番外編.国語『ミッドにいようと母国語は俺だぜ』
人間染み付いた習慣というものは中々に取れないものだし、まあ切っても切り離せないものなんてものもある。
そのうちのひとつに入るであろう、母国語。ある人物が乳児期より聞き続け、幼少期より自然に使っている言語という意味で母語。出身国(母国)の言葉という意味での母国語。
これは得意であろうと苦手であろうと否応なしに覚えることとなり、当然のように国語、その国の語学として習うことになるそれである。
「まぁ、そんなわけでなのはに国語ドリル持ってきたぞ」
「なんで持ってきたの!?」
「お せ っ か い」
「大きなお世話だよ!」
そんなこんなで歴史上最もアホらしい事件よりしばしば期間の空いた今日この頃。高町さんちにお邪魔してる。手ぶらでお土産ないのもなんなので国語ドリルを持参したわけだが、なのは的にはかなりの不評らしい。
「ほら、親としてヴィヴィオになのはの母国語を教えてやらにゃいかんだろ?」
「そのわりには高校生用の持ってきてるのはなんでかな?」
「いや、ほら
「小学生を二重線で消して私の名前書いてるあたり悪意しか感じないよっ!」
「昔々、プレシアさんにやられたことをついな……」
「小学生用ってナナシくんも書かれたの? でも昔なら間違ってないんじゃ……」
「猿とゴミ箱だった」
「うわぁ……」
懐かしい、あの頃は魔法に浮かれたりしてたなぁ。そのあとはアリシアと一緒にリインとユニゾンしたり、フェイトやなのはのお願いで訓練に付き合わさせられてブラスト・カラミ……ウッ、頭が……!?
あぁ、ピンクと黄色の光が──
懐かしいナァ、あの頃ハ魔法とかに浮かれてたなハッハッハ。そのあとはアリシアとデバイス弄る方に駆け抜けていったんだけど、うん。リインと合体したりもした。あとはあれだよ、スカさんが事件起こした。
「ってそうじゃなくてヴィヴィオもミッドで暮らすわけだし、そんなに必要じゃないと思うんだけど?」
「実家に連れて帰るつもりがないと、ヴィヴィオ可哀想だなぁ」
「ウッ、いやでも私がそのときに教えてあげればいいし」
「泣きっ面に蹴りいれるなのはに教えれるわけないだろ!」
「失礼すぎないかなぁ!? というかもうそんな間違えしないもん!」
「なのはー、どうしたの?」
なのはが腕を振り回してぷんすかしてると家の中からフェイトがひょっこり顔を出した。電話中だったのか子機のマイクを押さえているけど誰と話しているんだろうか。仕事ではなさそうだが──
「あ、お姉ちゃんナナシいたよ。うちの前にいた……えっ、あ、うん。はい、ナナシ」
『ナナシぃぃぃ!』
フェイトから渡された子機からアリシアの声が響いた。お耳キーンだ。
「あ、やっべ」
「ナナシくんまたなにかしたの?」
「いや、さきに仕事終わらして外出しただけなはず、はず……」
「何で自分のことなのにそんなに自信なさげなのかなぁ……」
普段の行動の賜物に違いない。なのはがボソッて録でもないとか言ってるの聞こえてるぞ、否定できないけど。
「あとはもうひとつのお土産に持ってきたプリンくらいか」
『それ! 私も食べるつもりだったのに!』
「作ったの俺なんですが」
『つまり私のものだね!』
「とんだジャイアニズムだ」
『はっはっ! か、代わりに私の仕事はあげてもいいよ?』
いらんわ、ってか実際に全部やったらやったで怒るじゃん。私のデバイス整備ぃぃぃ! って感じになってさ。
「まあ、プリンは美味しくヴィヴィオたちと頂くとしますぜ、ハッハッハ!」
『プゥゥゥリィィィンー!』
「プリプリッ、プリュッ、プリプリィー!」
「違う! それポケットサイズのモンスターだから!」
「チョゲプリッ……えっ、声近くね?」
「ゼーハーゼーハーッ! もしもし、私アリシアさん、ハーッ、ハーッ……今、あなたの……後ろにいるの」
後ろを振り向くと本人の言う通りアリシアがいた。髪は乱れてるわ、息は絶え絶えだわでもうてんてこまい。
しかし、あれだけ話しながら走ってくれば当然だわな。インドア派が無茶しやがって……とても20歳を超えてるとは思えないな、あれこれブーメランか。
「メリーさん息切れすぎじゃね? もっとスマートにホラーチックな感じじゃなかったっけか?」
「げ、現実はいつだってこんなはずじゃなかったことばっかりなんだよ」
「あの、なのはも私も事態が飲み込めないんだけど」
「もっとよく噛んで飲み込んで、頑張れフェイト! 遊びに来ました!」
「相変わらずナナシは無茶を言うね、まあ二人ともあがって。お茶でも出すから」
「ぶぶ茶漬けじゃなくてよかった」
「さすがに帰れなんて言わないよ……」
そうしてフェイトに促され通称なのフェイ宅へあがらさせてもらうのであった。なかではヴィヴィオがテレビを見ていたようで、ふむ内容はインターミドルシップだっけか。それを熱心に見てるなぁ。
──ママがふたりという修羅場ってそうなヴィヴィオだけど今のところ真っ直ぐ育っている様子。
しかしこのままだと何年後かには絶対に魔法に興味を持つはずだ。アリシアとどんな魔法に興味を持つか賭けているのは秘密。アリシアが格闘で俺が砲撃、将来が楽しみダナー。
夢中にテレビを見ていたヴィヴィオだが、リビングに入ってきた足音が多いせいか振り向き俺たちに気づき挨拶をしてくる。
「あっ、ナナシさんにアリシアお姉さんこんにちは!」
「オッスオッス、ヴィヴィオー。あとアリシアはフェイトの姉だから叔母さんって呼べばいいんじゃな」
「お姉ちゃんパンチ!」
「ブヘっ!?」
ヴィヴィオに正しい知識を教えようとしたら、アリシアに割りと容赦なく腹を殴られた。余談ながらプレシアはお祖母ちゃんダゾって教えたら過程と部位は省略するが焦げた。でもプレシアさんって呼ばせると孫なのに他人行儀だしどうしようかと唸ってた、今日も今日とてプレシアの頭のなかは娘と孫(NEW)パラダイスだ。
「家庭内暴力発生! DVだ、なのは局員助けとくれ!」
「勤務時間外だからちょっと無理かなぁ……それにここ家庭外だし」
「そういう文字面だけの意味じゃないと思うんだが、むしろ居候は家族の枠に入るか疑問に思えてきた、いや家賃は納めてるけど」
「ワンチャン、ペット枠の可能性もあるね!」
「えっと、ワンチャン(犬)だけに?」
「「えっ? ごめん、よくわからなかったから詳しく説明を」」
「そこで息の合わせないで!?」
いやいや、そんなことはいいからさっきのワンチャンについて詳しく説明をと、アリシアとなのはに詰め寄っているとヴィヴィオが土産を目ざとく見つけなさった。いやはや、いい教育をなされている。なのはが何故だか顔がひきつったけど。
「ほぅら、ヴィヴィオお土産だよー。おやつのプリン」
「わー、やったー!」
「と、なのはママの故郷の言葉が載ったドリルゥー」
「ふぇ、どりる? ウィィィンキュガガガガ! って穴あけるやつ?」
「それ
興味は惹かれるようで国語ドリルをパラパラとめくって中身を見ているが、まあ読めないだろう。ただ母親の故郷の言葉ということでわからないなりにドリルを見ることは楽しそう、本当楽しそう。
「なあ、なのは?」
「うっ、うう……ま、まあ小学生くらいのレベルなら普通に教えれるけど」
「なのは、無理しないでいいんだよ?」
「待って、フェイトちゃんのなかの私はどれだけ国語ができない子になってるのかちょっとお話ししよう?」
「そうだね、よし。ならなのはがどれだけ国語が出来るようになったか問題を出してしんぜようではないか」
「受けてたつよ! 私だって成長してるんだから!」
ふんすっ、と胸張る地球生まれ国語嫌いのなのはちゃん。娘の前なので頑張ってほしい。
「じゃあ対義語の問題いくぞ」
「……フェイトちゃん、フェイトちゃん。対義語って意味が逆の言葉だよね?」
「そうだよなのは、がんばって……本当に頑張ってね?」
本当に頑張ってほしい。
数学の問題とか中学生レベルでも長くやってないと忘れるらしい。それがなのはには国語で当てはまるだけなんだろうか……母国語のはずなんだけどな。
「なのはママがんばれー!」
「うん!」
「怪しいなぁ。じゃあ一問目、熱い」
「冷たい!」
「出席」
「欠席!」
「じゃあ、そだな。必然の反対は?」
「ぐ、偶然!」
「素人は?」
「た、達人……?」
「惜しい玄人でした」
そんな感じで一般的な問題をひょいひょいと出していったのだが、本人の言う通り成長はしていた。ちぇっ、いやいやなんでもない。
「じゃ、そうな。走れメロス」
「え、えっ? ……待て、セリヌンティウス?」
「マッチ売りの少女」
「マッチ買い占める少年! あれ、すごくいい子になったよ?」
「少女が助かるまさかのハッピーエンド到来。ふむふむ、なのはも頭柔らかくなってるな」
「ふっふーん、そうでしょ。いつまでも昔の私じゃないんだから!」
「ではでは厚着の対義語は?」
「あれ、なんだか急に普通なのに戻ったけど。薄着でしょ?」
「ブッブー、フェイトのバリアジャケットでしたー」
「ちょっとナナシ!?」
「……ごめんフェイト、お姉ちゃん否定できないよ」
フェイトが焦ったようにアリシアを見るも助け船は出されず、なのはに視線を向ければ目を逸らされた。どうやら助け船は全て泥舟だったらしく沈んでしまった。いや、ほらフェイトもそろそろ20歳越えるし露出度とか考えていこ――やー、バルディッシュ向けないで。ところどころプレシアさんに似てきちゃってまったく。
「ほら、お姉ちゃんもバリアジャケット削らなくても速くなれるように協力するし。ね?」
「でも、つまりそのバリアジャケット削らなくても速くなれるってことは……バリアジャケット削ればもっと速くなれるようになるってことだよね?」
「おっふ……」
「速すぎたんだ、スピードに魅入られてやがる」
「フェイトちゃん、私もときどき目のやり場に困るほどだし今のスピードを保ちつつ布地を増やそ?」
「女同士で目のやり場に困るとはなのはは百合か」
「えっ、そそそ、そんなっ、なのは困るよ!?」
「私も困るよ!? 極めてノーマルだよッ!」
阿鼻叫喚な感じになってきた。わたわたとしているなのはとフェイトのやり取りから抜け出してプリンを取り出す。しゃくを小鬼トリオに狙われてる語尾がおじゃるな童子の好物だったっけか。個人的にはしゃくより烏帽子の方が気になるんだけど。
「ヴィヴィオ、プリン食おうぜー。ちょっと早い三時のおやつに」
「惨事のお通や?」
「なにそれ怖い」
「あっ、私も食べるってば!」
「じゃ、じゃあおやつの時間にしよっか!」
「そうだねなのは!」
二人ともなんでちょっと顔が赤いのか。百合、なわけもなく単純に捲し立てるかのように話してたからなんですけどね。
「因みに一個白だしで作ったので茶碗蒸しになってるかも」
「なんで作ったの!?」
「カラメルと茶碗蒸しの織り成す微妙なハーモニー」
「ナナシそれハーモニーなってないから、超不協和音になってるから! くそぅ、私はプリンを引き当てて見せる!」
そんなにプリンを食べたかったのか謎の闘志を燃やすアリシア。
「ヴィ、ヴィヴィオに当たったらどうするの!」
「フェイト、心配しなくてもいいぞ……一番上はプリン確定だしヴィヴィオにそれをやればいい」
「……つまり他はわからないと」
「ドキドキロシアンルーレットだな」
「ナナシくんにも当たるリスクがあるんだよ!?」
「リスクを背負わずして何がイタズラか!」
「なんでそんな無意味に自信ありげなの!?」
「ことイタズラは狂気の沙汰ほど面白い!」
だって、まあ嘘ですし!
その後、皆がドキドキしながら一口目を食べるなかヴィヴィオとふたり気兼ねなくプリンを頂いたのであった。ノーリスクのイタズラ最高だなー。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんだかんだお久しぶりです。最終話で予告していた番外編ですが中々忙しかっ中略で投稿まで結構間が開きました。
フェイトそんはここから周りの支えもあってハイレグバリアジャケットをやめるのでした(Forceくらいに)。