PERSONA4【鏡合わせの世界】   作:OKAMEPON

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【2011/04/17━2011/04/18】

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 あれから、里中さんは約束を破って単独行動を取り、更には『シャドウ』を暴走させてしまった事を深く反省した。

 今回は運が良かっただけで、一歩間違えれば里中さんもこちらも死んでいただろうから、再発だけは何としてでも防がねばならない。

 まぁ結果だけを語るなら、里中さんの『シャドウ』が現れる、というアクシデントは起こったものの最悪の事態までには至らず、本来の目的であった天城さんの救出こそは果たせなかったが、寧ろ戦力が増えたと言う面で見れば、決してマイナスではないのだが……。

 その後三人で話し合って、彼方の世界では決して一人では行動しない事を取り決めた。

 ついでに自分が暫定的にリーダー、と言う事にもなったが、そこに関しては花村が特にそう推すのだし里中さんも推すので民主主義的多数決の正義によって拒否するのもどうだと言う話になる。

 それにしてもリーダーか……。何とも責任重大だ。

 まぁ、普段通りに行動しても大丈夫だろう、多分……。

 

 ……あの城の中で聞いてしまった、天城さんの『心』の声。

 そこに偽りは無いと考えると、天城さんの心の決して少なくはない部分を里中さんが占めているのは間違いないだろう。

 ……天城さんが、その心の奥に何を隠していたのか。

 あの『シャドウ』と思わしき天城さんは、一体どんな思いが形を成したものなのか。

 それは、今の段階では分かり様もない。

 特に自分は天城さんと出会ってから日がまだ浅いのだ、そもそもの情報量が絶対的に少ない。

 だが、その心を解く鍵は、里中さんにあるのではないだろうか。

 

 そんな事を考えながら料理をテーブルに並べていると、丁度叔父さんが帰って来た。

 

「……なぁ、悠希。

 確かお前のクラスに、天城雪子って生徒がいたよな?

 前に一緒に帰ってただろ?」

 

 食卓についた叔父さんは、食べ始める前に一度こちらを見やってから、そう尋ねてきた。

 しかし一体、何故突然に……?

 

「天城さん? ……彼女がどうかしたんですか?」

 

 行方不明……という事になってはいるのだろう。

 実際は彼方の世界に囚われているのだが。

 しかしそれを警察は知る由も無い。

 現時点では、文字通りに自分達しかあの世界の事を知らないのだ。……尤も、天城さんをあの世界に放り出した【犯人】もまた恐らくはこの街の何処かで見ているのだろうが。

 

「あー……彼女から何か聞いたりしてないか?

 どうにも足取りが掴めなくなってるらしくてな。

 ……居場所に何か心当たりとかはないか?」

 

 心当たりと言うか、何処に居るのかは知ってはいるが、それを言う訳にはいかないし、そもそも信じては貰えないであろう。

 叔父さんは現実主義者だ。実際にそれを目の前で見せれば信じてはくれるだろうが、確たる証拠も示さずにそれを主張した所で高校生が若気の至りで変な妄想をしているだけとしか捉えてはくれないだろう。そして一度そう言った「認識」をされてしまうとそれを正す事は難しい。

 ……今目の前でテレビに手を突っ込んで彼方の世界の事を示そうにも、そうなれば確実に叔父さんは彼方の世界に連れて行けと言うだろうし、更に言うと自分たちの様な高校生が命の危険もある様な事に関わっている事に絶対に難色を示す。

 叔父さんが「良き大人」であるからこそ、その事について話辛い部分がある。

 少なくとも今、天城さんの救出の為に実際に動けるのは自分たちしか居ないのだ。そこで無駄に行動を制限される訳にはいかない。

 何時か叔父さんに事情を話さねばならぬ時が来るのだとしても、それは今では無いと思うのだ。

 その為、少し心苦しくはあるが叔父さんの問いにはぐらかす様に返す。

 

「……何か、とは?

 ……すみませんが、天城さんは私がこっちに引っ越して直ぐにご実家の手伝いで忙しかったみたいなので、あまり話したりする機会はありませんでしたし、天城さんの行先に心当たりは無いですね」

 

 そう答えると、叔父さんは頭を掻きながら僅かに溜め息を吐いた。

 

「……そうか。

 ……変な事尋ねちまったな。すまん」

 

 ……どうにも違和感を感じる質問だ。

 失踪した人を案じるというというよりも、まるで……。

 ……今の天城さんの状況は、被害者達の遺体が発見される前の状況と酷似している。

 叔父さんの事だからそれを心配しているんじゃないのかと思ったのだが、……どうにも怪しい。

 

 だが、どうしてそう感じたのかの説明は付かず、モヤモヤした気持ちでその日はさっさと眠りに就いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

【2011/04/18】

 

 

▲▽▲▽▲▽

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

 

 天城さんが失踪してから三日目。

 里中さんが『シャドウ』を受け入れたその翌日、里中さんを含めた三人で再びテレビの向こうへと訪れた。

 

 万が一を考えてもう一日は里中さんの休養にあてたかったのが本音ではあるものの、『もう回復したしじっとしていると逆に気が滅入ってしまう』、という里中さんの意見を無視する訳にもいかず、実際体調面に問題はなさそうであったので、昨日の今日ではあるが早速天城さんの救助に向かう事になった。

 

 里中さんの『ペルソナ』━━━トモエは物理攻撃を得意とする生粋のアタッカーの様だ。

 トモエ……恐らくは木曾義仲と共に戦ったかの有名な巴御前が元となっているのだろう。

 それを言うのならば花村のジライヤも、江戸時代の創作話に出てくる義賊児雷也が元なのだろうけれど。

 しかし、何故『ペルソナ』が歴史上の有名人や神話や創作話の中の登場人物を模しているのだろう。

 ……まぁ、考えた所で早々に答えが出る様な物ではないのだろうけれども。

 

 城の中の構造は昨日訪れた時とはやや異なる様だ。

 昨日はあった筈の通路や部屋がなく、代わりに新たな部屋や通路になっている。

 クマ曰く、『心』とは常に同じに定まっている物ではない為、変化してしまうのは仕方無い事なのだそうだ。

 ……つまりは、入る度に地形が変わる『不思議なダンジョン』と同じ、という事なのだろう。

 ならば通路等の構造を把握してもあまり意味はない。

 マッピングしようと持参した紙とペンの出番は無さそうだ。

 

 特にこれといった問題はなく次々とフロアを踏破していく。

 天城さんがいるのはクマの見立てでは最上階らしい。

 後どれ程登らなくてはならないのかは分からないが、中々良いペースだと思われる。

 城の中を徘徊する様々な姿の《シャドウ》は、花村の『シャドウ』や里中さんの『シャドウ』と比べれば然程強くない。

『ペルソナ』に頼らずとも、武器による攻撃でも凌げる程だ。

『ペルソナ』を使うとどうしても疲労が溜まってしまう為、有り難い事ではある。

 勿論、だからと言って油断出来る訳でもないのだけれども。

 現在の武器は模造刀に模造短刀、それに普通の革靴。

 武器としては些か頼りない。

 今度何か調達しといた方が良いだろう。

 ……まず調達先から探さなくてはならないだろうが。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ━━『もうすぐ王子様が私を迎えに来てくれます』

 ━━『ふふ……私は何時までもお待ちしてます……何時までも、何時までも……』

 

 ━━いらっしゃいませ。

 ━━本日は天城屋旅館にお越し頂き、誠にありがとうございます。

 ━━こちらがお部屋でございます。

 ━━何か御用がございましたら、何時でもお申し付け下さい

 

 ━━『王子様、早く私を連れ去って!』

 ━━『何処か……私の事なんか誰も知らない世界に……』

 

 

 時折姿は見えないが、天城さんの声が響いてくる。

 これは……あの商店街で聞こえてきた小西先輩達の声と同じく、『シャドウ』の……天城さんの心に押し込められていた声なのだろうか。

 

「王子様」を待ち望む声、旅館の手伝い中らしき天城さんの声、昨日聞いた、里中さんへの思い、

 ……そして、『シャドウ』が言っていた《王子様探し》。

 

 ……これは俗に言う所の、『シンデレラ・コンプレックス』━━《依存型逃避願望》、というやつだろうか。

 勿論決めつけるのは早計だし、人の心理なんて簡単に何かに当て嵌める事が出来る程単純な物ではないのだからそれだけではないだろうけれども。

 とは言え、考えておく事が無意味である訳でも無い。

 天城さんが『シンデレラ・コンプレックス』を抱いているという前提で考えて。

「王子様」に望むのは、『自分の事を知らない場所へ連れ去って貰う事』……つまりは『現状』からの逃避という事だろうか。

 天城さんが逃避したい“現状”というのは……推測するに、実家の旅館の事なのだろうか?

 昨日の声から察するに、天城さんが里中さんへかなり心を寄せているのは明白な事実である。

 ならば、依存している相手である里中さんが天城さんにとっての「王子様」に当たる筈ではあるのだが、そうではない様だ。

 天城さんが求める「王子様」が里中さんだとするのなら、態々《王子様探し》などする必要はないのだから。

 尤も、「王子様」とやらに求めるものが、現状からの解放であるのならば、里中さんには限りなく不可能に近い話であるだろうから仕方がないだろうけれど。

 ……いや、結論を急ぎすぎている、か。

 幸い思索に費やす時間の猶予はあるのだから。

 今は……天城さんの下へ辿り着く事を最優先に考えよう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「この扉の向こうに誰か居るクマ!」

 

 大きな扉の前に辿り着いた時、クマがそう警告してきた。

 誰か。天城さんか……その『シャドウ』だろうか。

 どちらにせよ、この先に進むしかない。

 扉を開け放った先で待っていたのは、マヨナカテレビに映っていた天城さん……の『シャドウ』だ。

 

『うふふ……ふふ、あはははは!

 あらぁ、サプライズゲスト?

 どんな風に絡んでくれるの?

 それとも、もしかして王子様?

 なら、どうか私を助けてください!

 私は囚われの身なんです!』

 

 豪奢なドレスに身を纏い胸の前で祈る様に手を組む『シャドウ』は、それだけを見ればまるで夢見る乙女の様ではあるが、ニヤニヤと浮かべた笑みがそれを台無しにする。

 何か仕掛けてくるかも気なのかもしれない……。

 今にも飛び出しそうな里中さんを手で制し、『シャドウ』の出方を窺う。

 

『んふふっ、王子様ならきっと……きっと、どんな困難な道のりも乗り越え私を解き放ってくれる筈……。

 勿論、こんな衛兵に負ける筈なんてありませんよね?』

 

『シャドウ』が手を挙げると、濁った闇の塊の様な何かが現れ、それは騎士の様な異形の姿を取って目の前に立ちはだかった。

 足が無く宙に浮いた馬の様なものに跨がり、黒い甲冑を身に付けて巨大な騎乗槍を携えたその《シャドウ》は、天城さんの『シャドウ』を守る様にランスを構える。

 ……姫を守るナイト、のつもりか。

 

『んふふ、盛り上がって参りましたっ!

 さてさて、私は引き続き王子様探し!

 一体何処に居るのでしょう!

 こう広いと、期待も高まる反面、中々見付かりませんね~!

 あ、それとも、この霧で隠れんぼ?

 よ~し、捕まえちゃうぞ!

 それじゃ、再突撃、行ってきます!

 うふ、王子様、首を洗って待ってろヨ!』

 

 そう言って天城さんの『シャドウ』は奥の階へと去っていった。

 追い掛けようにも騎士の《シャドウ》がそれを阻む。

 ……こいつを倒すしかない様だ。

 

 騎士の《シャドウ》は……見るからに固そうだ。

 物理攻撃に耐性があるのかは分からないが、どのみち一寸やそっとじゃ倒せる相手ではないだろう。

 花村や里中さんの『シャドウ』達とは比べるべくもないが、ここに来るまでに戦ってきた《シャドウ》達とは一線を画する威圧感を放っている。

 世に言う「中ボス」的な存在なのだろう。

 ……正面きって戦うのは、ランスのリーチやその刺突力を考えれば得策ではない。

 距離をとって『ペルソナ』の魔法攻撃で攻めるのが無難な戦い方だろうか。

 

「花村、風の魔法をメインに使って。

 くれぐれも正面には回らないで。

 串刺しにされるから」

 

 こちらの指示に花村は頷く。

 

「了解! しっかしゴッツイやつだなぁ」

 

「恐らくはパワータイプだと思う。

 ヤツの攻撃範囲には十分注意して」

 

 花村と里中さんは、了解とばかりに頷いた。

 

「鳴上さん、私はどうすれば良い?」

 

「里中さんは……確か、氷の魔法も使えたよね?

 なら、それをメインに立ち回って」

 

「う、あんまり魔法攻撃は得意じゃないんだけどな……」

 

 こちらの指示に若干苦い顔をする里中さんに、重ねて説明する。

 

「確かに、里中さんが最もその実力を発揮出来るのは接近戦。

 だけど、あの《シャドウ》はさっきまで戦ってきた奴等とは違う。

 相手の手札も分からない内から闇雲に接近戦を仕掛けるのは危険。

 遠距離から攻めて、相手の出方を窺ってから仕掛けていこう」

 

「そだね。うん、分かった。

 鳴上さんの判断を信じるよ」

 

 

 やはり騎士の《シャドウ》は見た目通りのパワータイプだった。

 物理、雷、風、氷のどれもが弱点ではなかった様だが然りとて耐性があった訳でもなかったらしく、《シャドウ》の体力はジリジリと削れていっている。

 自身の攻撃力を上げる技を使ったりして強化された一撃を繰り出しても来たが、『ペルソナ』による防御で凌いだり、事前に動きを予測して回避したりする事が出来る程度には対処可能な動きだった。

 

 少々時間は掛かったものの、特にこれといった大きな負傷もなく騎士の《シャドウ》を倒す事が出来た。

 魔法攻撃も使った為多少の疲労はあるが、それも問題はない範囲に収まっている。

 二人に確認をとった所、二人ともこのまま天城さんの捜索を続ける事に合意したので、僅かながら休息を挟んでから再び捜索を再開する事となった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 天城さんの『シャドウ』を見掛けた階から更に何階か踏破して、やっとの事で最上階と思われるフロアへと辿り着いた。

 

「間違いないクマ。この先にいるクマよ。

 あと、あの子の『シャドウ』も一緒にいるクマ」

 

 クマはそう確信を込めた目で頷いた。

 

「この先に雪子が……」

 

 探し続けた天城さんがこの先に居ると知り、焦る気持ちもある反面、里中さんはほんの少しだけだが迷っていた。

 この先には、天城さんだけではなく、天城さんの『シャドウ』も居る。

 天城さんが抑圧してきたもの。

 それを直視するのだ。

 如何に確固とした思いがあれど、他者の心の内を覗くにも等しい行為に迷いが生まれるのは、致し方無い事ではあろう。

 

「『シャドウ』が何を仕掛けて来るかは分からない。

 ……注意していこう」

 

 それでも、この先に行かない事には何も成す事は出来ない。

 そう決意して、大扉に手をかける。

 

「ああ!」

 

「……うん。絶対、雪子を助けよう!!」

 

 迷いを振り払った目で、里中さんは確りと頷いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「雪子!」

 

 扉を開け放ち広間へと乗り込んで目にしたのは、天城さんとその『シャドウ』が向かい合っている光景だった。

 

 まさか、既に……!?

 とは思ったものの、不穏な気配は漂わせつつもまだ「暴走」しているという風には見えない。

 間一髪、なのだろうか。

 

『あらららら~ぁ? やっだもう!

 王子様が、三人も!

 もしかしてぇ、サプライズゲストの方達?

 いや~ん王子様だったなんて!

 ちゃんと見とけば良かったぁ!』

 

 広間の中でも数段高い場所にある玉座からこちらを見下ろしながら、天城さんの『シャドウ』は媚びる様な声音と視線でこちらに訴えかけてきた。

 

『つーかぁ……雪子ねぇ、どっか行っちゃいたいんだぁ。

 どっか、誰も知らない遠くぅ。

 王子様なら、連れてってくれるでしょぉ?

 ねぇ、早くぅ』

 

「むっほ?  これが噂の『逆ナン』クマ!?」

 

 クマは何かを勘違いしている気がするのだが、今はそれを訂正してあげている余裕は無い。

 

「三人の王子様って……男は花村しかいないけど……?

 まさかあたしと鳴上さんも入ってるワケ……?」

 

「クマもオトコでしょーが!」

 

「でも『王子様』は無いな……」

 

「間違いなく里中さんと私と花村、だろうな」

 

 クマはそもそも頭数に入っているかすら怪しいだろう。

 それに……多分『シャドウ』の言う「王子様」に、性別は関係ない。

 

『千枝……ふふ、そうよ。

 アタシの王子様……いつだってアタシをリードしてくれる……。

 千枝は強い、私だけの王子様……』

 

 陶酔する様に、夢見勝ちな少女の様な表情で、『シャドウ』は里中さんの事を語る。

 ……だが。

 微かに落胆を混ぜた瞳で、『シャドウ』は里中さんを見た。

 

『……王子様「だった」』

 

「だった……?」

 

「……」

 

 

「だった」……か。

 やはり、天城さんにとっての「王子様」……要は依存する相手は、里中さんであったのは間違いではない様だ。

 ただし、「だった」という過去形が示す様に、今現在はそうではない。

 何故なら、……里中さんでは「王子様」に求めているものは満たせないから。

 

『結局、千枝じゃダメなのよ!

 千枝じゃアタシを、ここから連れ出せない!

 千枝じゃアタシを救ってくれない!!』

 

「雪子……」

 

「や、やめて……」

 

 微かに哀しみを含んだ里中さんの視線から目を逸らしながら、天城さんは『シャドウ』の言葉を制止しようとする。

『シャドウ』の言葉を聞くのが耐えられないのか、それとも……それを里中さんに聞かれているのが辛いのか……。

 どちらなのだろう……。

 ……いや、どちらにせよ、天城さんが『シャドウ』を受け入れられていないのには変わらない、か。

 

『老舗旅館? 女将修行!?

 そんなウザい束縛……まっぴらなのよ!

 たまたまここに生まれただけ!

 なのに生き方……死ぬまで全部決められてる!

 あーやだ、イヤだ、嫌ぁーっ!!』

 

「そんな、事は……」

 

 甲高い声で抑圧していた感情を暴露していく『シャドウ』に、天城さんは弱々しく首を横に振って否定の意を示す。

 

『どっか、遠くへ行きたいの……。

 ここじゃない、どこかへ……。

 誰かに、連れ出して欲しいの……。

 一人じゃ、出て行けない……。

 一人じゃ、アタシには何も無いから……』

 

「そんなこと、ない……。

 やめて……もう、やめて……」

 

『希望もない、出てく勇気もない……。

 うふふ……だからアタシ、待ってるの!

 ただじーっと、いつか王子様がアタシに気付いてくれるのを待ってるの!

 どこでもいい! どこでもいいの!

 ここじゃないなら、どこでも!

 老舗の伝統? 町の誇り?

 んなもん、クソ食らえだわッ!』

 

「……」

 

 

 現状を嫌だ、と思っても、自分からは動こうとはしない。

 ……立ち向かう事も……逃げ出す事すら、自分自身ではやろうとはしない。

 ただ、「誰か」が現状を変えてくれるのを待っているだけ。

 その「誰か」を探す努力をする訳でもなく。

 ……それは、《自分には何もない》という思いからなのだろうか。

 何故、そう思ってしまうのだろう……。

《何もない》、なんて事はきっとそれこそ有り得ないのに。

 勿論、傍目から見ての評価と自身での評価が喰い違っているのなんておかしくも何ともないのだけれど。

 ……そこに、天城さんの悩みの根本がある気がする。

 

「そんな……」

 

『それがホンネ。

 そうよね……? もう一人の「アタシ」!』

 

「ち、ちが……」

 

「よせ、言うなッ!」

 

 花村が天城さんを止めようと声を上げるが、間に合わない……。

 

 

「違う!

 あなたなんか……私じゃない!」

 

 

 天城さんは、「禁句」を口にする。

 そして天城さんが『シャドウ』を否定した途端、濁った影の奔流が天城さんのシャドウを包み込んだ。

 虚脱した様に力なく座り込む天城さんの身体を受け止めて、クマに託して安全な場所まで退避してもらう。

 

『うふふふふふふ!

 いいわぁ、力がみなぎってくるぅ!

 そんなにしたら、アタシ……。

 うふ……あはは、あははははは!!』

 

『シャドウ』の狂った様な笑い声が響き渡る。

 

 

『我は影……真なる我……。

 さあ王子様、楽しくダンスを踊りましょう?

 ンフフフフ……』

 

 

 影の奔流が治まったその場所に居たのは。

 豪奢なシャンデリアと一体化した鳥籠の中から身を乗り出す、深紅に染まった翼を持つ巨大な人面鳥だった。

 天城さんの姿だった時の名残であろう長い黒髪を靡かせながら、シャドウはこちらを睥睨する。

 『シャドウ』は飛び立とうとするかの様に幾度も羽ばたくが、それでも鳥籠からは飛び立たない。

 ……籠の扉は最初から開いているというのに。

 それは……。

 

「……花村、鳴上さん。

 ……きっとあの『シャドウ』を雪子に生み出させてしまったのはあたしだと思う。

 その責任は、あたしが果たすよ。

 けど、……雪子を助ける為には、悔しいけどあたしの力だけじゃ足りない。

 だからお願い、あたしに力を貸して!!」

 

 翼をはためかせる『シャドウ』を見詰めながら、里中さんはそう頼んできた。

 ……そんな事は、頼まれるでもない話だ。

 その為に、自分たちは今ここに居るのだから。

 

「そんなの、里中に頼まれるまでもねーよ!」

 

「花村の言う通り。

 ……それに、きっと里中さんだけのせいじゃない。

 天城さんの周りにいた人全員が、きっと同罪。

 ……だから私も、その『責任』の一端を果たすよ」

 

「うん、……ありがとう、二人とも。

 待ってて雪子。……あたしが全部受け止めてあげる!」

 

 親友の心の闇を受け止める覚悟をした里中さんは、己の『ペルソナ』を呼び出して異形の『シャドウ』と対峙する。

 

『あらホントぉ……?

 じゃあ私も、ガッツリ本気でぶつかってあげる!!

「偽物」の王子様なんて、もういらない……!

 いらっしゃい……アタシの王子様!!』

 

 そう『シャドウ』が呼び掛けると、騎士の《シャドウ》を呼び出した時の様に濁った闇の塊が現れ、それは小柄な人形を成した。

 二頭身のずんぐりとした体に、ぱっつんとした金髪。

 小さな金の冠を被り、深紅のマントを羽織って、レイピアの様な細身の剣を手にしている。

 童話の挿し絵に出てきそうな、デフォルメされたキャラクター染みた『王子様』だ。

 

『王子様』は手にしたレイピアをしならせながらこちらに肉薄してきたが、寸での所でイザナギと鍔迫り合いになり、膂力の違いからか耐えきれずに吹き飛ばされて床を転がる。

 だが直ぐ様体勢を立て直し、『王子様』はもう一度レイピアを軽く振るうと、先程の衝突で僅かながらも『王子様』の負ったダメージはほぼ回復してしまった様だ。

 どうやら回復の術も持ち合わせているらしい。

 厄介な事だ。

 

『王子様』は天城さんの『シャドウ』を守るかの様に鳥籠を背にして立ちはだかった。

 ……だがその姿は、天城さんの『シャドウ』を鳥籠から出さない様にしている風にも見えてしまう。

 

 ……「これ」が天城さんの理想とする『王子様』、なのだろうか。

 天城さんの《理想》の『王子様』……。

 回復役から倒す、というのはゲームに置いては定石中の定石だけれども。

 でも、それ以上にこの『王子様』は排除しなくてはならないだろうと思うのだ。

 ……きっと、天城さんが『シャドウ』と向き合う為には『王子様』なんて、必要ないだろうから。

 

「……取り敢えず『王子様』のシャドウを先に倒そう」

 

「うん。……あんなの、『王子様』なんかじゃない」

 

 ジライヤの疾風が、トモエの鋭い一撃が、イザナギの雷撃が『王子様』を穿つ。

 回復する力があっても、それを使う暇がないのならあっても無いのと同然だ。

 存外耐久性はあった様で、まだ余力はある様だがどうやら電撃が弱点だったらしく、痺れているのか『王子様』は動かない。

 

『王子様っ!!

 アンタら……アタシの王子様になんて事を!!』

 

『シャドウ』が怒り狂って鳥籠ごと体当たりしてきたのを、イザナギとジライヤが受け止めた。

 更に、イザナギの身体を踏み台にして駆け登り、『シャドウ』の翼の付け根を狙って模造刀を叩き付ける。

 その痛みに『シャドウ』は悲鳴を上げて鳥籠の扉を固く閉ざした。

 

「っ、違うっ!!

 こんな奴、雪子の『王子様』でも、何でもない!!」

 

 

『シャドウ』の動きが抑えられたその隙に、里中さんはそう叫ぶ様に声を上げながら動かない『王子様』に向かって駆け出す。

 

「アンタなんかがいるからっ!

 雪子が何処にも行けないんだーっ!!」

 

 きっと、その言葉には様々な思いが込められていた。

 里中さんの渾身の蹴りが『王子様』に突き刺さり、大きく跳ね上げさせる。

 そして間髪入れずに、『王子様』の身体をトモエの薙刀が切り裂いた。

 その一撃に耐えきれなかったのか、『王子様』は霧散し跡形もなくなる。

 

『そんなっ! 王子様! 王子様……っ!!』

 

『シャドウ』は再度『王子様』を呼ぶが、闇が再び現れる事はなかった。

 

『お願い、王子様……っ!

 ……何で、何で誰も来てくれないの……?

 王子様はっ、……王子様はアタシを守ってくれる筈なのにっ……!!』

 

「違うっ! 守ってないっ!!

 アイツは、雪子を守ってなんていないっ!!

 守るフリをして……、雪子をそこに閉じ込めているだけっ!

 ……自分の為だけにっ!!」

 

 焦った様に王子様を何度も呼ぼうとする『シャドウ』に、里中さんは痛みを噛み締める様に言葉を掛ける。

 

『違っ! そんな事は……!』

 

「天城さんの《鳥籠》の戸は開いている。

 本当は何処にだって飛んでいける。

 天城さんがそう望むのなら……『王子様』なんて居なくったって、例え一人でも、そこから飛び立てる筈だ」

 

 ……勇気が無い、希望が無い……。

 他でもない……そう思う……思い込んでいる天城さんの心が、天城さん自身を《鳥籠》に縛り付けてしまっているのだ。

 

『アタシは……、アタシは……!!』

 

「あたしが……アイツみたいに雪子を閉じ込めてしまっていたから……、あなたが飛び立てなくなってしまったっ!!」

 

『嘘っ、嘘よォォっ!!』

 

「っ! 里中さんっ!!」

 

 里中さんの言葉に動揺したのか、『シャドウ』は大きく幾度も羽ばたいた。

 ブワッっと舞い上がった『シャドウ』の羽根が辺りを埋めつくした次の瞬間、業火となって辺りを埋め尽くす。

 

 炎の効果範囲にいたとはいえ、咄嗟の判断でイザナギのコートの中に匿った里中さんは何とか無事である。

 それと引き換えに、焼け付く様な痛みが全身を襲った。

 ……イザナギには火炎に対する耐性は無い。

 つまり、ダメージは軽減されずにそのままイザナギに伝わる。

 フィードバックで返ってくるダメージも、以前電撃を受けた時の比では無い。

 

「っ、イザナギっ!!」

 

 イザナギに里中さんを抱えさせて一旦『シャドウ』とは距離を取る。

 

「里中っ、鳴上っ!! 大丈夫かっ!?」

 

 攻撃を予測して、何とか効果範囲から離脱出来ていた花村が慌てた様に駆け寄ってきた。

 

「うん、あたしは何とか……。

 イザナギが、鳴上さんが守ってくれたから……」

 

「私は……。私は、大丈夫だ。

 ……問題無い、戦える」

 

「っ、鳴上……! 何が『問題無い』、だ!

 この手……火傷しているじゃないかっ!」

 

 確かに花村の指摘通り、『ペルソナ』へのダメージのフィードバックにより手には軽い火傷の痕がある。

 痛む範囲から恐らくは手や腕だけでなく服で隠れている部分にも結構な広範囲に痕が出ているだろう。

 これは……菜々子ちゃんに見られたら言い訳に困るだろうな。

 暫くは一緒にお風呂に入ってやれそうにない。

 そんな事をぼんやりと思う。だが、それだけだ。

 

「それでも、戦うのには問題無い。

 戦えるなら、大丈夫。

 今は、『シャドウ』を止めないと。

 このままだと、焼け死んでしまうかも、しれない」

 

 炭化してる様なレベルの火傷だと大問題だが、別にそうではない。

 今は天城さんの『シャドウ』を制圧する方が大切だ。

 天城さんが向き合って受け入れるかどうかは別にして、『シャドウ』の暴走を鎮めない事には仕方がない。

 このまま景気良く業火を巻き起こさせていると、そう遠くない内に部屋中が炎に埋め尽くされる。

 いや、そうなる前に一酸化炭素中毒とか酸欠で死ぬかもしれないが。

 

「ジライヤっ!」

 

 問題無い、と言ったというのに花村はジライヤに回復の術を使わせる。

 元々大した負傷ではなかったからか、火傷は跡形もなく消え失せた。

 

「……ありがとう」

 

「……次からは怪我したらちゃんと言えよ」

 

 何処か呆れた様に花村は言う。

 別に、そんなに無理しているつもりはない。

 痛いのは嫌だし、そんな事で嘘や誤魔化しを入れる必要もない。

 ただ単純に物事の優先順位という物を考えただけだ。

 この程度の火傷の痕など放置したところで、悪化しようはないのだから。

 治療なら後からでも間に合う。

 それより今は『シャドウ』をどうにかしなくてはならないのだ。

 とは言え、花村のその気遣いは純粋に嬉しかった。

 

 里中さんに『王子様』を否定されて動揺しているのか、先程から『シャドウ』は闇雲に焔を振り撒いている。

 こちらを狙っているものではない為効果範囲外にいれば全く問題はないのだが、これではこちらも手の出しようがない。

『ペルソナ』には炎に対する耐性があるものはいないし、それに居たとしても完全に無効化する位の耐性でないと、この火の海の中に飛び込ませる事は出来ない。

 更に、『ペルソナ』には、天城さんの『シャドウ』の攻撃範囲外から攻撃して『シャドウ』にダメージを負わせられる程の射程と威力のある攻撃手段は現状ない。

 

 

 ……困ったな。

 いっそかなりのダメージを覚悟して、イザナギで特攻を掛けるべきなのだろうか。

 一直線に突っ切れば、……まあ大火傷程度で済むだろうし。

 

「……」

 

 痛みを覚悟してイザナギを炎の海に特攻させようとしたその時だった。

 

 

 ━━━……貴女のペルソナ能力は《ワイルド》……。

 

 ━━━それは正しく心を育めば、どんな試練とも戦いうる《切り札》となる力……。

 

 ━━━貴女はお一人で複数の《ペルソナ》を持ち、それらを使い分ける事が出来るのです。

 

 ━━━時に貴女は紡いだ絆の中に《新たな可能性》を見出すでしょう。

 

 ━━━ペルソナとは貴女の《可能性》……。

 

 ━━━貴女は既に絆を築き、そこに可能性を見出だしていらっしゃる……。

 

 ━━━さぁ、今こそ……それを掴み取るのです。

 

 

 ……何故かイゴールさんの声が聞こえた気がした。

 

 

「……」

 

 ……イゴールさんの言った事が確かなら、自分には『イザナギ』以外にもペルソナが居るという事になる。

 そして、既にある《絆》の中に、それらを見出す事が出来る、と。

 

 ……居る、のか? 自分の中に……?

 

 己の心に問い掛けると、イザナギの他に確かに『何か』の反応があった。

 それを掴み取ろうと集中する。

 

 すると。……何故か心に浮かんできたのは。

 

 

『お前となら、犯人見付けて、この事件を解決出来そうな気がすんだ』

 

 

 そう言って手を差し出してくる花村の顔だった。

 

 ……唐突に理解した。

 恐らく今掴み取ろうとしている『ペルソナ』は、花村との絆がくれた、《可能性》の形なのだと。

 ……そうか、これが……。

 

 

「………。『シャドウ』にダメージを与えられなくても構わないから、彼処まで風を届かせる事は出来るか?」

 

「やってやれない事はねぇとは思うが……。

 でも、そよ風位にしかならないんじゃねぇかな」

 

「それで十分。

 合図をするから、タイミングを合わせて風を起こして」

 

「分かった」

 

 何故と理由を訊ねる事もなく、花村は頷き返してくれた。

 ……それが花村が示してくれている《信頼》というものなのだろうと思うと、胸が少し熱くなる。

 

「里中さん。

 私が何とかして炎を消すから、そのタイミングで駆け抜けて。

 そして、天城さんの『シャドウ』に伝えてあげて。

 里中さんの想いを」

 

 天城さんに……天城さんの『シャドウ』に、想いを届けるのは、今この場に於いて里中さん以上の適任者は居ない。

 天城さんの親友で。

 大切にする余りに何時しか歪んだ気持ちすら抱えてしまう様になってしまっていた。

 他でもない里中さんにしか、恐らくは出来ない事だ。

 

 届けなくてはならない。

 天城さんの為に……そして里中さん自身の為にも。

 

 全力で意識を集中させる。

 己の持てる全てで、今出来る最高の一撃を繰り出す為に。

 この焔の海を征し、あの『シャドウ』までの道を作り出す為に。

 失敗は出来ない。

 恐らくは、チャンスは一度切りだ。

 だけれども、……何故か理屈では説明がつかないのに確信にも似た思いで、失敗など起こり得ない、と感じていた。

 

 

(……チェンジ)

 

 

 己の内にあるもう1つの『ペルソナ』を表層に引き摺り出す。

 

 

(さぁ、行こうか)

 

 

「来い! 『ジャックフロスト』っ!!」

 

 

 新なカードを握り潰して現れたのは、ヨーロッパに伝わる霜の精霊を模した雪だるまの様な『ペルソナ』。

【魔術師】のアルカナに属する、新たなる可能性の形。

 何が出来るのか、何が得意で苦手なのか、全てが誰に説明されるでもなく頭に浮かぶ。

 

「花村!!」

 

「おうっ! 任せとけ!!

 行くぜ、ジライヤッッ!!」

 

 ジライヤが巻き起こす風に合わせて、『ジャックフロスト』にその力を発現させた。

 無数の氷塊を巻き込み吹き荒れる風が、焔を呑み込みそれを打ち消していく。

 風に乗って舞い踊る氷塊は、『シャドウ』の翼を凍てつかせた。

 そして、荒れ狂う風が収まった後には。

 

 

 ━━━道が、出来た。

 

 

「今だ、里中さんっっ!!」

 

「うんっ!」

 

 ダッと駆け出した里中さんを狙って『シャドウ』は焔を浴びせようとするが、それに『ジャック・フロスト』の氷をぶつける事で相殺していく。

 ガリガリと蓄積していく精神的な疲労に、目の前がふらつきそうになるが、それは意地で耐える。

 里中さんが身体を張ってるのに、それから目を離すなんて言語道断だ。

 

『アンタなんか!

 王子様でもないアンタなんかっ!

 要らないっ! もう、要らないィィっっ!!』

 

 そう里中さんに叫ぶ『シャドウ』に、疲労に蝕まれつつあるのも忘れて思わず言い返した。

 

「里中さんは『王子様じゃない。

 でも、だから何だ!

『王子様』かどうかなんて、何の関係もない!

 里中さんは天城さんを助けたいから、危険を承知でここまで来た!

 それは、天城さんが《旅館の跡継ぎ》だからじゃないっ!

 里中さんにとって、天城さんが何よりも大切な『友だち』だから!!

 天城さん自身を、こんなにも本気で思ってくれている人がいるじゃないか!!

 それは、何処の誰かも分からない『王子様』なんかよりも、ずっとずっと大切な人だろう!!

 そんな相手をっ、《要らない》だなんて言うなっ!!」

 

『うるさいっ!

 うるさいウルサイウルサイウルサイウルサイっっっ!!』

 

 そう言うと『シャドウ』は狂った様にそれを否定する。

 それを遮ったのは、里中さんの声だった。

 

「雪子に、『王子様』なんか必要ない!

 雪子は、一人じゃ何も出来ないお姫様なんかじゃない!

 雪子は、本当はあたしなんかよりもずっと強いっ!」

 

 氷塊と焔の衝突により生まれた蒸気を吹き飛ばすかの様に、里中さんは叫ぶ。

 

 

「雪子が居ないと何も出来ないのは、あたしの方!!」

 

 

 そう言いながらも里中さんは足を止めない。

 ただひたすらに、天城さんの事を想って言葉を紡ぐ。

 そして、想いを届ける為に駆けていく。

 

「あたしは雪子みたいに美人じゃないし、勉強も出来ないし、家の手伝いしてる訳でも、何か誇れるものがあるでもない……。

 ……だから、……だからこそっ!

 ……何でも持っている様に見えた雪子に頼ってもらいたかった!

 だからあたし、自分でも気付かない内に、守るふりして雪子の事をずっと閉じ込めてきた!!」

 

 里中さんの気迫に圧されたかの様に『シャドウ』は僅かながらも後退った。

 

「でもそんなの、間違ってた。

 そんな風にしてたから、雪子に辛い思いをさせてしまった……!

 あたし、バカだから……こんな事になるまで、雪子の思い、全然分かってあげられてなかった……!

 ごめん、ごめんね、雪子……!」

 

 ポロポロと涙を溢しながら里中さんは『ペルソナ』を呼び出した。

 

「もう間違えたりなんかしない……!

 ずっと傍にいて欲しいからって雪子を閉じ込めたりなんか、もう絶対にしない……!

 だからね、雪子。

 何処に行ったって良い……!

 あたしを置いてどんなに遠くに離れてしまったって良い……!

 何処へ行っても、どんなに離れても!

 雪子が、笑顔で居てくれるなら……!!

 たったそれだけで、良い!」

 

 グイッと涙を袖で拭って、万感の想いを込めて里中さんは叫ぶ。

 

 

「だって、雪子が大切だから。

 ……あたしは━━━雪子の、友だちだからっ!!」

 

 

 里中さんとトモエの渾身の蹴りは、『シャドウ』の身体を見事に捉え突き刺さる。

 その一撃により『シャドウ』は壁に叩き付けられ、影が霧散するかの様に散っていった後に残ったのは、元々の天城さんの姿をした『シャドウ』だった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆




叔父さんが変な訪ね方をしてきたのは、雪子が警察内で疑われているからです。
本来のゲームでは、17日に陽介のある行動の結果補導されて警察署まで連れていかれた際に、某キャベツさんからその事を聞かされるのですが、今回そのイベントを回避したのでこうなりました。


対影雪子戦はこれにて終了です。

とうとうワイルド能力が発動しました。
ペルソナ合体もその内入ります(描写するかは分かりませんが)。
個人的にアニメ鳴上くんみたいに戦闘中にペルソナ合体させたいです。
あれ、格好いいですよね。
ゲームでやれたらとんだチート野郎になってしまいますが。


主人公のペルソナ能力について、補足します。
ゲームでは主人公のレベル依存で、使用出来る(正確には作成出来る)ペルソナが決まり、コミュランクは合体ボーナスや合体解禁位にしか関係はありませんでしたが、この主人公はコミュが成立していないとそもそもそのアルカナのペルソナを使えません。
アニメの鳴上くんみたいなものです。
コミュMAXになると、合体解禁されるペルソナが自動的に使用可能なペルソナに追加されます。
つまり、頑張ってコミュ上げに励んでいれば、『特出し劇場丸久座』攻略時には『マダ』やら『コウリュウ』やら『スラオシャ』を使用する事も可能です。
ただし、(明確な数字は出しませんが)ゲームと同じく主人公にもレベルが存在し、明らかに主人公のレベルを上回るペルソナを使用すると、主人公にも重篤なダメージが発生します。
なお、合体解禁ペルソナは実際の初期レベルよりも遥かに強いです。
アニメ鳴上くんのペルソナが実際のゲームでの性能を遥かに上回るペルソナを使っていたのと同じ様な感じです。


因みに、雪子のシャドウと戦った段階でのおおよそのレベルは20位です。
仲間のペルソナと使用可能なスキル等は以下の通り。

『ジライヤ』【魔術師】(風:耐、雷:弱)
・ソニックパンチ
・マハガル
・マカジャマ
・スクカジャ
・ディア


『トモエ』【戦車】(氷:耐、火:弱)
・暴れまくり、脳天落とし
・マハブフ
・タルカジャ


鳴上さんのペルソナと使用可能なスキルは以下の通り。


【愚者】

『イザナギ』(雷:耐、風:弱)
・ダブルシュート
・ジオンガ、マハジオ
・ラクカジャ、タルカジャ、ラクンダ


【魔術師】

『ジャックフロスト』(氷:無、火:弱)
・マハブフ、ブフーラ
・氷結ガードキル、コンセントレイト
・氷結ブースター、火炎見切り

です。

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