ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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この話は『ないない尽くしで転生』の番外であり騙りでありIFです。本編のアフターと捉えるも全く違う世界のあったかもしれない話と捉えるも自由の無責任な話。
求められてるか求められてないかとかなげうって書きたくなったので書いた、やっぱりいつも通り無責任な話です。


番外騙り.IF今より楽しい明日へ

『ふたりは付き合ってないの?』

 

 そんな言葉を漏らしたのは誰だろうか、ホントに誰だ。和気あいあいのガールズトークから試製古代ベルカ風デバイスに脱線していた思考を引き戻された。周りを見れば──おおう、さすが女の子たちというべきかスイーツな話題に興味津々と視線で訴えてくる。

 けど私たちの関係にスイーツな、そんな甘いところがあったかな? 物は試しにと記憶の発掘作業のためにマルチタスクをフル活用してみるも、9割ほどがスイーツというより闇鍋のような関係だった。それもふたり並んで嬉々としてネタ食材を投げ込むような、そんな思い出が大半を締めていた。

 

「それでどうなん?」

「どうなんって言われてもなぁ……アレとコレ、だよ? 一部ではユニゾンデバイスと結婚するのではとすら疑われてる私だよ?」

「うわぁ……でもナナシ君ってアリシアちゃん命懸けで救ってからずっと一緒に過ごしとるんやろ?」

 

 身を乗り出してくるはやての頬を手のひらで押し返しつつ、命懸けってなにかと考えれば──そういや私が生き返ったときのことか。割りとオブラートに包まれて事実は隠蔽されたあれだ。まあ、命懸けというか一回死んでたらしいけど。私にいたっては進行形で死んでたし、ナナシは何回か死んだ体験のあるとかいう、二人揃って珍種。

 そりゃあ、その事には感謝してるよ。きっと救われたのは私だけじゃない、母さんもフェイトも救われた。お陰でみんな笑顔で過ごせている。

 

「私もよくわからないんだけど白馬の王子さま? みたいな感じには」

「ならなかったね。私助けられる寸前まで無意識だったし、助かったら助かったで溺死しかけてたから! ナナシの存在を認識したのは遥か後だったよ」

「そうだったね……ナナシくんはナナシくんですぐ気を失ってたし、私に捨て台詞を残して。にゃはは、あれにはビックリしたなぁ」

「昔から変わっとらんな」

 

 はやてやめてくれ、その言葉は私にも効く。なんて冗談は置いておき私たちだって成長はしてるわけで。

 特に身長は顕著でなのはとフェイト、はやてのなかでも私が一番高い。バストはフェイトや母さんに比べるとしょっぺぇ水滴が目元から零れそうになるけど、別に小さいわけでもなく美乳と自負してる。つまり私だってナイスバディーな女なのだ。

 ナナシに微乳かと言われたときには言葉に詰まったので苦し紛れにポークミーツと言っといた。やる気ない顔でソーセージくらいあるやいと返されたけど、見栄張らないあたりがなんとも()()()て笑った覚えがある。

 

 他にも成長したところは──きっとあるよね。無職からフリーの整備士、今ではお店も開いてるし。人間性の成長は目を瞑ろう。

 変わらないからこそいいものだってきっとある。

 

「てか一緒に暮らしてたっていうならフェイトもじゃんか、あと母さんとアルフ」

「待ちぃ、そこに自分の母親と使い魔(いぬ)を候補に入れるんはおかしい」

「アハハ……でも過ごしてた時間と密度が桁違いだから。えっと、姉さんに解りやすく言うと近代ベルカと古代ベルカくらいの差があるよ?」

「そんなに!? そっかー、そんなに差があるなら仲を勘繰られもするかー」

「てか、よく高校で付き合ってたカップルも大学に入ればあっさり別れるいうけど二人はその比やないもん。かれこれ10年は一緒におるやろ?」

 

 へー、地球じゃそういう風に言われてるんだ。はやてってば中卒の恋愛バージンなのに詳し──いだだだだだだ!? ごめっ、中卒でも高給取りだったネ! そこらのオジサマよりよっぽど稼いでたんだった!

 

「そっちやないわ!」

「だよね、でも皆そうでしょ? お仕事が忙しいからって言ってるうちに花の十代が終わって、今は行き遅れロードに片足突っ込んでるんでしょ?」

「やめぇ! 私のライフはもうゼロや!」

「ま、まだ二十代前半なの……!」

「そんなこと言ってる間に十代終わっちゃったなぁ……」

「フェイトが気づいてはいけないことに辿り着いちゃった」

 

 一緒に過ごした年月、割りと真面目に考えると私ってばナナシといる時間が一番長いかもしんない。また母さんが気づくと怒る事案が──何て言うけど母さんはとっくに気づいてそう。気づいた上でそのことが話題に上がればナナシに当たる、そんなコミュニケーションを図る。ナナシはげんなりした顔をするけど、不器用な母さんなりの接し方。きっと私たちへ向けるみたいに素直に感情を出せないんじゃないかと私は考えている。ヒュー熱々だね! 物理的にだけど! 熱いよりビリビリだけど!

 

 というか一緒に過ごした年月とか言うならなのはとユーノも幼馴染み的なあれじゃん。

 

「そこのへんどうなの?」

「えっと、私とユーノ君は大切なお友だちだし恋人とかそういうこと考えたことなくてないというか考えが及ばないって言うかまだ早いと言いますか!」

「まだ早い……20歳越え」

「……ぎゃふん」

 面白いくらいに目がグルグル回って手をワタワタと振るなのははとても20歳を越えた女性には見えない。それこそ小学生未満のようで、エースオブエースは自身への恋愛耐性はボロボロのようであった。

 

「まあ、ほら。なのはちゃんはそんな感じやさかい同じくらい異性と過ごしてるアリシアちゃんに話を振ったんよ」

「いつになっても女はそういう話題が好きだよねぇ」

「姉さん、なんかおばさん臭いとか通り越してお婆ちゃんみたいだよそれ」

「縁側でデバイスを弄ってたいよね」

「茶でも啜っときぃ」

 

 なんて話ながらも私は思考の端でいつも一緒のバカを思う。普通の価値観で言えば、一緒にいたい男女はきっとカップルとか夫婦って関係になるんだろう。でも私は今が心地よくて、真冬のお布団みたいなアレ。布団から出れば暖かい居間に朝御飯が用意されてると言われても動きたくない。そんな感じ。変わらないこの関係が心地よくて仕方ない。変わらないからこそいいものだって……きっとある。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「君たちは付き合わないのかい?」

「牢獄の中からいきなりなに言っているんだスカえもん?」

「いや、ほら世の中的には仲の良い男女は付き合うものというではないか」

「ならウーノさんと付き合えばいいのに、というかスカさんに世の中の常識をとやかく言われたくない」

「さすがに娘と付き合うのは不味いと私でもわかる、後者に関しては我ながらそう思うよ」

 

 場所はなんか小難しい名前の牢屋。スカさんが投獄されているその場所へやってきていた。なんかアリシアが女子会に行ってくるとかなんとかで出掛けていて暇していたのだ……アリシアが、女子会。チンパンジーがお茶会をする並みに想像しがたいけど、デバイスに溺死しそうといえど女性な訳だしきっと女子会ingしてるころだろう。

 本人にも伝えたら『失礼な!? 私だってめっちゃ女子会してくるよ!』とか言ってたし、うん。

 

「それでなんだっけ? スカさんが娘にスケベするんだったっけ?」

「やめてくれ、そんなことを言うとレジアスのやつが嬉々として私の懲役を伸ばしてくるんだぞ!」

「懲役100年増し増し入りまーす!」

「そんな注文のように増やさないでくれるか!? ……ごほん、そうでなくてだな」

「俺とアリシアが付き合うかどうか」

「ナナシ君は聞いてるのか聞いてないのか判断がつかないな……それでどうなんだい?」

 

 なんで、このスカ(おっ)さんは恋バナする女子みたいに興味津々なんだろう。というかそういう話題はとても困るんだけど。

 

「ほう? まさかプレシア女史を理由にはしまいな?」

「……いや、充分理由になると思うッスけど。まあそれを差し引いても色々あるんですって。俺も、アリシアも」

 

 お互い他人とは違う。性格的なそれを除いても、明確に違う溝は他人からは決して観測されることもないが、だからこそより確かに自身で認識せざるを得ないソレ。

 普段は微塵も気にすることなく過ごしているが、大きな転機を迎えざるを得ないときには無意識に頭の隅を掠めていく。まあ掠めたことなんてほぼないけどな! プレシアに追われて走馬灯見た回数のが圧倒的に多いわ!

 

「というかなんでこんなところで男二人恋バナせにゃいかんのか……」

「私も暇でね、付き合ってくれたまえよ」

「え、恋バナってそういう……ごめん、俺さすがにスカさんとは付き合えない! 局員さん助けて! スカさんに告白された!」

「そういう意味ではないぞ!? 暇潰しに付き合えということだよ!」

 

 知ってた。いやそれにしてもなんでわざわざ俺たちの奇妙な関係を話題にあげるのか……あ、奇妙な関係だからか。スカさんが普通なことに興味持つはずなかった。

 

「それにほら、幼馴染みとはメインヒロインになるものなのだろう? 私が最近したギャルゲーは大体そういうものだったぞ」

「なんで牢屋でギャルゲーしてんの? いや管理局仕事しろよ」

「私がゲームくらいで大人しくしているならもうそれでいいらしい」

「納得しちゃった!」

 そりゃそうだよね、ロストロギアで遊園地的なの創っちゃうスカさんがゲームで大人しくしてるなら管理局的には恩の字だろうね! よくよく部屋を見渡せばホテルの一室みたいに設備が揃ってるし、割りと満喫してる風だった。管理局の見えないところでの努力にホロリ涙。

 

「そして私はギャルゲーから愛は皆を笑顔にすると学んだのだよ」

「悲しみの向こうに行ってしまえ」

「良いボートはごめんだよ」

「それで? スカさんが娘12人とハーレムつくるんだっけ、娘プリする?」

「違う、君とアリシアくんの関係に興味を惹かれたのだ」

「また、厄介なものに目をつけて……」

「ふっ、厄介な奴にはちょうどよいだろう?」

「ドヤ顔、ウザい!」

 

 なんなんだ、ギャルゲーが原因で男女の関係を勘ぐられるとは思わなかった。

 てか、だから俺たちはズレてるわけでしてモノの考え方というか……俺はあんまり元々考えずに過ごしてるけど、特にアリシアはなにも考えてないようでその実考えてるからなぁ。裏表はないけど表の下に潜めて出さずにいると言いますか。俺も他人への隠し事はいっぱいだけどね?

 こう、お互いにこれ以上踏み出すことはしないって暗黙の了解が出来てる。それは踏み出さないといけないものでもなくて、だからこそ気にせずに過ごしてきたんだけど。

 

「さあメインヒロインの攻略をしたまえ!」

「スカさん……ゲームと現実の区別がつかなくなったとは、南無三」

「ん? なにを言っている、もともと人生なんていうものはゲームみたいなものだろう?」

「くっそ真顔で言い切られたらなんも返せない……!」

「人生もゲームも楽しむことが目的、私にとってはそんなものだよ。だから君たちの関係も私にとって楽しめるものであるなら首を突っ込むさ」

「でもこんな色気より食い気というか、食い気すらなくなりそうな闇鍋みたいな関係よ?」

 

 なんかギリギリ食えそうなもので闇鍋したらなんとか食えるだけの形は出来たみたいな。他人が見たらタールか鍋か判断に困るような関係。

 

「そんなものがどうした。それは客観的に見たときのことだろう? 愛に客観性は不要、必要なのは互いの主観だけなのだよ」

「……スカさん」

「と、最近やったやつで主人公を後押しする親友が言っていたよ」

「……台無しだよ。いや、予想はしてたけど、してたけど!」

「ハッハッハ、まあそういうわけだ。それに君はなんの感情も向けていない相手とこれだけの年月ともに過ごせるのかい?」

 

 俺とアリシア。子供心のままに育ったみたいに馬鹿ばっかりしている自覚はある。それは子供心を持ったまま成長したのか、子供心のままに停滞しているのかはわからない。

 別に今に不満があるわけでもない。むしろこの距離感と関係はとても居心地がよい。ぬるま湯に浸かったままずっといれるようなこの関係。なにか関係を変化をさせることで、時間を動かすことでこのぬるま湯が冷えてしまわないか、そんな漠然とした不安は──確かにある。

 

 あー、もうなんだかなぁ。似た感情をあっちが持ってることもなんとなくわかってるし、だからこそ10年以上この関係は()()()()()()()続いてきた。

 別に悪いこっちゃないんだろうけど、なんかなー。自覚すると停滞してるだけって気がしてくる。らしくないとすら思えてくる。

 自分がアリシアに向けている感情がライクなのかラブなのかは、いまいち掴めないが好きっていうのは間違いない。そうじゃないとこれだけ一緒に過ごすことはないし割りとそれは自覚してた。けどしっかり意識するとその好きは他の人に向ける好きとは違う質である。

 ただ、その違いの要因がなんなのか。恋愛チェリーなせいか性格がクルクルパーなせいかそこがわっかんない。ゲームのパラメーターみたいにわかりやすかったら楽なのに、それこそスカさんがやってるギャルゲーみたいに。

 

 でも、質が違うってのは──ってことなんだろうなぁ。

 

「ふふん、その様子だとナニか思うところはあるようだね」

「まぁ、そうなー。いい機会だし色々考えてみるかなぁ。変わらない関係に新たな風を、的な?」

「ハハッ、変わるということは自殺とどこかで言っていたが一度死んでみるのもイイだろう」

「それ今までの自分を殺して新しい自分にってことじゃないのか……さすがに自殺はしたことないけどさ」

 死んだことはあるけど。しかも物理。

 

「そうだろうね。ではなにか変化があれば教えてくれたまえ……次の私の世界ニコニコ計画に盛り込むためにも!」

 

 また世界が大騒ぎに包まれそうな予感がびんびん──ま、楽しそうなので是非放置する方向でいこうと思う。イイ笑顔で送り出すスカさんに手を振りつつ監獄からプリズム、いや捕まってないから普通に追い出された。

 

 さて、アリシアはどこだろうか、適当に歩けば見つかるかと検討すらつけずに歩き出す。いや、たぶん見つかるし。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 女子会、恐るべし。私の中のなにかが揺さぶられてから直らない。現状の何がいけないのか考える、駄目なことは特になかった。というか誰もそんなことは言ってないし、たぶんそういう疑問が出てくるってことは私が心のどこかでそう感じてるってことだろう。

 それはこのままいることではなく、私がちょびっと目を逸らしているところがあると再認識してしまったから。逃げることの正否は置いといてそれも選択のひとつ。でも私は選択すら放棄して今を過ごしてる……なんてシリアッティに考える。

 

 何の気なしに今まで続いてきたこの関係。それってずっとこれからも変わらないままでいられるのか。たぶん、いられる。と思うのは今の私の主観だ。

 他人の心なんてわからない。女心は秋の空、なんていうけど女に限らない話だと私は思う。人の心は移ろって変わり行くものだしそれは本人ですら予測できないもの。秋の空、というより山の天候みたいだよ。

 

「……なんだかなぁ、はぁ」

「ずいぶん浮かない顔をしているが、なにかあったのか?」

「んーんー、何もなかったけど私が勝手に沈んでるというか、浮上しない問題を一緒に浮き上がらせるか悩んでるというか」

 

 答えにならない答えに首をかしげるリインに、いつもは自然に浮かぶヘラヘラをちょっと表情筋を意識して笑う。ついさっきお散歩中のリインに出会ってカフェに誘われたけど、ちょっと呆けすぎてたらしい。

 

「私でよければ、聞くが」

「ん……そだね、リインって長く生きてるしちょっと聞いてもらおうかな。泥酔の時と同じで悩みって吐くだけでマシになるっていうし!」

「その例えは、どうなんだ……?」

 

 私にとっては同じだからね、悩みも酔いもどっちも頭がぐるぐるして気持ち悪さがあるし。

 なら吐いちゃおうかな、ミソッカス仲間なリインにちょっとぶちまけちゃおうか。ゲ□でも乙女力の発露でもなく心情を吐露しよう。

 

「人間関係についてなんだけどさ、変わらないままって無理なのかな? 楽しいだけじゃいつか変わるのかな?」

「……私には、難しい問題のようだ。いや、待て、考えるからちょっと待って……」

「あっ、うん。頑張って」

 

 顎に手をあてウンウン唸る姿に苦笑しつつ抹茶ラテを啜る。甘さのなかにちょっとしたほろ苦さがあって、なんか人生みたい。なんてロマンティックに考えたが似合わなさ過ぎてナナシに笑われた気がした。

 自分で想像しただけだけど腹立たしかったので、ズゾゾゾゾと抹茶ラテを一気に吸いきり一緒にそんな思考を飲み込む。ロマンはデバイスで十分と言うのか……あれ、私も十分だと思っちゃった。

 

「そう、だな……変わらない関係はある、と思う。けどその関係のなかでも人は変わっていく」

「どういうこと……?」

「例えに出すのが私たち家族で申し訳ないが、主はやての元に呼ばれて以来、私たちは“家族”という変わらない関係となった」

「うん、だったね」

「だが、私たちはそのなかで……何も変わってないわけではない。騎士たちは、その、特にわかりやすい。ヴィータは未だにツンツンしているが、昔に比べて棘は減った、他人との交流を拒まなくなった。シグナムも、頭は固いままだが、柔軟に考えれるようになったし……ふたりとも、人にものを教えるということまでするようになった」

「あ……うん、昔はちょっかい掛けたら鉄槌振り回して追いかけられたけどこの頃は普通にお説教で済んでるや」

「……まぁ、そういうことなんだけど」

 

 とても微妙な視線を向けられてるけど私にとってわかり易いのがそこだったんだもん。

 

「つまりだな、家族という関係はそのままだが、そのなかでも変わっていくものはある」

「変わらない関係の中でも変わっていくものはある。何も変わらないってことは、ないかぁ……」

「きっとそうだと思う、人は変化するからこそだろう。むしろ、アリシアは停滞を嫌いそうだが……?」

 

 たぶん、今の私の顔はキョトンとしていたと思う。たしかにリインの言う通りだ。停滞って暇そうだし、私的にはとてもよろしくない。そう考えると、うむうむ、まとまってきた!

 

「………………えっへっへー、そう言われるとそうなんだよね。昨日の楽しいことを振り返るわけでも、今日の楽しさが永遠に続いてほしいわけでもないんだよね」

「あぁ」

「明日も楽しく過ごしたいんだよ! だから私は二の足踏んで粋なタップダンスを意気揚々としてた……しながらちょっとお悩み相談してみてただけ」

「してた? すごく悩んで、なかった?」

「してた! なっ、な、なかったし!」

 

 じ、実はそんな悩んでなかったし! リインの言葉のお陰で踏ん切りついたとかないから。元々気づいてたけどちょっとリインに確認しただけ……嘘、結構切っ掛けになったし変わりたくないところと変わっても続いていくものがあるってわかった。

 

「ありがとうね、リイン」

「……よくわからないが、力になれたならよかった」

「うん! じゃあちょっと私は行ってくるよ」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 微笑みながら送り出してくれる姿は母親のよう……というと母さんが泣くか怒りそうなので保母さんみたいと思おう。

 カフェを出た私の行き先は言うまでもない。位置情報は定まらない行き先だけど、直ぐにつけるだろう。

 

 ──アリシア・テスタロッサは日の傾きだした街道を鼻唄混じりに歩き出す。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 お尻を出した子が一等賞で帰る時刻。ナナシとアリシアは出会う。ふたりは互いを探していたのかそうでないのか。昼の間にその場を占拠する子供たちがいなくなった公園でふたりは出会った。

 探し人同士なのだが特に探していた素振りも見せずにどちらからともなく並んで歩く。

 

「おっ、ナナシ」

「ういっす」

「やっほ、なんか開き直った顔してない?」

「お互い様だろうそれ、開き直った感じのそれ」

 いつものように飄々とした表情を浮かべながらも何処かスッキリした雰囲気を纏っている。

 

「へへ、そうだね……なーんか色々考えちゃってねー」

「俺も、割りと珍しく考えて頭がだな」

「三回転捻りのクルクルパー」

「それは元からだし」

「そうだった」

「…………」

「…………」

 

 これから口に出す言葉を探すために軽口と歩行が中断してしまう。ただそれはお互い様のようでその間を気にする人間はこの場にはおらず二人は不自然な間を自然なものとして気にすることなく熟考。そして、ポツリと一言呟く。

 

「……停滞よか新しい一歩、うっし」

「……このままよりも、もっと楽しくなるために、ね」

 

 お互いに呟いたのは同時だったか。いつも通り、面倒な考え事は投げ捨てた本当にいつも通りヘラヘラとした二人が向き合う。

 

「「その、えっ? あっ……えー」」

 

 見事に被った。出だしから、疑問、被ったことを認識して嘆息するまでに綺麗に。

 夕陽が差し掛かり二人の顔はほんのりと朱がかかっている。それは夕陽のせいなのかそれとも他のナニかのせいなのか、耳にまで赤みがかっている理由はいったい何なのか。それを知る者のは誰もいない。

 深呼吸、から無言で私から話すぞとアリシアは主張。それをナナシも同じく無言で了承。

 

「え、えへへへ……たぶんこれから、何かが変わるってわけでもないと思うんだけどさ。でも変わりたくないって思うところを変えないためには、別のところを変えないといけないって考えたと言いますか……」

「この心地好い関係を停滞にしたくないから、それは俺たちらしくないと思うし……まぁここが俺にとって一番居たいところだし。なら新しい一歩を踏み出したいというか……」

 

「「だから……ッ!」」

 

『I love you』

 

 なんで英語なのか、なんでふたり揃って英語なのか。そしてまた何故綺麗に被ったのか。

 きっとそれは面と向かって真面目に母国語で言うことが恥ずかしかったからなのだが。それをお互いに察する。

 夕陽も沈んだその場で、未だに日に照らされているかのように熱い顔をパタパタと扇ぎつつ笑う。

 

 これから、ナナシとアリシアの日常が劇的に何かが変わるわけではないのだろう。ふたりはいつものように店のカウンターに並んで客を待ちつつ遊んでいるだけで、暇をもて余せばどこかへ遊びにいく。でもそんな関係を続けるためにふたりは新しい一歩を踏み出したのだ。

 明日もまた、ふたりにとって楽しい日とするために。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「恋仲ってなにするんだろう?」

「わっからねー、ふたりで出掛ける? あ、割りといつもやってる」

「自宅で映画鑑賞! あ、結構頻繁にやってる」

「……まぁいつも通りでいいんじゃね?」

「ま、そうだねー。私たちが楽しければオールクリアー……あっ」

「ん? どうした?」

「あー、その、母さんに何て言おうかなって」

「………………ッ!」

「あっ、コラー! ナナシ逃げるなぁ!」

「まだ、死にたくないんじゃぁぁぁ!」

「ほほっう……一斉送信のメールでバラしてやる!」

「えっ、ちょっ、待っ」

 

 ──なにかが変わった、変わらないふたりの日々は明日も続いていく。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
前々から読みたいというお声を聞いていましたが割りと関係なくちょっと書いてみようと思い書きました。そして内容はタイトルと前書きの通りです。

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