【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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18話 心に追いつかない体

 楽園の塔。目にするまでは本当に完成しているとは信じられなかった。八年間、私はずっと目を背けていたのだ。

 

「……ステラは無事なのか?」

「人の心配をしている場合? 姉さんは生け贄なんだ」

「なら、私だけを捕らえればいいだろう。彼女は関係ない」

「姉さんが余計なことをしたら……わかるよね?」

 

 私のせいだ。よりによってステラを巻き込んでしまうことになるなんて。このままステラを放っておいたらどうなるか分からない。

 

「ステラは……彼女は本当に危険なんだ。頼む、ショウ」

「危険? 大丈夫さ。ミリアーナのチューブは魔法を使えなくするんだ。姉さんでも抵抗できないくらいなんだから」

 

 途中からステラとは別々の場所に連れて行かれた。もしステラが暴走したら、ショウたちも襲うだろう……阻止しなければ。

 

「……残念だけど仕方ないよね」

「ショウ?」

「本当は、こんなことしたくなかったんだ」

 

 泣いていた。その姿は八年前の臆病でも優しかった頃の面影があった。けど、そのあとは豹変した。

 

「どうして、ジェラールを裏切ったァ!」

 

 ジェラールに変えられた彼らに、今は何を言っても届かないと諦めた。

 

 

 

 

――

 

 

 

「……どうして、私を解放した」

 

 仲間たちと別れてからすぐに、シモンと呼ばれていた男は私の拘束を外した。

 

「お前たちの力が必要だからだ」

「――笑わせないでよ。仲間を襲った敵に手を貸すと思う?」

「ナツは生きている。あれで死ぬようなら、ジェラールには勝てないだろうからな」

「ふざけるな! ……お前らのせいで!」

「なぜ信じてやらない」

 

 声を荒立てる私に対して、シモンは冷静にそんなことを言った。頭にきた私は、シモンを殴っていた。本気で殴ったのに、彼は平然と立っていた。

 

「オレを殺して気が済むならそれでいい。ただ、1つだけ伝えてくれ。八年間、オレはずっとエルザのことを信じていた、と」

 

 戯れ言だと、切り捨てようとした。あれだけ酷い事をして、今更何を言うのかと。それなのに、私はエルザが悲しむことを想像して、この男を殺すことはしなかった。

 

「……自分で伝えろ」

 

 その場を立ち去る。シモンの言葉が頭から離れない。

 ここまで巻き込まれたんだ。この出来事の発端、ジェラールをやる。シモンという男の思い通りに動くようで癪だけど。

 

 

 

/

 

 

 

「エルザ!」

「良かった、無事だったんだね!」

 

 声の方向に目をやると、ナツやグレイ、ルーシィ加えて元幽鬼の支配者のジュビアが居た。

 

「お……お前たちがなぜここに?」

 

 拘束解いてすぐに思いがけない再会をして、思わずエルザも言葉に詰まる。

 

「なにって、そんなもん、聞かなくたってわかるだろうよ」

 

 少し呆れた様子でグレイが答える。

 

「やられっぱなしじゃ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだろ!」

 

 激怒した様子のナツがエルザに近づいた。それに対するエルザの返答は淡泊なものであった。「帰れ」と視線を下へと落としつつ塔まで追ってきた仲間たちに告げる。まるで拒絶しているようだった。

 

「ステラも見つからねえし、ハッピーも捕まってんだ! このまま帰る訳にはいかねえ!」

「ハッピーが? まさかミリアーナ……」

 

 心当たりのある様子のエルザにナツが詰め寄りどこにいるのか聞くが、先ほどまで捕まっていたエルザにも場所まではわからない。

 同じ牢獄にステラはいなかった、と答えると、それ以上は話を聞かず、周りが止める間もなくステラとハッピーを探しに塔の奥へと走って行った。ルーシィやグレイがそれを追いかけていこうとするが、エルザは押しとどめ、再び帰れと口にする。

 

「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーに危害を加えるとは思えん。ステラとナツにハッピーは私が責任を持って連れ帰る。おまえたちはすぐにここを離れろ」

「そんなのできるわけない! エルザも一緒じゃなきゃ嫌だよ!」

「これは私の問題だ。お前たちを巻き込みたくない」

「ここまで巻き込まれてんだ。今更――」

 

 エルザはなにも答えられずに背を向けて体を震わせている。そんな姿を見かねてグレイが頭をかきながら声をかける。

 

「……らしくねえなエルザさんよ。いつもみてえに四の五の言わずについて来い! って言えばいいじゃねえか。オレたちは力を貸す。お前にだってたまには怖いと思うときがあってもいいだろうが」

 

 その言葉にエルザはゆっくりと振り返り、一同と向き合った。その瞳に涙をためて。普段は見せることのないその弱くて脆い姿に言葉を失う。

 

「この戦いが終われば、私は世界から姿を消すことになる」

 

 そうして、エルザと楽園の塔――いや、ジェラールとの因縁を聞くことになった。

 

 ステラに話したように、エルザはすべてを話した。

 

「ジェラールに政府にばれたら全員を消す、塔において私の目撃情報が一つあった時点で一人を消すと言われていた。私は八年間何もできなかったんだ……」

 

「なるほどな、通りでアイツらはエルザにキツく当たってたわけだ」

「今日、私がジェラールを倒せば全て終わる。それでいいんだ」

 

 本当にそうなのか? とグレイが疑問に思った。かつての仲間とのことではなく「ジェラールを倒せば」の前、「世界から姿を消すことになる」をどういう意味か考えていたところで、カツン、カツンとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「その話……ど、どういうことだよ」

「ショウ……」

 

 エルザは近づいてきた色黒の男、かつて仲間だった男の名を悲しげに呟いた。

 

「そんな作り話で仲間の同情を引くつもりなのか! 八年前、姉さんはオレたちの船に爆弾を仕掛けて一人で逃げたんじゃないか! ジェラールが姉さんの裏切りに気づかなかったら全員爆発で死んでいたんだぞ!」

 

 まくしたてるショウの体は震え、冷や汗が流れ出し、動揺を隠しきれずにいた。

 

「ジェラールは言った! これが正しく魔法を習得できなかった者の末路だと! 姉さんは魔法の力に酔ってしまってオレたちのような過去を捨て去ってしまおうとしたんだと!」

「「ジェラール」が、言った?」

「――――!」

 

 グレイの言葉にショウは何も言い返せなかった。ショウの知っている全てのことはジェラールから教えられたもの……それが嘘だったとしたら?

 

「あなたの知っているエルザはそんなことする人だったのかな?」

「お前たちに何が分かる! オレたちのことを何も知らないくせに! オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだ! だから八年間かけてこの塔を完成させた! それなのに……」

 

 ショウの八年間の思い、その全てを言葉にしていた。そして、同時にその思いが崩れ去ろうとする恐怖をも。

 

「その全てが嘘だって? 正しいのは姉さんで、間違っているのはジェラールだって言うのか!」

「――そうだ」

 

 それに答えたのはエルザでも、その場にいた誰でもない。また、誰かが近づいてきた。

 

「シモン!?」

 

 思いもしないところからショウは疑問に答えを返されたことで驚き、ショウがその男の名を呼んだ。

 

「てめぇ!」

「待ってくださいグレイ様!」

 

 飛び出そうとするグレイをジュビアが止める。シモンはカジノにおいてグレイとジュビアを襲った。そのときに暗闇を作り出す魔法からの身代わりとして氷の人形を用意することで攻撃を避けたのだが。

 

「あの方はグレイ様が身代わりと知っていてグレイ様を攻撃したんですよ。闇の術者に辺りが見えていないはずはない。ジュビアがここに来たのはその真意を探るためでもあったんです」

「さすがは噂に名高い幽鬼の支配者(ファントム)のエレメント4」

 

 素直にジュビアを賞賛するシモンから戦意は感じられなかった。

 

「誰も殺す気はなかった。ショウたちの目を欺くために気絶させる予定だったのだが、氷ならもっと派手に死体を演出できると思ったんだ」

「オレたちの目を欺くだと!?」

「お前もウォーリーもミリアーナも、みんなジェラールに騙されているんだ。機が熟すまで、オレも騙されているふりをしていた」

「シモン、お前……」

 

 シモンは恥ずかしそうに頬をかく。

 

「オレは初めからエルザを信じている。八年間、ずっとな」

 

 言葉も交わしていないのに、ずっと八年間も信じていたのだ。二人は抱きしめ合って再会を喜んだ。

 

「会えて嬉しいよ、エルザ。心から」

「シモン」

 

 そんな二人を周囲は暖かく見守っていた。その中、ショウは一人、地に膝をついていた。

 

「なんで、みんなそこまで姉さんを信じられる。何で、何で――オレは姉さんを信じられなかったんだァ!」

 

 悔しくて雄叫びとともに両の拳を地面に叩きつけた。何が真実なのか、何を信じればいいのかと叫んだ。そんなショウの元にエルザはゆっくりと近づき、地面に俯くショウにしゃがみ込んで声をかける。

 

「今すぐに全てを受け入れるのは不可能だろう。だが、これだけは言わせてくれ。――私は八年間、お前たちを忘れたことは一度も無い」

 

 エルザはショウを抱きしめる。エルザの腕の中、ショウは思いの限り泣き続ける。

 

「何もできなかった。弱くて、すまなかった」

「だが、今ならできる。そうだろう?」

 

 不敵にシモンが言い放つ。それに答えてエルザも強く頷いた。

 

「ずっとこの時を待っていた。強大な魔導士がここに集うこの時を。ジェラールと戦うんだ。オレたちの力を合わせて。――まずは火竜(サラマンダー)とウォーリー達が激突するのを防がなければ」

 

 やるべき事は定まった。各々、覚悟も決まった。

 

「私とシモン、ショウでウォーリーたちを説得する。グレイはステラを頼む」

「……って、ことは私とジュビアは?」

 

 ナツを頼む。といつもの逆らえない雰囲気でエルザが命令する。グレイとしては、先程まで敵だったシモンとショウを三人にするのは危険だと漏らしたが、エルザが「この方がウォーリーたちを説得しやすい」と、まあ当然逆らえるはずもなく、それぞれ3つに別れて行動することになった。

 

 

 

――

 

 

「お前がジェラールか」

 

 フードを被って顔は見えない。だが、その魔力の所々に潜む邪悪さが何より答えだった。

 

「思っていたより早かったじゃないか。そんなにオレを殺したかったのか?」

「意外とあっさり居場所を吐いてくれた人がいてね。それに、コソコソ隠れる必要がなくなったから」

 

 エルザが脱走した。それを聞いた見張りのほとんどが慌ててそっちの方に向かったのだ。エルザが人質でないなら、影でコソコソする必要もない。1人ずつ捕まえて、ジェラールの居場所を知ってる奴が出るまで片っ端から狩りつくした。

 

「全く、ゲームすら始まっていないというのに……せっかちだな」

「ゲーム?」

「楽園ゲームさ。もうすぐ、ここに全てを破壊する光が落ちる」

 

 言っている意味がわからない。そんな私を鼻で笑い、ジェラールは説明を始めた。

 

「……評議会による決定が下れば、評議会の最終兵器、エーテリオンによって、この塔は破壊される。タイムリミットさ」

「なら、その前に逃げるさ。お前を倒して」

「まずは火竜(サラマンダー)と戦ってから、お前と戦う予定だったんだがな」

 

 ナツと戦ってから。その言葉に違和感を感じて、理解した。

 

「ここに来てるのか」

「お仲間も連れてな。こっちも駒を用意した」

 

 生きてる。それだけで、気が楽になった。

 

「なら、チェックメイトだ。お前は私が倒すんだから」

「こっちのチェックメイトはエルザを生け贄にゼレフを復活させることだ」

 

 なら有利なのはこっちだ。エルザは既に自由の身だ。

 

滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)を、妖精の尻尾(フェアリーテイル)をなめるな!」

「貴様らの結束なんぞ、取るに足りないものだと教えてやるさ」

 

 妙に邪悪な魔力は、幽鬼の支配者のマスター、ジョゼのようだった。なぜか、攻撃手段も似ていた。だから戦いやすかった。

 だが、何か違和感がある。全力でジェラールは戦っていない。まるで、時間稼ぎのようで――エーテリオンを待っている?

 いや、おかしい。道連れ覚悟なら納得だが、ジェラールの目的はゼレフの復活。何か……何かがおかしい。

 

「どうした、意気込んでたわりには力が入ってないな!」

「――考えても仕方ない! 雪竜の咆哮!」

 

 目で追うのがやっとだ。当たらない。疾い。

 

「避けてばかりじゃ私は倒せないけど」

「なら、当ててみろ」

 

 本当に疾い。魔法で囲んでもすぐ逃げられる。

 予測しても駄目なら、感覚でやるしかない。造形魔法で作った刀を構える。

 意識を集中する。目で追うな、隙を見せれば攻撃してくる。魔力が高まるその一瞬――

 

「一花――白影!」

 

 居合切りの要領で、斬りつけた。そのまま、ジェラールを蹴り落として、首に刃を当てる。

 

「終わりだ――」

 

 その時、はっきりと見えたジェラールの顔に驚く、だって、評議員の一人にそっくりだった。……たしか、ジークレインと言う名だった男だ。

 

「まさか、黒幕が評議会の人間なんてさ」

「……お前の知ってる奴は兄さ。双子の……な」

「じゃあ、エーテリオンを落とさないように抗議でもしてるわけ?」

「逆さ。アイツはこの塔を消す。哀れな亡霊に取り憑かれた弟ごと。タイムリミットだ、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)

「……なんだって?」

「評議会はお前も消したいらしい。案外、早く決まったな」

 

 上空に現れた魔力の塊。

 評議会はエーテリオンを落とすことにしたのか。

 

「――ゲームを始める時間くらい欲しかったな」

「黙れ!」

 

 ジェラールの腹に刀を突き刺して、私はすぐに飛んだ。外に、塔の上空にまで急いで。

 感じていたよりもずっと上空に、息が苦しくなるくらいの高さに、エーテリオンを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ間に合う。暴発させれば、塔に被害も行かないはずだ」

 

 一人で逃げ出せば、助かるのだろう。だけど、あのとき――ヴェアラのときも、私は逃げなかった。やることは変わらない。

 あんな馬鹿でかい魔力、正面から止めるのは無理だ。ここで暴発させて、魔力を消し去れば……まだ何とかなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅竜奥義――極零氷雪(ゼロフィルブリザード)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

「エーテリオン、消滅しました!」

 

 その報告に、評議員の全員がどよめく。

 

「原因の特定を急げ! まだ落としていないだろう!」

「映像、復活しました! ……まさか、そんな――」

「なんだと言うんだ! しっかり報告しないか!」

「――映像、展開します!」

 

 展開された映像に、無傷の楽園の塔が映っていた。そして、それよりも上空、衛星魔法陣(サテライトスクエア)付近にいる少女……先日見た、あの滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)の娘だった。

 

「馬鹿な――ありえん! エーテリオンを消し去り、それに耐えるなどと!」

 

 映った人物は、腕や足、体の至るところは真っ赤に染まっていた。皮膚が剥がれている。何名かのスタッフは、その姿を見て吐いてしまった。

 だが、逆に……エーテリオンで、それだけの傷しか負っていなかったのだ。評議会の切り札である、エーテリオンを暴発させておいて。

 

「……もう一度だ」

「なんだと?」

 

 ジークレインの発言に、全員が驚く。当たり前だ。こんな代物をまた撃てなんて正気じゃない。

 

「楽園の塔は消せていない。続行すべきだ」

「しかし……」

「ゼレフを討つためには覚悟していた犠牲のはずだ」

「しかし、時間はかかるぞ」

「……この娘の危険さは再認識しただろう。なおさら、ここで消すべきだ」

 

 ゼレフ復活を阻止する。それが本来の目的なのに、入れ替わった目的を誰も指摘せず二度もエーテリオンを落とす決断を下した。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

「……っ」

 

 造形魔法の翼が、落下の勢いを殺すので精一杯だ。今にも崩れそうで、飛ぶ力は残ってない。

 体の中で何か蠢うごめくような、気味の悪い感覚が続いていた。体を焼かれたように熱い。気が狂いそうだ。おかげで意識が遠のくことはないが、気持ちが悪い。

 

「ホーッホホウ!」

 

 梟の鳴き声。それが聞こえた次の瞬間には、私は落ちていた。

 

「――っあああ! ……うっ!?」

 

 痛い。たたでさえ火傷のように熱かったのに、お腹のあたりが痛かった。痛みで叫んで、お腹の中のものを戻してしまった。

 殴られたにしては意味のわからない威力とスピードだ。

 

「ステラか!? なぜ壁から……っ、その怪我!」

 

 さっき私を逃がしたシモンがそこにいた。その姿を見るなり言葉を失っている。それほど酷い怪我なのだろう。

 

「ホーッホホウ! 正義ジャスティス戦士、梟参上」

 

 突き破ってきた穴から大きな男――顔だけ梟のおかしな奴が現れた。先程聞こえた鳴き声と同じ、こいつが殴ってきたのか。

 

「な……コイツにはかかわっちゃいけねえ! 闇刹那(やみせつな)!」

 

 その妙な風貌の男を見るなり、シモンが魔法を繰り出した。その魔法であたりが暗闇となり、気づくと私はシモンに背負われていた。

 

「お前、どういうつも――」

「ホホウ」

 

 突然のことにシモンに説明を求めようとした。だが、眼前に首を傾げた梟が現れた。咄嗟のことでシモンは避けられず頭を左手で掴まれた。

 

「正義の梟は闇をも見破る。――ジャスティスホーホホゥ!」

 

 梟の右腕から繰り出される強烈な拳がシモンの腹に直撃した。シモンは血を吐きながら吹き飛び、その衝撃は背中に背負われた私にも伝わった。

 

「こ、これほどとは。暗殺ギルド髑髏会……」

「なに、それ……」

「闇ギルドの一つだ。まともな仕事がなく、行き着いた先が暗殺に特化した最悪のギルド……こんなのが、あと二人もいるのか」

「っ……やるしかない」

 

 動くなと痛みで警告している体を無視して立ち上がった。それをみて、梟が構える。

 

「貴様の悪名は届いているぞ。極悪非道の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)よ」

「やめろ、ステラ! こいつらとは戦うな!」

 

 シモンが恐ろしさを語り始める。三羽鴉(トリニティレイヴン)と呼ばれる三人組、カブリア戦争で西側の将校全員を殺した最悪の部隊。その一人が梟だと。

 

「ホホウ、悪を滅ぼしたのみよ」

「なおさら逃してくれそうにないけど」

 

 造形魔法を使うために構えた。どうせ逃げられないなら、戦うしかない。

 

「スノーメイク――」

「ミサイルホーホホゥ!」

「――がはっ!」

 

 梟が背負っていたロケットの火が付き、真っ直ぐに飛んできた。点火から一瞬だった。 

 

「弱った獲物を確実に仕留める。これぞ! ハンティング!」

「……っ、おえっ――」

 

 ふざけるな。そう吼えようとして、吐いた。立ち上がることもできない。

 壁によりかかりながら立ち上がる。勝利を確信しているからか、梟は仕掛けてこなかった。

 

「……燃えてきたぞ」

 

 ただの強がりだとしても、ここで諦めて倒れるわけにはいかない。私は、仲間を連れて帰るんだ。

 

「雪竜の――」

 

 こんな状態で、滅竜魔法なんか使ったらどうなるかわからない。でも、やらずに負けるくらいなら、最後まで足掻いてやる。

 

咆哮(ほうこう)!!」

 

 避けられた。当てるために広範囲に拡散させたが、梟はそれを予見していた。だが、それで良かった。今まで食らった攻撃は、ロケットを除けばパンチのみの近接。ロケットがない今、距離を稼いで攻撃を繰り返すのが最善だと、ステラは考えた。

 

「スノーメイク'(ウルフ)'!」

 

 自分は後ろに下がりつつ、ステラは造形魔法を繰り出した。しかし、出せた狼は一匹だけ、自分が思っている以上に、魔力不足だった。

 その狼も梟は簡単に左手で掴み、右手でパンチを繰り出して壊した。

 

「流石だ。その傷でそれだけ動けるとは恐れ入った。貴様は捕食(キャプチャー)してやる、ホーホホゥ!」

「なっ!?」

 

 そう言って梟はステラに飛び込んできた。その疾さは先程のロケット以上だった。一瞬で造形魔法のために構えていた腕を右手で掴まれて、持ち上げられた。

 

「雪竜の鋭爪(えいそう)!」

 

 梟の首めがけて、右脚で蹴った。

 

「ホホウ?」

「そ、そんな……」

 

 全く効いていない。違う。魔法がうまく使えず、ただの蹴りになっている。

 

「くそっ、このっ!!」

 

 何度も蹴った。蹴ってるこっちの足が痛くなるのに、梟の表情は全く変わらなかった。……脚を上げる力もなくなって、ぶら下がることになった。

 

「気は済んだか?」

 

 そう言って、梟は大きく口を開いた。先の見えない闇。大きく開かれた口はまさにそうとしか思えなかった。

 

「ステラ!」

 

 聞き覚えのある声に、私は姿も確認せずに叫んだ。

 

「グレイ! 逃げてっ!」

 

 パクリと大きな口を開けた梟に丸呑みにされ、ごくんと大きな音を立てて飲み込まれた。

 体を動かすこともできない。ただ、ヌメヌメとした気持ち悪い感触だけが残っていた。

 段々と息が苦しくなる。このまま捕食されて死ぬなんて嫌だ。それなのに、私は意識を保つことすらできなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 


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