【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
物置小屋のような場所で目が覚めた。拘束されてないことから、ウルの言ったとおり、グレイがエルザを説得したことが事実だと納得した。
行かなければいけない場所は、不思議と頭の中に浮かんでくる。遺跡の地下、早く向かってあげないと。
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「これがデリオラ……」
厭な衝動を思い出す。いや、今ですら、この氷を砕いて私がこの悪魔を壊してやろういう衝動が襲っている。
気を抜いたら意識を取られてしまう。だから、敵の接近に気づけないなんていう失態を犯した。
「ほっほっほっ……こんなところにまだ侵入者がいたとは」
「とりあえず、お前は敵ってことでよさそうだね」
仮面をかぶった年老いた男。しかし、妙な匂いがする。
「悪趣味だな」
明らかに女性の香水の匂い。いや、違う。こいつ、変装している。
「そんな変装までしてるのに、香水はつけてるなんて爪が甘い。それで、わざわざそこまでして目的は何なの?」
「なかなか面白い娘だ。少し遊んでやろう」
いつの間にか、いくつかの水晶が宙を舞っていた。嫌な予感がして距離を取る。
「遅い!」
男の声とともに一斉に水晶玉が向かってきた。翼を作って空に飛ぶが、その飛んだ先にも水晶が現れた。
「雪竜の咆哮!」
邪魔な水晶を一気に吹き飛ばした――筈だった。
「――なっ!? がはッ!!!」
一瞬だけ消えた水晶玉が、また私の方に飛んできて直撃した。それも、相当な数だ。
「ふむ、期待はずれですな」
地面に叩きつけられる。体がずぶ濡れに――
「なっ……溶け始めてる……」
見上げると、デリオラの氷が溶けてどんどんと水が流れ出している。
光にあたった部分から溶けている。この光は――
「この儀式の元は――上か!」
「そのとおり。ここに来たのは失敗でしたな」
「なら、ここでお前を片付けて、儀式を止めるだけだ!」
構えて造形魔法を飛ばす。先手必勝と繰り出した狼が、全て消えた。
「な……」
「造形魔法では私には勝てませんよ?」
そうだ。さっき造形魔法で作った翼は壊されたんじゃない。こいつの魔法で消されたのか。
「とりあえず燃えとけ!」
「愉快な売り言葉ですの!」
「ナツ!」
突っ込んできたナツ。それをひょいとよける仮面の男。着地したナツが私の方に気づく。
「……なんでステラがここにいるんだ?」
「いや、話せば長くなるから……まずはこいつを片付けてから!」
「うわ!? 溶け始めてるじゃねえか! どうするんだよこれ!」
「ほっほっほっ……騒がしいことですの。
どこからともなく飛んできた水晶玉にナツと揃って吹っ飛ばされた。そのままナツは突っ込んだが、ステラは援護する形で造形魔法を放った。しかし、あっさりと消え去った。
「どうしたんだよステラ!」
「……造形魔法が効かない。こいつの魔法だ」
「その通りですよ。私の魔法は
時間を操る。聞いたことのない魔法だ。
「それで私の魔法の時間を操った……」
「その通りです。造形魔導士であるあなたには相性が悪いでしょうね」
私だって造形魔法だけが使えるわけじゃない。いくらでも戦いようはある。
「ほう、これは――」
ナツの口がふくらむ。ブレスをはくつもりだろう。それに合わせて私も息を吸う。
「火竜の――」
「雪竜の――」
「「咆哮!」」
それと同時に飛び掛かる。逃げ場は――私の方じゃない。
「火竜の鉄拳!」
咆哮は完全な囮。それに気づかなかった男は避けた方向にいたナツの拳をまともに食らった。「きゃあああ」という見た目に合わない叫び声を上げて、吹っ飛んでいく。
「ナイス! さすがは
そうやって喜んだのも束の間。一際大きな雄叫びがデリオラからあがった。
「やべえ!?」
「ナツは儀式を止めに行って! 私はこれ以上溶けないように魔力を注ぐなり何でもしてみるから!」
氷に手をつけて魔力を注いだ。時間を稼いでと頼んだからには、彼女には何か策がある。私ができることなら何でもする。この悪魔は復活させたらダメだ。
私の意識を明け渡すわけにはいかない。ここで氷が溶けきったら、私は――
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「しっかりするんだ」
意識が飛んだ錯覚。また私は、ウルと出会っていた。
どうしようもない衝動。ゼレフ書の悪魔に対しての異様な固執。
私の知らない私。どうしてこんなにも、コイツラが憎い。
「止めないと……また私は――」
「大丈夫だ。私が何とかする」
そう言って、ウルは私の手を握っていた。彼女の魔力、記憶、感情。そんな何もかもが、私の中に流れ込んでくる。
「少しだけ、君の体を借りるよ」
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「今なら全力で戦える。あのときのようにはいかないからな」
間に合わなかった。デリオラは復活した。
「スノーメイク・桜吹雪!」
魔法が当たって始めてデリオラがこっちに気づいた。振り下ろされる拳をよける。体が小さいからか動きにくい。
「借りるぞ、ステラ……」
あとは砕くだけ。それには造形魔法では不向きだ。
「雪竜の翼撃!」
衝撃を受けた腕から音を立てて崩れるデリオラ。動きは止まり、既に命は尽きていた。ふぅ……とため息をつく。全く世話のかかる弟子たちだ。
「ウル……なのか?」
いつの間にか近くにいたリオンとグレイ。馬鹿な弟子だが、私のことに気づいたようだ。
「全く、いつまで経っても喧嘩ばかり……相変わらずだな」
ナツという少年は口を開けてポカンとしていた。
「
だから、私から話せることは、少しだけだ。
「リオン。お前のやったことを恨むつもりはない。……お前なりの正義があった。そこには、優しさもあったからな」
全て見ていた。もちろん罵倒も聴こえたぞ。と付け足す。
「グレイ。強くなったな。それに、いい仲間に出会えたじゃないか。……大切にするんだぞ」
ウルは、こっちに来い。と二人の弟子を手招きする。そして、二人の手を握った。その手は温かい。
「私は生き続ける。溶けてしまって、水になってしまってもな。ずっと、永遠に、お前たちを見守り続ける」
――海となって、ずっと。
「お前たちは二人とも、私の愛する弟子だ。
ありがとう。リオン、グレイ――」
眠るようにステラが倒れた。それを二人で抱えた……もう、そこに師匠の面影が映ることはなかった。
「十年間……ウルの中で命を削られて、その最期の瞬間を、俺たちは見せられたっていうのか……」
かなわない。俺にウルは越えられない。涙を流しながら、悔しそうに言うリオンだが、表情はどこか晴れていた。
「すげーな。お前らの師匠!」
そう興奮するナツの横で、グレイも涙を流していた。それは嬉し泣きか、悲し泣きなのか、わからなかった。
「ありがとうございます……
――お前の闇は私が封じよう。
その言葉は、深く、グレイの胸に刻まれていた。
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「君の体で無茶をした。すまない」
「えっと……別にそれはいいんですけど、弟子たちに言葉を伝えるの、凄く恥ずかしかったんですけど」
妙な感覚だった。確かにウルとしての感覚もあったけど、私の意識もあった。
不思議と、ララバイと対峙したときのような恐怖は感じなかった。そのおかげか、私は衝動を抑えられた。
「世話になったお礼に、少しおまじないをしておいた。いつか、君の役に立つ日が来るはずだ。君ともっと話をしてみたいが、お別れだ」
そう言い残して、彼女は消えてしまった。どうしてウルと意識を交わせたのか、彼女に体を貸せたのか。色々と知りたいことが残ってしまった。
しかし、今はとにかく眠かった。今までにないくらい凄く。きっと、慣れないことをしたせいだと、深く考えずに寝ることにした。