【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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16話 わがまま

 妖精の尻尾と幽鬼の支配者の戦争。幽鬼の支配者は解散命令にジョゼの聖十大魔道の称号剥奪。一方、妖精の尻尾にはお咎めなしだった。向こうが仕掛けた戦争だとしても、こんなことは異例だ。

 ただ、評議員が出した提案を受けるという条件があった。たった1つ。私が目覚めたら評議会に顔を出すという条件。以前から話はあったらしい。定例会での私の暴走は、とっくに評議会にも届いていたのだ。

 

「この娘が、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)で、ゼレフ書の悪魔を壊した?」

「……信じられんな」

「こんな娘のどこにそんな力が……」

 

 特に罪状があったわけではない。逮捕や刑を受けることもない。ただ、危険因子を確認しておくためのもの。ただ呼ばれて、さらし者にされているようなものだ。

 ほとんどが年寄りの中で、二人だけ異質だった。一人は青い髪の青年、その横にいる黒髪の女性の匂い、気のせいじゃない。あの匂い、デリオラと戦った時にいた妙な奴と同じ匂いだ。

 

「なにか不満でも?」

「……いえ、なにもありません」

 

 顔に出ていたのだろう。この呼び出しに不満があると捉えられたりでもしたら、妖精の尻尾に迷惑がかかってしまう。

 

「出身も不明、あのギルドはまるでならず者の集まりだな」

「よさないか。その彼らのおかげであの件は大事にならずに済んだのだぞ」

「あれのどこが大事になってないのだ。駅一つ潰れ、街に混乱を招き、軍にも損害が出たのだぞ。果てにはギルド同士の抗争ときた!」

「こんな(むスゥめ)の前でスゥる話スィではないだろう」

 

 会話から察するに、妖精の尻尾の立場は危ういみたいだ。あの独特な話し方をする爺さん、あれがマスターの言っていた議員だろう。彼が弁護しなければ、妖精の尻尾も相応の刑を受けていたらしい。

 何のために私を呼んだのか。結局、私なんてお構い無しで怒鳴り合いにまで発展していた。本当にこの人たちが偉い人とは思えない。

 目をつけられたことに変わりはない。余計な問題を起こせば、私だけじゃなく妖精の尻尾にまで繋げてくるだろう。気をつけないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。待ちましたよね?」

「いや、元々は始末書の提出だけだったのに、いきなり向こうが条件をつけてきたからの……謝るのはこっちのほうじゃ」

「いえ、気にしないで下さい」

 

 相当な量の始末書だった。それだけでも大変なのに、突然私を連れてこいと言われたのだから。少しでも手助けになっているならいいけど、私のせいで増えた始末書もあるのだろうし、負担になっているはずだ。急に申し訳なくなってきた。

 緊張がとけたのか急に眠気が襲ってくる。大きなあくびまで出てしまった。

 

「あれからミストガンから話はあったかの?」

「……ミストガンから?」

 

 どうしてミストガンの名前が出てくるのか。そもそも、「あれから」とはいつのことなのかわからない。

 

「そうか。あやつにしては珍しく、入れ込んでいる様子だったからの」

 

 心当たりがない。私の知らないところで何があったのか。

 

「……ミストガンはどうしてギルドに顔を出さないんです?」

「人と話したがらないのじゃ。ギルドの為に戦争にも参加しておるし、悪いやつではないのだがどうもコミュニケーションに疎いやつでの」

 

 うまくミストガンと話せればいいけど、ラクサス以上にギルドに帰らないし難しそうだ。帰ってきた時は全員を眠らせてからギルドに入るそうだし。一度だけ、ぶつかったのは本当にお互いを意識してないからこそだろう。

 

「マカロフ殿、妖精の尻尾のミラジェーンさんから連絡がきております。至急とのことです」

 

 ようやく終わって帰れると思ったら急に呼び止められた。……まさかと思うが、ナツたちが問題を起こしてしまった。とかだろうか。そうなると、事が評議会にバレる前に逃げたいところだけど。

 

「ここでお伝えします。ロキという方がギルドからいなくなってしまった。とのことです」

「なんじゃと!?」

「ロキ? ……ルーシィを助けてくれた人か」

 

 私達が評議会に行った直後に、突然ギルドを去ると残していなくなったそうだ。みんなで探しているが見つからない。思いつめた様子で冗談には聞こえず、いくら探しても見つからないためにマスターに連絡してきたのだ。

 少し前に、自称ロキの彼女たちが乗り込んできて大変だったという事件があった。突然別れようと言われたらしいが、無関係ではないだろう。とりあえず、急いでギルドに戻ることになった。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 私達が帰る頃には解決していた。なんでもルーシィが以前から異変に気づいていて、ロキは精霊らしく、今は精霊界に戻っているとのことだった。もう少し遅ければ、ロキは完全に消滅していたらしい。精霊が人間界にいることが異常で、なぜロキがそうなったのかは教えてくれなかった。

 とりあえず、ギルドには戻ってくるとのこと。これからはルーシィの精霊として活動するらしい。

 

「……はぁ。仕事に行ってないのに疲れたな」

 

 ベッドに倒れるように寝転ぶ。私にもハッピーみたいな相棒が欲しいな。そしたら、話し相手になってくれるのに。

 仕事に行かないのならギルドの建て直しを手伝うようにと、エルザはよく言っていたが、今回は流石に免除だろう。

 まともな設計図が無いせいで、マスターと手伝いをする人の気分で変わってしまうから、私は手伝う気が起きない。どんなのがいいかなんて、想像できないからだ。

 

「あーあ、明日はどうしようかな……」

 

 この前の仕事で懐が温まったから、エルザたちはしばらく仕事に行かないことにしていた。一緒に行った私もなのだが、だからといって屋根のないギルドにずっといるのも嫌だ。建て直しを手伝う気も起きない。

 他に仕事に行く仲の人もいないし。とりあえず、良い仕事があるか見て、無かったら買い物でもしよう。何着かボロボロになって着れなくなって捨てたし。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「ステラー、海行くよー」

「……は?」

 

 なんか煩いと思って目を開けたらルーシィがいた。ここは私の部屋だ。なんでいる。というか他にもいるし。

 

「あ、鍵!」

 

 思い出した。私が幽鬼の支配者との戦争で病院に運ばれた時、ルーシィに鍵を預けた……あれ?

 いや、返してもらってる。それなら、ルーシィが今持ってる鍵は……

 

「ミラさんから貰ったのよ」

「いやなんで……またあるのさ……」

「そんなことより海行くぞ! 海!」

「あ、あたしが勝手に荷物は用意したから、すぐにでもいけるよ」

 

 めちゃくちゃだ。頭に浮き輪被ってはしゃぐナツとハッピーに、水着姿のエルザとグレイ。何がなんだかわからない。

 

「海って、急になんで――」

「さっさと行くぞ、遊ぶ時間がなくなるだろう!」

 

 まだ寝ぼけ眼で状況も話もわからないのに、エルザにベッドから引っ張り出されて、そのまま連れて行かれた。夢? そうだ。夢に決まってる。

 そう思ってほっぺを引っ張るが、夢は覚めない。痛いぞ、現実だ。

 

「……いぇーい」

 

 もう諦めよう。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 アカネビーチという有名な観光地で、その中でも高いホテルに泊まれることになった。ロキからのお礼ということだが、ハッピーをペット扱いにして枚数を回したらしい。なんだかハッピーが哀れだ。

 

「で、私の水着も用意済みと……」

 

 まあ、普通の水着だからいい。ステラは雪の魔法だから白ってことで勝手に選んでいたらしい。早速遊び回るナツたちを眺めながら、私はパラソルの日陰で涼んでいた。

 

「どうした。ここまできたら遊び尽くさねばロキに失礼だぞ?」

「暑いの苦手なんです」

「それなら海に入ればよかろう。いくぞ!」

 

 そんな私を心配したのか、エルザが声をかけてきた。気づけば、そのまま海まで引きずられていた。

 海に入ってから。浮き輪が必要だな。なんて言って何処かに……たぶん、持ってきた大荷物の方に戻ってしまった。

 

「めっちゃ綺麗だぞ!」

「こんな透明な海みたことねぇ!」

「おーさーかーなー!」

 

 それぞれの思うように海を満喫していた。ハッピーの目が明らかに遊びというより食事に傾いているけど。

 浮き輪を取りに行ったはずのエルザの腕にビーチボールが抱えられていた。

 

「いくぞグレイ!」

 

 勢い良くナツにボールが飛ばされる。それをグレイはルーシィにパス、ナツに回って――

 

「――燃えてきたー!」

「――いたっ!?」

 

 ナツが勢い良く飛ばしたボールは私の顔に直撃して、そのままぶっ倒れた。

 

「やったな!」

 

 お返しとばかりに全力でぶつけにいった。いつの間にかぶつけ合いからの鬼ごっこになっていた。

 流石に枕より軽いから勢いが出ないとおかげで、ルーシィもハッピーも参加していた。

 

「次はスイカ割りだ!」

 

「ルーシィ、右だ右! もっと上!」

「上って……」

 

 流石に上って言葉に呆れる。……可哀想なことに、ナツの思惑通りにルーシィは全く知らない人の頭を叩いてしまったのだ。何より面白いのは、割れてないと勘違いして何回も叩いていたのだ。

 

「あー、おっかしいの。1発目で気づくって」

 

 みんなで腹を抱えて笑っていた。そのあと、ナツは波に乗る乗り物に乗せられていたみたいだけど。ハッピーが言うには乗りたいと自分から言ったらしい。しかし、酔ってるナツを連れ回すルーシィは爽快な笑顔だし、あれは乗せられてる。

 

「そうだ、ハッピー。魚、取ってあげようか?」

「あい!」

「よっしゃ! オレもやってやるよ!」

 

 グレイと造形魔法を使って、魚をどっちが多くとれるか競うことになった。良い勝負だったけど、酔ったナツが突っ込んできて無しになった。

 流石にリリースしたけど、一体何匹がハッピーの餌食になったかはわからない。

 

「お城づくりだ!」

 

「泳いで競争!」

 

「かき氷早食い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった!」

 

「も、もう無理……」

 

 気づけば思いっきり遊んでいた。……こんな風に遊んだのはいつ以来だろうか。バテるルーシィを抱えてパラソルの下に戻ってきた。もう、日も傾いている。エルザも荷物をまとめている。

 

「そろそろホテルに戻るか」

 

 流石に遊び疲れていたのもあったけど、遊び尽くしたから、もっと遊びたいなんて駄々をこねる人は流石にいなかった。

 部屋に入るなり、さっさとシャワーを浴びた。……日焼けで肌が痛い。

 何にも考えずに楽しんだ。これでもかってくらい笑った。

 

「……たまには、いいよね」

 

 こんな日くらい、自分を言い聞かせてわがままになったっていい。みんなと笑って。だって、そうしたいから妖精の尻尾に入ったんだ。

 何も考えずに嬉しくて笑った。鏡に写った私も笑っていた。こうしたかったんだから。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

「ここのホテルの地下にカジノがあるらしいの! ナツたちは先に遊んでるって。エルザたちも――」

 

「ステラは寝てるよ。遊び疲れた子供みたいで可愛いぞ」

 

 カジノがあると聞いて、エルザたちを呼びに行ったルーシィだったが、ステラはすやすやと寝ていて、エルザが頭を撫でていた。

 こうしてみると、ステラは幼いんだなとルーシィもエルザも実感する。ステラは色々と頑張りすぎてた。今回、息抜きに連れてこれて良かったと考えていた。

 

「ロキには感謝しなくちゃね」

 

 償いってわけじゃない。けど、あんなに張り詰めてばかりのステラを見ていると、辛かった。

 良かった。あんなに笑ってくれて。寝顔を眺めながらルーシィはそう思った。

 

「起こすのも可愛そうだ。私たちだけで行こう」

「そうね。それじゃあ早く行きましょ!」

 

 何故かエルザはドレスに換装している。遊ぶなら徹底的に。という、実にエルザらしい気合いの入っだ考え方にルーシィは思わず苦笑いする。

 

「行ってくるね」

 

 寝ているステラにそう言い残して、エルザとルーシィはカジノに向かった。


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