PERSONA4【鏡合わせの世界】   作:OKAMEPON

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『流れ行く日々』
【2011/04/18━2011/04/20】


◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 彼方の世界から帰って直ぐに、天城さんの実家と警察に連絡を入れてから、天城さんを病院まで連れていった。

 思っていたよりも天城さんには疲労が溜まっていた様で、彼方の世界から帰還するなり、安堵からかは知らないが一気に体力が尽きてしまったのだ。

 それに若干ながらも衰弱もしていたから致し方ない。

 

 因みに、『天城さんがいなくなって心配していた里中さんが、運良く河原の近くで天城さんが倒れているのを発見した』という事にしている。

 態々「河原」としたのは、ジュネス近辺で見付かった事にすると後々面倒だったからだ。

 要らぬ火種や誤解は撒く前に消しておくべきである。

 

 病院に連れていく前に一応確認をした所、天城さんは誰かに呼ばれた様な気がするものの……『誰』にテレビの中に放り込まれたのかまでは覚えていないそうだ。

 突然の異常事態に混乱していた、というのもあるだろうし、ハッキリと顔を見る前に気を失わせられたのかもしれない。

 ただ、天城さんを放り込んだ『誰か』がいる、という事はハッキリと分かった。

 この『誰か』が、山野アナや小西先輩もテレビに放り込んだ【犯人】なのかはまだ確証は得られていないが、その可能性は大いに有り得る。

 

 しかし、その『誰か』は何を目的として天城さんを彼方の世界に放り込んだのだろう。

 山野アナ達を放り込んだ【犯人】と、天城さんを放り込んだ『誰か』が同一人物なのだとすれば、テレビに人を放り込んだら(その詳しい仕組みは分かっていないのだとしても)少なくとも死ぬ可能性がある事は分かっている筈だ。

 ならば、「殺す」事を目的として天城さんを放り込んだのだろうか?

 それを目的としていたとしても、何故?

 分かりやすい理由としては、『怨恨』だろうけれども。

 だが、天城さんに対してそこまでの『怨恨』を持つ人が果たしているのだろうか。

 勿論、人は誰しも意図しない内に誰かを傷付けているモノであり、本人は知らぬ内に誰かから怨みを買う事など特には珍しくは無いのだろう。

 天城さんだって、本人にその気が無くても他人を傷付けた事など幾らでもあるだろうし。

 その内の一つが、天城さんに殺意を抱く程のものになっている可能性だって無くはない。

 どうにも天城さんは異性の目を惹き易いので、そういった点でも比較的恨みは買いやすいかもしれない。

 大抵そんなものは逆怨みだし怨まれている本人からしたら理不尽なものではあるのだけど、怨むのなんて理屈がある訳では無い。

 

 だがしかし、天城さんを怨恨からテレビに放り込んだとして、その『誰か』が小西先輩や山野アナを襲った理由は何だろう。

 まさか、三人ともに恨みがあったのだろうか?

 それは少し考え難い。

 そもそもの話、三人全員に一定以上の接点がありそうな人などそうは居ないだろう。

 小西先輩と天城さんなら、同じ高校に通ってるのだし、歳は一つしか変わらないし、同じ地域に住んでいるのだから二人共に接点がある人はかなり居るだろう。

 だが、最初の被害者である山野アナはまず年齢がかなり違う。

 この段階で他二人とはかなり関係性が薄れる。

 そんな中で、三人共に深い怨恨を抱く様な人物など果たして存在するのだろうか……?

 いやまぁ、世の中には『誰でも良かった』的な通り魔な人も居るので、偶々目についただけという可能性だって無きにしもあらずではあるが。

 ……現段階では『誰か』の意図は掴めない。

 もう少し、考える材料を集めなくては。

 

 この狭いコミュニティの中で起きた事だ、恐らくそう遠くはない内に天城さんをあの世界に放り込んだ『誰か』の耳にも、天城さんが無事である事は届いてしまうだろう。

 取り敢えず、天城さんの命を狙った犯行であった可能性を考慮して、『誰か』が再び天城さんを狙う可能性もあるので、不審な人物が天城さんに接触しない様に警戒を怠る訳にはいかないだろう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 夕飯の支度をしていると、叔父さんからメールが届いた。

 どうやら今夜は早く帰って来れるらしい。

 それと、部下の刑事を一人連れてくる様だ。

 ならば今夜は少し多目に作っておこう。

 

 叔父さんが連れてきた部下の刑事は『足立透』と言うらしい。

 この春から叔父さんの部下となっているそうだ。

 そう言えば、山野アナの事件の時に、叔父さんと一緒に現場に来ていた気がする。

 

「そう言えば、天城さん見付かって良かったね。

 まぁでも、まだ分からない部分が多いんだけど……」

 

 ヘラッとした顔でそう言った足立さんに、首を傾げる。

 

「それは、どういう事ですか?」

 

「いやね、天城さん……連絡付かなくなってた間の事何も覚えてないって言うし……。

 なーんか怪しいって言うか……裏がありそうって言うか……」

 

 そう足立さんが言った瞬間、叔父さんから拳骨が飛んだ。

 

「馬鹿野郎。んな事言うな」

 

「す、すいません……」

 

 頭を押さえる足立さんは若干涙目だ。

 相当良い音がしたし、結構痛かったに違いない。

 だがまぁ……守秘義務を軽々しく破ろうとしたのだから、致し方無い制裁ではあるのかもしれない。

 

「あー……ま、全部こいつの勝手な想像だからな。

 気にしなくていいぞ、悠希」

 

 はぁ、と溜め息をついて叔父さんは夕飯を食べ始める。

 足立さんも交えた夕飯は何時もよりも賑やかで、菜々子ちゃんも嬉しそうだった。

 まぁ、菜々子ちゃんの場合は『叔父さんと一緒に食事が出来る』というのが一番嬉しかったのだろうが。

 こうして穏やかな時間を過ごしていると『日常』に戻って来た事を実感するし、同時に天城さんを無事に救出出来た事も実感する。

 今夜は、何時も以上に良い気分で眠る事が出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

【2011/04/19】

 

 

 天城さんを救出した翌日。

 まだ天城さんは療養中らしく、その席は空席だった。

 まあ、数時間探索するだけでも辛いあの世界に数日もの間居たのだ。無理もない事である。

 無理せずにしっかりと休養して、元気になった姿を見せて欲しいものだ。

 

 今日の授業は、八十神高校に来てから初めての体育だ。

 体を動かす事は元から大好きだし、結構楽しみである。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 昼休み。突然に一条という同級生が教室に飛び込んできた。

 その勢いに少し驚いていると、一条は目敏くこちらを発見し、近寄ってくる。

 どうやら一条はバスケ部のキャプテンをやっているらしく、その勧誘の様だ。

 勧誘されるという事自体に問題は無いのだが。

 ……一つ根本的に間違っているだろう箇所があるとすれば、そもそもこちらの性別が女性であるという事だろう。

 世の中には女子バスケ部というものはちゃんと存在しているし、バスケに打ち込む女性というのはマジョリティーでなくとも存在はしている。

 が、しかし。

 この八十神高校に女子バスケ部があるとは今の所聞いた覚えが無いし、そもそも勧誘に来ている一条は男だ。

 彼の言うバスケ部とは、《男子》バスケ部であって、《男女混合》のバスケ部では無いだろう。

 マネージャーとしての勧誘ならばまだ分かるが、一条が言ってるのは、どう聞き間違いを起こしていたのだとしても、『プレイヤー』として、だ。

 どう考えても、何かを間違えているとしか思えない。

 

「誘ってくれるのは嬉しい。

 でも、私は女子だけど?

 男子バスケ部に誘われてもどうしようもないと思うが……」

 

「それは分かってるんだけど。

 でも噂になってるんだって!!

 スッゲー女子が居るって!!

 ドリブルもシュートも、スッゲー上手いヤツが居るってさ!!」

 

 そう興奮した様に一条は話す。

 ……午前の体育の授業は、男女合同でバスケだった。

 その中で、ちょっとしたミニゲームも行ったのだ。

 普通に真面目に取り組んだのだけれど。

 どうやらその結果、非常に面倒な事になっていた様だ……。

 

「いや……、でも。

 別に本格的にバスケした事とか無いし……。

 素人の見よう見真似ってヤツだったんだけど」

 

「寧ろ、やった事ないってんのにそうだったんなら、逆にスッゴい才能だよ!!

 是非ともウチに入ってよ!!!」

 

 ……こうも必死に頼まれると、何だろう……断り辛い……。

 とは言え、勢いに流されて頷くのもどうだと言う話だ。

 

「いや、だから……。

 私は、女子だし、男子バスケ部には入れないんだけど。

 公式戦とか、絶対に出られないし。

 入った所で、あんまり意味は無いと思うんだけど……」

 

「ウチ別に『男子』とかって括り無いから!!

 もう練習の時に居てくれるだけでも良いから!!」

 

 ……何でこんなに必死なんだろう。

 練習試合ならともかく、公式戦には出られないというのは、プレイヤーとしては致命的な欠陥だろう。

 それを態々勧誘に来てまで引き入れるメリットも必要性も、皆目見当がつかない。

 

「あ……と、その……。

 用事とか入ったりして、行けなくなる日とかあると思うし……」

 

 急な事態と言うのは何時でも起こり得る事で、特に【事件】を追っている状況では、何時事態が動くか分からない。

 その時に部活に参加している余裕は恐らくないだろう。

 それは、スポーツ系の部活としては歓迎出来ない話ではあろうし……。

 

「それでもいいから!

 たまに……本当にたまにでもいいから!!

 ウチの部幽霊部員が多いし勝手に抜ける奴ばっかでマトモに練習すら儘ならない事も多いし、練習試合とかもろくに出来ないんだ!!

 公式戦なんて、夢のまた夢で!

 経験が無くったって、鳴上みたいに運動出来て、来たら真面目にやってくれそうな奴なら大歓迎だから!!

 女子とか男子とか、もう関係無いから!!

 マジで、マジでお願いします!!」

 

 どうやら一条も中々に大変らしい。

 ここまで必死に頼み込まれて、『否』と突き返すのはかなり心苦しかった。

 まあ、その……バスケ自体は別に嫌いとかそういう訳でも無いし、性別の壁さえ無ければ普通に喜んで受けていた話ではあろうから、尚更。

 嫌だったりやる気が無いのなら、躊躇なく『嫌』とは言えるが……別段そう言う訳でも無い。

 

「ま、まぁ……取り敢えずは見学からでも良いか……?

 見てから考えてみるから……」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 どうやら今日が活動日だったらしく、善は急げとばかりに早速見学に、と一条に半ば拉致されて体育館にやって来た。

 しかし……一条が言ってた通り、剰りにも他の部員にやる気が無さ過ぎる。

 一条は一人真面目にやっているが。……これでは心労が溜まる一方だろう。

 しかも、練習が終わるや否や他の部員たちは後片付けする事もなく一条以外は即座に帰ってしまった。

 ……もしかしなくても、一条は毎回こうやって一人で後片付けまでやっているのだろうか……。

 一人きりでやっているのを見かねて、一緒に後片付けを手伝いながら、一条に訊ねてみた。

 

「あー……うん。何時もこうなんだ……。

 誘っておいてなんだけど、やる気なくした?」

 

「いや……、そうじゃ無いんだけど……。

 ……そもそも、どうして一条は私を誘ったんだ?

 帰宅部の人でも運動神経良い人なんて、私以外にも沢山居るんじゃ……?」

 

 少なくとも、ある意味女子だろうと大して問題にはならない理由はよく分かる。

 これは、試合以前に練習自体が成り立ってないも同然だ。

 練習中のミニゲームすら人数的に厳しいとはどういう事だろう。

 基礎練もろくにやらないなら、試合なんて言ってる状況ではない。

 もう人数合わせでも何でも良いから人手が欲しいのだろう。

 が、しかし。

 そもそも、勧誘出来そうな帰宅部など幾らでもいるだろう。

 運動神経のあるヤツを選んでいっても、それなり以上の人数が居る筈だ。

 何故彼らを勧誘しなかったのだろう。

 

「ウチの部ってこんなんだから、試合に勝つとか以前の問題なんだよな……。

 そんで、フツーにある程度やれる奴は入りたがらない訳。

 入った奴の大半は、ダラダラやりたいってヤツ。

 でもさ、折角やっているんだからどうせなら勝ちたいじゃん?

 だからさ、運動出来るらしいし見るからに真面目な鳴上が入ってくれたら皆のやる気も出てくるし、まぁ練習試合位なら出られるだろうから勝率上がるかなぁ……って思ってさ」

 

 そう訊ねてみると、一条は溜め息を吐きながらそう答えてくれた。

 

 成る程。勝つ以前のこの状態なら、誘われた所で、態々入りたいとは思えないかもしれない。

 やるからには、頑張りたいし、勿論勝ちたいと感じるだろう。

 だが、この手のチーム競技は一人で幾ら頑張った所で、他のメンバーにやる気が無いなら勝てるものも勝てなくなる。

 それ故に、他の候補者が首を縦に振らないのだろう。

 ……ここまで一生懸命に勧誘してくる一条を無下には出来ないし、何とかせめて練習だけでもマトモにやりたいと言う気持ちは理解出来ない訳じゃない。

 

「……そっか。

 ……さっきも言った様に、出れない事も結構あるだろうし、それにバスケは素人だから活躍出来る保証は無い。

 ……それでも、良いか?」

 

「……マジで!?

 ウチは出席とかはかなり緩いし、それでも全然構わないから!

 本当にありがとうな!!」

 

 こうして半ば押し切られる様にして、バスケ部に入部する事となった。

 顧問の体育教師の近藤先生は、こちらの性別などに関して特には気にする事は無かった。

 ……適当過ぎやしないだろうか。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

【2011/04/20】

 

 

 今日の放課後は、花村に誘われて沖奈市まで遊びに行くにした。

 学校から沖奈市に行くには商店街でバスに乗るのが早い。

 二人でバスを待っていると、近くに居た主婦達がこちらをチラチラ見やりながらひそひそと話していた。

 が、それなりに大きな声で話しているから、隠すつもりはないのだろう。……嫌らしい事だ。

 ジュネス進出の煽りを受け潰れた店が多いのは、シャッターが閉まった店舗だらけの商店街を見れば直ぐに分かる。

 しかし、それと花村とに何の関係があるというのだろう。

 単純に行き場の無い憂さ晴らしの発散先として花村をスケープゴートにしてるだけの様にしか見えなかった。

 

 花村は「有名人でゴメンな」などと言うが……。

 花村に何の非もないのにそれでも責めるのは道理が通らない。

 しかし、当人である花村が耐えているというのに、外野が勝手に反論して話を大きくする訳にはいかないだろう。

 釈然としないものを抱えながらも、バスに乗って沖奈へと向かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 閑散とした八十稲羽駅よりも遥かに、地方都市の中心駅である沖奈駅は開発が進んでいる。

 駅に隣接する様に建てられたショッピングモールには人の波が絶えず出入りし、それの反対隣にある映画館では上映中の映画のポスターがデカデカと掲げられている。

 娯楽に乏しい八十稲羽とは異なり、こちらにはそれなりに娯楽施設が揃っている。

 その為か、道行く人の波の中に時折八十神高校の制服や近隣の学校の制服が紛れている。

 

 遊ぶと言ってもどう遊ぶのかはあまり考えていなかった。

 が、まあ良い。

 花村の様子を見ていると、商店街でバスを待っていた時よりも肩から力が抜けているみたいだ。

 商店街……というよりも八十稲羽自体が、花村にとってあまり居心地の良い場所では無いのだろう。

 まだ出会って一月も経っていない付き合いだが、稲羽の人々が花村に向ける感情の多くに良くないものが混じっているのは容易に察する事が出来た。

 無論、全員が全員そうだという訳ではない。

 里中さんや天城さん、それに一条や長瀬などは、別段花村に対して悪意を向けたりはしてないし、そもそも花村などどうでも良いという態度の人だって少なくはない。

 が、商店街に関係する人々からは謂れの無い悪意を向けられている事が多い。

「ジュネスが来たから」「ジュネスのせいで」。

 そんな言葉を幾度聞いた事か。

 そしてそれを聞く度に、何度反論してやりたい衝動にかられた事か。

 ……いや、ジュネスへ不満を持つのはこの際良いだろう。

 商店街の客足がジュネスに取られているのは、紛れもない事実である。

 しかし、それを花村にぶつける事は全く以て道理に反する行為だ。

 しかもそれに託つけて、花村がどんな人間なのかすら知りもしないクセに一方的に花村の人格までも貶める様な発言をする事は、度し難い蛮行である。

 だが、花村自身が自身を取り巻く様々なものを鑑みた上で、それを黙して耐える事を選ぶのならば、ここで表立ってそれらを叩き潰しにいく訳にもいかない。

 しかし耐え忍び続けてきた結果が、花村の『シャドウ』を産み出してしまったのであろう事は間違いの無い事で。

 幾ら花村が『シャドウ』を受け入れた所で、その原因となってしまっている周囲の環境に変化が無いのなら、何れまた何処かで無理が出てしまうのではないだろうか……。

 

 何か花村にしてやれる事は無いのだろうか……と考えていると、花村が携帯の画面を見て顔を顰めていた。

 どうやら、悪質な迷惑メールが届いたらしい。

 何度拒否しても、ドメインを変えてしつこく送られて来るそうだ。

 最早ここまで来ると、ただの悪戯などと片付けられない。

 

「こういうのはウンザリするけどな……。

 でも、メルアド変えるのも……」

 

「何か問題が?」

 

「稲羽に引っ越す前から、メルアド変えてないんだ。

 一応、誰かからメールあるかも知んないし、さ。

 いや、ほら……『メアド変えましたって』態々連絡すんのもウザいじゃん。

 連絡する気ねーよ!って場合もあるし……」

 

「……」

 

「まー……正直、前のトコのヤツらとは何話してたんかも覚えてないし。『友だち』……ってのも多分何か違うんだろうけどな」

 

 花村の目は何処と無く寂しそうだ。

 しかし、一度俯いて再び顔を上げた時には、鬱屈した何かは花村の表情からは消え去っていた。

 

「ま、俺には稲羽でやるべき事があるから……。

 これからも頑張ろうぜ。な、相棒!」

 

「『相棒』……?」

 

 あまり、というか全くと言って良い程聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまう。

 いや、意味は分かるのだが。

 しかし何故に、“相棒”?

 

「おうよ! 俺はお前の相棒だ。そうだろ?」

 

 確かに、そう言われればそうなのかもしれない。

 一緒に戦う仲間で、事件解決を誓った仲でもある。

 共に過ごした時間も……あちらの世界の事を考えると決して長くはないが濃密なもので。

 何かと花村に力になって貰ってばかりでいる気はするが、一応こちらも花村の力になれているだろうとは思いたい。

 成程確かに、『相棒』と呼ぶのに何の問題も無い関係だ。

 ……聞き慣れないそれは、少し擽ったくはあるが。

 

「ああ、こちらこそ。

 よろしく、……『相棒』」

 

 

 

 その後沖奈駅近辺で遊んでから、少し早めに稲羽へと帰った。

 しかし、隣の市に行くにも一苦労するこの交通の便の悪さは如何ともし難い。

 せめて何かバイクとか足になるものが、あれば良いのだろうけれど……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆


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