【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
15話 戻らない歪み
「暴れ足りねぇぞ、この野郎!」
「ナツ、ストップ。この前みたいにやりすぎたら報酬半減するから」
倒れている盗賊たちに追い撃ちをかけようとするナツをなだめる。ナツが一緒に仕事に行くと物を破壊するから報酬が減る。ルーシィの家賃がピンチな理由がナツだったとは。前の仕事なんて報酬無しだった。下手したら賠償金からの借金だ。
「ひぃ!」
「逃がすか!」
倒れていた男が立ち上がって逃げ出した。余計な仕事を増やすんじゃない。数だけ多い奴らなんかに、いちいち手間取るなんてごめんだ。
「スノーメイク・
「ぎゃあ!?」
なんとも情けない声を上げながら最後の一人もやられた。そもそも、逃げ出すような輩の時点で情けないんだけど。それにしても、魔法を使える者もまともにいない。盗賊ギルドと言っても魔道士自体はいないらしい。
「どうせなら、近くの村に寄っていかない? 温泉が有名らしくて、気分転換になると思うんだけど」
「それもそうだな。気分転換といいつつ、戦いばかりでは飽きてしまうしな」
仕事以外の余計なことするなんてルーシィの提案に、ナツやグレイが一瞬ひやひやしていた。エルザは真面目だから提案を蹴るかと思ったが、意外と乗る気だった。
「実は宿も取ってあるしな」
最初からそのつもりだったらしい。仕事よりもこっちが気分転換のメインだったのかも。それなら遠慮なくゆっくりしよう。
――
鳳仙花村、もともと観光名所として有名で、ここに最近よく出没していた盗賊の退治が今回の仕事だった。温泉が有名で、和風な町並みが売りらしい。
温泉。そういえば、最初に仕事に行った村はどうなっただろう。いつかこの村のようになってくれてるといいけど。
「ステラ、その背中の傷はどうしたの?」
「え?」
脱衣所で服を脱いでいるときに、見に覚えのないことを言われた。ルーシィが言うには、2つの大きな傷痕が背中にあるとのこと。丁度、左右対称。背中なんて見ないから気づくことがなかった。
思い当たるのは、あのときだ。ジョゼと戦ったときに私は何が何でも奴を倒そうとした。その結果、竜になりかけた。いや、なったのだろう。
「……さあ?」
わざとらしく恍ける。戦争は終わった。妖精の尻尾の仲間たちを守れた。それで終わったんだ。そんな傷痕を気にするなんて、まるで後悔してるようじゃないか。
水面に映った私は無理矢理笑っていて、どこか冷めていた私も映った。
――
「ナツ、お前はどう思ってる。やっぱり無理してると思うか?」
「誰が?」
「ステラだよ。お前も聞いただろ。ジョゼを倒したのはステラだってこと」
温泉に浸かりながら、あの村のことを思い出す。あの時のステラは無邪気に笑っていた。けど、あれからステラは変わった。成長した……とは違う。
「オレはどうしたらいいのかわからねぇ……」
「ったく、お前が連れてきた子だろ……」
もともとステラはナツが連れてきた子だ。たまたま雪山で出会って戦うことになった。聞いた話じゃ、ナツの探してるイグニールって竜に、ステラの育て親の竜は殺されたらしい。
ラクサスの言ってた復讐のためにギルドに入ったって話は信じていないが、あの話のせいでステラのことをよく思わない仲間が増えたことは確かだ。
「……それに、あのときの姿」
翼に鱗。まるで竜そのものだった。ナツがあんな姿になったことはない。ジョゼ以上に気味が悪かった。姿じゃなくて、魔力が異質だった。
「あいつ、明らかに無理してんだよな」
なぜだかグレイは、少し昔の嫌なことを思い出していた。エルザがギルドに入ったとき独りで泣いていた。ステラが同じようにならないように手を伸ばしても、届かない。実感がまるでないんだ。
「まあ、いつも通りに接してやるのが一番かもしれねぇな……」
――
「ほんと、あいつら人間なのかしら」
部屋に入るなり枕投げ。質のいい枕は抑えたとドヤ顔のエルザ。ナツの全力投球で火がついたグレイ。その三人が投げた枕に当たって全力で吹っ飛んだ私。誰かに踏まれてステラがブチ切れて参戦。このままいたら命が危ないと感じて逃げてきた。
「プーン……」
「ハッピーは猫か。プルーは犬だもんねー」
「へー……このちっこいのが犬なんだ」
「そうよー……って、ステラ!?」
いつの間にかついてきていたステラがプルーの横にしゃがみ込んでほっぺをつんつんしていた。そのまま持ち上げて引っ張って、ぶんぶんと上下に振り回したり。初めて見る生物に興味津々らしい。
「ププーン……やめるプーン、オイラは勇者なんだプーン」
「「は?」」
ステラがさらにプルーをぶんぶん振り回す。流石に止めに入る。が、プルーが勇者って……
「あんた喋れるの!?」
「そうだプーン、オイラは聖なる石を持つ勇者の使いプーン」
驚く私をよそに、ステラが近くの岩まで歩いていく。こっちに戻ってきたときに首根っこ掴んでハッピーを連れてきた。
「なにしてんのさ。変なところから声が聴こえるからバレバレだったよ」
「ちぇ、ルーシィの頭の悪さなら一週間は騙し通せると思ったのに、ついてないや。ステラも一緒だなんて」
「随分ありがたい計算ね。そういえば、ステラはなんでここに?」
「そりゃあ、あんなとこにいたら寝れないから」
至極当然の答えが帰ってきて、頷くルーシィだった。
「へーい、彼女メーン」
変な男二人に声をかけられた。首をカクカクさせながら近づいてきて妙に気味が悪い。そのまま近づいてきて、肩に手を回してきた。
「俺らと一緒にあそばない? 君も一緒にメーン」
「ファンキーな夜を過ごそうぜ」
「ちょっと、やめ――」
振りほどこうと力を入れようとしてもピクリともうごかなかった。まずい、こいつら魔道士だとルーシィが気づいたときには、何かの魔法で力を入らなくなっていた。
焦っていた次の瞬間、男の一人がステラに蹴り飛ばされた。ステラは掴まれる前に問答無用で蹴り飛ばしたのだ。
「ルーシィを離せ。お前もこうなりたいのか」
助かった。と思ったら、男がナイフを首に突きつけられた。流石にステラの顔が曇った。
「う、動くなメーン! 少しでも動いたらッばらぁ!」
ナイフを突きつけてきた男も情けない声を上げながら吹っ飛んでいった。ステラじゃない。
「怪我はない?」
「ロキ!」
「ごめんなさい」
反射的に名前を呼んだだけなのに、ものすごいスピードで木の後ろに隠れてしまった。
「なんでよ!?」
ロキいわく、この二人は女を食い物にしてるゴロツキで、こいつらを捕まえるのが仕事だったみたい。そのまま二人を連れて行こうとするロキを呼び止めた。
「助けてくれてありがと。それに、鍵のお礼も言ってなかったから」
「いいんだよ。ステラもありがとね。じゃあ、これで……」
「このあと、つきあってよ」
「この展開はー!」
「ププーン!」
そんなつもりはないのに、ハッピーが囃し立ててくる。プルーものってるし。そうだ。それなら、ステラもつれていけばいいじゃん私。誘われるなんて思ってなかったみたいで、ロキも驚いているし。ステラがいたほうがいい。
「ステラも一緒に――」
「ついていったら寝れなさそうだから遠慮する」
恋の邪魔しちゃ悪いから。なんて大きなあくびをしながら言い残してステラはそのまま帰ってしまった。ステラまでそういうことを言うなんて、なんか驚いてしまった。
さっきのプルーのときもだけど、意外と可愛いところあるのよね。
――
なんだよ、あの変な二人組。あいつらのせいで、また嫌なことを思い出した。
戻って寝るなんて嘘だ。どうせ、枕投げに巻き込まれて寝れないだろう。
「疲れてるのに……」
ルーシィを人質に取られたときに、なんで躊躇ったんだ。あんなの、すぐに止められたはずだ。なんで、一瞬でもルーシィが――殺される想像をするなんて。
小さなこと一つ一つから、嫌な連想をしてしまう。私は守れたんだ。ヴェアラを失った悲しみを二度と繰り返さないように、私は戦ったんだ。
――あなたじゃ誰も守れない。
うるさい……うるさい、うるさい、うるさい! 私だって戦える。私は――
『私がいなかったら、みんな失ってたのに?』