【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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第11話 未熟な竜

 マスターがやられた。それが、目が覚めた私に真っ先に伝えられた情報だった。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は撤退をすることになった。ジョゼのいるであろう最上階で何があったのかはわからない。しかし、大きな失態だった。仮に自分がついていけば、何かしらできたかもしれないと、エルザは悔やんでいた。

 それだけではない。その間にルーシィが奴らに攫われていたのだ。それに気づいたナツが本部まで行きルーシィを連れ戻せたから良かったが、ナツが気づかなければ全てが幽鬼の支配者(ファントムロード)の思惑通りになっていた。

 

「ごめん……あたしのせいで……」

 

 ルーシィは自分を責めていた。自分の身勝手な行動、家出という些細なことから始まっていたから。幽鬼の支配者(ファントムロード)に依頼したのはルーシィの父親だという。ルーシィ・ハートフィリアを連れ戻してほしいという依頼。そのせいで、皆に迷惑をかけてしまっている。だが、それを責める人が妖精の尻尾にいるはずがなかった。

 

「自分の居たい場所にいて、何が悪いんだ? 妖精の尻尾(ここ)がルーシィの居場所だ」

「けど……」

「ナツの言うとおりよ、ルーシィ。誰もあなたのせいなんて思ってないわ」

「ごめん……ごめんね……」

 

 こんな状況になっても、いつものように笑顔で話してくれるミラさんや、ナツの言葉が嬉しくて、ルーシィは泣いた。

 

 

 

――

 

 

 

「マカロフも枯渇(ドレイン)を喰らったんだね。それに、この娘(ステラ)より酷いもんさ。もっとも、怪我を含めなければの話だけどね」

「……何とかならないんですか?」

「無理だね。放出されて漂う魔力を回収できたなら、この娘(ステラ)みたいに動けるけど、これは長引くよ」

「そうですか。皆に伝えておきます」

「なんだい! あんたら二人まだいたのかい!」

「ええ!? だって、聞いてくれみたいな雰囲気だ――」

「さっさと帰んな! 人間くさくてかなわん!」

「ひえー! し、失礼しました!」

 

 ポーリュシカに怒鳴られて、慌てて二人が飛び出していった。

 ミストガンという人が、私をポーリュシカの所へ運んでくれたそうだった。前にギルドの前でぶつかった人だろうが、顔を隠していてどんな人なのかはさっぱりだった。なぜ、私を助けたのか問いたかったが、目が覚めた頃にはおらず、マスターが運ばれてきて慌ただしくなっていた。

 マスターを運んできた二人は、たった今、追い出されたわけだが。

 

「私を追い出さないんですか?」

 

 あんたは怪我人だ。動くんじゃないよ。と怒られる。そう言われても、私はギルドにいくつもりだった。

 

「争うことでしか物語を紡げないから、人間は嫌いなんだ」

「……それが何かを守るためだとしてもですか?」

「ああ、嫌いだね。あんたもそうなら出ていきな」

「ごめんなさい、マスターを宜しくお願いします」

「……怒りは悲劇を生み出していることを忘れさせてしまう。止めたところで、納得なんてしないだろうさ。

きっと、あんたもそうなんだろうね……」

 

 マカロフを見るポーリュシカは、どこか悲しげだった。

 私は何も返さずに、ポーリュシカの家を出た。

 

 

 

――

 

 

「……まるでミイラだ」

 

 自分の体を見て、思わずそう呟いた。包帯だらけで、動きにくくて仕方なかったので、必要なさそうな所は勝手に取ってしまった。本当は必要だけど。

 枯渇(ドレイン)という魔法を喰らったせいで、ほとんど魔力が空っぽだ。滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)は、自分と同じ属性の物質なんかを食べれば回復したり、パワーアップできるが……あいにく、この時期に雪なんて積もってない。

 なにより、思うように動かない。歩く度に体が悲鳴をあげている。すぐにでも倒れてしまいたいくらいだ。

 正直、魔力に関してはお腹が空いたという認識程度しか無い。本来であれば死にかけているのだろう。マスターがあそこまで苦しんでしまう魔法なのだ。

 喰らった瞬間は辛かったし、二度と喰らいたくない。

 ルーシィは無事だと聞かされていなければ、冷静ではいられなかっただろう。マスターをポーリュシカの所に容態が悪くなる一方だから運んできたそうだが、その時にルーシィを連れたナツとハッピーが帰ってきたらしい。

 

「……マスターがやられた」

 

 妖精の尻尾が負けることなんてないと思っていた。それは、ナツやエルザ、グレイたちの強さ以上に、マスターという存在が大きなものだった。

 そのマスターがやられたのだ。そんなにも重大なことを今自覚して、ギルドまで急いだ。傷の痛みなんて、今は些細なことだ。

 

 

 

――

 

 

 

 ギルドにあるシャワー室で、今後どうするのかエルザは考えていた。

 

「マスターは戦闘不能……ミストガンやラクサスもいない……」

 

 マスターと同じく聖十大魔道の称号を持つジョゼ。奴を倒せる者が今の妖精の尻尾にはいない。ジョゼを倒せなければ、妖精の尻尾に勝利はない。

 

「くそっ! あのとき、私がついていけば!」

 

 自分の無力さを悔やんで、壁を殴っていた。マスターを一人にしなければ、自分も行けば何か違ったかもしれない。そう思うと悔やみきれなかった。

 

「……なんだ、この揺れ」

 

 シャワーを止める。……気のせいではなく、確かに揺れている。しかも、少しずつ揺れが大きくなってくる。様子を見てこようと思い、シャワー室から出て、タオルで体を覆う。その最中にも揺れは大きく――近づいてくる。

 揺れの正体を知るために、エルザを含めたギルドのメンバーが外に出る。外の様子を見て、皆が唖然とした。

 

「想定外だ……こんな形で攻めてくるとは……」

 

 妖精の尻尾、ギルドの後ろにある湖に、幽鬼の支配者のギルドが六足歩行で歩いていた。そして、ある程度の距離で歩みを止めると、そこに最初からあったかのように陣取った。

 

「全員、ふせろっ!」

 

 いち早く何かに気づいたエルザが、そう指示をする。だが、エルザ自身はふせることなく、金剛の鎧――防御力を誇る鎧に換装して、全員の前に出る。直後、幽鬼の支配者のギルドから魔導収束砲より、ジュピターが発射された。

 

「エルザー!」

「よせ、ナツ! ここはエルザを信じるしかねえんだ!」

 

 そんなエルザを止めようとしたナツをグレイが止める。あんなものを喰らえば、ギルドどころか街も被害を被る。避けるわけにはいかなかった。

 

「ギルドはやらせんぞ!」

 

 それを止められると信じていた人は、どれほどいただろうか。あのエルザなら止められる。そう思う一方で、あんなものを止めるのは無理だと、両方考える人もいただろう。

 そこにエルザは立っていなかった。しかし、ギルドに被害はなかった。遥か後方まで飛ばされたエルザは、戦えるような状態ではなく。ナツたちが急いで駆け寄った。そんな中、拡声器のスイッチが入った。

 

『マカロフ……そしてエルザも戦闘不能。

ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐに』

 

「仲間を売るくらいなら死んだほうがマシだ!」

 

 傷だらけになりながら、最後の力を振り絞ってのエルザの言葉。それは、妖精の尻尾の勢いを上げていった。

 

「オレたちの答えは変わらねえ! お前らをぶっ潰してやる!」

『ほう……ならば再装填までの15分間! 恐怖の中で足掻くがいい!』

 

 続々と幽鬼の支配者のギルドから兵が溢れ出てきた。その数は明らかに妖精の尻尾よりも多い。

 

「お、おい。ジュピターを撃つんじゃなかったのか?」

「あれは幽兵(シェイド)だ。ジョゼの魔法で、人じゃないのさ」

 

『貴様らに残された道は2つのみ……我が兵に殺されるか、ジュピターを喰らうかだ』

 

「15分もあれば十分だ! いくぞハッピー!」

「あいさー」

 

 攻めと守り。乗り込んでジュピターを壊すと名乗りを上げたのはナツ。ギルドを守るために、ロキとカナが中心となり、残るメンバーで幽兵に立ち向かうことになった。

 

「全然壊せない! ビクともしねえ!」

「やっぱり中から攻撃しないとダメだよナツ!」

 

 ジュピターの砲台に着いたが何度殴っても壊れる気配はなかった。あれだけの威力を誇ったのだ。頑丈で、強固に造られていた。

 こうなったら、内側から壊そうと、中に潜ったところで、呼ばれた気がして、狭い中で振り向いた。

 

「ステラ!?」

「ごめん……私、ルーシィを守れなくて……」

「怪我は大丈夫なのか?」

「……話は他の人から聞いてきた。私は動力源探すから」

 

 それだけ言い残して、ステラは立ち去ろうとした。それを「待て」とナツが引き止める。

 

「無茶すんなよ」

 

 そのまま黙りっぱなしのステラ。聞かなくても、痣や血の滲む包帯を見れば、わかりきっていることだ。

 

「だったら、何もせずに指を咥えてろとでもいうの? 私はそんなの御免だ」

 

 ステラはナツの意地悪。と思いながら、答えないでその場から飛び去った。

 

「いいの、ナツ?」

「今はこっちが先だからな」

 

 ギルドを守りたい。それはナツもステラも同じだ。けど、ナツにはステラが焦って無茶をしているようで不安だった。

 

「いくぞ、ハッピー! さっさとコイツを壊そうぜ!」

 

 それに気づかせてやれないのが、歯痒かった。

 

 

 

――

 

 

 

「畜生――こいつら中にもいたのか!」

 

 中に潜入したが、そこら中に外と同じ幽兵がいて、見つかってしまった。今の状態では、戦えず、逃げ回るしかなかった。

 

「――若き娘よ。なぜ、死に急ぐのだ」

 

 不意に聴こえた声。聴き覚えのある――そこまで考えた瞬間に、ステラは床にたたきつけられていた。

 

「なッ!?」

 

 間をおかずに、幽兵がステラを押しつぶすように飛びかかってくる。

 

「――ッ邪魔だ!」

 

 幸いにも翼が消えてなかったので、それで虫を落とすかのように払っていった。そのまま、空中に飛び上がる。しかし、奴がいない。

 

「あのとき、ルーシィを攫った奴の一人か!? 隠れてないで出てこい!」

「まだ動けるとは意外だ。マカロフと同じ苦しみを味わっておきながら、まだ墜ちないと?」

「――滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)をなめるな!」

 

 後ろに回し蹴りを繰り出すと、見事に顔に当たった。「卑怯な奴」と言葉を吐きながら、そのまま力を込めて飛ばした。大きな巨体が壁にめり込む……だが、大したダメージになってはいない。

 

「卑怯者か……訂正するために、まず名乗らせてもらおう。

エレメント4の頂点。大空のアリア……竜狩りに推参いたした」

「お前の名前なんてどうでもいい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の敵――それで充分だ」

「それだけの怪我と傷を負いながら、その威勢――いや、虚勢か。……悲しい。もう一度地の底まで堕ちて地獄を知るがいい。幼き竜よ」

 

 虚勢なのは自分が一番よくわかっていた。だけど、屈しない。仲間を傷つけたこいつらに、負けるのも許せない。

 

「――極零氷雪(ゼロフィルブリザード)!」

 

 威力は最悪だ、出来の悪さに自分に舌打ちしていた。だが、まずは目の前の一人に集中するために周りの雑魚を一掃する。黒い幽兵を、白い世界にかき消していく。

 

「ほう、あのときの荒れた天候は、貴様の魔法だったか。枯渇を喰らってその魔力。さすがは竜の子か」

 

 相手に呑まれないようするのが、私には精一杯だ。強い。そんなことはわかっている。それだけじゃない。この男の余裕は――何か隠している。

 

「雪竜の咆哮!」

 

 急いで避けるわけでもなく、霧のように消えるアリア。全く手応えがない。しかし、何とか気配は察知できていた。

 

「薄氷!」

 

 現れたアリアの顎に、一発。しかし、全く微動だにしない。慌てて、次の技を出そうとして、隙が生まれてしまった。

 

「つあっ!」

「――がはっ!?」

 

 魔法でも何でもない。力を込めたパンチ。たが、飛ばされることなく。その衝撃が体に響くことになった。殴られたその位置で倒れ込んでしまった。

 

「あ――ぐうっ……」

 

 傷が開き、積もった雪を赤く染めていった。

 

 ――後ろに壁なんてなかった。

 

 殴られる瞬間に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとした。だが、そこにあるはずのない何かに阻まれた。結果、逃げることのない力は、全て体に受け止められた。

 

「空域。それが私の魔法だ」

「がっ!?」

 

 触れていないのに、飛ばされた。しかも、相当な威力だった。受け身も取れず、引きずるように体を起こす。

 

「見えない魔法に、敵う術はあるまい」

「……さっきの壁は、その魔法ってこと」

「いかにも。しかし……わかったとしても、どうしようもないだろう」

 

 正体がわかったところで、見えないのでは……そう考えていたところで、ある予測を立てた。

 

「違う。見る必要なんてないんだ」

 

 現にアリアは目を覆い隠している。見ようとしてはいけない。視覚以外の五感を研ぎ澄ませるんだ。ゆっくりと目を閉じて、呼吸を整える。自分が作り出したこの場所(吹雪)、自然と落ち着くのは簡単だった。

 

「空域"剛"」

 

 ――ここだ!

 

 直感で屈み込む。そのまま床を蹴り、アリアの懐へと潜り込んだ。そのまま、勢いを殺すことなく。

 

「六花・氷刃!」

 

 一閃により斬られたアリアから、花が咲くように血しぶきを上げる。確実に手応えがあった。しかし、それと同時に床が揺れて、バランスを崩して私も倒れた。

 

「――ふふ……あれを使うのか」

 

 不敵に笑うアリア。しばらく続いた揺れ。そして、また何回か大きく揺れて止まった。

 

「なんだ、今の――」

「では、そろそろ本気を出すとしよう」

 

 アリアが目を覆い隠していた布を外す――さっきまでとは、比べ物にならない魔力だった。

 

「死の空域"零"発動。この魔法は全ての命を喰らい尽くす」

「――そんな」

 

 魔法がかき消され、痛みが全身を襲った。

 体に纏わりつくような、気持ちが悪い風だった。

 

「――あああァァァ!?」

「悲しい……地に堕ちる竜はトカゲとかわらない」

 

 ――何がトカゲだ。こんな奴に……仲間を傷つけて、ギルドを壊して、ルーシィを泣かせたような奴らなんかに、負けてたまるか!

 

「ほう、まだ抗うか」

「私は絶対に……負けられないんだッ!」

 

 すべてを出し切ってやる。もう、後先を考えないで、お前だけでも。そう考えたステラは魔力を全て使い果たす気でいた。……ふと、体から痛みが消えた。まだいけると、確信した。

 

「――え……」

 

 だが、出たのはそんな間の抜けた声だった。思いとは裏腹に……体が全く、動いてくれなかった。

 

「言ったでしょう。この魔法は命を喰らう……と」

「そんな……こんな、簡単に……」

 

 ――死ぬ……? そんな、そんなの……

 

 

 

/

 

 

 

 風が止んだあと、立っていたのはアリアだった。

 目を閉じ、涙を流しながら……ステラは倒れていた。アリアは「悲しい」と、ずっと言い続けている。

 

「魔法は簡単に人の命を奪えるのです。それを知らないほど、貴方は幼かった」

 

 目を覆い直し、そう言い残してアリアは消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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