ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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47.自由落下ミソッカス

 真っ暗だ、クロすけが居そうなほど真っ黒々になった。クロすけと言ってもこの頃提督業に忙しくてハゲそうなクロノのことじゃない――以上無限書庫長という名を冠した社蓄戦士ユーノきゅんからの情報。いやいや、そんなことどうでもよいんだよ。

 ついさっきクリスタル的なものをぶっ壊した直後電気が落ちた。窓もないのでもちろん完全な暗闇になってしまったけど、これ間違いなくこの部屋は用済みだから非常電源があったとしても回してないんだろうなぁ。

 適当に手を突き出して探ってるとぷにっとした感触が……ぷにっ? あぁ。

 

「ぶふっ、ナナシどこ触ってるの」

「どこって……ほっぺだろこれ。断じてトラブってなんかないぞ」

「正解だよ! よくわかったね!」

「よく引っ張り引っ張られしてるしなー。それにしても真っ暗だ……仕方ない、俺の魔法でこの暗闇を照らしてしんぜよう!」

「わー、ミソッカスの最先端がなにするか楽しみだナー!」

 

 おう、なにも見えてないのに生温かい視線が向けられてるのがわかってしまうのが悲しい。なんだアリシアだって五十歩百歩のミソッカスなのに解せぬ。

 

 まあ俺はプレシアさんに『ミソッカスというよりミソッカスの搾りカスね』とか言われるほど魔力ないんだけどね? ミソッカスから搾り取ったら何が残るんだ、カスすら残るのか甚だ疑問だった。あの人は何も残らないならスッキリして良いわねとかイイ顔で言いそうだから聞かなかったけどさ。

 

 取り敢えず……えー、なんだ。そうだデイブレイカーデイブレイカー、中々使わなさすぎて忘れたんだとかじゃなくて度忘れ度忘れ。それー、セットアップ……今のバリアジャケットどんなだったっけ?

 

「ほい、試験用改プログラムθ回復魔ほ――名前長いな、えーとθ回復魔法」

《vcaw%mgd≠mg+7io&q64wlg6$tgaqd+》

「ちょっ、デバイスからバグったみたいな音声出てるんだけど!?」

 

 アリシアのツッコミを放置して魔法を発動する。するとどうだろう、みるみる俺の身体が光り出すではないか……信じられるか、これ、回復魔法なんだぜ……?

 具体的に言えば約十年前にプレシアさんと初めて出会った日に調子こいて魔法のプログラムを弄ったときの失敗例のひとつ、失敗例というか成功例とかないんだけどさ。いや、これでもマシな部類だって。他は発射前に爆発したりバリア張ろうとしたら爆発したり、爆破オチなんてサイテー!

 

「――で大体ナナシはデバイスの使い方……ってうわっ!? なんかナナシの身体が頭から蛍光塗料被ったみたいになってるよ!?」

「明るいだろ? キラキラキラキラ輝くの」

「無敵?」

 

 いや、そんな配管工や王妃みたいな効果ないし、むしろ光って魔力失うだけで疲れるだけだ。回復効果は気持ちあるかないか……回復魔法ってホントなんだろう。

 

「たしかに周りが明るくなったのですが回復魔法でそんな結果になるナナシさんの未来が明るくなさそうです!」

「ツヴァイ屋上」

「聖王のゆりかごの最上階のその上、そこでななしさんとのラストバトルですか……氷タイプの私ですけどこれは燃える展開なのです!」

「速報、ナナシの死亡決定」

「せめて悲報にしろ」

「ツッコミは、そこでいいのか……?」

 

 たぶんよくないけど細かいこと気にしない。しかし光によって辺りは照らされた、さあ出口へ向かお――あ、魔力尽きた。

 再び辺りは真っ暗だ。

 

「……なにやってるの?」

「いや、むしろAMFが発動してるなか1分ももったことを誉めてほしい」

「キャー! ナナシってば出来る子! よっ、ミソッカス!」

「ハハッそんな誉めんなよ、傷つくだろ」

「私もブーメランだから自爆すぎて辛い。だれか、誰かこのなかに魔力をお持ちの方はおりませんか!」

「辺りが、周りが暗くてなにも見えないんだ!」

「そこで華麗にツヴァイが参上なのです! 私の時代が来ました!」

「今度はツヴァイの身体が輝く番と?」

「もっとだ、もっと輝けぇぇぇぇ!」

「か、輝けないのです! 普通に魔力を弾で照らします!」

「神様フィンガーは?」

「それなら、私が……AMF環境下じゃなければ出来る」

「出来るのか……」

 

 なんだろう、もう身体使う技なら武術と魔法を合わせれば大体出来るんじゃないだろうか……まぁそんなことはいいや。

 ツヴァイが出した大量の魔力弾を辺りに展開し――ブルジョア魔力め――眩しいほど明るくなった。よくよく見ればリインが破壊したクリスタルが結構な重量で床に叩きつけられた際に、床にクリティカルダメージを与えてしまったらしい。

 

 そこから罅がピシピシと床が崩れた。突如足元が崩れて、隣にいたアリシアが落ち――させるか、とうっ!

 

「えっ、あっ……」

「キャッチアーンド! あっ、これ戻れねないわ」

「ちょっ」

 

 落下を始めたアリシアに手を伸ばし届いた、そしてまぁ半ば飛び出して手を掴んだわけだから俺も引っ張られて落下開始。自由落下、重力さんにぐんぐん吸引されて下へ下へ。崩落した瓦礫によりさらに下の床も突き抜けその連鎖は止まらない。

 

「ギャァァァ!? アリシアヘルプ!」

「た、助けに来てくれたんじゃないの!?」

「アーイム! 魔力切れ!」

「ばばばっ、おバカー!」

「う、うっせー! つい反射的に飛んじゃったんだよ!」

「魔法的に飛べてないけどね!」

「上手い! 座布団やるよ」

 

 倉庫に入ってるからやるよ。ほら飛ぶためのもの入ってないけどな!

 

「やったー! っていってる場合じゃない! こうなったら私がセットアップ! ……あ、私もリインとユニゾンしたからAMF環境下で魔法行使できるほどの魔力がない」

「……ヤバイ?」

「……超ヤバイ!」

 

 今、俺の願い事が叶うならば、翼が欲しい、です――切実に。

 崩落した動力室に俺たちの悲鳴が木霊した。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ゆりかごに内部全域にフィジカルパンチの衝撃が伝わった同時刻。ホラーハウスを消し飛ばした二人の魔法少女(19)はついに最上階の扉前へたどり着いた。如何にもボス部屋という雰囲気を醸し出している。

 ふぅ、と一息つくなのは。扉へ押し当てた手は少し震えている。怒りか疲労かはエースオブエースのみぞ知る。

 

 ガチャリと扉を開けば、スカリエッティが待ち構えていた。

 

「フハハハハハハハハハ! ようこそ、最上階へ!」

「取り敢えず、逮捕で。抵抗してもいいんですけどちょっと主に私たちの腹の虫の居所が悪いので、いきなりブラスターリミットスリー解除しちゃいますよ?」

「ザンバーの腹で叩くとかじゃなくって斬っちゃうかもしれないので抵抗せず投降してください……あっちで録画してるエリオとキャロのデータは証拠物件として回収してきますね?」

「……フェイトちゃん?」

「じ、ジト目で見ないで! 執務官の仕事だから、エリオとキャロが可愛いからとか私情もあるけどそれだけじゃないから!」

 

 因みに室内に入ってなのはが一番に見つけたのは部屋の中央にいるスカリエッティ。それに対してフェイトは部屋の隅の数あるモニターのなかに映し出されたエリオとキャロの姿である。

 

 ――テスタロッサ家の血には抗えない。

 

「ふむ、投降するのはやぶさかではない。だがその前に君たちにはここへ一番にたどり着いたので、宝を与えよう……まぁ、受け入れてくれるかは君たちに任せよう」

「受け取るでなく受け入れ……ですか?」

「さすがプレシア女史の娘だね、聡い」

「フェイトちゃん、フェイトちゃん。受け取ると受け入れるって違うっけ……?」

「なのははちょっと待っててね? えーと、ほら私が執務官としてスカリエッティと話すから」

「フェイトちゃんに雑にあしらわれた!?」

 

 その場で三角座りし地面に()の字を書くなのはを横目に会話を進める国語偏差値が平均以上の二人。

 

「言葉の通りさ、この子を受け入れてくれれば嬉しい。行けヴィヴィオくん! たぶんママだ! パパがいなくてママが二人いるがママに違いないぞ!」

「えっ、この子……?」

 

 響き渡るトテトテトテト! という如何にも体重の軽い幼女が走るかのような足音が響き渡る。それはなのはたちが入ってきた扉の方から聞こえた、きっとなのはたちが通る間も身を潜めていたのだろう。そして駆け足のまま飛びつく、三角座りしていた高町なのはへと。

 

「ママー!」

「ふえっ? えぇぇぇ!? あれ、どうしたのこの子!? 迷子、なわけないよね!?」

「縁あって私たちが面倒を見ていた子なのだがね。如何せん私たちは犯罪者、その子に胸を張って背中を見せれない。だから私たちの身柄と引き換えに親代わりになってもらいたい、もしくはしっかりと彼女を育ててくれる親を探して欲しい」

「管理局で見た貴方の人物像とは大きく食い違う性格ですが演じているわけではなさそうですね……恐ろしく似合いませんが」

「娘にも言われたよ」

 

 フッと肩を竦めるスカリエッティを見ながらフェイトは直感する。口にはしないが自分の準親バカセンサーが伝えてくるのだ、本当にこのヴィヴィオという子を思っての言葉だと。ならば真摯に聞こうじゃないかとフェイトは管理局員でもなく執務官としてでもなく、ひとりの親として話す。

 ……それがこの場にいる高町さんにとって良いか悪いかは置いておく。主に言葉が届かなくなる可能性が高いが置いておくったら置いておくのだ。まぁ少なくともヴィヴィオにとっては良いことだろう。

 

「まあね、私もひとつの出会いによって大きく方針転換をしたのだよ。だがそれまでしたことを無かったことにするつもりもない、自慢の娘たちには胸を張って生きたい父としての思いがあるからね」

「そうですか……わかりました、ヴィヴィオは責任をもって育てます」

「私の名前はヴィヴィオです! ママー!」

「あ、えっーと、いい子いい子ー。私は高町なのはだよ……ってフェイトちゃーん! 私も話に混ぜて!?」

 

 キリッとした顔で言い切るフェイトになのははツッコミを入れるがやはりフェイトには届かなかった。マルチタスクはエリキャロ(わが子)なのはと私の子(ヴィヴィオ)(予定)に埋め尽くされてるようだ。

 

「母親が二人という状態ですがきっと立派に育てます」

「ああ、頼んだよ」

「あれー、ここに来てからフェイトちゃんが私と言葉のキャッチボールをしてくれない気がするの……」

「あぅ、なのはママ元気だして……?」

 

 ショボンとするなのはにヴィヴィオが近づき頭を撫でる。天使に見えた、子は宝というが宝よりも大切ななにかなんだろう。なのははこの時そう感じた、そしてヴィヴィオを立派に育てようと心に決めた。ハグッ、とヴィヴィオを抱き締めるなのは。

 

「ヴィ、ヴィヴィオー! 私、立派に育ててみせるからね!」

「ひゃっ、く、くすぐったいよー!」

「微笑ましいかぎりだね」

「ええ、そうですね。十二時三十五分、ジェイル・スカリエッティ逮捕です」

「……躊躇いなさすぎないかい?」

 

 なにはともあれジェイル・スカリエッティ逮捕――実はスカリエッティの他の娘たちはこの直前にゆりかごより抜け出しており自首してきていた。これにより恩情措置があったとかなかったとか、というよりもこの娘たちが何かしたという証拠も殆どなく更正プログラムを受けることとなる。

 

 オチとしてはこの後レリック製の玩具やなんやらがわんさか出てきたせいで、スカリエッティの余罪がてんこ盛りになったりするのだがそれはまた別のお話。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 死ぬかと思った。抜けた床は本当に真下まで穴が開いていたようで聖王のゆりかごより放り出された俺とアリシアは自由落下に身を任せていた。下は海なのだがどう考えても高度的に叩きつけられたら無傷じゃすまない状況だった。

 

 やれやれ仕方ない、ここは一か八かのウルトラCを決めてやりますかと二人して開き直ったその時――真上より高速で飛来した銀色が俺たちを抱き抱えた。言うまでもなくリインだった。 肩に乗っていたツヴァイが海の一部を凍らせ、リインフォースは魔法により落下速度の減速を行いながら氷上に滑るように着地。ここまでリインにキャッチされてから5秒である。

 乱れた髪を海風に靡かせつつ俺たちの安否を問うてくるリイン。絵になっててカッコよすぎる、惚れそう。

 

「二人とも、無事か?」

「やべぇ……リインが男だったら惚れてた」

「それ私の台詞だから、ナナシが男に惚れたら駄目だから。私がリインが女だったら惚れるんだよ」

「お二人とも混乱してるのです……」

 

 ここから数分間なんか元々言動がおかしい俺たちの更に言動不確かな会話があったらしいが忘れた。

 とにかく命の危機を脱し、落ち着きを取り戻したのでリイン姉妹にお礼を言う。

 

「いえいえ、でもやっぱりツヴァイの時代が来てたようです!」

「いやー、二人とも格好いい主人公みたいだったよ!」

「えっ、なら俺たちがヒロイン?」

「ナナシがヒロイン……いやぁ、ないかな」

「ない、ね」

「ないのです!」

 

 俺もないと思う。はてさて……ここ海上ど真ん中なんだけどどうやって帰ろうね?




ここまで読んでくださった方に感謝を。
主人公はリインかもしれないと思うこの頃。そしてフェイトごめん、やっぱり貴女プレシアの娘よ。
あとスカさん逮捕が割りとアッサリですが、実は彼、割りとやりたいことやって一種の賢者タイムなんでまた留置所にいても欲がわけばイランことします、きっと。

あとは後日談で色々語るくらいでしょうか、ゆりかごがどうなったのかとかヴィヴィオのこととか。未定の予定ですが完結は近い。なんやかんや半年たってますかね、長い。

お久しぶりです、なんやかんや二週間ほど開いてしまいました。
そして今日の活動報告で書いた筆も洗う暇なく投稿する作者、投稿しないしない詐欺でしょうかね。

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