【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
「んーー! 痛い!」
日焼けが少しひりひりして目が覚めた。部屋に誰もいない。また遊びに行ってるのだろうか。
この時間に開いているのは、カジノだろうか。経験はないけど、せっかくだし私も遊ぼうとカジノに向かった。
「あ、いた」
なんだか騒がしいなって思ったらいた。ナツとハッピー何か叫んで店員が困っている。あれに合流したら、追い出される気がしたから他を探すことにしようと方向転換した。
すると突然、暗闇になった。明かりが消えたんじゃない。目が追いつかなくて、何も見えない。
「ナツー! どこー!」
ハッピーの声が聴こえた。あんなに近くにいたのにナツを見失ったのか。おかしい、ナツの返事が聞こえない。周りの客がパニックだとしても、ハッピーの声は聴こえたのに。
代わりに聴こえたのは何かが爆発するような音。――倒れているナツの口元が一瞬だけ光って見えた。
「な――ナツ!」
撃たれた。誰に。どうして。混乱する頭の中で、私の足はナツが見えた方へと走っていた。
「ナツ! しっかりして! ナツ!」
敵の姿がわからない。でも匂いがしない。というか、どの匂いが敵のなのかわからない。
「あ――」
ようやく明るくなって、見えたのは赤い……血で……ナツの口から、こぼれていた。
「そんな……こんなことって……」
夢だ。夢だと必死に自分に言い聞かせた。こんな、こんなことってない。きっと何か悪い夢を見てるだけだ。だって、ナツが死んだ。そんなの考えたくない。
何がどうなってるのかわからないのに、ルーシィとエルザが叫ぶような声が、私を醒ますかのように、耳に入ってきた。
私は、目の前のことを受け入れらないまま走り出した。
ルーシィが縛られて、エルザは大きな男に抱えられていた。確認するまでもない。周りにいる奴らは敵だ。
「雪竜の砕牙!」
エルザを抱えていた大きな男を蹴り飛ばす。そのままエルザを受け止めておろした。すぐに、ルーシィを拘束している女に殴りかかる。男が飛ばしてきたカードのようなものを何とか片手の造形魔法でやり過ごす。
間に合う。この前みたいな事は考える前に終わらせる。
「雪竜の――」
「へい、ガール! そこまでだ!」
男の声と共に急に目の前に現れたハッピー。一瞬だけ躊躇ってしまった。――しかも、私の頭に照準が向けられていた。
「ネコネコいじめちゃダメー!」
その隙に片腕をチューブで拘束された。まずいと思った。このまま片手で造形魔法と、咆哮で――魔法が、使えなかった。
「ジ・エンドだぜ、ガール」
さっきと同じ音だった。そうか、この妙にカクカクした男がナツを――
――
「そんな……ステラっ!?」
倒れ込んで動かなかった。撃たれた。目の前で、ステラの頭が。グレイもナツもやられたって奴らは言っていた、しかし、ルーシィは目の前でステラがやられるまでは信じていなかった。
「大丈夫か、シモン」
「ああ、なんとかな。……撃ったのか」
「仕方ないんだぜ。あのままだとミリアーナがやられていたんだぜ」
まるで何事もなかったかのように、さっきの続きを始めた。
「帰ろう、姉さん。楽園の塔へ」
「みゃあ! ネコネコー!」
「――うっ!?」
「あと30分くらいしたら、君死んじゃうよぉ?」
拘束しているチューブが急にキツくなってきた。このままだと、あたしまでやられる。
「生きてるみたいだし、この娘も連れて行くぞ。ジェラールの言っていた娘だろう」
ステラも抱えられて、奴らは消えてしまった。
やばいけど、まずはこのチューブを切らないと。頑張って転がりまわって、何とか鍵を掴む。
「開け巨蟹宮の扉! キャンサー!」
何も起きない。
「ちょっと! キャンサー! ロキ!」
魔法が使えない。まずい、本当にこのままだと、チューブに引っ張られて背中からボッキリと曲げられる。
焦っていると、ステラがさっき使った造形魔法の1羽が崩れながらも飛んできて……チューブを切った。
「ステラ……」
やられるはずない。だって、聖十大魔道士のジョゼと戦って勝ってるんだ。あんな奴らに……
「――いってぇ!?」
「ナツ!」
これでもかというくらい炎を吐きながら、ナツが飛び上がった。
「っと、おまえら無事か!」
「グレイ――と、ファントムの!?」
ナツの声に気づいてグレイも合流した。幽鬼の支配者のエレメント4の1人、ジュビアがいるけど、どうも今は仲間らしい。……恋敵って怨むように呟いてるのが怖い。
グレイは氷の身代わりでやり過ごしたけど、ナツは思いっきり口に鉛玉を打ち込まれたらしい。普通なら即死だ。
「流石、
呆れるように呟いた。とりあえず、見たままの情報を伝えた。ステラも撃たれたことを話していたら、造形魔法が残っていたなら死んでることは無いとグレイが言ってくれた。とりあえず、ナツの鼻をたよりに奴らの後を追うことにした。
――
「……いたっ――」
「ステラ!? 気がついたか!」
視界が霞む。頭も痛い。やっぱり避けきれなかった。頭から流れる血が目に入って鬱陶しい。
動けない。後ろで柱に縛られている。……エルザの手も一緒に柱に縛られているらしい。これでは切るのに無理やり体を曲げることもできそうにない。
「へえ、生きてたんだね」
「――っ!」
色黒の男に髪を掴まれて引っ張られる。わざと傷口のあたりを引っ張ってきた。痛みに耐えようと力を入れてしまう。
「よせ、ショウ! 彼女に手を出すな!」
「……エルザ、知ってる人なの?」
「ああ、かつての仲間さ。姉さんが僕達を裏切るまではね」
私はエルザに聞いたんだ。と挑発したら殴られた。
エルザが妖精の尻尾には入る以前の話。かつて、黒魔術を信仰する教団に捕らえられて奴隷にされていた時代の仲間らしい。
「初めて聞いた」
「誰にも話さなかったからな……」
「そうだろうね。姉さんは僕達を忘れたかったんだから」
「ち、違う!」
「なら、どうしてあの時に船に爆弾なんか仕掛けたんだ! ジェラールが気づかなかったら、みんな死んでたんだぞ!」
本当のことをエルザから聞きたい。私の知っているエルザはそんなことをしない。このショウという男が嘘をついている可能性のほうが高いんだ。まずは、この男をここから追い出したいところだけど。
「死んでたらよかったのに」
「……なんだと」
この男は短気だ。さっきの挑発にすら乗ったんだから、うまくいくはず。すぐに手を出すだろう。私とエルザを連れて行くなら、殺せない理由があるはず。利用できる。
「それが嘘にしろ真実にしろ、エルザにお前たちは必要ない」
「ステラ……?」
「姉さんだって? そんなに依存してるからいけないんだよ。裏切られても、まだ姉さんだなんて、バカみた――」
「黙れ!」
――容赦なく、顔を蹴られた。思惑通りだけど、エルザまで傷つけるような言葉を吐くのは辛い。……それに比べれば、痛みなんてマシだろう。
「エルザの今の仲間は私たち、妖精の尻尾だ。お前なんか望んでないんだよ」
「黙れよ! このガキ!」
「やめてくれ、ステラ! ショウも、お願いだからステラに手を出さないでくれ!」
「ほら、お前の本性だ。だから捨てられ――」
「――黙れぇぇぇ!!!」
あとは何も言わなくても殴られる。何度も殴られて意識が飛びそうになる。魔法が使えないというより、魔力が回せない。そのせいか、普通に殴られるより辛い。
エルザが必死に止めるように叫んでいる。それでも、ショウという男は私を殴り続けている。
「よせ、ショウ!」
異変に気づいた他の奴が止めに入る。カジノで私が蹴り飛ばした男だ。色々と抵抗したみたいだが、説得させられて一緒に何処かに行った。
ようやく、二人きりになれた。……エルザと向き合うように縛られたりしていなくてよかった。たぶん、今の私は相当ひどい顔をしてるだろう。
「……ごめん、エルザ。二人きりにするために色々と挑発したんだ。やりすぎたみたいだけど……」
「大丈夫なのか?」
「
「……さっきも言ったが、彼らは私が妖精の尻尾に入る前の仲間たちだ」
エルザの話を聞くと、裏切ったのはジェラールという男らしい。元々、ジェラールという男は正義感が強くて、みんなの憧れだったそうだ。
奴隷時代、ジェラールやさっきの人たちと脱走を試みて、捕まってしまい、その時にエルザだけ懲罰房に送られた。ジェラールが立案者だと主張しても、教団の奴らは聞き入れなかった。そんなエルザを助けようとジェラールが反乱。エルザを助けたが、代わりに捕まってしまったそうだ。
そのあと、逆にエルザが他の人たちと共に反乱を起こした。犠牲を出しながらも、魔法が使えるようになったおかげで、何とか自由を勝ち取れた。しかし、既にジェラールはおかしくなっていた。
みんなで逃げようと言ったエルザを魔法で吹き飛ばし、教団の奴らを憎しみに任せて惨殺。他の人を楽園の塔の建設に必要な人手として、エルザがここに近づいたら、仲間たちを殺していくと脅したのだ。
「誰も見てなかったの?」
「ああ、魔法が使えたのは私だけで、懲罰房まで行けたのは私だけだったから」
「……そもそも楽園の塔って、なに?」
「
「ゼレフ……あのゼレフ書の悪魔を生み出した、本人ってこと?」
「そうだ。……私は何としてもジェラールを止めなければいけない。決着をつけるんだ」
エルザの表情はわからない。けど、さっきのショウという男の話が本当なはずない。きっと、ナツやグレイたちだってエルザのことを信じるはずだ。
「……ナツ」
ようやく、私は考えたくないことを思い出していた。
いや、私が大丈夫だったんだ。私より頑丈なナツがやられるわけがない。
死んでない。そう考えても、ナツが撃たれた瞬間が鮮明に浮かび上がる。真っ赤な血が、口からこぼれていた。
「ねえ、エルザ……あいつらのこと、許せないかもしれない」
楽しくないのに、笑いだした。狂ったように、いや、狂いたかった。私はまた、復讐という感情で動こうとしてるのだ。
そんな私に、エルザはなんて言っていたんだろう。聞こえないくらい、私は笑っていた。だって、そうしないと、そうでもしないと、私は泣いてしまうから。
何がおかしいのか、わからなくなるくらい笑った。こんな不気味な笑い声を響かせてるのが自分だなんて、信じられなかった。
『だから、言ったのに』
血溜まりに写っていた私は、悲しそうな顔をしていた。