ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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番外編 聖夜前日のふたり

「あぁ、今年もこのイベントがやってきたけど! 彼女がいるし!」

「いやいや私たちには仕事があると割りと楽しんでいた去年までとはおさらばだ! 彼氏がいるし!」

「五月蝿いと言われようと!」

「延々と独り身を煽って見せよう!」

「「お祭り騒ぎのクリスマス・イヴッ! イェーイ!」」

 

 いつものハイタッチ。俺とアリシアは妙にテンション高めに空から雪が散るように降るなか外へと飛び出していた。理由は語った通り。今年のクリスマス・イヴはアリシアと付き合ってから初めてとなる記念すべき日。

 だからちょっと独り身の魔法少女たちを煽ろうかなって、かなって! どうしようもない奴らだとは自覚してても止まれない。

 

「彼氏彼女の関係になって何が変わったって言われると困ってたけど……まさか独り身を聖夜前日に煽れるようになるなんてね!」

「キリスト様もビックリだ。生きているなら神様だって驚かせてやるって勢いで」

「クリスマスの独り身はいないかー!」

 

 まず目指した先は八神家。普段から人をからかうことに関しては私に任せろと言わんばかりのはやてなんだけど、今日はずっと俺たちのターン! なんだかんだ普段から迷惑かけている気もするのはきっと気のせい。別に六課の警報を鳴り響かせたこととか思い出したりなんてしてないって。

 しかし、インターホンを鳴らすも誰も出てこなかった。

 

「計算高いはやてのことだし……逃げられた? や、でもリインにさっきメールしたときはいるっていってたし、居留守だね!」

 

 いきなり躓いた感がある。メールが仇となったかな。リインのことだし、はやてに問われてメールを見せて、はやてがなにかを察しちゃったか。でもここで引いたら負けだと思う。なのはが言ってた、いつだって諦めない不屈の精神が必要だって!

 インターホンはよくあるカメラ付きのもの。アリシアと軽く相談した結果、カメラの前でイチャつけばなんかダメージ入らないかなってこととなった。どうせはやてのことだから完全に無視はせず、きっと興味本意でカメラ画面を見てるに違いない。

 

 傘を差して、手を繋いで、インターホンのカメラ目線へ一言。

 

「──恋人といるときの雪って、特別な気分に浸れて私は好きです」

 

 地球の方のネタだったけど通じたようでインターホンから吹き出す音が聞こえた。はやてを心配する守護騎士の面々とリイン姉妹の声が聞こえる。ふたりでドヤッとカメラに向かってると観念したかのように玄関が開く。

 

「作戦通り」

「新世界の神様志望なん? いや、そんな目で見んといてって。仕方ないやん、あれは笑うしかなかったんや、笑いには勝てなかったんや……で、何しに来たん?」

「好きな相手と過ごすクリスマス・イヴの素晴らしさを、はやてに語りに来たんだよ! あー、私今年のクリスマス楽しいなぁ!」

「せやろうなぁ! ストレートに煽りに来たって言わんあたり余計に腹立つ!」

 

 ウガーッ! と吠えるはやてにとても満足。

 クリスマスに乾杯する前にあんたらに献杯したろかとか地団駄踏んで激おこ。10数年前には車椅子に乗ってたのに、こんなに元気になっちゃって……

 

「そんな貴女に俺たちの幸せをお裾分け」

「ただ幸せを見せて煽りに来ただけやろ! わたしにだけ時間割かんと他のとこに行ってくれんかなぁって」

「ちょっと予想以上にはやての反応が面白くて、つい」

「つい、やないわ! さっさと他行けー!」

「手厳しい対応! あ、ドア閉められちゃった」

 

 付き合い始めた頃はニヤニヤしながらからかってきてたはやてが懐かしい。今じゃ立場が逆転している。まぁ、からかわれてたときも開き直ってたけど。ほら、俺とアリシアだし、恥ずかしいって感情は絶賛家出中のままなんだよ。

 はやてに軽く追い払われてから、雪がちょっと強くなり始めたんで傘を差したまま並んで歩く。

 

「取り敢えず次はどこに行こくかね?」

「ナカジマ家には青春世代なのに独り身な子がたくさんいるんだけど」

「逃がす手はない! って言いたいけど、逆にゲンヤさんとクイントさんのラブラブ夫婦にやられそうだ」

「抜け目ない夫婦だしなぁ……若輩者の私たちじゃ返り討ちにあっちゃうし他だね」

 

 年の功にはなかなか敵わないもんだ。プレシアとかいい例、なんだかんだいい年だし──なんかピリッときた、ナニコレ怖い。

 

「ねぇ、なんか静電気走らなかった?」

「ノーカン、口に出してないからノーカンだ」

「はっはーん、さてはナナシってばまたいらないこと考えたでしょ」

「否定はしないけど、普通は考えるだけならセーフじゃないか? なんかアリシアと付き合い初めてからプレシアさんの直感が良すぎて怖いんだけど」

「震えている理由は寒さだけじゃないね!」

 

 たまにとはいえ、プレシアについて余計なこと考えればピリッと来ることがある。正面にいたらだいたい見抜かれる、のは顔に出すぎなのか。けど、プレシアはもう本気で人類って枠から越えるんじゃないかな。歩くロストロギアならぬ生きるロストロギアみたいな……ま、アリシアのことに関しては百発百中の直感だから今さらか。肌年齢とか未だに20代だし。

 

 ちなみに付き合うこと報告したときには、土下座で命に代えても幸せにしますって言ったら貴方死んでも生き返るでしょって返された。だから命に代えずに幸せにしろって、そうしないと私が殺すって言われた。なんでちょっと感動しそうになった瞬間に恐怖を刻むのか。アリシアはケラケラ笑ってたけど。いいよ、共に笑って過ごすよ。

 

「変なこと考えないとか息するなってレベルに難しいと思う。俺とかアリシアには特に」

「本当だ、私たちじゃ到底無理じゃん……」

 

 基本的にいらないことしか思いつかない20代カップルがそこにいた、というか俺たちだった。20代になろうと、付き合おうとそこは変わらないらしい。

 

「魔法も奇跡もあれど、俺たちの暴走は止まらないんだ!」

「見てろ! 私は家族ですら煽るよ! フェイト待ってろー!」

 

 全力でフェイトのもとへ向かう。つまりそれがどういうことか、今フェイトはどこに誰と住んでるかっていうのがすっかり頭から抜け落ちてた。インターホンを押して出てきた人物を見てようやく思い出す。

 

「むしろなんで忘れちゃったのかなって私は思うんだけど」

「めっちゃ忘れてた! ほら、なのはって独り身なこととか気にせず仕事してそうだったから元々候補に上がってなかった」

「も、もぉ! 私だって気にするしそんなにワーカーホリックじゃないよ!?」

 

 というわけで、フェイトって今はなのはと住んでたんだった。今はヴィヴィオも一緒。

 なのははプンスカ怒ってるけどワーカーホリック気味なのは間違ってないと思う。ヴィヴィオが来てからはかなりマシな感じになったけど、六課のときとか間違いなくワーカーホリックだった。

 なのはが有給を取らないせいで労働基準法的なのに引っ掛かりそうだとはやてが頭抱えたし、地上部隊の監査で一番危ないのがそこらへんとか笑えないとはやてが愚痴ってた。さすがに俺もアリシアも笑えなかった思い出。

 そのことをなのはに伝えると目を逸らされる。

 

「や、やっぱり新人だった皆が気になって」

「有給を消化しないせいで六課が労働基準法に引っ掛かりそうになるとは新人たちも思わなかったろうに。いや、休みを取らないことで間接的に部隊崩壊を狙っていた……?」

「よく反省してるからそこはもう許してって! ナナシ君やアリシアちゃんが笑わずに、可哀想なもの見る目でみたあたり本気で不味いんだなってわかったから!」

 

 ヤバいかどうかの目安に自分たちが使われてるのが納得いかないけど、心当たりがいくらでもある気がするので触れないでおこう。と不意にフェイトの方へ行っていたアリシアがなんか敗走してきた。

 

「ラブラブ度で負けたぁ!」

 

 アリシアの後ろからは困り顔のフェイトと呆けた顔のヴィヴィオがやってくる。

 ただ、なんで捨て身タックルのように俺に突っ込んで来たのか。心臓付近に頭部がダイレクトアタックして、ちょっと呼吸とかもろもろがトんだ。

 

「り、理由を話せ。タックルしてきた理由を話せ……あと身体も離せ」

「ルール無用の私たちの関係で一見意味のない行動に本当は意味があるとでも? 溢れ出んばかりの思いがタックルという形になっただけで理由とかないよ!」

「レイジングハート、ちょっとこの金髪ひよっこ撃ってくれない?」

 

 むちゃくちゃ言うアリシアを退けようとレイジングハートに頼むも心持ち冷たい声で断られて悲しい。闇の書事件の時に弄って以来、レイジングハートとバルディッシュが微妙に冷たい気がするのは気のせいだろうか。

 

 そう考えてる間に、少し冷静になったアリシアから話を聞けば、リビングにクリスマス系の料理が広げられていて、フェイトとヴィヴィオが“あーん”して食べさせあってたとかなんとか。それがなんだか心にキたらしい……なんで煽りに来たアリシアがそんなに直ぐ心折られてるの?

 まぁ、でも関係性的にはなのはとフェイトとヴィヴィオは家族で、俺たち恋人だし一段階くらい負けてた。ノリと勢いだけで来たけど敗北は必須だったよね。

 

「論じるまでもなく私たちが負けてたよ! 彼氏もいないはずの妹に惨敗だよ!」

「わかったから退け退けー。じゃないとプレシアさん──」

「を煽りに行く? 母さんもある意味独り身な現在だし」

「んっんー、俺が死ぬからやめよう」

 

 恐ろしいことを言うアリシアを嗜めつつ、なし崩し的になのはとフェイトに招かれてのクリスマスパーティーとなった。

 ヴィヴィオへのクリスマスプレゼントがなかったので、デバイス関係で困ったらいつでも頼りなさいってアリシアとふたりで無責任に約束しといた。

 なのはには四次元倉庫に入ってた漢字ドリルをあげた。プルプルと震えてとても喜んでくれてなにより。

 

 本来の目的とはズレたけど、楽しいクリスマス・イヴとなって満足。

 帰る頃には雪がうっすらと積もり始めていた。

 

 

 

「おぉ、だいぶん雪降ってる……明日はホワイトクリスマスかね。ふたりでどっか行く?」

「わたしとしては家でのんびりってのもいいけど、せっかくだし行こっか。ナナシ、エスコートよろしく!」

「了解、考えとく」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
聖夜前日のふたり@いつも通りの巻。

お久しぶりです。本編の番外編か番外騙りのあとかは置いておきます。ただ、なんとなく思いつきましたので少々短いながらも投稿を。
ヴィヴィオからしたらふたりは叔父さん叔母さんという極めてどうでもいい情報。

蛇足ですが、あいうえお作文で文頭が“あいうえ~わをん”になるように会話させ、最後だけ“おわり”にしてみました。言葉遊びもなく会話に違和感などがあったやもしれず、申し訳ないですがやりたかったので仕方がない。



リアルタイムで読んでくださった方はクリスマスイヴの予定は大丈夫でしょうか、間に合わないということはないでしょうか?(無垢な質問)

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