工藤先生によって客間に通された俺達は二人掛けのソファーに座っている。
で、何をしているかというと、俺は現在羞恥プレイに耐えている。
「うわ~、可愛いですね」
「そうだろ。このころの響君は僕の事を先生じゃなくてパパ、パパって呼んでいてくれたんだ。いや~。可愛かった」
何故か、俺の施設に来てからのアルバムを友利に見せられていた。
工藤先生は施設の子供一人一人のアルバムを作り、定期的に写真を取っている。
てか、なんで先生は友利に俺のアルバム見せてんだよ。
恥ずかしいだろ。
「あ、あの~、先生。そろそろ本題の方に」
「こっちが、小学校入学の時の写真でね、ランドセルの重さに体がよろけちゃって」
「こっちも可愛いですね」
二人とも話聞いちゃいねぇ………………
結局あれから一時間弱俺の過去で盛り上がっていると、先生がやっと思い出し、本題に入ってくれた。
「ごめんよ、響君。で、今日はどうしてここに?」
「あ、はい。俺の部屋の私物を取りに来ました」
「ああ、そうか。高校は寮なんだっけね。ちょっと待って。今、鍵を……………はい。部屋の物は触ってないよ」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り客間を出る。
「施設なのに鍵付きの部屋なんですか?」
「ああ。工藤先生が、中学生にもなるとプライベートは必要だからって、鍵付きの部屋にしてくれるんだ」
二階に上がり、自分の部屋の鍵を開け、入る。
中には、机と椅子、本棚と布団だけが置かれている。
「殺風景な部屋ですね」
「悪いかよ」
本棚まで移動し、中にある本を取り出す。
中学の教科書は………いいか。
置いておけば、誰かが使うかもしれねぇし。
それにしても、俺って私物少ないな。
本以外だとこのCDプレイヤーぐらいだ。
CDプレイヤーを鞄に入れ、最後に引き出しから写真を取り出す。
取り出す時、手が滑り写真が友利の足元へと落ちる。
「写真?」
友利がそれを拾って一瞥し、俺に渡してくる。
「本当のご両親とのですか?」
「ああ…………残ってる写真はこれだけなんだよ」
俺が三歳の誕生日の時に撮った最後の家族写真。
それを鞄に放り込み、鞄を背負う。
「帰る」
「付き合せて置いて、お礼無いんですか?」
「そっちが勝手に付いて来たたんだろ」
部屋の鍵を閉め、一階に降りようとしたら、階段の陰から数人の子供たちがこちらを見ていた。
俺の視線に気付くと子供たちは慌てたように逃げ出した。
「あの子達は?」
「……………この施設に預けられてる子達だ。俺は三歳の頃から此処にいるから、一応この施設の年長者だったんだ。だから、自然と後から入ってくる子供たちの面倒を見てたんだよ」
「でも、避けられてましたね」
「そりゃそうだろ。……………俺は同じ施設の仲間を傷つけた。無意識で能力を使っていたとは言え、俺はアイツを殺しかけたんだ。避けられて当然………………はっ、まるで化け物だな」
自嘲気味に笑い、拳を握る。
すると、鈍い痛みを感じ、掌を見ると爪が掌を突き刺し、血が出ていた。
こんな能力さえなければ…………
そう思ってしまえた。
「怪我してますよ」
友利が行き成り俺の手を取り、近くの流して俺の手を洗う。
「お、おい」
「いいからじっとする」
そう言って、スカートのポッケからハンカチを取り出し、俺の手に巻いた。
「無意識のうちに握力を強化して、自分の掌を怪我するとかアホですか?」
本当にその通りなので何も言い返せなかった。
「大丈夫ですよ」
「え?」
「昨日も言いましたが、これは思春期の病の様なもの。時が経てば消えて無くなります。それに」
そこで、友利は言葉を区切り俺の目を見つめる。
そこには、最初に会った時の感情の無い瞳でも、先程見せた悪巧みをする瞳はなかった。
ただ、優しい瞳がそこには会った。
「一人じゃないです。だから、落ち込む事ことも、自虐する必要も無いです」
「………………ありがとう、友利」
そう言うと、友利は満足そうに笑う。
「では、帰りましょう。長居するのも失礼なんで」
「ああ」
友利と二人で並んで、施設を後にしようと門をくぐろうとすると再び後ろから声を掛けられた。
「お~い、響君!」
追いかけてきたのは工藤先生だった。
「ふぅ、間に合った」
「先生、どうしたんですか?」
「これを渡そうと思ってね」
そう言って先生が渡してきたのは、アルバムとデジタルカメラだった。
「これは?」
「入学祝だよ。受け取ってくれ」
アルバムとカメラを受け取り、アルバムを開く、アルバムは新品のものだった。
「これからは、君がこのアルバムに自分の思い出を作っていくんだ。そして、いつか見せてくれ。君が辿った人生を」
「……………はい」
アルバムとカメラを鞄に仕舞おうとすると、また声を掛けられた。
「響兄ちゃん!」
さっきの子供たちが走りながら寄って来た。
「お前ら……どうして?」
「響兄ちゃんが、施設を出て行くって聞いて、ずっと皆で手紙書いてた」
「ばれないように兄ちゃんの監視しながら」
てことは、あの時に逃げてたのは避けてたんじゃなかったのか…………
子供たちから手紙を受け取ると、思わず涙が出てきた。
「言ったでしょ。一人じゃないって」
友利が横でそう言って来た。
「…………ああ、そうだな」
涙を拭きながら手紙を鞄に仕舞う。
「そうだ。最後だし、皆で写真を撮ろう」
先生の提案に皆が賛成し、この施設での最後の写真を撮ることになった。
「じゃあ、私撮りますよ」
友利が撮影係を申し出る。
「いやいや、君も入って入って」
「え?いや、でも」
「ほらほら、入った入った」
先生に誘われるがままに友利も列に入る。
「よし、タイマーセット終了。じゃあ、撮るよ」
タイマーをセットし、先生も列に並ぶ。
「なぁ、友利」
「なんですか?」
「……………ありがとな」
「…………どういたしまして」
それと同時にカメラのシャッターが切られた。
俺のアルバムに載った最初の一枚。
それが、俺の新しい人生の始まりを告げた。