私のご主人様   作:天神神楽

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詠唱については突貫です。お気になさらぬよう


戦いはメイドの華 その三

 

 唯依様の障害物競争を応援した後、私も障害物競争の準備を始める。

 「杏奈様、頑張ってくださいね」

 「格好良い姿を見せて下さいね」

 「はい。お二人をメロメロにして差し上げましょう」

 私の冗談に、二人とも笑ってくれた。さあ、頑張りましょうか。

 「……私たちだけではなくて、全員をメロメロにするんでしょうね」

 「はい。間違いありません」

 私が去った後、そんなことを話していたことに、全く気づきませんでした。

 そうして、選手待機所に到着すると、何故か驚かれました。

 「あ、杏奈様。この競技に出られるのですか!?」

 「? えぇ。折角ですから、色々な競技に出場しようと思いまして。じゃあ、お願いしますね」

 障害物競争は、手を縛るのがルールである。お嬢様方が後ろ手に縛られる姿が背徳的という意見が裏でチラホラ聞こえるが、何故か修凰の伝統なので必ず行われるのである。

 「し、失礼いたします!!」

 「はい。お願いします。あ、強めに縛っても大丈夫ですからね」

 メイド訓練で、拘束されてしまった時の対処法も習得しているので、無問題である。

 「そ、そんな……っ!? あぁ、禁断の果実とはこのことでしょうか……」

 「大丈夫ですか?」

 先輩ながら、少し心配です。

 ともあれ、準備も万端となったので、レース待機である。

 「まさか、杏奈さんとレースをすることになるとは思いませんでしたわ」

 今回は徒競走の時と違って、お嬢様方とのレースである。

 「先ほどは私も男子の方々とでしたから、障害物競争は楽しみなんです」

 「あら。でも、私たちは圧倒的な杏奈様を見てみたいですわ。あ、でも一緒に走りますから、見られないのかしら」

 クスクスとお上品にほほ笑むお嬢様。ですが……ふむ。

 「それでしたら、皆さまのリクエストにお答えしましょう」

 お嬢様がお望みであれば、それにお答えするのが従者、いえ、メイドの使命。

 「最高にカッコいいメイドをお見せいたしましょう」

 これより私は瀟洒なメイドとなりましょう。

 

 

I am the bone of my maid.

―――――― 体はメイドで出来ている。

Apron is my body, and fire is my devotion.

血潮はエプロンで 心は愛情。

I have created over a thousand kitchen.

幾たびの戦場を越えて不敗。

Unknown to Death.

ただの一度も敗走はなく、

Nor known to Life.

ただの一度も理解されない。

Have withstood pain to create many kitchen knife.

彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

Yet, those hands will never hold anything.

  故に、生涯に意味はなく。

So as I pray, unlimited maiden works.

  その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

 「杏奈さん?」

 はっ!?

 「失礼しました。気合を入れていました」

 「ふふふ、杏奈さんったら」

 ちょっと罪悪感。

 まぁ、英雄の詠唱はともかく、カッコいい走り方ですか……ちょっと雌豹みたいになりましょうか。

 「では、杏奈さんの勇姿、近くで拝見させていただきますね」

 「はい。是非、ご覧くださいませ」

 少し気障に返して、スタート位置に付く。

 ――そうして、私は風になった。

 

Another side ソフィア

 

 「……なんというか、流石ですね」

 あのお方は、またしてもファンを増やすおつもりですか。

 「はわわ~」

 柊さんは、相変わらず幸せそうです。

 障害物競争で後ろ手に縛られつつも、圧倒的なスピードで障害を殲滅していくお姿は、倒錯的でありつつも、とても美しい。

 網は滑り込んで一瞬で抜けてしまい、平均台はスケートリンクを滑るように駆け抜け、目隠しのエリアは何の支障もなさげに軽やかに駆け抜けた。

 一つ一つの障害を突破するたびに、会場中から黄色い大歓声が響き渡る。

 そして、最後の障害物であるパン。一本の紐で吊るされるパンの袋は、不安定に揺れている。今のままの高スピードでは取るのは難しいだろう。

 ……そう思っていたときもありました。

 杏奈さんは、少しもスピードを落とすことなく、走り幅跳びのように離れたところから踏み切ると、顎をクイと捻って、最高地点でちぎり取った。

 「「「キャァァァァァァァァ!!!!」」」

 「キャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 柊さん、お声が大きすぎます。

 とんでもない歓声に、会場の男性方は耳を塞いでいた。

 「ソフィアさんご覧になりました!?あの雌豹の如き妖艶さに加えて清々しい小鳥のような軽やかさあぁともに走れないことが悔しいです種目を決めるときの私が恨めしいですわあぁでもこうして大きな画面で見られなくなってしまいますどうすれば良いのでしょうか全く杏奈様は罪深いお方ですわ」

 「お、落ち着きましょう」

 息継ぎくらいしてください。

 そのまま圧倒的一位でゴールした杏奈さんは、咥えたままのパンを開けてモフモフ食べていた。……可愛い。

 しかし、あんなタラシっぷりを見せつければ、囲まれるのは必然である。徒競走の時以上の方々に囲まれていた。流石の杏奈さんもアワアワしていた。…………可愛い。

 パンを加えながらお嬢様に囲まれる杏奈さんというのも見ていて面白い。

 ……だから柊さん。そのお顔はおやめなさいな。色々とNGです。

 

Another side out

 


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