お昼休憩も終わり、皆様とお別れして自分の席に戻る。私が戻ると既に柊さんとソフィアさんは戻ってきていた。
「お帰りなさい杏奈様」
「お帰りなさい杏奈さん」
「はい。私が最後でしたか。皆様とお話ししていたら遅くなってしまいました」
「ふふふ、遠くから杏奈さんのことを見ていましたけど、とても華やかでしたね。杏奈さんと舞姫様だけでも注目の的ですのに、華琳様や唯依様、輝夜様方もいらっしゃいましたもの」
「学園の羨望の的の方々が大集合してましたものね。それに杏奈さんと蓮華さんが隣同士でお話しているのも皆さん嬉しそうにみていましたし」
確かに、舞姫様たちが一同に会している光景は壮観だろう。私や蓮華では目立たなくなってしまう。
「いやいや、そんなことあるわけないでしょう? むしろ、杏奈さんはその中心ですよ。勿論瀬織様もですが」
「はい。杏奈様と瀬織様が一緒にお弁当を食べさせ合いっこしている光景はとても素晴らしかったですから」
あらら。見られていましたか……。流石に恥ずかしい。
「蓮華と一緒にいると、どうも肩の力が抜けてしまいますからね。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「見苦しいだなんて言わないで下さいな。お二人のお姿は、まるでお伽噺のように幻想的でしたもの」
柊さんにそういわれたが、喜んでいいのか少し複雑である。
「まぁまぁ、そのお話はこれくらいにいたしましょう。舞姫様と唯依様が出られる障害物競争なんですから、応援いたしましょう」
そうでした。舞姫様と唯依様が出場するのである。修凰の障害物競争は幾つかタイプがある。中等部の障害物競争はスタンダードなもの。
そして、高等部二年生が行う障害物競争とは……
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
ぬほっふ。み、耳が……。
会場が超音波並みの黄色い悲鳴に包まれた理由。それは、舞姫様や唯依様たち競技者の服装。
お嬢様方、ヴィクトリアンメイドVerがズラリと数十名。壮観である。
「毎年ですが、この競技は壮観ですわね。皆様豪華絢爛というに相応しい方々ですから、メイドさんとしては煌びやかですけど、とてもお美しいですわ」
ソフィアさんの言う通り、メイドというには豪華過ぎるこの布陣。因みに華琳様不参加の理由はリレーに出場するからというものと、執事服が認められなかったからだとか。
ともあれ、メイド舞姫様とメイド唯依様が下級生のお嬢様方の羨望の的となっている。まぁ、世界屈指のお嬢様な舞姫様や学園のお姉ちゃんである唯依様のメイド姿だ。何というか、もうお伽噺に出てきそうな人たちである。
まぁ、これから行うのはメイド喫茶ではなく、障害物競争。なので、このメイドさん達は走る。
障害の内容はさほど変なものはないが、最後の探し物のグレードがやたら高い。
「どなたか、時価総額……億円の企業をお持ちのお方はいらっしゃいませんか?」
「どなたか、大臣のご経験のおありの方はいらっしゃいませんでしょうか?」
えっぐ。
このお題を考えているの体育祭実行委員長なのだが、毎年はっちゃける。
まぁ、普通なら無理難題というか、かぐや姫の難題レベルの問題でも、普通にいるのがすごい。
「どなたか、茶道のお家の家元の方はいらっしゃいませんか?」
妃茉莉様やないか。
呼ばれた妃茉莉様は、少し嬉しそうにメイドさんと手を握って一緒に走っていた。輝夜様は恥ずかしそうにしていたが、失礼ながらもほっこりしてしまった。
ともあれ、ついに最終走者の舞姫様と唯依様の番。レースはお二人が1位2位を争っている。
そして最後の障害物、えげつない探し物。
お二人がほぼ同時にお題の紙を取ると、お互いに顔を見合わせ、唯依様が中等部の方に、舞姫様が私の方に走ってきた。
「杏奈、私を運びなさい!」
「へ?」
メイド舞姫様、荷物宣言?
「唯依は蓮華を選ぶはずよ。だから、急いで!」
「は、はい。では、失礼して……」
何が何だか状態だが、まぁ、主の命令……命令?だから、舞姫様を運ぶこと自体は何の問題もない。
舞姫様は羽根のように軽いので、お姫様抱っこしながら走ることは問題ない。
私が走っていると、隣に唯依様を抱っこする蓮華が横に並ぶ。
「あ、杏奈も?」
「蓮華もなのね。お題は聞いた?」
「ううん。杏奈もなんだね」
「ええ。従者とかかしらね」
走りながら話している内にゴールが近付く。
まぁ、全力ではないが、蓮華には負けたくない。それは蓮華も同じようで勝負師の目になっていた。それは私も同じ。
「舞姫様、少し強く抱きついていて下さい」
「唯依様、少し強く抱きついていて下さい」
「「へ?」」
「「本気で、行きます」」
残りは後10m程。なので超々スプリント。
「───一歩音超え……二歩無間……三歩絶刀」
「───無量、無碍、無辺。三光束ねて無窮と為す」
どうやら蓮華も同じなようだ。
「ならば、私は歩法を束ねましょう」
「ならば、私は限りなき光となりましょう」
目にも映らず、音も別たず、一重に束ねた全力を。
「ちょ、ちょっと杏奈!? 私を抱えているの忘れていない?」
「せ、瀬織さん。わ、私はあんまりこういうの慣れて……」
「いざ」
「尋常に」
「「勝負!!」」
────そのとき、私と蓮華は音を追い抜いた。
で、お二人にしっかり怒られました。
「二人が私達のことを忘れていたわけではないのは分かったけど、私達は紫さんの特訓を受けている訳じゃないんだから、無茶し過ぎないで?」
まぁ、私も蓮華もふざけてやっていただけなので、普通にラストスパートしただけでした。オーラとかは態と出していたので、お二人を驚かせてしまいましたが。
因みに結果は同着。またしても決着はつきませんでした。
「私はちょっと楽しかったわ。瀬織さん、急に手伝わせてしまってごめんなさい」
「いえ。大槻様のような素敵な女性のエスコートを務めさせていただけたのですから、私は幸せ者です」
「……杏奈ちゃんそっくりねぇ。あ、折角、といってはなんだけど、杏奈ちゃんみたいに唯依って呼んで?」
「はい。では、私のことも蓮華とお呼びください。私は藤姫様付きの従者ですので、あまりお会い出来ないかもしれませんが、今回のように何かございましたら、遠慮なさらずにお声かけくださいませ」
そういえば、蓮華はこちらに帰ってきてからは藤姫様に付いているから、唯依様や華琳様とはあまり交流していなかった。
「えぇ。蓮華ちゃんも杏奈ちゃんみたいにお仕事があるから大変だと思うけど、時間があったら一緒にお買い物にいきましょう」
「はい。そのときは是非」
蓮華も唯依様のお姉ちゃんオーラには敵わないようだ。あまり表情を崩さない蓮華が、自然な笑みを浮かべていた。