ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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最終話.変わらない二人

 後日談というかジェイル・スカリエッティ事件――どうでもいいけど事件に自分の名前がついたスカさんはご満悦だった――のあとの話。

 外出、アリシアに誘われ雑談に興じつつ散歩している。

 

「いやー、大変だったねぇ」

「まあ俺たちはなんもしてないんだけどな」

「「アッハッハ!」」

 

 やったことといえば、ゆりかご内部での剥ぎ取りぐらいである。それに至ってはリインからはやて、はやてからカリムさんに伝わったお陰で聖王教会にスポイルされた。ごねにごねようとしたら聖王のゆりかごに勝手に潜入した件でしょっぴかれそうになったので全力で献上した。

 

「それでそろそろ機動六課も解散だっけ?」

「え、あれ解散するのか……はやてが何かやらかしたのバレた?」

「いやいや、そうじゃなくて元々試験的に運用された部隊だからね。一年って期限つきで」

「あー、そんなことエリオやキャロから聞いたような聞いてないような……」

 

 特にエリオは周りに男がいないからといってちょくちょく電話かけてきてたからなぁ。言っててもおかしくないけど興味ないことはすぐ忘れる駄目な大人なんだ、ごめんエリオ。

 キャロが時折近代科学に適応しましたって旨のメールが来るのは面白いのでよく覚えてるんだけどね。ティアナがバイクに乗ってるのを見て、いつかエリオを後ろに乗せて乗りたいとかも言ってた。

 そこはエリオに運転させてやってほしいと切実に思ったのは記憶に新しい。カントリーガール逞しすぎる。

 

「でも六課が設立されたのがもう一年も前になるんだね」

「あぁ、そう考えるとどこか――寂しいことなんてなにもなかった!」

「私たちはまともに関わってないから!」

「強いて言えば侵入して逮捕される手前までいったくらいか」

「部隊長がはやてじゃなきゃ即死だったね」

「そのあとに菓子おり送ったから許してほしい」

「でも差出人不明で送ったせいで爆発物かもしれないってことになって、また大事になりかけたんだったよね」

 

 菓子おりを送ったというのに再び怒られたんだったよな、解せぬ。梱包にも凝ってタイマー式のギミックまで仕込んだというのに爆発物とはなんたる言いがかりか、キンブリーさんぐらいのお茶目さを持って欲しい。

 まあ実際に口に出して言っちゃったんだけど『ならナナシくんとアリシアちゃんで賢者の石つくったろか?』って額に青筋浮かべて言われたので素直に土下座した。

 

「あのときばかりは六課の視察前ということもあってはやてもピリピリしてたからねぇ」

「割りと身の危険を感じたな」

「アハハッ、賢者の石を知らないフェイトは首傾げてたけど、なのはは全力で逃げろとジェスチャーしてたね」

「魔法合わせるとマジで錬成陣出来るから笑えない件」

 

 そんなこんなで傍迷惑な形でしか機動六課に関わってなかったもので解散といわれても特に感慨深いものはなにもなかったりする。

 逆に気になることと言えばスカさん一家なんだが娘さんたちはともかく、スカさん本人は余裕で逮捕されてた。現在も絶賛服役中だ。

 

「聖王のゆりかごみたいな超巨大質量兵器飛ばしちゃったら言い訳の余地がないからね」

「でもそれ以前の犯罪に関する証拠が一切ないもんだから検事的な立場の人が胃を痛めてる、とかレジアスさんに聞いた」

「牢の中に入っても他人の胃痛の原因になるとは……」

「なんとも迷惑、もっと他人のことを思いやる精神を大切にするべきだな」

「うんうん、全くだよ」

 

 なにやら盛大なブーメランを投げてる気がしないでもないけど大丈夫。まだ致命傷だから。

 そしてスカさんの娘さんなんだけど長女のウーノさんだけ一緒に服役しているらしい。なんでもスカさん一人だといつまで経っても出てこれそうにないからとか……なんだかんだ娘というより嫁、もしくは立場逆転の親みたいな人だと思った。もうどう転んでも変態なんだしウーノさんと結婚すればいいのに。

 

 残りの11人は現在ミッドの常識を叩き込むために更正プログラムを受講している状態だ。クイントさんの娘、ナカジマ家のエンゲル係数を跳ね上げてる一員たるギンガって子が担当してるらしい。

 

「そういやルーテシアにも久々に会ったね」

「あっ、そうだったな……メガーヌさんとのニアミスは奇跡的だと思うぞ」

「あれだけ陸部隊に行っててまともに顔合わせたことなかったのは驚きだったね」

 

 ルーテシア・アルピーノ、ゼストさんの部隊に所属するメガーヌさんの娘さん。ついでに3~4年前にあった臨海空港での大規模火災の際に助けた子だったりする。

 チンクにでも久々に会おうと更正プログラムに顔を出した際にたまたまクイントさんが来ていたのだが、同僚のメガーヌ・アルピーノさんに娘のルーテシアが来てたのだ。

 

 どうやらあちらは俺とアリシアのことを覚えていてくれたようで、天使爛漫な笑顔とともに挨拶してくれたんだけど問題がひとつ発生していた。

 

「私たちが向こうを覚えてなかったとは言えなかった」

「まぁあのときは火災から抜け出すのに必死で顔を見る余裕すらなかったしな……何気に一番余裕あったのルーテシアじゃね?」

「ルーテシア恐ろしい子!」

 そんなわけで冷や汗ダラダラと流しつつ『久しぶりダネー、いつ以来だっけかー?』と然り気なく質問して事なきを得たなんて事実があったかどうかは我らのみぞ知る。

 

「けどナナシが建築士に恨み辛みを口から吐きすぎたせいでルーテシアが建築の資格を取ることになろうとは……」

「ミッドが低年齢から色々資格取ったり就職できたりするせいで矯正する隙もなかった。ルーテシア建築士への道、完璧な布陣だな」

「メガーヌさん本当にごめんなさい。でも明るい娘に育ってくれてお姉さんは嬉しいよ!」

「アリシアはそれ誰視点なんだ……っと、娘と言えばヴィヴィオだ」

「あー、なのはとフェイトの娘だよね……」

「うん、なのはとフェイトの娘だな……」

 

 なんなんだろうか、この言葉にし難い違和感は。いや、幸せそうだし問題はないんだけどさ? 主に初めに報告を受けたプレシアが完全にフリーズしただけだし大きな問題はなかったんだけど。

 思ったままに百合が咲き乱れてやがる――というとなのはが顔を真っ赤にしてぷんすか怒ってきた。

 

 色々懐かしみながらミッド市街地を二人並んで歩く。今の季節、地球なら桜道とか綺麗そうだなぁ。

 

「二人も元から同居してたってこともあって普通に現状受け入れてるし」

「プレシアも結局はじめての孫のヴィヴィオに甘くなっちゃってるしな」

「ナナシが笑顔で『プレシアさんこれでお祖母ちゃんだな! おめでとう!』って言ったときには死んだかと思ったけどね」

「ごめん、俺そこら辺の記憶ない」

「あっ、あー……」

「前世の記憶と一緒にさよならバイバイしちゃったのさ……」

 

 俺が覚えてるのはヴィヴィオの歓迎会の楽しい記憶だけだから。雷撃が空気と大地を焦がす臭いなんてちっとも覚えてないぞ、覚えてないったらないぞ……!

 

「ナナシは見えてる地雷源でタップダンスしちゃうのはなんでなんだろうね?」

「むしろ地雷を破壊するって意味ではブレイクダンスしてると言えるのでは」

「ただしブレイクされるのはナナシ」

「ナニソレ怖い。けど個人的には全く見えてない、もしくは踏んでも大丈夫そうな地雷を踏んでるんだが」

「踏んでも大丈夫そうな地雷ってないんじゃない?」

「そう言われりゃそうだ」

 でも止められない。

 

「あーあー、もう母さんも毎度のことなのにきっちりノっちゃうし」

「俺も毎度のことなのにコンガリ焼けちゃうし!」

「私も毎度のことなのにしっかり煽っちゃうし!」

「おいコラ」

「テヘペロ!」

 

 似合ってて腹が立つんでほっぺたを引っ張る、引っ張り返される。ドッタンバッタン、わちゃわちゃ数分間引っ張りあった――余裕で周りの人の視線が集まるけど気にしない、これでも20歳じゃ。いつもなのはに年齢を疑われるんだけどこういうのが原因か。

 

 まあ頬の痛みも限界なので手を離す……アリシアは離さない。

 

「ほい、ほらはなへや」

「アハハー、はい」

「あー、頬がヒリヒリする……」

「いやー、私たちも成長しないねぇ。何年前からやってるんだって話だよね」

「全くだ。初めて会ったときからイランことしかしてない」

 

 あのときにリンディさんに追われたこと、プレシアの電撃、ブラストカラミティが俺の中の三大トラウマだったりする。どれかひとつだけでもミッド内でトップクラスで悲惨なトラウマだと自負している。

 

「いやいや、カートリッジをミッド式デバイスに付けるときには活躍したじゃん!」

「そういやそうだったな。そのあとは割りとフリーでお互いなんだかんだやれてるし……我ながらよくやってると思う、雑草とかジュエルシードかじってたあの頃が嘘のようだ」

「ナニソレひもじい」

「フェイトにもそんな目で見られた」

 

 当時の認識では露出度高めの魔法少女のコスプレした少女にそんな目で見られたわけで、俺の心はボロボロだった。

 そういやフェイトのバリアジャケットどうにかしようとプレシアと話してたけど結局どうにも出来てない……更に露出度が上がったとも聞くのでそろそろ本気で止めないと。それ以上はいけない。

 

「……それでさー、カートリッジで儲けたお金あったじゃん? それ使ってデバイス整備のお店開こうかなって思ってるんだけど」

「ほうほう」

「で、ナナシ店員にならない?」

「アリシアが店長とかブラックな予感」

「失礼な! 給料は気持ち! 勤務時間は仕事が終わるまで、だよ!」

「ブラック企業も真っ青なほどブラックだわ!?」

「ブラックなのに真っ青とはけったいだね!」

「全くだな! ……でなんだっけ?」

「えーと……そう、お店開きたいんだけどナナシもどうかなって。フリーでも経験ある程度積めたし、元々いつか開こうと思ってたんだけどいい頃合いかなぁって」

「フッ、自分でいい頃合いと思うとは笑止千万。開業は俺を倒してからにすることだな!」

「あ、フリーパスだ。やったー!」

 

 しまった、魔力もデバイス改修の技術も負けてた。そしてふと立ち止まったアリシアはこう言い放つ。

 

「ってなわけで店があちらになります」

「わー、立派なお店……What?」

「It'sお店! ルーテシア・アルピーノ監修となっており耐震性バッチリだよ!」

「ルーテシアの話はここへの伏線だと!? ……うーん、それじゃあ店員第一号としてダラりヌラりと働いてしんぜようではないか。元々俺もおっきい組織的な企業とか管理局が面倒だっただけだし、アリシアの店なら大歓迎!」

「よっ、ダメ人間!」

「ダメ店員を雇うダメ店長!」

「「いぇーい!」」

 

 出会ったときから相変わらず締まらない関係だけど悪くないと思う――いや、良い。こうやってアリシアとお互い馬鹿やりながら働けて、バカな変態や国語が苦手なお馬鹿に囲まれて過ごせる環境、うん最高じゃないか!

 これでないない尽くしなんて言ってるとバチが当たる。

 

「よーし、そうと決まったら今から開業の準備だよ!」

「おっしゃー! 荷物の開封は任せろー」

「バリバリー……あっ、電話」

 

 ――こうして俺たちの日々は今日も今日とて巡っていくのであった。

 

 

 

「ナナシー、母さんから新しい就職先について詳しく話せって電話が」

「ごめん、腹痛の予定で出れないって伝えといて」

「来るってさ」

「ごめん、店員第一号はここまでのようだ……」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんか最終話になりました、いやはや最終話になりました。大切なことなので二度言いま以下略。

 第一話から約半年でしょうか。作者にしては長く書きました、いえそんなことはどうでもいいです。
 書き始めは作者にとって初めてのリリカルなのは二次ということもあり……あれ、結構初めから好き勝手してました、すみません。
 なにはともあれ、長い間お付き合い頂いた読者さんたちには感謝が絶えません。

 感想は作者の元気の源となり、モチベーションにバリバリとドーピングかけてました。重ね重ねになりますがありがとうございます。

 さて、
「マジカルどこいった? フィジカルはあるんだけど……」
「リリカルってなんだっけ? やっぱりフィジカルはあるんだけど……」
といった『ないない尽くしで転生』にお付き合い頂き、改めてありがとうございました。
 ※お忘れの方がおられるかもしれませんが今作は魔法少女リリカルなのはの二次です。


 まぁ、ちょっとだけ番外編を書くつもりなんですけどね。国語とか、そこらへんのネタがちらほら浮かんでるので。
 あとアリシアとナナシに関してはこんな感じです。こな感じのまま二人で真面目に不真面目に店を営んでいきます。

 ではでは長ったらしくなってきたので後書きもここまで、似たことはどうせ活動報告にも書くので締めます。
 またの機会、何かの際に読んでいただければ幸いです。ばいちゃー。

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