エバがやられたのか」

 

 ステラの様子には気づかず、他の何かに気づいた様子のフリードは、この場は逃げることに決めた。

 何か文字のようなものが浮かんで、フリードが姿を消した。攻撃をしかけていくるのかと身構えていたが、しばらくして完全に気配が消えて、逃げられたのだとステラは舌打ちした。

 

「エバ……エバーグリーンのことか」

 

 たしか、雷神衆の一人でミスコンに出ていたメンバーを石に変えた人物だ。それがやられたということは、石化が解除されるはずだ。

 

「全く動かないか……なんて魔法だ」

 

 向こうに致命傷を与えられず、腕一本は代償として大きすぎる。本当に、先が思いやられると、ステラは大きくため息をついていた。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「あれ、エルザは?」

「熱したら割れて、復活した」

 

 ギルドに戻ると、エルザの姿だけなかったので話を聞くと、ナツが火で炙ったら石が割れて無事……復活。

 それのどこが無事なのかわからないが、復活したエルザがエバーグリーンを倒して人質も解放。これで一件落着かと思った矢先だった。

 

『聞こえるかジジイ、そしてギルドの奴ら。バトルオブフェアリーテイル継続のために、オレは神鳴殿(かみなりでん)を起動させた』

 

 ギルドの拡声器を使って、ラクサスが新たなルール追加の宣言をした。神鳴殿(かみなりでん)。次の人質は、マグノリアの住人だという宣言だった。

 

「何を考えておるラクサス! 関係のない人たちまで巻き込む――」

 

 鬼気迫る勢いでマスターが声を荒げた。すると突然、胸のあたりを抑えて苦しそうに倒れてしまった。

 

「じっちゃん! 神鳴殿ってなんだよ!」

「ぬ……ぐぅぅ……」

「じっちゃん……」

 

 ナツがマスターに詰め寄ったが、既にマスターに答えるほどの元気はなかった。

 ミラが急いで薬を取りに行き、マスターを医務室まで運んだ。それが終わり、ギルドにいたメンバーが外に出ると、空には無数の魔水晶(ラクリマ)が浮かんでいた。

 

「……一つ一つに、相当な魔力が蓄積されてる」

 

 その場にいた誰かが、そう呟いた。あれが開放されると、街に魔法――無数の雷が落ちるのだろう。名前の通りというわけだ。

 

「あんなもの、私が落としてやるわ!」

 

 ビスカが魔法で、魔水晶(ラクリマ)の一つを撃ち落とした。

 

「――きゃあああ!!」

 

 雷鳴が轟き、ビスカが一瞬で黒焦げになった。その様子を見たカナが、生体リンク魔法。と呟いた。

 攻撃した対象者に、同じダメージをリンクさせる魔法。……これで、魔水晶(ラクリマ)には手を出せないというわけだ。

 

「こうなったら、ラクサスをやるしか!」

「待ちなさいステラ! あんた、その腕動いてないんでしょう?」

 

 全ての元凶であるラクサスをどうにかするしかないと思った。しかし、造形魔法で翼をつくって、飛ぼうとしたところで、カナに止められる。

 さっきフリードにやられた右腕は、痛みは消えたが完全に動かなくなっていた。

 

「そんな状態でラクサスと戦っても、負けるわよ」

「でも、そこの二人が駄目な以上、まだ私のほうがまともに戦える」

 

 そう言って、ガジルとナツを指さした。理由はわからないが、私以外の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)は、術式から出られなかった。ガジルに至ってはカッコつけたあげく出られなくて恥をかいたらしい。

 

「その傷……文字魔法の一種よね。私がなんとかしてみる。術式も!」

 

 腕の傷を見るなり、そのことを一瞬でレビィは見抜いた。結局、そのまま治療してもらうことにした。

 右腕を机にのせてレビィに診てもらう最中。暇だったこともあり、ガジルに話かけてみようと思った。

 

「で、どういう風の吹きまわし?」

「あ?」

「ギルドを壊した張本人が、ギルドのために戦ってくれるなんてさ」

「あいつには個人的な借りがあるんだよ。それだけだ」

「……ふーん」

 

 特に裏があるとかいう感じはしなかった。やられたからやり返す。それ以外のことはどうでもいいという感じ。

 

「テメェはどうなんだ」

「なにが?」

「一度オレにやられてるだろ。そんな奴といてイヤじゃねえのか」

「好きか嫌いで言えば嫌いだけど。許してないし」

 

 それに負けたなんて思ってない。と付け足した。ガジルは勿論それに反論したが、関係ない人を狙って、それで勝って嬉しいの? という挑発に、思い当たる節のあるガジルはケッ……とバツが悪そうに顔をそらした。

 

「いずれ火竜(サラマンダー)にも雪辱を果たさなきゃならねえが、お前とも再戦してやるよ」

「やるよ? 随分と上から目線だね」

「細けえことはいいんだよ」

 

 小娘のくせに火竜(サラマンダー)よりむかつくぜ。なんて台詞を吐きながら、立ち去ってしまった。

 

「よし、解けた!」

 

 難しい顔をしていたレビィが、ようやく笑顔になった。確かに動く。魔法は解除できたようだ。

 

「ありがと、次は術式だね」

「うーん……色々と考えてるんだけど、まずは文字列を――」

 

 そこから全くわけのわからない説明が始まった。キーコードはどれとか、何とか文法に変換してとか。一つも言ってることがわからない。

 私の腕にかけられた魔法もこんな面倒なものだったのかと、身震いした。

 

「必ずラクサスを止めて! 無理したら駄目だからね!」

「無理するな……ね」

 

 あのラクサス相手に無理するななんて無理だろう。しかも必ず止めてって矛盾してる。なんて意地の悪い考えをしながら、喧嘩するガジルとナツの横を抜けていった。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 フリードは戻ってきて早々、ラクサスの行動の数々に疑問を持った。バトルオブフェアリーテイルを続けるために、街の人(マグノリア)を人質に神鳴殿の発動。いくら何でもやりすぎだと。

 

「神鳴殿……そこまでやるのか、ラクサス」

「……何をしているフリード。ビッグスローはまだ妖精狩りを続けてるぞ」

「しかし……」

「お前はファントムの女とカナをやれ。ジジイの希望、エルザはオレがやる。殺してもいい」

「殺すって、今は敵でも同じギルドの――」

「オレの命令がきけねえのかぁぁぁ!!!」

 

ラクサスがブチ切れて、雷が落ちる。あまりの気迫に、フリードは言葉を失った。

 

「ここまでやってしまった以上、どの道戻れる道はない。オレはあんたについていくよ。任務を遂行しよう――後悔するなよ」

「今更じゃないか。後悔するなら、最初からやるなって話だ」

 

 ラクサスとフリードだけがいるはずの空間に、他の人の声が響いた。白い髪の少女――ステラが大聖堂の入り口に立っていた。

 

「貴様、なぜここが!」

「滅竜魔道士は鼻がきく。それくらい知ってるでしょ?」

「丁度いいところに来た。おい、ステラ。お前、こっち側につかねえか!」

「ラクサス!?」

 

 ラクサスの突然の提案に、フリードが驚く。それこそ、神鳴殿の発動以上の衝撃だった。

 

「……どういうこと」

「わかるだろ。このギルドがどれだけ腑抜けた状況か。お前の力は認めてるんだ。オレがつくるギルドは力こそ全て――そうなれば、仲間から白い目で見られることもなくなる」

「その原因をつくったのは、お前じゃないか」

「そうか? 幽鬼の支配者(ファントム)のマスターと戦ったときに見せた力。それを恐れてるくせに、こういう(・・・・)状況になったら、頼ってくる。そんな身勝手な奴らといて、何になる?」

「……身勝手なのはそっちだと思うけど」

 

 確かにステラは一度、ギルドの形に疑問を持った。ギルドを辞めようとまで考えたこともある。

 

「断る。そんなギルドつまらなさそうだし」

「……ちっとぁ骨のある奴だと思ってたが、ジジイに毒されたみてえだな」

 

 ラクサスの目の前まで飛んだステラが滅竜魔法でラクサスを蹴り上げる。しかし、それと同時にステラに雷が直撃する。

 ステラとラクサスの口元が釣り上がる。

 

「ラクサス!」

「こいつはオレがここで潰してやる。さっさと行け、フリード」

「しかし、こいつは!」

「――行け!!!」

 

 邪魔をするな。そういう感情が読み取れるほど、怒りと……悦びがラクサスから読み取れた。ラクサスの言葉に従い、フリードは姿を消した。これ以上は言っても無駄だろうと判断した。

 

「来いよ。格の違いってもんを教えてやる!」

 

 ステラが構えたと思った瞬間、先程よりも疾くラクサスの後ろに回り込んできた。だが、ラクサスもそれに対応し、瞬時に振り向き、殴りかかろうとするステラの右腕を掴んだ。

 

「一花"薄氷"」

「――っ!?」

 

 右腕を掴まれたまま、ステラはラクサスの顎をもう一方の左手で突き上げる。本来は造形魔法と同じような魔力を込めるが、ラクサスに対しては最初から本気――滅竜魔法と同じ魔力で突き上げていた。しかし、ラクサスも腕を離さなかった。

 

「二花"氷撃"」

 

 掴まれた右腕を離させようと、突き上げた左手から、首元めがけて左肘で突く。

 

「三花"薄氷割り"」

 

 刹那、ステラの腕を掴んでいたラクサスの力が弱まった。その隙を見逃さず、腕を振り払いそのまま回転してラクサスを蹴り飛ばした。

 

「四花"霜柱"」

 

 蹴り飛ばしたラクサスにそのまま追いついて蹴り上げた。

 

「五花"氷爪"」

 

 蹴り上げたラクサスに追い打ちをかけて、そのまま上空まで打ち上げる。

 

「六花"息吹"」

 

 打ち上げたラクサスめがけて、咆哮を繰り出した。いつも以上に、本気で全力の滅竜魔法だった。

 大聖堂の窓ガラスが全て吹き飛び、壁も一部崩れて大きな轟音が街中に鳴り響いた。

 それと同時に、大きな笑い声が大聖堂に響き渡る。

 

「この程度か! 滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)が聞いて呆れる!」

 

「雪竜の翼撃!」

 

 服が破けた程度の傷しか見られなかったが、ステラには確かに手応えがあった。ここで止めたらダメだという直感のまま、自身も空中に飛び上がり、追い打ちをかけようとした。

 

「鳴り響くは招来の轟き、天より落ちて灰燼と化せ! レイジングボルト!!!」

「ぐぁぁぁっ――!?」

 

 しかし、攻撃したのは残像だった。既にラクサスは地面に立っていて、ステラに魔法を直撃させた。

 

「なめるな!!」

 

 ラクサスの魔法を振り払う。しかし、既にラクサスの姿はなかった。

 後ろだとわかっていたのに、ラクサスの魔法によって麻痺した体は言うことをきかず、雷を纏った足で踏み落とされた。

 地面に墜落したステラを、そのままラクサスは踏みつけた。そして、そのまま蹴り飛ばした。

 しかし、ステラも受け身をとって地面を蹴り飛ばし、そのままラクサスを殴った。

 

「消えろ! 雑魚がァ!!!」

「――だあぁぁぁ!!」

 

 殴って、蹴って。互いに一歩も引かずに攻防を繰り返した。しかし、体格差からか、ステラのほうに確実に攻撃があたり、そのまま蓄積されたダメージの差が響き、体制を崩したのもステラが先だった。

 

「逃がすかよ!」

「――っ!」

 

 距離を取ろうとしたステラの腕を掴み、そのまま殴り続けた。体制を崩して、しかも距離を取ろうとしたステラに、攻撃する時間はなく、かろうじて防御するのが精一杯だった。

 

「雪竜の咆――」

「させねえよ!」

 

 ステラが魔法を出すよりも早く、ラクサス顔を鷲掴みし、そのまま地面に叩きつけた。そのまま床や壁関係なく引きずり回されて、投げ飛ばされた。

 何とか受け身をとるステラだったが、そのまま攻撃に移るほどの余裕はなかった。

 

「――がはっ!」

 

 膝をついてステラが口を抑える。咳き込んで、血がこぼれた。――ステラの白い髪の毛がじわじわと赤く染まる。頭も切れて、出血していた。

 

「クソッ――なっ!?」

 

 立ち上がろうとしたステラの顔を、ラクサスが容赦なく蹴り飛ばす。最初の猛攻とは立場が逆転し、これでもかとラクサスに殴られ、蹴られ、抵抗もいなされて逆に一撃もらう羽目になっていた。

 

「……やはりその傷、普通じゃねえな」

 

 ステラの包帯が取れて、その腕にあるエーテルナノによるひび割れた傷を見てラクサスが呟いた。明らかに隙だったが、ステラは攻撃できずに咳き込んでいた。

 こんな雑魚と戦ってもつまらねぇと、舌打ちをしてラクサスは大聖堂の入り口めがけてステラを蹴り飛ばした。

 勢いよく飛んでいたステラの体を、誰かが受け止めた。

 

「よお、遅かったじゃねえか。ミストガン」

 

 ミストガンの腕を振り払って、ステラは一人で立ち上がろうとする。しかし、立ち上がれずミストガンに倒れ込んだ。

 

「神鳴殿を今すぐ止めれば、まだ余興の範囲内で済むかもしれない」

「何おめでたいこと言ってやがる。ここではっきり、妖精の尻尾最強は誰か、白黒つけてやる」

「そんなことしか考えないとは……どっちがおめでたいのか」

「二人でかかってくればいい勝負になるかもしれねえぞ、ミストガン――いや、アナザー――」

「――!」

 

 アナザー。その先を聞き取る前にミストガンが杖を突き出してラクサスに攻撃を繰り出した。

 

「そのことをどこで知った」

「さあな、オレに勝てたら教えてやるよ」

 

 その瞬間、ミストガンから明確な意思――戦うという気迫をステラは感じていた。

 

「君は下がっていろ」

「な――元々は私の戦いだ。あとから入ってきて、なにを――」

「よそ見してんじゃねえよ!」

 

 殴りかかってきたラクサスをミストガンは難なく受け流し、杖を地面に立てた。

 

「摩天楼」

 

 ミストガンがそう呟くと、ラクサスの動きがピタリと止まった。

 

「な……なにをしたの?」

「幻をみせている。しかし、それもすぐに気づくだろう」

 

 そのまま指を動かして、ミストガンは魔法陣をラクサスの真上に描いた。

 

「君は早く逃げるんだ。その傷では足手まといになる」

「でも――」

「ハハハ! くだらねえな! こんなもの()でオレをどうにかできると思ったか! ミストガン!」

 

 まだ戦える。そう言おうとするよりも早く、ラクサスはミストガンの魔法による幻覚を抜け出して、雷を放っていた。

 

「流石だ。しかし、気づくのが一歩遅かった。眠れ! 五重魔法陣"御神楽(みかぐら)"!」

「気づいてねえのは、どっちだ」

 

 魔法が避けられない状況で、ラクサスは不敵な笑みを浮かべた。そして、すぐ理由はわかった。

 ステラの立っている真下の地面が光りだした。

 

「ちっ! ぐあぁぁぁ!」

「うおぉぉぉ!」

 

 ミストガンはステラを突き飛ばした。すると、雷が地面から放出されて、ミストガンに直撃。それと同時に、ミストガンの魔法もラクサスに直撃した。間一髪のところで、ステラはミストガンに助けられた。

 ミストガンにかけよって、ステラは思わず声をかけた。

 

「私のせいで……ごめんなさい」

「ああ、君は大丈夫か?」

「……ジェラー……ル?」

「――! くっ!」

 

 顔を覆っている布が破れて、素顔があらわになっていた。いるはずのない男の名前を思わず口にしていた。

 

「「ラクサス!」」

 

 そんな困惑する状況の中、声の聞こえた大聖堂の入り口には二つの姿――ナツとエルザが立っていた。

 

「――ジェラール?」

 

 エルザも、そこにいる男の顔を見るなり、その名前を呟いた。

 

「ほう、知ってる顔だったか」

 

 そんな状況を一人だけ、ラクサスは嘲笑うかのように呟いた。

 

「エルザ……あなたにだけは見られたくなかった」

「え?」

「その男はしっているが、私ではない。私はミストガンだ」

 

 ステラとエルザが言葉を失う中、ナツ一人だけ、ミストガンがジェラール? いやわけわかんねえ! とコントのように混乱していた。

 そんな状況の中、あとは任せたと言い残して、ミストガンは姿を消してしまった。

 

「似合わねえ面してんじゃねえよ! エルザ!」

「させるかッ!」

 

 エルザに攻撃をしようとしたラクサスをステラが間一髪で止める。

 

「ほう、まだ動けるのか」

「参ったなんて言ってない!」

 

 エルザとラクサスの取っ組み合いになり、そのまま睨み合いになる。しかし、突っ込んできたナツに向かって投げ飛ばされた。

 ミストガンの正体――ジェラールと同じ顔をしているのはステラも気になった。しかし、それどころじゃない。それは、エルザも同じ考えだった。

 

「ラクサス! あの空に浮かんでいるものはなんだ!」

「神鳴殿、聞いたことあんだろ」

「なに!? ナツ、全て破壊しろ!」

「できねえんだよ! ちょっと、違うな……破壊したらこっちがやられんだよ!」

「生体リンク魔法か!」

「そういうことだ!」

 

 雷が轟き、エルザが吹き飛ばされる。しかし、雷が当たるよりも早く、エルザは換装していた。

 

「雷帝の鎧か、そんなものでオレの雷を防ぎきれるとでも」

「エルザ! 何やる気になってるんだ! オレがラクサスと戦うんだ!」

 

 ナツのその言葉を聞いて。そうか、とエルザが頷いた。

 

「神鳴殿……全て、私が破壊しよう」

「なっ!? エルザ……!!」

「――ッ!?  テメェ、ゲームのルールを壊す気か!! もう発動まで時間もない間に合うはずもねぇ!!」

 

 ラクサスの怒声が響き渡る。どこか焦るラクサスを見ながら、エルザは笑った。

 

「全て同時に破壊する」

 

 冷静に言葉を告げるエルザ。その言葉を鼻で笑うラクサス。

 

「無理だ! 1つ壊すだけでも下手すりゃ死ぬ……全部一人でやればテメェは死ぬぜ」

「だが街は救われる」

 

 そうして、そのままエルザはこの場を立ち去ろうとする。すると、ナツが声をかけた。

 

「……信じていいんだよな。出来るかじゃねぇ!  お前の無事をだぞ!! 」

「ああ」

「させるか!」

「お前の相手はオレだって言ってんだろ!」

 

 エルザを止めようとしたラクサスをナツが殴り飛ばした。受け身をとったラクサスをステラが追い打ちで蹴り飛ばす。それに不満を持ったナツが声を荒げた。

 

「ステラ! 手を出すなって――」

 

 しかし、ステラの姿を見てナツが言葉を失う。ラクサスが本気で潰そうとしている。それがハッキリとステラの傷として現れていた。

 

「いや、オレ一人でやる」

「ナツ!? わがまま言わないで――がっ!?」

 

 一瞬、ステラには何が起きたのか理解できなかった。お腹のあたりに衝撃が走って、次に痛くて……ナツに殴られたのだと理解した。

 

「――ナツ……?」

 

 ――どうして……。

 

 完全な不意打ちで、ステラはそのまま気を失った。なぜ、殴られたのかわからないまま。その頬には涙が流れていた。

 

「おいおい、そこまでやるかナツ」

「――ここまでやるのか」

「あ?」

 

 ステラを殴って気絶させたナツをラクサスは馬鹿にするように笑った。

 ギリギリと音が鳴るくらい、ナツは噛み締めて力を入れていた。誰が見てもわかるほど、ナツの炎が爆発的に燃え上がった。

 

「同じギルドの仲間に、ここまでやるのかよ! ラクサス!!!」

 

 激情に任せてナツが吠えて、そのままラクサスを殴った。

 

「テメェのバカ一直線も、いい加減煩わしいんだよ!」

 

 吠えたナツをラクサスも殴る。互いに腕を掴み、殴り続けていた。

 

 

 

 

 

 カルディア大聖堂に、爆炎の爆発と雷轟が鳴り響く。その音は段々と大きくなり、街中に響き渡るほどにまで発展していった。

 まるで、竜の雄叫びのようにその轟音はナツの怒りを表していた。


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