◆◆◆◆◆
『そのブロックの中に本体が居るよ!
先ずはソイツをそこから引っ張り出さないと、ダメージを与えられないみたい!』
りせが、ブロックで形作られた“ゆうしゃ”を模した鎧──『導かれし勇者ミツオ』を壊さないと、『シャドウ』本体へはダメージを与えられない事を告げる。
「了解! 行っくよー!」
それに頷いて一気に駆け出したトモエと千枝が、腹の部分を狙って同時に飛び蹴りを繰り出した。
2・3個のブロックがそれにより溢れ落ちたが、直ぐ様自動的に元の位置に修復されてしまう。
一気にブロックを崩さなければ、直ぐに再生してしまうのだ。
千枝に反撃するかの様に『導かれし勇者ミツオ』の頭上に【>たたかう】と表示され、『導かれし勇者ミツオ』は何処かカクカクとした動きで手にした剣をクマへと勢いよく振り下ろす。
「させるか! 来い、ギリメカラ!」
悠希は《月》アルカナの『ギリメカラ』を呼び出し、振り下ろされる剣の下へと身を投げ出させた。
すると、甲高い音を立てて剣は弾き返されその衝撃にブロックを幾つか崩壊させながら『導かれし勇者ミツオ』は仰向けに倒れる。
ギリメカラはランダと同じく、物理攻撃を反射させるからだ。
「先輩流石っス!」
その期を逃すかとばかりに、《チャージ》で力を溜めていたタケミカヅチの《ミリオンシュート》が一気にブロックを崩壊させ、中に居た『シャドウ』を露出させた。
剥き出しになった『シャドウ』に、ギリメカラから《星》アルカナの『ガネーシャ』に切り換えた悠希が《スタードロップ》を撃ち込ませ、ダメージを与えると同時に『シャドウ』の防御力を低下させる。
そこを一斉攻撃で叩くと、かなりのダメージを稼げた様で、『シャドウ』の滞空高度が下がった。
悠希たちは続け様に攻撃しようとするが。
そうはさせまいと『シャドウ』は《マハガルーラ》で闘技場全体に烈風を吹き荒れさせる。
凄まじい風に砂埃が舞い上がり視界を閉ざす中、咄嗟に悠希はタケミカヅチと完二をガネーシャの巨体で庇い、陽介は千枝と雪子とクマをジライヤを盾にして守らせた。
吹き荒れる風が収まったと同時に、悠希たちが目を開けた其処には。
ブロックが組み直された『導かれし勇者ミツオ』が復活していた。
どうやら『導かれし勇者ミツオ』は何度でも復活させる事が出来るらしい。
ブロック単体を破壊しても、暫くすると再生されてしまうのであまり手としては意味が無い様だ。
一人が大技を決めてブロックを一気に崩して、露出した本体を残り全員で集中砲火するのが最適解だろうか。
「先ずは私がもう一度ヤツの殻を崩す!
皆は『シャドウ』が露出したら、一気に叩いてくれ!」
悠希はそう指示を出して、《法王》の『ケルベロス』を召喚した。
しかし、ケルベロスが攻撃を仕掛ける前に『導かれし勇者ミツオ』が動く。
【>ギガダイン】と頭上に表示されると同時に『導かれし勇者ミツオ』が剣を頭上に掲げると。
雷の豪雨の様な荒々しいエネルギーの塊が辺りを焼き払う。
全員がダメージに膝をついた所から、先程の雷は万能属性の攻撃であった様だ。
「お願い、コノハナサクヤ!」
素早く立ち直った雪子が《メディラマ》で皆を回復させ、その隙を狙って『導かれし勇者ミツオ』が雪子にブロックの剣を叩き付け様としたのをトモエとタケミカヅチが受け止めて押し返す。
僅かに『導かれし勇者ミツオ』が踏鞴を踏んだ瞬間を狙い、ケルベロスのその強靭な鋭爪がブロックの塊を一気に削り取って『導かれし勇者ミツオ』の中から『シャドウ』を露出させ、《マハラギダイン》で周囲に纏わり付くブロックを一気に吹き飛ばした。
『どうして……必死になって戦うの……?
諦めれば、楽になれるんだよ?』
自らの鎧を剥ぎ取られた『シャドウ』は、陰鬱な声でそう囁きかけてくる。
それに淡々と悠希は答えた。
「諦めたら決して手には入らないモノが欲しいからだ。
それに、諦めて得た安楽は、己の心から自ら目を反らした結果に過ぎない……!」
刀に炎を纏わせて悠希はケルベロスと共に『シャドウ』に斬りかかり、赤子の様に縮こまらせていたその左手を切り裂く。
それに火が着いた様な叫び声を上げ、手を滅茶苦茶に振り回して『シャドウ』は自らを傷付けるモノを振り払おうとするが。
その時には一撃を与えた悠希とケルベロスは素早くその場を離脱していた。
『シャドウ』は忌々し気に悠希を睨む。
「今だ! 叩き込め!!」
イザナギが《マハタルカジャ》で援護するのと同時に悠希が合図を出し、皆一斉に攻撃を叩き込んだ。
『シャドウ』は吹き飛ばされ地を転がるが、それでもまだまだ倒れる様な気配は無い。
嬰児の様な無力そうな見目とは裏腹に、存外打たれ強い様だ。
『シャドウ』は苛ついた様な叫び声を上げ、《蒼の壁》で己に電撃耐性を付けると同時に周囲を《マハジオンガ》で焼き払った。
「っ……! 花村、クマ! 無事か!?」
悠希と完二はイザナギとタケミカヅチに電撃耐性があるが故に軽傷。
千枝と雪子は防御が間に合ったので比較的に軽傷だ。
「間一髪な!」
陽介は紙一重の所で回避に成功し、ジライヤで咄嗟にクマを抱えて避難していた。
キントキドウジに電撃が直撃した衝撃でクマは目を回しているが、一応は無事である。
悠希達が体勢を立て直そうとする隙に、『シャドウ』は再び『導かれし勇者ミツオ』を構築してその中に隠れた。
そして、【>バクダン】と表示させながら、ブロックで出来た巨大な爆弾の様な物体を悠希に向かって投擲する。
「イザナギっ!」
一瞬の判断でそれを危険なモノと判断した悠希は、敢えて叩き斬らずにイザナギの剣の腹の部分で『導かれし勇者ミツオ』の方へと爆弾を打ち返した。
直後、派手に爆炎の様なエフェクトのブロックを撒き散らしながら、爆弾は四散する。
『今の攻撃も万能属性だよ!
アレに当たると衰弱もしちゃうから、絶対に避けて!』
攻撃の正体を直ぐ様りせは分析し、それを皆に伝えた。
それに頷く暇すら与えず、『導かれし勇者ミツオ』はブロックで出来た剣を悠希目掛けて振り下ろしてくる。
横に跳んで悠希はそれを回避するが、『導かれし勇者ミツオ』はカクカクとした見た目と動きにそぐわない程素早い動きで矢継ぎ早に剣を振り回しながら執拗に悠希を狙ってくる。
その行動に悠希は一度軽く舌打ちをし、『導かれし勇者ミツオ』が剣を上段に構えてから一気に叩き潰そうと振り下ろした瞬間に、イザナギを割り込ませて鍔迫り合いを引き起こさせた。
そして、イザナギの身体を踏み台にして、悠希はブロックで出来た剣に乗り、そのままそれを足場として一気に『導かれし勇者ミツオ』の身体を駆け上って、イザナギの力により紫電を纏う刀で頭周りのブロックを一気に崩す。
そして、素早く『導かれし勇者ミツオ』の身体を蹴ってその場から離れ、力を溜めていた陽介とクマに合図をした。
「よっしゃ、行くぜクマ!」
「行くクマよー、そりゃ!」
タイミングを合わせて放たれた魔法は、荒れ狂う猛吹雪となって一気に『導かれし勇者ミツオ』のブロックを引き剥がしていく。
露出した『シャドウ』は、風に身を刻まれ末端が凍り付いていた。
「行くぞ、クー・フーリン!」
白銀の鎧に身を包んだケルト神話の大英雄、《塔》の『クー・フーリン』がその槍に風を纏わせ、《チャージ》によって高まった力で『シャドウ』に一撃を与える。
『シャドウ』の傷口には風が絡み付く様に残留し、千枝達が悠希に続いて攻撃する度に、激しさを増しながら『シャドウ』の身を破壊していく。
だが、まだ『シャドウ』は倒れない。
金切り声を上げ、《デカジャ》で悠希達に掛かっていた《マハタルカジャ》の効果を打ち消し、直後に《白の壁》を使う。
「不味い! 天城さん、防御して!!」
そして悠希が叫んだ直後、『シャドウ』は《マハブフーラ》で場内に吹雪を吹き荒れさせた。
「……っ!」
警告が間に合ったので雪子はガードを固めた上にトモエに庇われていたので無事であり、悠希もクー・フーリンを消してガードを固めたので何とか軽傷であった。
『アイツ、自分に耐性を付けてからその属性の全体魔法を使ってる!
皆、弱点を突かれない様に注意して!』
《蒼の壁》・《白の壁》と言った対象に属性への耐性を一時的に付与する魔法の効果は、そう長くは持たない。
現に、既に先に使っていた《蒼の壁》の効果は消えている。
だが、厄介な行動パターンであるのは確かだ。
再び『導かれし勇者ミツオ』を再構築させていた『シャドウ』は、相変わらず何故か悠希に狙いを定めていた。
クー・フーリンから、弱点の無い《太陽》の『タムリン』へと切り換えた悠希はその攻撃を避けたり捌いたりしつつ何とか凌いでいる。
『僕はね……僕がここに居る証拠が欲しいんだ……。
君を殺せば、僕が……ここに居る証明になる。
君らを殺せば、僕は僕でいられる……。
だから……君らを殺さなきゃ!』
何処か壊れた様にそんな身勝手な事を生気の無い声で喚く『シャドウ』に、攻撃を避けつづける悠希は僅かに眉間に皺を寄せた。
そして。
「私を殺した所で、お前の存在証明になど成り得はしない。
それは、そうお前が思い込んでいるだけに過ぎない。
他者を害する事でしか確立出来ない自分など、只のまやかしだ」
淡々とそう述べる。
その言葉に『導かれし勇者ミツオ』は一瞬動きが止まった。
「っ! 今だ、斬り刻め! タムリン!」
その一瞬を突いて、タムリンの放った《刹那五月雨撃》の斬撃が『導かれし勇者ミツオ』を幾重にも斬り刻む。
ブロックの大半を削り飛ばしたその一撃に、『導かれし勇者ミツオ』は地に倒れた。
「燃やしなさい! コノハナサクヤ!!」
そこを雪子が《アギダイン》で追撃し、残りのブロックを一気に溶かして再び『シャドウ』を露出させる。
そこに《チャージ》で力を溜めていたタムリンが飛び込み雷を纏ったその槍を一閃させ、『シャドウ』の左腕を完全に斬り落とした。
反撃の様に放たれた電撃はタムリンの耐性に依って完全に無効化され、寧ろその隙を突かれて放たれたタムリンの一撃により『シャドウ』はダウンする。
「よーし、チャンス到来!
行っくよー、完二くん!」
「うっス!」
《チャージ》により力を溜めていたトモエとタケミカヅチの《凍殺刃》と《震電砕》が炸裂し、《連鎖の雷刃》による電撃ダメージに内部を侵食された『シャドウ』の身体は大きく跳ね上がった。
ジライヤの《ガルダイン》とキントキドウジの《ブフダイン》が動けない『シャドウ』を蹂躙し、止めとばかりに放たれたコノハナサクヤの《アギダイン》が『シャドウ』を大きく吹き飛ばす。
壁に叩き付けられた『シャドウ』は何処かぐったりとしているが、それでもまだ消滅する気配は無い。
《赤の壁》を使った後に《マハラギオン》で周囲を焼き払うが、再び『導かれし勇者ミツオ』を構築しようとするも、今までは瞬時に構築されていたそのスピードは、目に見えて遅くなっていた。
そこに、タムリンの耐性故にほぼ無傷の悠希が駆け出し、7割程しか再生しきれていない『導かれし勇者ミツオ』の身体の復活を阻止しようと、ブロックの隙間から『シャドウ』を攻撃しようとするが。
ブロックの隙間から見えた『シャドウ』が。
──ニヤリと、嗤った
その途端。
何故か悠希は急に脱力した様にふらつきタムリンは消滅する。
それをブロックの隙間から素早く手を伸ばした『シャドウ』が鷲掴みにして、『導かれし勇者ミツオ』を形作るブロックの内部へと悠希を引き摺りこんだ。
「鳴上!!」
陽介が急いでジライヤで救出しようとするも、直前に完全に再生されたブロックに隙間を埋められ、後一歩の所で届かなかった。
ジライヤの拳を打ち付けるが、『導かれし勇者ミツオ』はビクともしない。
悠希を内部に取り込んだまま、『導かれし勇者ミツオ』は完全なる再生を果たしてしまった。
◇◇◇◇◇
復活した『導かれし勇者ミツオ』は、己に纏わり付くジライヤを剣を振り回して振り払った。
そして、【>ギガダイン】で周囲を一掃しようとする。
それをギリギリの所で回避した陽介達は、『導かれし勇者ミツオ』の内部に取り込まれてしまった悠希を呼んだ。
「くそっ、鳴上!」
「「鳴上さん!」」
『「先輩!!」』
「センセー!!」
しかし、『導かれし勇者ミツオ』は何の変化も見せない。
再度【>ギガダイン】が放たれる。
周囲を蹂躙するその雷撃は、何故かロクに狙いが定められていなかった。
それを回避した陽介達は、一旦『導かれし勇者ミツオ』から距離を取る。
何故か『導かれし勇者ミツオ』は攻撃する事も距離を詰めようとする事もせずにその場に留まっているが、それを斟酌している余裕は今の陽介達には無かった。
寧ろ好機とばかりに、作戦を立て直す為の話し合いを素早く行う。
『ダメ、悠希先輩に繋がらない!
アイツの中から先輩の反応はあるけど、でも……何かおかしい!
早く助け出さないと!
凄く嫌な予感がする……!』
「嫌な予感って何だよ!?」
焦燥感を顕にしたりせに、完二が思わず余裕が無い声で聞き返した。
『分かんない。分かんない、けど……。
アイツが内側に引き摺りこんだ先輩を放っておく事なんて、ある訳無い……!』
それはこの場の全員に共通の認識である。
態々捕らえてその内に引き摺り込みまでしたのだ。
それで、悠希が『シャドウ』に何もされ無いなどとは到底考えられない事であった。
「『シャドウ』に捕まる直前の鳴上さん、何か様子がおかしかったよね……。
あれは一体……」
捕まる直前のふらついた様な悠希の姿を思い返し、雪子はそう口にする。
「よくは分かんねーけど、あの時に『シャドウ』に何かされたのは確かだろうな。
助け出すにはやっぱあのブロックを崩さないといけねーんだろうけど……」
陽介はチラリと『導かれし勇者ミツオ』を見やった。
ブロックで作られたその巨体は、一見しただけではどの辺りに悠希と『シャドウ』が居るのかは見当が付きそうにも無い。
「中に鳴上さんが居るんだから、無茶な攻撃は出来ないね……。
鳴上さんを人質に取るとか、ホントあの『シャドウ』腹が立つ!」
しかし現実的に悠希が半ば人質の様な状態になっているのは確かだ。
下手に強力な攻撃を加えては、中にいる悠希に害が及ぶ可能性が高い。
しかしチマチマとした攻撃では『導かれし勇者ミツオ』のブロックを引き剥がすには至らないし、多少のブロックを崩した程度では直ぐ様元通りに修復されてしまう。
「早くセンセイをお助けせねば!
リセちゃん、センセイの場所は分かるかクマ?」
『ちょっと待って。
……ちょっと時間は必要だけど、多分……ううん絶対に、見付けてみせるから』
りせはクマの要望に強く頷く。
そして力の流れを見て『シャドウ』や悠希の詳細な位置を把握する為に、『導かれし勇者ミツオ』の攻撃を誘発して欲しいと皆に頼んだ。
一撃一撃が強力な『導かれし勇者ミツオ』の攻撃を態と誘導させるなど、危険極まりない行為である。
だが。
それに否を唱える者も、躊躇いを見せる者も。
この場には誰一人として居なかった。
◇◇◇◇◇
「こっちだ木偶の坊!!」
威勢よく完二が『導かれし勇者ミツオ』を挑発する。
すると、動きが見られなかった『導かれし勇者ミツオ』は何処かぎこちなく動き出した。
単調な動きで剣を叩き下ろすが、そんな攻撃では《マハスクカジャ》で敏捷性を高めていた完二を捉える事は出来ない。
剣の連撃を完二は難なく回避する。
「隙アリ! とりゃーっ!!」
完二に注意を向けている『導かれし勇者ミツオ』に、千枝とトモエが背後からライダーキックをかました。
『導かれし勇者ミツオ』は僅かにたじろぎ、幾つかのブロックがそれにより剥がれ落ちたが、それはそう間を置く事無く再生され始める。
ブンッと横薙ぎに振り払ってきた剣を、千枝は身を屈める事で回避した。
「ほれほーれ、こっちクマよー!!」
今度はクマがピョンピョンと跳び跳ねながら『導かれし勇者ミツオ』を挑発する。
するとクマに狙いを定めた『導かれし勇者ミツオ』はカクカクと踏み出そうとしたが。
その足元をキントキドウジに凍結され、見事にスリップして背中から転倒した。
幾つかのブロックが倒れた衝撃で吹き飛んでゆき、ジワジワと再生され始める。
「どうだりせ! 場所は掴めたか!?」
『待って……もう少しで……!
後ちょっとだけ時間を稼いで!』
その時、起き上がった『導かれし勇者ミツオ』が辺りを一掃しようと【>ギガダイン】を放った。
ゲーム染みたエフェクトの雷だが、そのエネルギー量は凄まじい。
皆何とか防御して凌いだが、無傷では済まなかった。
だが、それ程のエネルギーを放ったのだ。
りせの目には、『導かれし勇者ミツオ』の内部でのエネルギーの流れがくっきりと見えていた。
『……見付けた!!
先輩は、アイツの首の辺りの空間に囚われてる!
『シャドウ』の反応もその近くにあるよ!!』
悠希を発見しりせが喜びを滲ませた声を上げる。
それに素早く陽介が質問を投げ掛けた。
「鳴上に通信は繋がるかっ!?」
『……っ! ダメ!
よく分からないけど、何かに邪魔されてるみたい!
先輩の反応はあるのに、応答しない!』
りせの分析によると、悠希はどうやら動きも拘束されているらしい。
そうであれば悠希自らが脱出するのは困難である。
直接『導かれし勇者ミツオ』のブロックを剥いで、悠希を助け出さねばならない。
一番危険な救出役を買って出たのは陽介であった。
「アイツの攻撃はあたしらが何とかするから、花村は鳴上さんを助ける事に専念して!」
「絶対に、邪魔なんかさせないから!」
「先輩、漢なら一発で決めてやれ!」
「ヨースケのサポートはクマ達に任せんしゃい!」
『花村先輩、頑張って!』
皆が陽介の背を押す。
信頼する仲間たちの言葉に。
「おう、任せとけ!!」
陽介は力強く頷いて、『導かれし勇者ミツオ』へと向かって駆け出した。
何かをしようとしている事を察してか、『導かれし勇者ミツオ』は陽介に向かってブロックの爆弾を投擲してくる。
陽介は己に迫るそれを認識しながらも、回避の為に足を止める事は無い。
破裂寸前となった爆弾は、爆発する前に凍結され、吹き上がった業火に爆発する事無く消滅する。
陽介目掛けて振り下ろされた剣は、タケミカヅチとトモエが受け止めた。
何度も何度も振り下ろされるそれを、その度にタケミカヅチとトモエが二人掛で食い止める。
そして、千枝達の援護を得てやっとの事で『導かれし勇者ミツオ』の懐に潜り込んだ陽介は、ジライヤに投げ上げられて一気に肩の部分へと到達した。
肩の上に立った陽介は、りせから示された悠希が囚われている首の辺りのブロックを、細心の注意を払いながらジライヤの拳に風を纏わせて剥ぎ取らせて行く。
数個のブロックを剥ぎ取ってやっと見えてきた『導かれし勇者ミツオ』の隙間からは。
まさに探し求めていた悠希の姿が見えた。
「無事か!? 鳴上!」
姿が見えた瞬間、陽介は形振り構わず大声で悠希を呼ぶ。
だが。
聞こえていない筈など無い程の音量だったと言うのに、悠希はピクリとも動かない。
『導かれし勇者ミツオ』の内に広がる虚ろな闇の中を佇む様に揺蕩っているだけであった。
「おい、鳴上!!」
焦りを覚えた陽介は、さっきよりも大声を上げて呼んだ。
それでも、悠希は僅か程も動く事は無く。
その瞳は何も映してはいない。
「返事をしてくれ、鳴上!」
何処か懇願する様に、陽介は悠希を呼ぶ。
それでも、悠希は何の反応もしなかった。
何時もなら、その意志の強さを表す様な光を宿しているその瞳には。
今はただただ濁った様な闇しか映っていない。
何処までも深く虚ろな闇の中に、悠希の姿は今にも沈んでいきそうであった。
一刻も早く、悠希をあの闇の中から引き揚げなければならない。
さもないと──
何処か本能的にその事を理解した陽介は、隙間から精一杯手を差し入れて悠希へと手を伸ばす。
しかしその手は悠希に届く事は無く、悠希の方からも手を伸ばさなくては到底届かないだろう程の距離までしか手を伸ばせなかった。
「早くこの手を掴め! 鳴上!!」
だが、悠希は陽介の手に見向きもしない。
そもそも、悠希は何も認識してはいない様であった。
その様子に、陽介は焦りと恐怖を覚える。
その時、虚ろに揺蕩う悠希の首を突然巨大な赤子の手が掴んだ。
『シャドウ』が己に残された右手で、悠希を絞め殺そうとしているのだ。
「くそっ、その手を鳴上から離せ!!」
両者の距離が近すぎて、陽介は迂闊に攻撃が出来ない。
武器を投げつけ様とするも、それを察知した『シャドウ』は悠希を盾にする様に、悠希の影に隠れた。
「鳴上、目を覚ませ!」
再度、届いてくれと祈りを込めて陽介は名前を呼んだ。
だが、悠希はやはり全く反応しない。
首を絞められていると言うのに、まるで精巧に作られた人形であるかの様に何の反応も返さない悠希に、陽介の心中は焦燥感に掻き乱される。
「……っ! 悠希……!」
それは、もう賭けの様なものであった。
成す術を失い、最早自棄になった結果の様なものであった。
事実、名前を呼ぶその声は掠れて、決して大きなものでは無かった。
だが。
──ピクリと、悠希の指先が微かに動く。
──そして、僅かに息苦しそうに喘いだ。
「……悠希!」
何故悠希が反応を返したのか、陽介に分かろう筈は無かった。
だが、初めて反応を返してきたその言葉を、縋る様に再度叫ぶ。
──すると、僅かに意志の光がその瞳に灯った。
それを見た陽介は。
全力で身を乗り出して手を限界まで伸ばし、ありったけの思いを託して全身全霊で叫んだ。
「目を醒ませ、悠希!!」
◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆
《今回戦った敵》
『ミツオの影』《ー》(光・闇:無)
・えいしょう、キャラメイク
・木っ端微塵斬り
・マハラギオン、マハブフーラ、マハジオンガ、マハガルーラ、メギドラ
・デビルスマイル、亡者の嘆き、淀んだ空気
・赤の壁、白の壁、蒼の壁、緑の壁
(『導かれし勇者ミツオ』に復帰する迄の所要時間の短縮)
『導かれし勇者ミツオ』《ー》(光・闇:無)
・コマンド(たたかう)
・コマンド(バクダン)
・コマンド(ギガダイン)
◆◆◆◆◆
《今回使用したペルソナ》
【愚者】
『イザナギ』(雷:耐、闇:無、風:弱)
・ヒートウェイブ、アイオンの雨、雷神斬
・ジオダイン、マハジオンガ
・マハタルカジャ、マハラクカジャ
・ラクンダ、デクンダ
・電撃ガードキル
・電撃ブースター、物理ブースター、疾風見切り
【法王】
『ケルベロス』(火:反、氷:弱)
・狂乱の剛爪、烈風波
・マハラギダイン
・中治癒促進、素早さの心得、物理見切り
・火炎ブースタ、火炎ハイブースタ
【塔】
『クー・フーリン』(風:反、物:耐、氷:弱)
・デスバウンド、連鎖の風刃
・チャージ、マハタルカジャ
・物理ブースタ、疾風ハイブースタ
・三連の鎖、黄金連鎖
【星】
『ガネーシャ』(風:無、雷:弱)
・烈風撃、スタードロップ
・マハガルダイン
・マカラカーン、チャージ
・ハイパーカウンタ、疾風ブースタ、巨腕スイング
【月】
『ギリメカラ』(物:反、光・闇:弱)
・剛殺斬、ベノンザッパー
・マハムドオン
・チャージ、テトラジャ
・ボディーバリアー、ヘイトイーター
・光からの生還
【太陽】
『タムリン』(雷・光:無、物・火:耐)
・刹那五月雨撃、連鎖の雷刃
・チャージ
・マカタルカオート
・物理ブースタ、電撃ハイブースタ
・三連の鎖、鮮血の先導者