最終回は次回になります。
有宇が壊れ始めてからも、俺たちは………いや、有宇はずっと能力者の能力を奪い続けた。
予知の能力者の能力を奪ってからはさらに奪うスピードが速くなり次々と能力を奪い続ける。
だが、そこには目的も意思も感じられない。
ただ、能力を奪う。
理由も知らずに有宇はそれを続ける。
能力者から能力を奪うその姿は、歩未ちゃんを失った時の有宇に似ていた。
アリゾナ州 郊外。
「もうつらいよ~。やだよ~。こんな大変なこと誰が思いついて、どうして僕がやることになってんのさ~」
有宇は子供のように文句を言いながら、能力を奪った能力者を引きずる。
「もう十分だろ~!誰か変わってくれよ~!」
そう言い、能力者を掴んでいた手を離し、地面に倒れこむ。
「あ、そうだ。いいこと思いついた。この地球ごと乗っ取っちゃおうかな。全能だし!僕が神!全て僕が決める!そうしよう!うはははははっ!!」
『有宇いい加減にしろ!』
体がない俺にできることはこうして呼びかけることしかできない。
『そんなことのために能力を奪ってきたわけじゃないだろ!自分の目的を思い出せ!』
「………なんだよ…てか、誰だよお前はぁ~………死んでるのにウザイなぁ~……幽霊なんだから黙っててよぉ~……」
そう言い、有宇が起き上がると有宇の胸ポケットから奈緒の単語帳が落ちる。
「んだよこれ…汚ぇな!」
そう言って蹴り飛ばす。
が、有宇は我に返ったように蹴り飛ばした単語帳に駆け寄り、庇う様に倒れこむ。
「…どうしてなんだよ。……どうしてこれを蹴飛ばしたことを後悔してんだよ……なんなんだよ…どうしてそれで泣いてんだよ…何なんだよ…まだ頑張れってのかよ…くぅ……」
有宇は涙を流して言う。
『有宇』
俺は有宇のコートのポケットを指差す。
『そこにあるもの出せ』
有宇はのろのろとした手付きでそれを取り出す。
俺のデジカメだ。
『中に写真があるはずだ。見てみろ』
デジカメの使い方は覚えてるらしく、有宇は無言でデジカメを操作する。
そこには、俺が今まで取ってきた写真がたくさんあった。
高城の、柚咲の、奈緒の、歩未ちゃんの、そして、有宇の。
それ以外にも今まで俺たちが過ごしてきた思い出の写真がそこにはあった。
『皆、お前の帰りを待っていてくれる人たちだ。その人たちのために、お前は頑張ってるんだ。思い出せなくてもいい。だから、今ここでもう一度誓うんだ。皆のために、全ての能力者から能力を奪って、無事に帰ることを』
「……………わかったよ。もう少し、頑張るよ…………響」
そう言って有宇は立ち上がり、デジカメを仕舞って、単語帳をお守りのように首から掛けてぶら下げる。
有宇はその後も能力を奪い続けた。
だが、前のような感じはそこにはなかった。
皆の下に帰る。
今はそのために能力を奪い続けている。
それだけでも十分だった。
少なくとも今の有宇には………
シベリア地方 イルクーツク
「せ、隻眼の死神!」
有宇を見て男が逃げ出そうとするが、有宇は念動力で動きを止める。
「……響。あいつの能力コピーしておいてほしい」
『なんでだ?』
「わからない。でも、あの能力をコピーすることは響のためになるって予知の能力で出てる。詳しくはわからないけど」
『分かった。コピーしよう』
有宇の体に乗り移り、男に触れるこれでコピーは完了。
再び有宇に体を返し、能力を奪わせる。
そして、とうとう能力者がいる国は日本からそう遠くない国、中国のみとなった。
人口が多いだけあって、能力者もそれなりにいる。
そして、中国の北京。
一人の少年から能力を奪うと、少年は慌てて逃げ出した。
「これで……あと一人……」
『有宇、もう一息だ。頑張れ。これで全て終わるんだ』
「ああ、終わらせて帰らないと」
有宇は木の棒を手に歩き出す。
そのとき、風を切る音が聞こえ、有宇が崩れ落ちる。
見ると有宇の足にボウガンの矢が刺さってた。
そして、もう一発、矢が有宇の肩に当たる。
「やった!あの死神を、ついにやってやった!」
矢を撃ったのは中国人の男で、男は嬉々としながら有宇に近寄る。
すると、俺たちの前に一人の女の子が立ちふさがった。
「弱い者虐めしちゃ駄目!」
「弱い者虐めって…お前そいつらのこと知ってんのか!」
「知らない!でもそんなことしちゃだめ!」
「そいつらはすげえ賞金首なんだよ!仕留めたら大金が手に入るんだよ!」
「それでもだめ!」
すると男はボウガンを少女に向ける。
「だったらお前にも痛い目にあってもらうしかねえな!」
「好きにしたらいいじゃない!あたしは絶対に!退かない!」
男は容赦なくボウガンを少女に撃つ。
少女を目を閉じるが、矢は飛んでこなかった。
矢は少女の目の前で止まり、地面に落ちた。
「まさか……最後の能力が……勇気だなんてな」
有宇は立ち上がり少女を優しい目で見つめた。
「だが、それは蛮勇。死ぬところだったぞ。………もういいから家にお帰り」
そして、有宇は少女からも能力を奪った。
すると、少女は先ほどまでの威勢のよさを失い震え出す。
それでも、足を震えさせながらも有宇を守るように手を広げる。
この子は、能力なんかなくても十分に勇気がある子だ………
「君は十分勇気のある女の子だよ…だから…お行き」
「……じゃ、じゃあせめて助けを呼んできます!」
少女はそう言い走り出す。
その少女の背中を見つめ有宇は呟いた。
「………終わった」
そしてフラフラとした足取りで杖を手に歩き出す。
その背中に向け、男はもう一度矢を放つ。
矢は有宇の背中に刺さり、有宇は力なく倒れる。
「へへっ……これで一生遊んで暮らせる金が手に入る……」
男が有宇に手を伸ばした瞬間、その手を横から止める。
「なっ!」
「おい、おっさん。何、俺の親友に手を出してるんだよ」
まさか、あの時、シベリアでコピーした能力が死んだら効果を発揮する能力、霊体の実体化なんてな。
「お、お前、今どこから!?」
「金しかない空っぽの頭に入れて置け。俺の親友に手を出したら、殺す!」
握力を強化し、男の腕を握りつぶす。
骨が折れる音が響く。
「う、うあああああああああ!!?」
男は折れた腕を押さえ、転げ周り気絶した。
「有宇!」
俺は男を無視して、有宇に駆け寄る。
「有宇!しっかりしろ!」
「響……よかった。あの能力、コピーしといて正解だったな」
「早く、治癒の能力で怪我の治療を!」
「あの能力は、発動までに時間が掛かるんだ。……間に合わない」
「駄目だ!死ぬんじゃない!」
「………僕、お前と親友でよかったよ。…………じゃあな」
そう言って有宇は目を閉じた。
「有宇!死ぬな!目を開けろ!」
俺の叫び声に誰も声を返してくれなかった。
「くっ………俺に治癒の能力があれば………」
そのとき、俺はあることを思い出した。
自分の生命エネルギーを相手に渡す能力をコピーしていたことを。
俺は決心し、有宇の体から矢を抜き、俺の生命力を与える。
すでに死んでいる俺の生命力は殆ど無いらしく、数秒で生命エネルギーは底を尽きた。
まだだ!
俺の魂全部持っていっても構わない!
だから、有宇を助けてくれ!
すると、俺の思いが通じたのか俺の体が光り、先程とは違う感じがした。
有宇の怪我はみるみると治っていき、そして顔色もよくなっている。
よかった…………これで、もう大丈夫だ……………
そのとき、空から俺たちを誰かがライトで照らした。
「有宇!」
空にはヘリが来て、中から隼翼さんが俺たちを見ていた。
隼翼さんも間に合った。
これで有宇はもう安心だ。
それが分かった途端、俺は自分の瞼が落ちるのが分かった。
あの時と同じだ。
死ぬ直前の感覚と。
でも、あの時と同じで後悔は無い。
自分の親友を守れたんだからな。
俺は満足だ……………