【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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14話 責任

 自分の部屋。まだ見慣れない家だが、いつもと違う。ここが夢の中だと理解したのは、もう一人の私が座っているからだ。

 

「命を食らう魔法? あんなのハッタリよ。結局のところ、相手の魔力を食らう魔法。それがアレの正体」

 

 ベッドに座って足をパタパタさせながら、特に重大なことでもない軽い話のように扱う目の前の私。

 

「……でも、魔道士にとって魔力は命じゃないの?」

 

「私の魔力まで食らい尽くされてないんだから、死ぬことは無かったのよ」

 

 意味がわからない。私の魔力は無くなった。魔道士にとって魔力は命に等しい。それが無くなったら、私は死ぬはずだ。それなら、アリアの言っていることは正しいはず。

 

「……あのね、人と竜の混血なの。私が竜で、そっちが人。あれだけ怪我をしてバカみたいに動けるのは竜の力のおかげってわけ」

 

「結局、あなたは私の味方なの?」

 

 正直、怖い。そもそも、ララバイのときに暴走したのも、ナツを殺そうとしたのも、目の前にいる(ステラ)だ。

 

「滅竜魔道士が竜を滅ぼさなくて、どうするのさ。それに、ヴェアラの仇だってナツを殺そうとしたのはあなたが先でしょ?」

 

「それは……」

 

 確かにそうだけど、私がギルドに入ったのはナツを狙うためじゃない。……ナツはもう、大切な仲間なんだ。

 

「まあ、いいわ。他に何かある?」

 

「……どうしてゼレフ書の悪魔にまで」

 

 滅竜魔道士なら、竜を残らず狩れ。そういうことだろう。だとしても、そもそも暴走した発端はゼレフ書の悪魔だ。どこに竜と関係があるのか。

 

「ヴェアラが恨んでいたもの」

 

「……母さんが?」

 

「ゼレフ書の悪魔は魔道士が……人が生み出した悪魔だから」

 

 あれをつくったのはゼレフという魔道士だ。それなら、ヴェアラとゼレフの間に何かあったってことなのか。

 

「――あなたが幼くて理解できなかっただけよ。とりあえず、これからは私とも折り合いをつけることね。嫌でも理解してもらう。それが運命(さだめ)だから」

 

「ま、待って。最後に1つだけ」

 

「……どうして力を貸したのかって? だって、私はステラよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきと同じ家。でも、夢じゃない。ここに私しかいないから。それにしても、自分は竜で私を人と言ったくせに、最後には同じステラだ。なんて、わけがわからない。

 それにしても、まだ眠い。たぶん、馬鹿みたいに魔力を使ったせいだろう。幽鬼の支配者との戦争から、もう1週間以上も経つというのに。私が目覚めたのはつい先日。実はルーシィが家に帰って大変だったとか、評議員に拘束されて取り調べを受けていたとか。眠っている間も大変だったようだ。

 

「……そういえば、今日から仕事再開だっけ」

 

 今日から仮ギルドで仕事を受け付けるとミラさんが言っていたのを思い出す。

 まだ一度もギルドに顔を出してないし、丁度いいと思った。まあ、他にも色々と考えることはあるが……いつまでも寝ていても仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ステラ。怪我は大丈夫なのか?」

 

 ギルドに入って……といっても建設中の横に野ざらしにされた仮ギルドのところに相変わらず裸のグレイがいて、声をかけてきた。

 一瞬だけ、ラクサスと目があった。何だか嫌な予感がしてすぐに目を逸らす。

 

「おかげさまで。それより服着たら?」

 

 別に周りも指摘しないから上裸はグレイにとって普通なのだろう。「元気そうだな」なんて気にせずに言葉を返してくるし、今度から指摘するのはやめとこう。

 

「……おはよ、ルーシィ」

 

 カウンターの横でミラと話しているルーシィに声をかける。一瞬迷ったけど、もう終わった戦争のことをとやかくいうような人じゃないから。

 

「おはよ。あれ、ナツは一緒じゃないの?」

 

「ん? 一緒ってどういうこと?」

 

「ようやく起きたのに、昨日はギルドにこなかったでしょ? 話したいことがあるから迎えに行くってナツが言ってたんだけど」

 

 いつも通りの明るいルーシィだった。ミラも相変わらずニコニコしている。……何人かが私に気づいて、ヒソヒソと何か話してる。

 無理もない。しかし、そういうのは覚悟の上で選んだ行動だ。今更後悔はない。

 それにしても、ナツの話したいことって何だろう。まあ、それなら暫く待ってることにしよう。

 

「すれ違ったのかな。……って、ナツって私の家知ってたっけ?」

 

「私が教えたのよ?」

 

「……あー、そういえば前にルーシィがお泊り会とか言ってたのは、そういう」

 

 悪びれることもなくニコニコしてるミラジェーン。別に家がバレたからどうとかいう話はないけど。

 最近、ナツとはまともに話してないから、きっかけがあるなら嬉しかった。

 

「幽鬼の支配者のガジルって奴のことかな。イグニールのことで何かわかったのかも」

 

「そういえば、戦いのあと二人で何か話してたってハッピーが言ってたわね。ほんとナツって、本能のまま生きてるって感じよね」

 

「そういうところが可愛いのよ、ね?」

 

 ミラがこっちにウィンクしながらそんなことを言った。

 

「……「ね?」って、私に同意を求めないでください。本能なら、グレイの脱ぎ癖も似たようなものでしょ」

 

「そう考えると、似たもの同士なのかしら」

 

 グレイとナツ。確かに色々と似ていると思う。些細なことで喧嘩が成立している時点で同レベルだ。

 

「――もういっぺん言ってみろ!」

 

 エルザの怒鳴り声が聞こえて、いつものように騒いでいたギルドがピタッと静かになり、みんな同じ方向を見ていた。

 

「この際だ。ハッキリと言ってやるよ。弱ェ奴はこのギルドには必要ねぇ」

 

「貴様ッ!」

 

 ラクサス。妖精の尻尾、最強の一人。……ラクサスに会ったあの日。私がナツを殺そうとした話をしたせいで、私は少し居心地が悪くなった。だから、ラクサスに対してあまり良い印象は持っていない。

 

「元はといえばテメェらが幽鬼の支配者(ファントム)の奴にやられたせいだったか? 情けねぇな、オイ!」

 

 私ともう3人、レビィとジェットにドロイ。確かに、私たちがやられたせいで本格的に戦争に発展した。でも、私に対してではなく、3人に対してだけ言っている様子だった。

 

「そんな、酷い!」

 

 私の横にいたルーシィが怒りを顕にしていた。ラクサスの耳にも届いたらしい。

 

「これはこれは、更に元凶の星霊魔道士のお嬢様じゃねぇか」

 

 ラクサスは更に煽ってきた。これ以上、この男に引っ掻き回されるのは御免だ。

 

「それはきっかけでしょ。あいつは遅かれ早かれ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に手を出してたさ」

 

「言うじゃねぇか、まだギルドに居たとは驚きだ」

 

「辞めさせたいなら、力づくでやってみたら?」

 

 仮にルーシィやレビィたちが責任を感じてギルドを辞めると言ってもマスターや他の仲間たちが止めるはずだ。

 

「……私も嫌われてるけど、あなたも似たようなものでしょ」

 

 皮肉と、どこか自虐混じりの嘲笑。周りの反応からして、ラクサスがよく思われていないのはわかった。周りの目つきや態度は私に向けられているものより酷いかもしれない。理由はわからないけど。

 一触即発の空気の中で、ラクサスが大声で笑った。身構えていたエルザは、それを見て驚いていた。

 

「ジジイに何を吹き込まれたのか知らねぇが、随分と反応が違うじゃねぇか。前はあんなに怯えてた奴が、まるで別人だぜ?」

 

 近くにいたミラが思いっきり机を叩いたて、会話を止めた。

 

「ラクサス! もう終わったのよ。誰が悪かったとか、何のせいとかそういうのはなかったの。戦争に参加しなかったラクサスにもお咎めなし、マスターはそう言ってるのよ」

 

「そりゃあそうだろ。ジジイが始めた戦争の尻拭いをどうしてオレがしなきゃならねぇんだ。

ま、オレがいたら、こんな無様にはならなかっただろうがな」

 

「ラクサス、テメェ!」

 

 いつの間にかナツがラクサスに殴りかかっていた。だけど、ラクサスが一瞬で消えて、気づけばナツの後ろに現れていた。

 

「勝負しろ! この野郎!」

 

「オレを捉えられねぇ奴がどう勝負になるってんだよ」

 

 ナツはやる気だが、それに全く興味がないといった様子だ。ナツの不意打ちも軽くよけていたし。

 

「オレがギルドを継いだら、弱ェ奴は削除する! 歯向かうやつもだ!」

 

 そう言い残して、ラクサスは消えた。

 ラクサスに殴り掛かるなんて、バカげたことなんだろう。でも、ナツは仲間を馬鹿にされたからやったんだ。周りもナツの真意をわかっているから止めなかった。

 

「何継ぐとかぶっ飛んだこと言ってんのよ……」

 

 ラクサスがいなくなって早速、ルーシィが愚痴を漏らす。イラついているナツをエルザがなだめてるし、他の人も同じような思いなんだろう。

 

「それがそうでもないのよ。ラクサスはマカロフの実の孫だからね」

 

「そうなんですか!? ……でも、私は嫌だな。仲間をあんなふうに思っている人がマスターになるなんて」

 

 まあ、ないだろう。マスターはラクサスよりエルザとかにギルドを継がせるような感じがする。そういう人だ。

 

「あくまでも噂よ。そんなこと、マスターは一度も漏らしたことないし」

 

 ラクサスの考え方はみんなの考えと明らかに違う。その上、マスターの孫なのにあの性格とで期待を裏切っているのだろう。

 

「なんだよ、ギルドに来てんじゃねーか」

 

 ナツはようやく私の存在に気づいたらしい。ラクサスがいたとはいえ、そんなに私って影薄いだろうか。

 

「来ないなんて言ってません。それより、話って?」

 

「幽鬼の支配者のガジルって滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤ)と話したんだけどよ。やっぱり(ドラゴン)がいなくなったのは7年前で、日にちも同じらしいんだ。でも、イグニールやヴェアラってのは知らないってよ」

 

「そのガジルって人の竜の名前は?」

 

「えっと……たしか、メタリカーナってやつだ」

 

 わかってはいたけど、聞いたことのない名前だ。それに、向こうもお互いの竜のことを知らない。

 向こうもメタリカーナって竜を探しているらしいし、あんまり進展なし……か。

 唯一の繋がりがあるイグニールとヴェアラ。でも、ヴェアラはイグニールに殺された。――どうして、イグニールだけがヴェアラを殺しに来たんだ?

 

「どうして、イグニールだったんだろう」

 

「え?」

 

「……なんでもない」

 

 もしも、ヴェアラを殺した竜が、幽鬼の支配者のガジルって奴の竜だったなら、私はガジルを躊躇わずに殺していたんだろう。もしそうなら、私はナツに勝負なんて挑まなかったのだろうか。いや、そんなの考えたって仕方ない。

 

「……気分転換に仕事に行かないか? 何かと一緒にいることが多かったからな。ナツにグレイ、ルーシィとステラ、それとハッピーで」

 

 エルザの申し出に、周りがざわつく。最強チームだとか、恐ろしいとか。相変わらず喧嘩を始めそうなナツとグレイに「不服か?」とエルザが一言。すると、嫌でも仲良しを演じる2人を見て、思わず笑ってしまう。

 

「家賃もピンチだから、報酬のいい仕事がいいのよねー」

 

 なんだかんだで、周りもいつも通り言い合ったり、笑ったり、喧嘩を始めたりしていた。

 いつもと変わらない形を私はちゃんと守れたんだ。


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