ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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07.ハッピーエンド上等

 プレシアの理論は正確であった。願いを叶えるために発生したジュエルシードの膨大な魔力。それは全て四次元空間のゲートへと吸い込まれるかのように入っていっていた。

 奇跡的で神秘的な光景だった、プレシアが必死に願いを込め、それを叶えるためにジュエルシードが事象をも歪ませるほどの魔力を振るう。

 

 ――あと少し、あと少しだった。管理局の先行部隊が来てしまった。警備のために普段稼働させているという傀儡兵は、ジュエルシードの魔力に影響が出るといけないので出していなかった。それがいけなかったのか、それともジュエルシードが願いを叶えるまでにかかる時間が予測よりもかかったことが原因か。

 

 予測よりも早くに動き到着した、恐らくフェイトに注意が向いていた状態で編成された有り合わせの武装部隊だったのだろう。その隊員たちの統率がとれておらず……ジュエルシードの魔力の奔流が起こる原因となる魔法弾を打ち込まれたことが悪かったのか。

 

 

 

 

 ――俺は二度目の『やり直し』をすることとなった。

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 あ、えっ…………?

 

「――愛娘のためなら私は何だってするわ」

 

 ここは、いや今は……ッ! 嘘だろ、おい。ついさっきまで、ほんの少し前まで全て丸く収まる終わりがもう手に届きそうなところまで来てたんだってのに。

 ああ、クソ、管理局の隊員が悪いわけでもないのはわかる。けど、けどあれはねぇだろ……あー、気分悪い。

 今プレシアが話してる内容的に前日に戻った、そこはよかった。また図書館から『やり直し』になんてなってたら心が折れてホームレス生活まっしぐらだったかもしんない。俺はループものの主人公たちみたいにそんなにメンタル強くないかんな……ッ!

 

「……ナナシ、あなた急に顔色が悪くなったわよ。怖じ気付いたのかしら?」

「なぁ、ジュエルシードが願いを叶えようとしてる間に局員が到着したらどうする?」

「今までジュエルシードが願いを叶えるためにかけた時間は完全に完了するまで長くて3分、いえ5分なはず。その間に到着するとは……思えないと言いたいのだけれど、やけに真剣な顔ね」

「たぶん、いや絶対に願いを叶えるまでに確実に5分以上……いや10分以上は確実にかかる」

 

 そして、その間に局員は来る。時間がかかった理由が死者蘇生ってこの世の摂理を覆す願いなせいなのかは知らない。

 ただ体験したからわかる。けど、どう伝えるか……恐らく本当にここが鬼門なんだろう。

 

「あなたさっきまでヘラヘラしてたのに鬼気迫るような顔になってるわよ? 言ったわよね、愛娘のためなら私は何だってするって。あなたが抱えている懸念事項があるなら話しなさい。私には思いつかない、あなただから思いつく懸念事項があるかもしれない。そしてそれを私は消していくわ」

「…………」

 

 本ッッ当に親バカだ……いっそ話してみるか? 計画は失敗して俺は死んで『やり直し』のおかげで戻ってきたのでこのままじゃ駄目だってわかるって?

 そんなこと信じ――ぉぉ!? プレシアが胸ぐらを急につかんで顔近ッ!?

 

「……フンッ!」

「ごぺ!?」

 

 プレシアの頭突きが俺に鼻頭へ叩き込まれた。

 

「痛ったぁぁぁぁぁ!?」

「ッッ……安心しなさい。頭突きした私も痛いわ」

「いじめッ子理論!」

「その理論でいくと私は腹を殴るべきだったかしら?」

「昨日にもうフォトンバレット叩き込まれたんですが!?」

「そうだったわ……待ちなさい、昨日ですって……?」

「あ……」

 

 プレシアが再び胸元を掴みあげ顔を近づけてくる。どうでもいいけど傍目から見たらこれ完全にカツアゲだ……ん、ちょっと調子戻ってきたかね。戻ってきたのに致命的なミスを犯してるのはこれ如何に。もとからポンコツってことですね、わかります。

 

「『昨日』って、どういうことかしら。あなたは何か知っているかしら? 何か体験したのかしら? あなたはナニ? 間違えたなんて言い訳は要らないわ、言い間違えた人間はそんな顔しない。あなたはただ決定的な間違えをした人間の表情をしてるから」

「えらく自信満々だ……」

「……昔の私がそういう顔してたのよ」

「さいで……相当にブッ飛んだ話だけど?」

「死者蘇生をひたすら求めた私ほどではないわ」

「かもしれんね」

 

 いやね? でも、それなりに不安になっちゃうもんなんだって。それに出来ることなら、あんな失敗話さずにひとりで解決方法を考えたい。娘のためにやってきた全てがあんな形で全て無駄になったとは……

 

「ほら、話しなさい」

「ちょっと待って考えてるから」

「考える前に話しなさい、あなたひとりが考えるより私が考えた方がウン億倍効率がいいわ」

「いや、ワンチャン俺が考えたことにより今までなかった視点から」

「あなた百人が考えるより私が考えた方がウン兆倍効率がいいわ」

「悪化した!?」

 

 あー、考えても仕方ない。べつに信じてもらえなくてもいいさ。プレシアも失敗談を聞かずに失敗するよか、対策たてれた方がいいはず。なるようになれー。

 ってわけで、『やり直し』を含めた全てを、プレシアの計画が失敗したことを……恐らく俺が死ぬ、『やり直し』の直前のプレシアの後悔や無念や憤りが全て合わせられたような一生忘れられないであろうあの表情まで丸々話した。

 

「だから、失敗する……ってんだけど信じがたいだろ?」

「荒唐無稽な話ね。特にその『やり直し』はただのレアスキルって言葉では片付きそうもないほどに」

「……」

 

 ま、そうだろうさ。俺も信じがたい、自分のことなのに。でも、けどあの二度目の『やり直し』の最期に見たプレシアが嘘だったとは否定できない。というか、そのお陰でこの『やり直し』が死ぬことがキーと確信してしまった。

 

「ま、それは横に置いておくわ」

「おい」

「ただ重要なのは計画が失敗する可能性が高いとわかったこと。それをナナシが教えてくれたことよ」

 

 ……要するに信じるってことじゃん。

 

「計画を見直すわよ。最低でも有り合わせ編成のうっかりジュエルシードに魔法を撃ち込んじゃう局員がここに来ないようにする」

「ただし条件はベリーベリーハード。プレシアさんは願いを叶えるため、俺はゲートを開けるため、フェイトにアルフはなのはとの戦いのために空きの人間はいない。ないない尽くしの状態」

「けど手がないわけじゃないわ。ついでにあなたはゲートを開いてなくても戦力外よ」

「バカな、全身を光らせれるというのに」

「囮としてなら使えるわね……いえ、結局戦力外じゃないのよ」

 

 全くもってその通りだよ!

 よっし! ハッピーエンド上等、絶対に笑顔で終わりを迎えてやらぁ!

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 さて、夜が明け再びやって参りました。運命の日でございます。室内の映像にはなのはとフェイトの戦闘が映っている。速さを武器にしたフェイトに対し、なのはは複数の魔法弾で攪乱からの高火力砲撃での攻撃が主体のようだ。

 っと、フェイトの大技をくらったなのははピンピンしてる。あっ、フェイトが拘束され……

 

「ちょっ!? 何あれ!?」

「集束砲……! ……今回ばかりはフェイトの負けね」

「フェイト逃げてー、超逃げてー」

 

 と言うものの、拘束されているわけで脱出は不可能。極太ピンクビームにフェイトは飲み込まれた……トラウマになってなきゃいいんだが。あれ、砲撃による線攻撃というか回避困難な面制圧だ。

 

「んじゃプレシアさんや。始めましょーか」

「ええ、しかと目に焼きつけなさい。これが大魔導師の本気の一撃よ」

 

 室内いっぱいとなるサイズの魔法陣が描かれる。事前に聞かされていた次元跳躍魔法で最大威力の攻撃を叩き込む。

 どこにって……そりゃ管理局の船にだ。落とすことは出来ないだろうが軽く5分は機能停止に陥るだろうとのこと。

 あとは傀儡兵というこの庭園を守る魔導の兵士も配置した。ジュエルシードに悪影響を与えないために念のため停止させておく予定だったが、結局起動させて配置することとなった。

 前回、管理局の武装隊の魔法が発動した瞬間にではなく魔法がジュエルシードの魔力の濁流に当たったことで失敗することとなった。つまり、きっと傀儡兵を動かす程度の魔力では影響は出ないだろうと判断したのだ。

 

 どれもこれも単純な手だが……変に凝ったことするよりいいだろう。土壇場で小難しいことをすると失敗するって色んな人が言ってた。

 

「ナナシ、伏せなさい――サンダーレイジO.D.J」

《Thunder Rage Occurs of DimensionJumped》

 

 直後放たれる、滝のような紫電迸らせる稲妻。さながら雷の鉄槌である。

 それは次元跳躍をさせるための魔法陣に叩き込まれ消えていくまで一瞬だったが……寿命が縮んだ気分だ。あんなのくらったら灰になっちまう。

 

「ナナシ! 時間はないわ、アリシアの部屋にいくわよ!」

「あいよ!」

 

 ごめん、名も知らぬ管理局の人達。実は前回の鬱憤が晴れて正直ちょっとばかしスッキリした。

 ……前回にも見たけど人が生体ポッドみたいなのに入ってるのを見ると何とも言えない気持ちになる。いや、プレシアには口が裂けても言わないけどね?

 

「やー、フェイトそっくり……じゃなくてフェイトがそっくりなんよね。よっし、ゲート解放! バッチ来いプレシアさん!」

「ジュエルシード封印解放、魔法プログラムfate――発動」

 

 んー、この魔法でたぶんジュエルシードに願いを歪ませずに叶えさせて、ついでに魔力に指向性が出来るんだよな。

 プレシアはジュエルシードに向かって手を合わせ願いを告げる。

 

「ジュエルシード、アリシアを……アリシアを生き返らせてちょうだい……!」

 

 次の瞬間、ジュエルシードからゲートまでの床を抉りながら魔力の濁流が押し寄せ、そのすべてが四次元空間へと流れ込んでいく。

 そして廃棄される魔力とは色が異なる、僅かな光がアリシアの身体へと向かい、少しずつ少しずつアリシアの身体を包み込む。

 この間、プレシアは手を合わせアリシアの蘇生を願い続けている。

 

 3分経過――流れてくる魔力の勢いが増す、ここは前回も同じでありここがピーク。余りにも大きすぎる魔力に気を持っていかれそうだが踏ん張る。

 

 5分経過――前回はここで恐らく門が破壊されたであろう音が聞こえ局員たちが来たことがわかった……が今回はまだ大丈夫なようだ。

 

「7分、経過だけど……結構辛い」

 

 指向性を持たせてるとはいえ多少は漏れる。本当に多少なんだか如何せん俺の魔力がミソッカスなもんでね。ずっと浴び続けるとしんどい。

 ……足が震えてきた。

 

 ――ッ!? 爆発音が聞こえた、来ちゃったか……10分経過直前、少しずつジュエルシードから発せられる魔力は落ち着いてきてるがまだかかりそうだ。プレシアを横目に見ると、額にも汗が滲んでかなり疲弊してるはずなのに一心に願い続けている……うん、俺も頑張ろう。

 あと傀儡兵がんばれ、超ガンバレ! お前たちに割りとかかってる!

 

 …………おおっと、15分経過くらいかね。傀儡兵がやられたであろう爆発音が近づいてきている。あと5分もあれば終わりそうなとこまで来てるはずだけど……ちょいと視界が霞んできた、というか気持ち悪い。ジュエルシードさんハッスルしすぎだわ。

 俗にいう魔力ダメージを俺は微量ながらずっと受け続けているわけだからいわゆる毒状態か。誰かー、薬草くれー。

 

「……魔力の波が収まってきた、あと少しだぞプレシアさん」

 

 と、そこでついに来てしまった――扉を開けて登場、管理局。扉が破られたんだけどプレシアはピクリとも反応しない。なに、俺に時間稼げと? まぁ、プレシアが動けないことはわかってんだけどね。

 ……お、前回とは面子が違う。クロノになのはじゃんか、少人数精鋭……いや、まだ爆発音は鳴ってるから他にも人はいるか。うん、ジュエルシードの魔力に取り乱して魔法弾とか撃ち込んでこなくて安心した。

 

「そこまでだ、今すぐに止めるんだ!」

「ふぅ……ようこそ、おふたりさん。珈琲でも一杯飲んでゆっくりしていかない? 代わりに薬草おくれ」

「ふざけるな!」

「いやいや、本気だよ。このままいけば被害ゼロで終わる、ちょっと眠り姫状態なプレシアさんの娘も起きてハッピーエンドが来るから珈琲飲んで待とう」

「死者を蘇らせるなんて違法行為……いや、それ以前に不可能だ」

 

 ……あー、もうなんか頭痛いなぁ。しかもやっぱり死者蘇生って違法なのね、別にそこはいいんだけど。取り敢えず口先八丁舌先三寸嘘八百で誤魔化せ、時間を稼げ。それしか出来ん。

 

「死んでない、アリシアは死んでない」

「えっ、でもエイミーさんが過去の実験の失敗に巻き込まれて……そのアリシアちゃんは」

「正しくは死んでるけど死んでないんだ……脳死って知ってる?」

 

 さてさて、喋りながら考えろ。主に過去の記憶面で不安の残る俺の頭よ、働け働け! 死者蘇生は違法でも脳死の人間を起こすだけならセーフなはず……手段がぶっちぎりの違法っぽいけど置いとけ。アリシアが亡くなった原因は実験の失敗による……なんだ? 知らねーや、誤魔化せ、でっち上げろ。実験内容は大型魔力駆動炉、なんだそれ。知らねーことばっかだなぁおい!?

 

「で、アリシアが死んだと言われてたわけだが正しくは脳死状態だったわけなんですよ。さて、ここで普通の脳死ならまだなんとかなったわけですが……そうはならなかった。アリシアが脳死した理由はご存じだよね?」

「大型魔力駆動炉の実験失敗によるものだが……」

「イエス…………あー、それでだな。原因が原因なせいで普通の脳死の状態とは異なる、それも面倒な状態になってしまったんだ。簡単に言えば大型魔力駆動炉の実験の際に発生した魔力の粒子が脳内に入り込んで、アリシアの脳の機能を停止させた」

 

 ……立ってるの辛い、座ろ。魔力の粒子? アハハ、そんなもん知らねーです。

 よし、そろそろ終わるな。アリシアに向かっていた光りも消えてきた。話を締めるか、いつボロが出るかわかったもんじゃない。

 

「それを取り除く方法を長年プレシアは探し続けたわけだが……その方法がついに見つかった」

「それがこれと言うわけか。だけど、こんな危険なことを認めるわけには」

「やー、すまん。終わった」

「えっ?」

「なにっ!?」

 

 俺の宣言通り、アリシアを包んでいた光が消えていき……ジュエルシードからの魔力の濁流もピタリと収まった。やったね、毒状態が解除されたよ! ただし瀕死である、残った力を振り絞りプレシアの方を向く。

 成功したのか……? 生体ポッド内のアリシアはその瞳を開き、その光景に母であるプレシアは涙を流し――アリシアは空気を求め溺れもがき始めた。

 

「メディィィック! プレシア! アリシア溺れてる! ポッド開けて!」

「えっ、あぁぁぁ! ふんっ!」

 

 デバイスで殴ってポッド割りやがった……そのまま、ザバァーと流れ出る液体と共に出てきたアリシアを受け止めるプレシア。

 

「ゲホッ、ケホケホ! 死ぬかと思ったよぉぉ……!」

「ああぁ、アリシア! アリシア!」

「へぷっ!? あ、母さん……」

 

 うーん、親子再会の感動シーンのはずが、いまいち涙腺にこないな。何にせよ、上手くいってよかった。

 しかし、動けん。座ったままピクリとも動けん。クロノはプレシアの方に同行を願うって言いに行ってるんだけど、こっちにはなのはが……ふと脳裏にフェイトを撃ち抜いた破壊の権化と言わんばかりの砲撃がよぎった。

 

「すみません、反省してます。撃たないでください」

「撃たないよ!?」

「そうやって安心させて……後ろからズドン?」

「しないから! あれ、ど――たの!?」

 

 おや、なのはが倒れて……なんてベタな勘違いをすることなく俺が倒れてるなコレ。うーん、プレシアに適当に誤魔化したことだけ伝えたかったけどもう無理。

 

「ぐぅ、よくも……やって、くれた……な」

「えぇぇ!? 私なにもやってないよ!? ちょっと起きて!」

 

 ――やったぜハッピーエンド、オヤスミ。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
前回のタイトルの■■■■は『やり直し』前夜でした。

アリシア蘇生は99%がプレシアの力で、どうにも埋めがたかった残り1%をたまたまナナシが埋めた形となります。ビックリするほどなにもしてません。
※四次元空間に突っ込んだ魔力はなかで霧散しちゃってます。

……ループものにありがちな鬱パート? ループを繰り返して散らばっていた伏線を拾って解決? 知りません。駆け抜けました。

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