【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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第12話 お前のせいだ

「大変だー! ギルドが巨人になって、魔法を唱えてて! 完成したら大聖堂まで消えちゃうって!」

 

 空から帰ってきたハッピーが、慌てて三人に報告する。ナツとグレイ、そしてエルフマン。エレメント4の一人を倒して、ジュピターも破壊した矢先のことだった。

 

「急いで動力源を探すぞ!」

「次から次へと問題を起こすなよなぁ!」

 

 手分けして探そうとバラバラになる。早くしないとギルドどころか街が消し飛ぶのだから、さっきのジュピターより大問題だ。

 

「……なあ、ハッピー。この戦争、ジョゼを倒せばすべて終わるんじゃねえのか?」

「無理だよ! ジョゼはマスターと同じ"聖十大魔道"の称号を持ってるんだよ! ナツに勝てるわけないよ!」

「じゃあ、どうすんだよ! じっちゃんは――」

「――ナツのバカ!」

 

 マスターもいない。エルザもやられた。……ジョゼを倒さなければ、どうあがいても最後にやられてしまう。それを考えないようにしていたのに。と、ハッピーはしょぼくれてしまった。

 ナツはそんなハッピーをみて、頭にぽん。と手を置いた。

 

「オレがいるじゃねーか」

「……あいさー!」

 

 頼もしかった。力で勝てなくても、ナツにはみんなが期待する何かがあった。

 それにしても、広い。いっこうに敵には会わないし、おかげで現在地も聞けそうにないなんてハッピーが考えていると、遠くに何か落ちているのが見えた。

 

「……誰か倒れてるよ、ナツ」

「ちょうどいいや、このギルドの動力源――」

 

 それが自分の仲間だと、彼女だとは信じられなかった。

 

「――ステラ!」

 

 ナツは力強く床を蹴って、急いで駆け寄った。少し前に会ったときより、傷だらけで、血で汚れていた。倒れている体を仰向けにして、声をかける。

 

「しっかりしろ! 何があったんだ!」

 

 全く反応がなかった。揺すっても、手を握っても、全くだった。しかし、傷は酷いが、血はそんなに出ていない。

 

「しっかりしろ! こんなところで寝てるんじゃねえよ!」

「ナツ……」

 

 本当に寝ているようだった。でも、今にでも消えてしまいそうな灯火。

 

「まだ、今からギルドに――」

「――だめだよナツ!」

 

 ステラを背負って運ぼうとしたナツをハッピーが止めた。

 

「早くしないと、みんな消えちゃうんだよ! ステラも頑張って止めようとしたんだ! だから、ナツは――」

「だめ……だ」

「「ステラ!」」

 

 息をすることすら辛そうだが、ステラは意識を取り戻した。……目の焦点も合わず、今にも消えてしまいそうな声で「ごめん」とだけ呟いた。

 

「悲しい。二匹目の竜も堕ちるときがきたか」

 

 ハッピーの声を遮って、ナツの真後ろに何かが現れた。……気配がなかった。

 

「空域"滅"。その魔力は空となる」

「がっ!?――」

「な、ナツー!」

 

 現れたアリアに、一瞬で追い詰められたナツ。ステラを気にかけすぎて、不意をくらってしまった。

 

「お前が……ステラを!」

 

 現れた男は確かに「二匹目の竜」と言った。それは滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)のことだろう。そうなれば、ステラをやったのはコイツになる。

 

「いかにも、火竜(サラマンダー)。この娘は、我が空域によって敗れたのだ」

「ぐあぁぁぁ!」

「ナツー!」

 

 これ以上、幽鬼の支配者(コイツら)家族(ギルド)を傷つけられてたまるかと力を込めた。

 

「オレたちは……負けられないんだ!」

「無駄なこと――」

 

 男の顔に、蹴りが入る。気を取られたのか、ナツにかけられていた魔法が解かれた。……ステラが立っていた。

 

「に、逃げろ! 本当に死んじまうぞ!」

 

 その姿はあまりにも惨めで、傷だらけで、ナツにすら「逃げろ」と言わせたのだ。

 

「……ほう、まだ立ち上がるの――」

 

 言葉を遮るように蹴りがまた入る。緋色の髪――エルザだった。

 

「コイツが……マスターを……」

 

 エルザは怒っている。それは、誰が見ても明らかだった。

 その横でふらふらしながら構えるステラ。その虚ろな目にはアリアしか映っていなかった。

 

「うっ……ぐっ……」

「……もう大丈夫だ。私に任せろ」

 

 そう言って、エルザはステラの前に立った。

 

「エレメント4の頂点。大空のアリア。妖精女王(ティターニア)火竜(サラマンダー)の命まで……空域"零"発動。この魔法は全ての命を喰らい尽くす」

「貴様らは何故そんなにも簡単に人の命を奪えるんだ!」

 

 魔法をものともせず、エルザはアリアへと近づいていく。空域を避け、斬り込んでいく。「え?」と呆気に取られているアリアの目の前に、既にエルザは踏み込んでいた。

 既に換装をしたエルザ。そして、その後ろにはナツが殴る構えを取っている。

 

「天輪――循環の剣(サークルソード)!」

「火竜の――」

 

「咆哮!」

 

 アリアの体が宙を舞ってから大きな音を立てて地面に落ちた。アリアに近づいて、すかさずエルザは剣を向けていた。

 

「マスターが貴様ごときにやられるはずがない。今すぐ己の武勇伝から抹消しておくがいい。――貴様ら全員、助かる保証などないと思え」

 

 その威圧のせいか、アリアは白目を向いて意識を失った。

 力を使い果たしたエルザが倒れかけて、ナツが受け止める。既に倒れるように座り込んでいるステラのことは、ハッピーが何とか支えていた。

 そんなとき、スピーカーの電源が入る。声の主はジョゼ、ファントムのマスターだった。

 

『みなさん、我々はルーシィを確保しました』

 

 その言葉のあとに、鈍い音と「きゃあああ」という叫び声――ルーシィのものだった。

 

『当初の目的は果たしました――あとは貴様らの皆殺しだ。クソガキども』

 

 

 

 

――

 

 

 

 気づくと、ナツもエルザも消えていた。おかしいなと思いつつ、一つの結論に至った。

 

「……夢?」

 

 自分は何をしていたのだっけ。仕事? 昼寝? ……思い出せない。

 何もない。誰もいない。……急に不安になってきた。それに、なんだか寒い。

 

「あら、意外と早かったわね」

 

 不意に声をかけられて振り返る。そこにいたのは、私だった。――違う。

 氷の壁の向こう側。さっきまで、そんな壁はなかったはずだ。

 

「これを退けてくれない?」

「あ……」

 

 一つ思い出した。それが怖くて、足に力が入らなくなった。……ララバイのとき、私の意識を奪ったのはコイツだ。

 

「どうして……」

「情けない。滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)にも負けて、ただの魔導士にすら負けて。……情けないよね」

 

 反論はしなかった。それよりもまた意識を奪われるんじゃないかと身構えていたからだ。

 

「――そう身構えないでよ。ウルのおかげでどうにもできないのさ」

 

 そう言ってコンコンと氷の壁を叩く。デリオラとの一件のとき、私はウルに体を託した。そのときにウルがやったのだろうか。

 

「ここから出してくれるなら、幽鬼の支配者との戦争に手を貸してあげる。あなたの甘さには反吐が出そうだったし」

「……ナツを殺そうとするから、あなたには頼らない」

「は、滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)が竜を倒さないなんて聞いて呆れる」

「ナツは仲間だ」

「……なら、幽鬼の支配者の滅竜魔道士は?」

「そうまでして、私を堕としたいの?」

「そういうことじゃない。まあ、いいや……幽鬼の支配者のマスターはどうするの?」

 

 マカロフがいない今。どう転んでも最後に残るのは幽鬼の支配者のマスターだ。そうなれば妖精の尻尾の負け。誰一人として助からない。マスターがいないということを考えていたけど、相手のマスターをどうするかなんて考えなかった。

 

「誰も助けられずに、またひとりぼっちだ」

「うるさい! 私は二度とお前には頼らない!」

 

 殴った。目の前の自分に向かって。氷が砕けてステラが飛んでいった。

 

「……後悔するよ」

「私の選んだ道だ。文句があるなら今すぐ――」

 

 泣いていた。さっきまで私を挑発してきたのに。

 

「せいぜい頑張りなよ」

 

 その涙に動揺して、私は強く言い返せなかった。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 ふらふらと立ち上がる少女。自分が来る前から既に倒れていて、気にも止めなかった。それなのに、この状況を邪魔されるのは、ジョゼにとって楽しみを削がれるようなものだった。

 ジョゼの魔法によって拘束されているエルザも、立ち上がる少女に気づく。エルザは逃げろと思わず叫んだ。

 ジョゼには1つだけ思い当たる人物がいた。ガジルが潰したという滅竜魔道士だ。

 

火竜(サラマンダー)以外の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)か。気に入りませんねえ……つくづく妖精の尻尾にはイライラさせられる」

「うっ……ぐ」

「立ち上がるのが精一杯のようですね。黙ってみているなら見逃してあげましょうか」

「っ! スノーメイク――」

 

 エルザへの拘束を解いて、ステラに矛先を向ける。先に生意気な小娘を始末しようと。床をえぐりながら、衝撃波がステラに近づく。亡霊が地を這うような、気味の悪い魔法だった。

 全く避ける動作もできずに、ステラに直撃した。飛ばされて、そのまま地面に落ちた。

 

「全く、こんな小娘ごときに興を削がれるとは――今更どう足掻いたところで、私がいる限り貴様らに勝利は無い。最終的に財産も、人材も手に入れるのは幽鬼の支配者だ!」

「ふざ……けるな……」

「もういい! 立ち上がるなステラ!」

 

 ゆっくりと近づいたジョゼ、立ち上がろうとするステラの首を持ち上げる。

 ステラの首が締められる。その目はいつの間にか赤くなっているた。ステラじゃない。エルザにはわかった。ララバイのときに見たものが、目の前にいる。

 

「殺してやる……殺してやる……お前は絶対に私が……」

「フフ……威勢だけは一人前だ」

 

 嘲笑いながら告げる。落ちていたエルザの剣をステラに突き立てて、そのまま貫いた。

 

「貴様ァァァ!!!」

 

 エルザが叫ぶ。それを聞いてジョゼの顔に醜い笑みが戻る。

 

「これじゃあ、ガジルさんの足下にも及びませんねえ……

 

 

 

……さて、話の続きでもしましょうか」

 

 ピクリとも動かなくなったステラに興味も無くなり、エルザのほうへとジョゼは近づいていった。

 

「いつしか幽鬼の支配者に並ぶギルドと、妖精の尻尾は賞賛されるようになった。ミストガンやラクサス、エルザの名は我々の街にも響き渡っていた。元々ちっさなギルドが、幽鬼の支配者と並んでナンバーワンだと? 笑わせるな!」

「そんなくだらん妬みが……原因だと!?」

「妬み? 違うな」

 

 そう言ってジョゼは倒れているエルザの手を踏みつけた。

 

「きっかけは些細なものですよ。とある財閥の娘を連れ戻してほしい……とね」

「っ……ルーシィのことか」

「貴様らがハートフィリア家の財産を使えるとなれば、更に大きくなっていく、それだけは許して置けんのだ!」

 

 足を振り上げて、ジョゼはもう片方の手も踏みつけた。だが、エルザは痛みに耐えて、叫び声を上げなかった。

 

「貴様ら情報収集力の無さにも……呆れるな……。

ルーシィは家出してきたのだ。家の金など使わず、家賃7万の家に住み、私たちと仕事をしている。

 

……花が咲くところを選べないように、子も生まれるところを選ぶことはできない。貴様らに、ルーシィの何がわかる!」

「……これから知っていくさ。タダで返すと思うか? 金が無くなるまで飼い続けてやるのさ」

「貴様、どこまで外道なんだ!」

 

 エルザが吠えた途端、ジョゼが飛んだ。正確には飛ばされた。赤黒い狼が――ステラの造形魔法。様子が明らかにおかしい。

 立っているはずがない。なんで、立ち上がるんだステラ。もうやめてくれ。

 

「心の何処かで、殺さないでって、ダメだって抑えてた。けど、お前がいたら妖精の尻尾(仲間)は泣き続ける。ルーシィも、エルザも、ナツもグレイも、みんな傷ついていく!

だから、お前だけは……貴様だけは絶対に殺してやる! ――――ッ!?」

 

 軋むような音。ぬらりと、どこからともなく尻尾が現れて、背中を突き破って赤黒い何かが生えてきた。苦しみ悶えながら生まれたソレは、酷く歪で、まだ不完全なものだった。

 

「あっがッ!!! ――――!」

 

 雄叫びとも、叫び声とも取れる大きな音。それに気づき、倒れていた者が目を覚ましていった。グレイ、エルフマン、ミラジェーンは、ステラのその姿を見て後ずさりした。

 

「な、なんだよこの音!?」

「あれは……ステラ!」

「な、なんだよアレ!?」

 

 刹那。ソレはジョゼを掴み、そのまま投げ飛ばしていた。徐々に整う翼と、白い尻尾。竜にもなれず、人と呼べないものが、立っていた。

 

「ステラ……だよな?」

 

 恐る恐る尋ねるグレイに、特に何の反応も示さずにただ見つめるだけ。

 翼を広げて、ジョゼを飛ばした方へと飛んでいく。何が起きたのか、グレイたちにはさっぱり分からなかった。

 

「エルザ、なんだよアレ!?」

「……わからない。だが、明らかに超えてはいけない一線を超えたんだ」

「あいつ、もう戦える体じゃなかっただろ!」

「それも含めてだ。あの姿になる前に、ララバイのときと同じ症状が出ていた」

「くそっ! 追うにしても、飛んでいかれたら追いつけねえ!」

 

 あのときのステラの魔力。いや、魔力というものを全く感じなかった。純粋に、力だけでジョゼを投げ飛ばしていることになる。

 ステラにまかせていいのか、直前まで不安定だった彼女に。

 そうでなくても、相手は聖十大魔道士の一人。逆立ちしたって、ステラがかなうような相手ではないはずだ。

 

「……どうすればいいんだ」

 

 この戦争さえなければ、こんなにも捻じれなかったのだろう。

 

 

 


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