【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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19話 半端者

「――ったく、この塔の中を探せって言われてもな」

 

 こういうときこそ、ナツがいれば匂いで探せるが、一人で突っ走るナツをグレイを含めた全員がいつものように見失ってしまった。

 ステラはシモンが逃したそうだが、アイツが塔から逃げるとはグレイは考えていなかった。ジェラールとやらがいる場所に一人で突っ込んでいる可能性のほうが高い。

 途中で大きな爆発があったが、武器庫でも暴発したのだろうか。立っていられないほどだったが、塔が崩れることはなかった。

 

「おーい! ステラー!」

 

 名前を呼び続けながら走り続けていると、ドゴン、と鈍い音が聞こえてにた。その音は断続的に聞こえて、誰か戦っているのだろうと理解して、その音が聞こえる方向に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目に入ったのは、ガタイのいい梟の頭をした男が、大きな口をあけて何かを飲み込もうとしていた。遠目で何かわからなかった。

 何だアイツ、そう思いながらグレイはその男に近づいた。

 その手に持っているものがわかった瞬間に、その名前を叫んだ。

 

「ステラ!」

 

 パクリと一口で、梟はステラを飲み込んだ。

 

「てめぇ! 何しやがるんだ!」

 

 すぐに造形魔法で攻撃をした。しかし、その梟の体に当たった氷の造形魔法が砕けた。

 

「なにっ!?」

 

 一瞬驚き、距離を取る。すると、近くにシモンが倒れていることに気づく。

 

「お前、エルザたちと一緒にいたんじゃねえのか!」

「……ショウのやつが、突然エルザをカードに閉じ込めてしまって、それを追っていたんだが」

「なんだと!?」

 

 考えていた最悪の事態に怒りを顕にするグレイ。もしもエルザのかつての仲間が裏切ってしまったとき、対処しようがなかったメンバーの分け方だったからだ。

 

「クソが! ステラを見つけたと思ったら、てめえら次々に問題を起こしやがって!」

「ホーホホゥ、貴様の悪名も我がギルドに届いている。私が裁いてやろう」

「まだ生きてんだろうな!」

 

 こんなやつさっさと片付けて、エルザの後を追わねえと、そう考えている矢先だった。突然、塔の至るところに口のようなものが現れた。

 

『オレはジェラール、この塔の支配者だ。互いの駒はそろった。そろそろ始めようじゃないか――楽園ゲームを』

 

 そして、ジェラールはゲームの説明を続ける。

 ジェラールはエルザを生け贄にゼレフ復活の儀式を行うのが目的。すなわち楽園への扉が開けばジェラールの勝ち。それを阻止できればエルザたちの勝ち。ルールとしてはそれだけの単純なもの。だが、それでは面白くないと続けた。ジェラールは三人の戦士を配置した。これを突破できなければジェラールの元にはたどり着けない、と。

 目の前にいる男が、そのうちの一人だろう。

 

『最後に一つ、特別ルールの説明をしておこう。評議員が衛星魔法陣(サテライトスクエア)でここを攻撃してくる可能性がある。一発目はあの竜の娘が防いだが、二度も奇跡は起こらんさ』

 

 付け加えられた特別ルールに塔に居た全員に動揺が走る。そして、自分まで死ぬかもしれない中でゲームを行うジェラールの正気を疑った。

 そして、グレイは全てを聞き終わる前に攻撃を再開した。

 

『残り時間は不明だ。しかし、次のエーテリオンが落ちるとき、それは全員の死。勝者ないゲームオーバーを意味する。さあ、楽しもう!』

「ふざけるなよ、てめぇら!」

 

 大きなハンマーを造形して振り下ろす。それを梟は容易に受け止めて、ガリガリと食べ始めた。

 

「ホーホホウ! 貴様も見ていただろう! 滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)を食らった今、貴様の攻撃など効かぬのだ!」

 

 さっきの爆発は、ステラがエーテリオンを止めたときのものだったのだ。あの傷はそういうことだ。そんな状態で戦うなんて、本当に馬鹿野郎だ。

 しかも、エルザの仲間が裏切った。カードに閉じ込められたエルザが、そのままジェラールのもとに連れて行かれれば、なすすべがない。グレイの頭には相当血が登っていた。

 

「雪竜の鉄拳!」

「ぐあっ!」

 

 いくら攻撃しても無駄なのに、梟の攻撃一発を食らっただけで簡単にふっ飛ばされた。造形魔法も効かない以上、逃げて他の者を呼んだほうがいいのかと考えた。いや、そんな時間はない。エーテリオンがもう一度落ちてくる前にエルザとステラを連れて逃げないといけない。何より、あの傷のステラが長い時間持つとは思えない。

 

「アイスメイク・槍騎兵(ランス)!」

「ホホゥ! 効かぬと言ったはずだ!」

 

 手で掴み取り、バキバキと音をたてながら食べられた。……他の部分に当たったものは最初と同じように砕けて消えた。

 

「雪竜の咆哮!」

「アイスメイク・(シールド)!」

 

 魔法の相性は悪くないはずだった。しかし、少しずつグレイの作った造形魔法にヒビが入り始めた。

 

「無駄だ! 貴様もこいつの仲間なら、威力は知っているはずだ! ホーホホ……ホホロロロォォォ!?」

「なっ!? なんだ突然!」

 

 梟の口から魔法が止まって苦しみだした。喉に何か詰まらせたような、吐き出しそうな――

 

「今だ、グレイ!」

 

 その様子をみて、シモンが叫んだ。わかってるよ! とグレイもすぐに答えた。

 

氷刃七連舞(ひょうじんしちれんぶ)!」

「オロロロロ――ホーホホ……」

 

 オエッとステラが吐き出された。急いでグレイが駆け寄って抱える。体中傷だらけで……幽鬼の支配者(ファントムロード)のガジルにやられたときよりも酷かった。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

 うっ……。と一瞬だけ反応があった。意識があって良かったと安堵した、その時だった。

 

「――熱い……痛い、あ……あああ!」

「うおっ!?」

 

 ステラに突き飛ばされた。しかも、相当な力だった。あの傷でこんなに動けるのかとシモンが驚いていると、突き飛ばしたステラがわなわなと震えていた。

 ぶつぶつと何か呟いて震えていて、何かに怯えているように見えた。

 

「あの梟の野郎はオレが倒した。ナツも無事だ、もう大丈夫――」

「ああああーー!!」

「ステラ!」

 

 落ち着かせようと話をしている途中で、嫌な感覚に襲われた。あのときと、同じ――ララバイを壊したときと、幽鬼の支配者(ファントム)のマスタージョゼと戦ったときの妙な魔力と同じだった。

 

 少しずつ、その身体に変化が起きていた。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、自分と同じ姿をした人が立っていた。きっと、心の中に意識が飛ばされたんだとステラは考えた。

 

「……なに、今更」

 

 ステラの姿に気づいて、もう一人のステラが不機嫌な顔をする。ボロボロな私を見て笑うのかと思っていた。

 

「笑わないんだ」

「もう少し利口に立ち回ったら? 無理して私に頼る羽目になってるんだから」

 

 そう言って、笑われた。私自身に笑われたのは気に食わない。

 

「だったらどうして今なんだ」

 

 そう、いくらでも機会はあったはずだ。それこそ、ヴェアラが殺されたあの日だって。

 

「いつまでも子供(ガキ)でいる貴方(ステラ)に嫌気が差したから。少しは成長するかと思えば、最近は昔より怪我して、我儘で、馬鹿みたい」

 

 大きく(ステラ)がため息をつく。

 

「……何が言いたいかわかる?」

 

 自分に睨まれるなんて気分が悪くなる。

 

「大人になりなよ、少しくらい」

 

 自分の同じ姿で、同じ年齢のはずの子供に、そんなことを呆れ顔で言われた。

 

「まあ、少しくらい可愛げがあるほうがいいじゃないか。実際幼いんだから」

 

 どこかで聞いたような声が聴こえて、振り向くとウルが立っていた。頭をかいて、呆れるようにこっちを見ていた。

 

「あなたは呼んでないんだけど」

「あー……あのときはごめん。事情を知らなかったから……」

 

 申し訳なさそうに、ウルがもう一人の私に謝っていた。

 そういえば、竜である(ステラ)を封印したのはウルだった記憶がある。それを私がすぐに解いてしまったから意味がなかったのかもしれないけど。

 

「どうしているの? とっくに消えたと思ってたけど」

「デリオラでの一件で縁ができたということで納得してくれる?」

「はぁ……誤解が解けただけで結構です」

 

 いつ二人が和解したのか謎だ。とりあえず、私の中で私が知らない間に色々とありすぎだ。

 

「あとは仲間に任せるんだ。君はもう限界だ」

「こんなの、ジョゼと戦ったときに比べたら……」

「そのときの傷も癒えてないのに、エーテリオンを止めるために無理して……言っとくが、そのせいで魔力回路が暴走しかけてる。

エーテルナノの過剰摂取……あー、簡単にいえば食べ過ぎだ」

「……あの弟子にして、この師匠ありね」

 

 エーテルナノがなんのことか疑問に思ったら、食べ過ぎという何とも柔らかすぎる表現に変えたウルを、どこか呆れたように(ステラ)が鼻で笑った。

 

「死にたくないなら戦うな」

 

 笑われたのが恥ずかしかったのか、要点で言いたいことだけしっかり言い直してきた。

 そうか、私は倒れたのか。ここに意識が飛んだのはそういうことか。

 

「なんにしても、こっちの魔力まで使ってくれちゃって……あーあ、力なんて貸すんじゃなかった」

 

 そのあと、ぶつぶつともう一人の(ステラ)は文句を言い続けていた。なんでも、前にアリアに無理矢理魔力を空にされたときと、ジョゼと戦ったときに使っていたのは竜である方の(ステラ)の魔力だった。それの使い方を無意識に覚えたせいで、エーテリオン破壊の際に無理矢理使っていたらしい。

 

 ……それにしても、何とも不思議だ。自分が二人いる時点でおかしいのに、そこにグレイの師匠であるウルがいるなんて、わけがわからない。

 

「なんにしても、それ以上戦うというなら()が戦う。それでもいいの?」

「……仲間を守れるなら、それでいい」

「呆れた。本当に死ぬよ?」

 

 冷淡に告げた()を見ながら、ウルがニヤニヤと笑っていた。

 

「……素直じゃないなぁ」

「うるさい」

 

 さっさと帰れと、ウルに向けて手を振る()

 

「また縁があれば」

「二度と来るな」

 

 ウルを追い返した()は酷く不機嫌だった。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 翼と尻尾の生えた竜のなりそこないが、そこに立っていた。

 

 気づいたときには倒れたまま唖然とするシモンと、どこか怯えているようにも見えるグレイが横にいた。

 体の傷は治らなかった。そこまで魔力も残っていないせいだ。ジョゼとの戦いのときほど、長くは持たないだろう。

 

「助けてくれて、ありがと」

 

 何かを言おうとしたグレイだったが、結局何も言わずに俯いてしまった。

 今の私は意地悪だ。ぴょんと飛んで近づいて、グレイの頬にキスをした。何をされたのか理解してから、グレイの頬が赤く染まった。

 

「助けてくれたお礼。じゃあ、行ってくる」

 

 そのまま翼を広げて空へ飛ぶ。からかうようなことをしたけど、言葉よりもよっぽど伝わるはずだ。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

「あれが滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)の成れの果て……か」

 

 一人になった塔の頂上でジェラールは腰をかけて塔の中を観察。その中でも、ステラに対して興味を示していた。

 

「梟は脱落、ヴィダルダスには水女と星霊使い、斑鳩(いかるが)にはショウとエルザか。面白くなってきた。そして――」

 

 部屋の窓の方へと視線を向けると、ナツが窓から入ってきた。

 

「お前がジェラールか?」

「だとしたら、どうする?」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ!」

 

 啖呵をきったナツをみて、ジェラールは心の底から笑っていた。

 

「来い、ナツ・ドラグニル。滅竜魔導士の力、比べてやる」

 

 

 

――

 

 

 

「く……」

「……どうされました? ジークレイン様」

 

 ニ発目のエーテリオン発射の時間が迫っていた。突然、ジークレインがお腹のあたりを抑えて少し苦しそうにしていた。

 その様子を見て、ウルティアがジークレインの顔を怪訝そうに覗き込んだ。

 

「どうやら、思ったよりも苦戦しているらしい」

「!……先程の傷が」

「ああ。それに、ナツもなかなかやる」

 

 そんな。とウルティアが言葉を漏らす。ちょうど一発目のエーテリオンが投下される直前、ステラによってジェラールが傷を負わされた。そのことを知っているウルティアは顔を歪ませる。

 

「……戻ったほうがよろしいのでは?」

「ああ。すまないが、後処理は任せたぞ」

 

 そう言ってジークレインは姿を消した。

 

「……さようなら、ジークレイン様」

 

 ウルティアはどこか不気味な笑みを浮かべながら、別れの言葉を告げた。

 

 

――

 

 

 

「火竜の鉄拳!」

「ぐはっ!」

 

 ナツの拳がジェラールの腹に打ち込まれる。ジェラールはうめき声を上げながら吹き飛ばされるが、体勢を立て直して着地し、その腕から、黒い魔力の影をナツに伸ばす。

 

「こんなもの!」

 

 それをナツは全身から炎を出して焼き払う。そして、大きく息を吸った。

 

「火竜の咆哮!」

 

 ナツの口から炎が放たれる。しかし、ジェラールはかろうじてかわして距離をとり、少し笑って口を開いた。

 

「なるほど、流石は滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)。なかなかだな」

「はっ、何がなかなかだ。手も足も出てねえじゃねえか」

 

 ナツは無傷だった。それに比べてジェラールは大小多くの傷を負っていた。口先だけだと馬鹿にされるような状況で、ジェラールはまだ余裕の表情だった。

 

「確かに強力だが、あいつもお前も驚異になるほどじゃない」

「……ステラと戦ったのか」

「ああ、逃げられたがな」

「今、どこいる」

「逃げた。と言っただろう?」

 

 ジェラールの言葉にナツは眉をつり上げ、見るからに怒りをあらわにした。アイツがお前なんかから逃げるわけねえと。

 

「ち――思ったよりも早いな」

 

 噂をすれば何とやら。先程ナツが入ってきた窓と同じ位置に一つの影ができていた。

 

「な――」

 

 その人物の姿を見て、ナツは言葉を失った。自分の知らない、翼や尻尾の生えたステラがそこに立っていた。

 なんでそんな顔をしてるんだろう。と首を傾げたステラは、そういえば。と思い出して口を開いた。

 

「大丈夫だよ、ナツ」

 

 それは怪我のことか、それとも異様な容姿のことか。しかし、ジェラールに対して構えたステラを見て、ナツも安心する。

 

「全く、二人同時に相手をする気はなかったんだがな」

 

 すると突然、横からジェラールと全く同じ声が聞こえてきた。振り向くと、姿と顔が瓜二つの男が立っていた。

 

「なんだ、てめえ」

「オレはジークレイン。評議員の一人だ」

「……やっぱり、繋がってたんだ」

「まあな。一度目は阻止されたが二度も奇跡は起きん」

「阻止? 奇跡? なんのことだよ」

 

 会話の意図が理解できないナツはステラに疑問をぶつけた。しかし、すぐにわかる。とだけ返された。

 ジークレインとジェラールは同じように薄く笑った。そして、ジークレインがジェラールに歩み寄り、横に並んだ瞬間、歪んだ。

 

「さて、今のお前たちを相手にするには、オレも本気になる必要はありそうだ」

 

 そういうと、ジークレインはジェラールと重なり消えた。

 

「さて、ここからが本番だ」

「くるよ、ナツ!」

 

 すると、ジェラールは全身に魔力をみなぎらせた。先程までとは比べものにならない魔力で、ステラが舌打ちした。

 

「火竜の鉄拳!」

 

 ナツはジェラールに飛び込み、いつものように炎を纏った拳をたたき込んだ。しかし、それは簡単に止められた。しかも腕だけで。ジェラールの顔色は全く変わっていなかった。

 

「雪竜の翼撃!」

「火竜の鉤爪!」

 

 間を置かずにステラも攻撃を繰り出す。ナツの攻撃も続いていた。殴りかかった勢いのまま、体を回転させてジェラールの顔をめがけて蹴りを入れる。ジェラールは思わずのけぞり、そこをさらにステラの追撃が入った。腹や顔、至るところを二人で殴っていた。

 

「火竜の――」

「雪竜の――」

 

 

 

 

 

「「咆哮!!」」

 

 

 大きな爆発が起きて、塔の壁の一部が吹き飛んだ。煙が立ち込める中、またステラが舌打ちした。

 

「――それで終わりか?」

 

 煙を振り払い何事もなかったかのようにたたずむジェラール。二人の攻撃はうまく入っていたと思っていた。しかし、ジェラールにダメージは見られない。

 

「お返しに、貴様らに天体魔法を見せてやろう――流星(ミーティア)

 

 ジェラールの体を光が包み込んだ瞬間、ナツの背に回り込んで、肘を入れてステラの方へ弾き飛ばした。ステラはなんとかナツをかわして構えるが、もう遅い。ステラの横に回り込んだジェラールは膝蹴りを叩き込んだ。何発も拳を叩き込んで、起き上がろうとしたナツに向かってステラを蹴り飛ばした。そのまま二人は地面に叩きつけられることになった。

 

「くそっ!」

 

 すぐに立ち上がろうとしたステラだったが、足がふらついて膝をついてしまった。

 

「とどめだ。お前らに本当の破壊魔法を見せてやろう」

「ナツ! 伏せて!」

 

 そう告げると、ジェラールは天井高くまで飛び上がった。その魔力に悪寒が走ったステラはナツの上にかぶさり、造形魔法で自分たちを覆いかぶさるように壁を作った。

 

「七つの星に裁かれよ――七星剣(グランシャリオ)

 

 天井を突き破って、七つの光が降り注いだ。その光は圧倒的な破壊をもたらして、意図も簡単にステラの作った壁を壊し、二人は崩落した床とともに下の階へと落ちていった。

 ジェラールは大きく穴の空いた床の縁から、下の様子を伺った。

 

「驚いたな、隕石にも匹敵する威力なんだが、体が残るとは……流石は滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)か」

 

 ナツはほぼ無傷のように見えたが、ナツを庇ったステラの翼はもげて、体もボロボロになっていた。……二人とも意識を失っていた。

 

「これでおしまいだ」

 

 そう言って突き出した右腕に魔力を込める。亡霊のような魔力を繰り出そうとした瞬間――

 

「ジェラール!」

 

 声のした方向に顔を向ければ想像していた通りの人物がそこにいた。

 

「久しぶりだな、エルザ。遅かったじゃないか」

「ジェラール、貴様の本当の目的は何だ」

「ゼレフ復活だ。それ以外のなんでもない」

「私も八年間、何もしてこなかったわけじゃない。Rシステムについて調べていた」

 

 あるときエルザはRシステムに関する記述を見つけた。それが本当なら、Rシステムの発動は不可能に近い。

 

「魔力が、圧倒的に足りない。Rシステムには二十七億イデアという魔力が必要になる。これは大陸中の魔導士を集めてもやっと足りるかどうかという程の魔力。」

「だから、何だ」

「貴様は、何を考えているんだ!」

「今にわかるさ、エルザ」

 

  不気味な笑みを浮かべながらジェラールがそう告げる。すると、塔のはるか上空に莫大な魔力が現れた。

 まさに今、エーテリオンが投下されようとしていた。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「聖なる光に祈りを」

 

「祈りを」

 

 

 魔法評議院ではエーテリオン投下前にその言葉が響き渡った。そして、開放されたエーテリオンは衛星魔法陣(サテライトスクエア)を通して楽園の塔に落とされた。

 

「あの塔にはいったい何人の人がいたのか……」

「ゼレフ復活を阻止するための、仕方のない犠牲じゃ」

「我々がどんな言葉を並べても、犠牲者の家族の心は癒やされんよ」

 

 エーテリオン投下を議決した評議員たちは、そんな言葉を交わしていた。その周りの職員は、慌ただしくエーテリオンが投下された塔がどうなったのか確認を取っていた。

 

「そんな……馬鹿な……」

 

 一人の職員が映し出された映像を見て、驚愕した。そして、その事実をデータとともに報告した。

 

「楽園の塔に二十七億イデアの魔力が蓄積されています!」

「そんな魔力、一ヶ所に留めておいたら暴発する危険性があるぞ!」

「どうなっているんだこれは!」

「ジーク! どういうことだ!」

 

 魔法評議院は騒然としていた。想像していなかった結果にその場にいた者が全員困惑する。そして、エーテリオン投下を提案したジークレインを問い詰めようとするが、既にその姿はなかった。そして、さらに混乱に陥れる事態が起こる。

 

「建物が急速に老朽化している!? まさか、失われた魔法(ロストマジック)"時のアーク"か!」

 

 建物の至る所がひび割れて、床も、柱も、天井も全て割れて崩れだした。我先にと大勢が逃げ出す中、評議員の一人であるヤジマは目を疑った。

 

「ウルティア」

 

 何もかもが崩れ落ちる中、平然と立ち続ける女を見つけて、名前を口にした。ウルティアはヤジマ老師の言葉に気づいて顔を向け――そして、彼女は笑った。

 

「……全てはジーク様、いいえ、ジェラール様のため。あの方の理想(ユメ)は今ここに叶えられるのです」


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