いじめ?俺には関係無いな   作:超P

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聖なる夜。


不幸な少年は何を願うのでしょうか。





サンタは救えなかった。

12月24日 クリスマス・イブ

 

 

 

街は華やかに彩られ、子供達はサンタクロースの訪れを心から待つ。

クリスマス当日の準備をする為に買い物をし、恋人たちはそれぞれの思い出を作る。

本来はキリスト教のイベントなのだが、時代のせいもあって今じゃ日本人にとっては一大イベントだ。

 

だからこそ浮くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人で夜の街を歩く小学生は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人曰く、『家族水入らずで過ごすから失せろ』との事で。

 

 

(流石に無一文で放り出されたのはマズイな…………)

 

 

上着を羽織って靴を履くだけの時間は貰えた。

だがそれ以外のものを持ち出す時間は貰えなかった。

 

………………書斎の鍵が上着にあってよかったと本当にそう思う。

 

死んだら面倒な事になるしな。

 

祖父さんから貰った書斎代わりの部屋は学校を挟んで家と反対の方向にある。

そうでなければあの人に見つかってしまうからである。

 

 

(実の父親のポストを狙う人間だ…………嫌いな息子がマンションの一室を貰ってるなんて知ったら確実に取られる)

 

「あれ?」

 

(確かあそこには幾らか現金を置いておいた筈。なんとか水と食料、毛布だけでも揃えないと凍死する可能性がある………)

 

「おーい」

 

(ここら辺だと………商店街か?でも郊外を通らないと無理だしな………家の方には近づいてばったりあの人達のと会ったら不味いしどうする?)

 

 

 

 

「無視しないでほしいの!」

 

 

 

 

「⁉︎⁉︎⁉︎だ、誰だ!…………って中谷か」

 

「未来って呼んでほしいの!」

 

「………んで?中谷、何の用だ?」

 

「………達也君は意地悪なの」

 

「仕方ないな、これが俺だ。嫌ならワザワザ近づかなくてもいいんだぜ?」

 

「むー………もういいの!それで………こんな所で何をしてるの?」

 

「ちょいと買い物をな」

 

「ひょっとして、商店街へ行くの?」

 

「え、あぁそうだが?」

 

「丁度いいの!未来もケーキを取りに行く途中なの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街

 

 

「……………なんでホールケーキを3つも買うんだ?」

 

「なんでって…………ひょっとして聞いてないの⁉︎」

 

「な、何をだ?」

 

「今日は未来のお家でクラスでパーティをやるの!寛太君が教えてくれる事になってたと思うけど……」

 

「………………ほら、あれだ。真也は家でパーティだからな。兄弟揃って参加しないと思って俺に言うのはしなかったんだろうよ。実際、俺は聞かれても参加しなかっただろうしな」

 

「むぅ………本当なの?」

 

「あぁ本当だとも」

 

「……………………未来ね最近、クラスで嫌な噂を聞いたの」

 

「どんな噂だ?」

 

 

 

 

「……………………達也君が下着を盗んだって」

 

 

 

 

「…………」

 

「本当なの?」

 

「本当だよ」

 

「!」

 

「プールの時に…………雲雀のをな」

 

「う、嘘なの!」

 

「本当だとも。俺は嘘はつかないよ」

 

「………………信じないよ」

 

「お前が信じるかどうかは俺には関係無いさ。俺が盗んだ事には変わりない事にからな」

 

「…………」

 

 

 

大きくて立派な家の前、中谷は歩くのをやめた。

おそらくここが中谷の家なのだろう。

家の中からはどこかで聞いたような声が幾つも聞こえる。

 

 

「………………どうやらここでいいみたいだな」

 

「…………達也君も一緒に来るの」ぎゅっ

 

「手を離してくれ。うちに帰れない」

 

「嫌なの!」

 

「…………………離せ」バッ!

 

「………!」

 

「………じゃあな」

 

「………!達也君のバカぁあぁぁぁあああ!!!!」

 

(…………悪い噂が流れる人間との繋がりは消すべきだ。あんなに優しい女の子が俺なんかと繋がりを持っていてはだめだ)

 

 

中谷は悲しかった。

同じクラスになった優しい男の子。

当然、みんなで一緒にいることが好きな彼女は彼とも仲良くしようとした。

だが誰にでも優しい彼は誰とも仲良くしようとしない。

手を繋いで欲しいという男の子はいた、一緒に遊ぼうという男の子もいた。

 

でも彼は手を離せと、一緒にいたいという素振りさえも見せずに帰って行った。

小学生の彼女には拒絶という行為は受け止めきれないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街の外れ

 

 

「ちょっといいかな?」

 

「?」

 

 

商店街に入る前、丁度人気が無い所で赤いコートを着中年の白髪のおっさんに話しかけられた。

こんな夜更けに子供に話しかけてくる時点でかなり怪しい筈なのだが、不思議と疑う気にはなれなかった。

 

言うなれば……………………そう、まるで聖人のような雰囲気を感じたのだ。

 

コートのおっさんは優しく、そして慈しむような声で俺に言った。

 

 

 

 

 

 

 

「もし、願い事が叶うなら何を願う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ?」

 

「僕はね?君の願いを一つだけ叶えてあげられるんだ。何か一つ、言ってごらん?」

 

 

自分はサンタとでも言う気なのか。

このおっさんは願いを叶えてくれると言った。

 

 

「何でもいいのか?」

 

「何でもね。君が望む物をあげられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の周りの人間、全てに幸運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが俺の願い。

 

俺なんかいなくても幸せでいられるような世界にしてほしい。

弟も妹も、祖父さんもあの人達も。同級生もその家族も。全員が泣く事の無い世界が望みだ。

 

 

「本当にいいのかい?」

 

 

おっさんは悲しそうな顔をしている。

 

 

「願いが叶うのなら、でしょ?」

 

「…………そうだね」

 

「じゃあ、俺行くんで。もしこの質問をするんなら他の人間にした方がいい」

 

「……………」

 

 

俺は少しの間、前に進んで歩く。

振り向いてみると、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空の上

 

 

「君の願いは君を滅ぼす」

 

「僕は君に幸せを届けたかった」

 

「君がそれを望むというのなら」

 

「僕はそれを叶えよう」

 

「でも」

 

 

 

 

 

「他の子の願いも叶えなくちゃいけないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来の家の前

 

 

「………………何してるんだ」

 

「…………関係無いの」プイ

 

「まさかとは思うが………俺と別れてからずっとここにいたのか?」

 

「……………」

 

「中に入れよ。みんなが待ってるぜ?」

 

「達也君もいなきゃつまんないの」

 

「俺は家でパーティがあるんだ」

 

 

 

「嫌なの!」

 

 

 

「……………」

 

「…………あのおじさんも言ってくれたの。達也君に後で会えるって…………でも会うだけじゃ嫌なの!一緒に遊びたいの!」

 

「あのおっさんか…………分かったよ」

 

「………じゃあ!」

 

「ほれ」ポス

 

「………………ペン?」

 

「万年筆な。クリスマスプレゼントだ。いらんなら捨ててくれ」

 

「そ、そんなことしないの!」

 

「そうかよ。じゃあな」 スタスタ

 

「あっ、…………………」

 

「メリークリスマス、中谷」

 

「…………………うん」(なんでだろう、ただの万年筆なのに、とても暖かいの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大方ショッピングモール内

 

 

「商店街の癖にストーブを取り扱ってる店が無いってのはどうなんだ?」

 

「あっ」

 

「何の為にあんな方まで行ったんだか…………」

 

「達也君?」

 

「うおっ⁉︎………な、なんだ横寺か」

 

「蓮歌って呼んでくれないの?」

 

「名前呼びは好かん。つうかなんだ?親と買い物か?」

 

「うん。明日の準備があって………」

 

「そうか、じゃあな」

 

「ま、待って!」

 

「なんだよ……………早めに頼む」

 

「い、一緒にパーティしない?」

 

「家でする事になっててな」

 

「達也君の本もあるの!」

 

「………………本当か?」

 

「うん!あの人間失格でしょ?」

 

「今度取りに行ってもいいか?今日は本当に駄目なんだ………」

 

「……………うん、じゃあ今度ね」

 

「助かる。…………あれは本当に大切なんだ」

 

「お祖父ちゃんがくれたんだよね?」

 

「……………………おう」

 

「ページとか………完全には直らなくて」

 

「補修してくれてるだけでも十分だ」

 

「うん」

 

「………………悪い、もう行く」

 

「………分かった。じゃあね?」

 

「メリークリスマス、横寺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書斎前

 

 

「何でここにいるんだ?」

 

「うん?僕がどこにいようが僕の勝手だと思うけど?それともこの時間にいる事を心配してくれてるのかな?」

 

「当たり前だ。親はどこだ?」

 

「し、心配してくれるんだ……………親なら下にいるよ」

 

「佐藤、何か用なのか?というか用があるから来てるんだろうが」

 

「君が僕の父の病院に来た日。あの日から君は僕と話さなくなったね」

 

「そうか?意識してなかったから覚えたないな。悪い、今度から話すようにするよ。これでいいか?」

 

 

 

 

「茶化さないでくれ!」

 

 

 

 

「………」

 

「僕はあの日からずっと孤独だったんだ!君とペアを組もうとしても君はいないし!話しかけようとするとすぐにトイレへ向かう!今日だって君と過ごしたかったのに君は電話にも出ない!」

 

「………」

 

「僕の父に何か言われてるのかい?だったらそんなもの」

 

「帰ってくれ」

 

「え」

 

「帰ってくれ」

 

「い、嫌だ!僕は今日君と」

 

「………………………迷惑だ」

 

「…………っ!」

 

「お前のその行動は回り回って俺を苦しめるんだ。それをわかってするような奴じゃないよな?分かったら帰ってくれ」

 

「…………僕は諦めない」

 

「無駄な事だよ」

 

 

 

 

そう言って俺はドアを閉める。

 

扉の向こうからずっと、悲しみの叫びが聞こえてきた。




「達也君と一緒にパーティができますように」

「達也君と仲良くできますように」

「達也ともう一度、親友でいられますように」

「俺の周りに不幸な人間がいなくなりますように」






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