【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
マスターがやられた。それが、目が覚めた私に真っ先に伝えられた情報だった。
それだけではない。その間にルーシィが奴らに攫われていたのだ。それに気づいたナツが本部まで行きルーシィを連れ戻せたから良かったが、ナツが気づかなければ全てが
「ごめん……あたしのせいで……」
ルーシィは自分を責めていた。自分の身勝手な行動、家出という些細なことから始まっていたから。
「自分の居たい場所にいて、何が悪いんだ?
「けど……」
「ナツの言うとおりよ、ルーシィ。誰もあなたのせいなんて思ってないわ」
「ごめん……ごめんね……」
こんな状況になっても、いつものように笑顔で話してくれるミラさんや、ナツの言葉が嬉しくて、ルーシィは泣いた。
――
「マカロフも
「……何とかならないんですか?」
「無理だね。放出されて漂う魔力を回収できたなら、
「そうですか。皆に伝えておきます」
「なんだい! あんたら二人まだいたのかい!」
「ええ!? だって、聞いてくれみたいな雰囲気だ――」
「さっさと帰んな! 人間くさくてかなわん!」
「ひえー! し、失礼しました!」
ポーリュシカに怒鳴られて、慌てて二人が飛び出していった。
ミストガンという人が、私をポーリュシカの所へ運んでくれたそうだった。前にギルドの前でぶつかった人だろうが、顔を隠していてどんな人なのかはさっぱりだった。なぜ、私を助けたのか問いたかったが、目が覚めた頃にはおらず、マスターが運ばれてきて慌ただしくなっていた。
マスターを運んできた二人は、たった今、追い出されたわけだが。
「私を追い出さないんですか?」
あんたは怪我人だ。動くんじゃないよ。と怒られる。そう言われても、私はギルドにいくつもりだった。
「争うことでしか物語を紡げないから、人間は嫌いなんだ」
「……それが何かを守るためだとしてもですか?」
「ああ、嫌いだね。あんたもそうなら出ていきな」
「ごめんなさい、マスターを宜しくお願いします」
「……怒りは悲劇を生み出していることを忘れさせてしまう。止めたところで、納得なんてしないだろうさ。
きっと、あんたもそうなんだろうね……」
マカロフを見るポーリュシカは、どこか悲しげだった。
私は何も返さずに、ポーリュシカの家を出た。
――
「……まるでミイラだ」
自分の体を見て、思わずそう呟いた。包帯だらけで、動きにくくて仕方なかったので、必要なさそうな所は勝手に取ってしまった。本当は必要だけど。
なにより、思うように動かない。歩く度に体が悲鳴をあげている。すぐにでも倒れてしまいたいくらいだ。
正直、魔力に関してはお腹が空いたという認識程度しか無い。本来であれば死にかけているのだろう。マスターがあそこまで苦しんでしまう魔法なのだ。
喰らった瞬間は辛かったし、二度と喰らいたくない。
ルーシィは無事だと聞かされていなければ、冷静ではいられなかっただろう。マスターをポーリュシカの所に容態が悪くなる一方だから運んできたそうだが、その時にルーシィを連れたナツとハッピーが帰ってきたらしい。
「……マスターがやられた」
妖精の尻尾が負けることなんてないと思っていた。それは、ナツやエルザ、グレイたちの強さ以上に、マスターという存在が大きなものだった。
そのマスターがやられたのだ。そんなにも重大なことを今自覚して、ギルドまで急いだ。傷の痛みなんて、今は些細なことだ。
――
ギルドにあるシャワー室で、今後どうするのかエルザは考えていた。
「マスターは戦闘不能……ミストガンやラクサスもいない……」
マスターと同じく聖十大魔道の称号を持つジョゼ。奴を倒せる者が今の妖精の尻尾にはいない。ジョゼを倒せなければ、妖精の尻尾に勝利はない。
「くそっ! あのとき、私がついていけば!」
自分の無力さを悔やんで、壁を殴っていた。マスターを一人にしなければ、自分も行けば何か違ったかもしれない。そう思うと悔やみきれなかった。
「……なんだ、この揺れ」
シャワーを止める。……気のせいではなく、確かに揺れている。しかも、少しずつ揺れが大きくなってくる。様子を見てこようと思い、シャワー室から出て、タオルで体を覆う。その最中にも揺れは大きく――近づいてくる。
揺れの正体を知るために、エルザを含めたギルドのメンバーが外に出る。外の様子を見て、皆が唖然とした。
「想定外だ……こんな形で攻めてくるとは……」
妖精の尻尾、ギルドの後ろにある湖に、幽鬼の支配者のギルドが六足歩行で歩いていた。そして、ある程度の距離で歩みを止めると、そこに最初からあったかのように陣取った。
「全員、ふせろっ!」
いち早く何かに気づいたエルザが、そう指示をする。だが、エルザ自身はふせることなく、金剛の鎧――防御力を誇る鎧に換装して、全員の前に出る。直後、幽鬼の支配者のギルドから魔導収束砲より、ジュピターが発射された。
「エルザー!」
「よせ、ナツ! ここはエルザを信じるしかねえんだ!」
そんなエルザを止めようとしたナツをグレイが止める。あんなものを喰らえば、ギルドどころか街も被害を被る。避けるわけにはいかなかった。
「ギルドはやらせんぞ!」
それを止められると信じていた人は、どれほどいただろうか。あのエルザなら止められる。そう思う一方で、あんなものを止めるのは無理だと、両方考える人もいただろう。
そこにエルザは立っていなかった。しかし、ギルドに被害はなかった。遥か後方まで飛ばされたエルザは、戦えるような状態ではなく。ナツたちが急いで駆け寄った。そんな中、拡声器のスイッチが入った。
『マカロフ……そしてエルザも戦闘不能。
ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐに』
「仲間を売るくらいなら死んだほうがマシだ!」
傷だらけになりながら、最後の力を振り絞ってのエルザの言葉。それは、妖精の尻尾の勢いを上げていった。
「オレたちの答えは変わらねえ! お前らをぶっ潰してやる!」
『ほう……ならば再装填までの15分間! 恐怖の中で足掻くがいい!』
続々と幽鬼の支配者のギルドから兵が溢れ出てきた。その数は明らかに妖精の尻尾よりも多い。
「お、おい。ジュピターを撃つんじゃなかったのか?」
「あれは
『貴様らに残された道は2つのみ……我が兵に殺されるか、ジュピターを喰らうかだ』
「15分もあれば十分だ! いくぞハッピー!」
「あいさー」
攻めと守り。乗り込んでジュピターを壊すと名乗りを上げたのはナツ。ギルドを守るために、ロキとカナが中心となり、残るメンバーで幽兵に立ち向かうことになった。
「全然壊せない! ビクともしねえ!」
「やっぱり中から攻撃しないとダメだよナツ!」
ジュピターの砲台に着いたが何度殴っても壊れる気配はなかった。あれだけの威力を誇ったのだ。頑丈で、強固に造られていた。
こうなったら、内側から壊そうと、中に潜ったところで、呼ばれた気がして、狭い中で振り向いた。
「ステラ!?」
「ごめん……私、ルーシィを守れなくて……」
「怪我は大丈夫なのか?」
「……話は他の人から聞いてきた。私は動力源探すから」
それだけ言い残して、ステラは立ち去ろうとした。それを「待て」とナツが引き止める。
「無茶すんなよ」
そのまま黙りっぱなしのステラ。聞かなくても、痣や血の滲む包帯を見れば、わかりきっていることだ。
「だったら、何もせずに指を咥えてろとでもいうの? 私はそんなの御免だ」
ステラはナツの意地悪。と思いながら、答えないでその場から飛び去った。
「いいの、ナツ?」
「今はこっちが先だからな」
ギルドを守りたい。それはナツもステラも同じだ。けど、ナツにはステラが焦って無茶をしているようで不安だった。
「いくぞ、ハッピー! さっさとコイツを壊そうぜ!」
それに気づかせてやれないのが、歯痒かった。
――
「畜生――こいつら中にもいたのか!」
中に潜入したが、そこら中に外と同じ幽兵がいて、見つかってしまった。今の状態では、戦えず、逃げ回るしかなかった。
「――若き娘よ。なぜ、死に急ぐのだ」
不意に聴こえた声。聴き覚えのある――そこまで考えた瞬間に、ステラは床にたたきつけられていた。
「なッ!?」
間をおかずに、幽兵がステラを押しつぶすように飛びかかってくる。
「――ッ邪魔だ!」
幸いにも翼が消えてなかったので、それで虫を落とすかのように払っていった。そのまま、空中に飛び上がる。しかし、奴がいない。
「あのとき、ルーシィを攫った奴の一人か!? 隠れてないで出てこい!」
「まだ動けるとは意外だ。マカロフと同じ苦しみを味わっておきながら、まだ墜ちないと?」
「――
後ろに回し蹴りを繰り出すと、見事に顔に当たった。「卑怯な奴」と言葉を吐きながら、そのまま力を込めて飛ばした。大きな巨体が壁にめり込む……だが、大したダメージになってはいない。
「卑怯者か……訂正するために、まず名乗らせてもらおう。
エレメント4の頂点。大空のアリア……竜狩りに推参いたした」
「お前の名前なんてどうでもいい。
「それだけの怪我と傷を負いながら、その威勢――いや、虚勢か。……悲しい。もう一度地の底まで堕ちて地獄を知るがいい。幼き竜よ」
虚勢なのは自分が一番よくわかっていた。だけど、屈しない。仲間を傷つけたこいつらに、負けるのも許せない。
「――
威力は最悪だ、出来の悪さに自分に舌打ちしていた。だが、まずは目の前の一人に集中するために周りの雑魚を一掃する。黒い幽兵を、白い世界にかき消していく。
「ほう、あのときの荒れた天候は、貴様の魔法だったか。枯渇を喰らってその魔力。さすがは竜の子か」
相手に呑まれないようするのが、私には精一杯だ。強い。そんなことはわかっている。それだけじゃない。この男の余裕は――何か隠している。
「雪竜の咆哮!」
急いで避けるわけでもなく、霧のように消えるアリア。全く手応えがない。しかし、何とか気配は察知できていた。
「薄氷!」
現れたアリアの顎に、一発。しかし、全く微動だにしない。慌てて、次の技を出そうとして、隙が生まれてしまった。
「つあっ!」
「――がはっ!?」
魔法でも何でもない。力を込めたパンチ。たが、飛ばされることなく。その衝撃が体に響くことになった。殴られたその位置で倒れ込んでしまった。
「あ――ぐうっ……」
傷が開き、積もった雪を赤く染めていった。
――後ろに壁なんてなかった。
殴られる瞬間に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとした。だが、そこにあるはずのない何かに阻まれた。結果、逃げることのない力は、全て体に受け止められた。
「空域。それが私の魔法だ」
「がっ!?」
触れていないのに、飛ばされた。しかも、相当な威力だった。受け身も取れず、引きずるように体を起こす。
「見えない魔法に、敵う術はあるまい」
「……さっきの壁は、その魔法ってこと」
「いかにも。しかし……わかったとしても、どうしようもないだろう」
正体がわかったところで、見えないのでは……そう考えていたところで、ある予測を立てた。
「違う。見る必要なんてないんだ」
現にアリアは目を覆い隠している。見ようとしてはいけない。視覚以外の五感を研ぎ澄ませるんだ。ゆっくりと目を閉じて、呼吸を整える。自分が作り出した
「空域"剛"」
――ここだ!
直感で屈み込む。そのまま床を蹴り、アリアの懐へと潜り込んだ。そのまま、勢いを殺すことなく。
「六花・氷刃!」
一閃により斬られたアリアから、花が咲くように血しぶきを上げる。確実に手応えがあった。しかし、それと同時に床が揺れて、バランスを崩して私も倒れた。
「――ふふ……あれを使うのか」
不敵に笑うアリア。しばらく続いた揺れ。そして、また何回か大きく揺れて止まった。
「なんだ、今の――」
「では、そろそろ本気を出すとしよう」
アリアが目を覆い隠していた布を外す――さっきまでとは、比べ物にならない魔力だった。
「死の空域"零"発動。この魔法は全ての命を喰らい尽くす」
「――そんな」
魔法がかき消され、痛みが全身を襲った。
体に纏わりつくような、気持ちが悪い風だった。
「――あああァァァ!?」
「悲しい……地に堕ちる竜はトカゲとかわらない」
――何がトカゲだ。こんな奴に……仲間を傷つけて、ギルドを壊して、ルーシィを泣かせたような奴らなんかに、負けてたまるか!
「ほう、まだ抗うか」
「私は絶対に……負けられないんだッ!」
すべてを出し切ってやる。もう、後先を考えないで、お前だけでも。そう考えたステラは魔力を全て使い果たす気でいた。……ふと、体から痛みが消えた。まだいけると、確信した。
「――え……」
だが、出たのはそんな間の抜けた声だった。思いとは裏腹に……体が全く、動いてくれなかった。
「言ったでしょう。この魔法は命を喰らう……と」
「そんな……こんな、簡単に……」
――死ぬ……? そんな、そんなの……
/
風が止んだあと、立っていたのはアリアだった。
目を閉じ、涙を流しながら……ステラは倒れていた。アリアは「悲しい」と、ずっと言い続けている。
「魔法は簡単に人の命を奪えるのです。それを知らないほど、貴方は幼かった」
目を覆い直し、そう言い残してアリアは消えた。