ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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45.たゆんたゆん

 ――ゆりかご内の5%が損失しました、繰り返します。ゆりかご内の5%が損失しました。

 

 そう鳴り響くアナウンスにもう諦めの域に達したため息を吐く。わかっていたさ、彼女達が来ることが決まったときからこうなることはね。だからこそ、ある意味での全力を注ぎ込んだホラーハウスに案内したわけなのだが……後が怖いなんてことはない。責任は分散されるようにしたからね!

 

「しかし、ホラーハウスだけでなくその一帯を吹き飛ばされるとはね……あれを受けて生きているナナシくんやリインくんはどうなっているんだろうね?」

 

 彼女たちのコンビネーション攻撃がオーバーキル過ぎた。ゆりかご内の1%にも満たないホラーハウスを吹き飛ばすのにあの威力はないだろう。防衛機能として一時的にAMFが展開されなかったら、今頃ゆりかごの2割は消し飛んでいた。非殺傷設定とはなんだったのだろう、死なないだけで死ぬほど痛い設定とか、人が死なないだけでバンバン破壊します設定という名前に変更しないかい?

 

「ドクター、赤髪とピンク髪のチビッ子たちは素直に観覧車に続いて、ジェットコースターに乗ってくれてるぜ」

「ふむ、楽しんでくれているようでなによりだね……いやぁ、胃に優しい子達で本当になによりだ」

 

 ディエチが案内に行ってくれたのだが意外にもちゃんと遊具に乗っていってくれているようだ……うん、本当に素直な子達だよ。そのまま真っ直ぐに育ってほしいものだ。

 

「ドクター! トーレ姉が勝手に出撃しちゃったッス!」

「ジッとすることが出来ないのかい!?」

「あたしに言われても知らないッスよー! しかも既に桃色侍とチャンバラ始めちゃってるッス」

「……もう、いいよ。楽しそうだからいいとしようじゃないか」

 

 決して諦めたわけではない。ただ、あの桃色侍もとい夜天の書の守護騎士シグナムもとても楽しそうなのだよ。何故かあそこだけガチ戦闘が始まってるが楽しそうなら止めなくても良いだろう、存分に楽しんでもらおうではないか。

 ただ、あまり壊さないでほしいのだかね……損壊率がジワジワと増えていく。

 

「ノーヴェ姉様、セッテもウズウズしてるんだけど離していいでしょうか?」

「ディード、そのまま押さえとけ。セッテはトレ姉の影響をメッチャ受けてるからなぁ……離したら多分あそこに混ざっちまうだろ」

「大丈夫だよ、リベンジ! リインフォース・アインスに対するリベンジですから!」

「余計に行かせられないよ」

 

 ディードにオットーも押さえにかかる。なんいうかクアットロまでの娘たちは、私の性質を色濃く受けているはずなのだがね。トーレはどうしてああなったのか。初めての戦闘技術に特化させた子だったから極振りしすぎたか……そういえばリインくん含めた面子は何をしているのだろうか。

 

 うん、普通に案内板を無視しているね。案内板を見つけるたびに無視している。ついでとばかりに聖王のゆりかごの機材や内装をバリバリと剥いでいっている。

 

「……ふぅ」

「ドクター、諦めてモニターを消すのは止めてください」

「ヴィヴィオくんと少し遊んでくるよ! ウーノ、少しの間まかせたよ!」

「行かせません」

「だよね、知ってたよ。まぁ、実はこれはこれで面白いから問題ないんだけどね」

 

 それを聞いたクアットロがいやらしげに笑みを浮かべて問うてくる。

 

「はっきり言ってドクターはこのゆりかごが落ちてもいいと思ってるんですよねぇ?」

「ああ! 聖王教会あたりの人間たちが阿鼻叫喚な顔を見せてくれそうで胸がワクワクして止まらないよ!」

「わかります!」

 

 つまりどう転んでも私にとっては――楽しいのだよ! 正直子供の笑顔と同じくらい人が『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』と言葉にもならず表情で表すのを見るのも好きでたまらない……

 

 

▽▽▽▽

 

 

 甘味、それは人を惑わす最たるものの一角に君臨するもの。食べ過ぎると体重計に乗るのが怖くなると女性たちからは噂されてるとか。スイーツ()を満喫したあとは体重(現実)を直視するのは怖いものだったりする。

 

 そんな酸いも甘いも兼ね備えた甘味を取り揃えたフードコートが現在進行形で蹂躙されていた。青髪の一人の少女によって、その手に嵌めた母譲りのデバイスなんてものは一切使わず、己が胃袋のみを使用し。

 

 甘味処を蹂躙制覇していた――!

 

「わぁぁぁ、ティア! ティア! アイスが食べ放題だよ! ほら、二十段重ね!」

「あー、もうっ! ちょっとは落ち着きなさい、ってもう食べたの!?」

「こういうスイーツ食べ放題って夢だったんだぁ……あ、ケーキ! やった、ホールごと食べられる!」

「……あの子の摂取カロリーはどこで消費されてるのかしらね、ときどき憎たらしくなるわ。その胸? 胸かしら?」

 

 言わずもがなスバル・ナカジマである。彼女が通りすぎたあとには一軒、また一軒、追加で六軒と材料が尽き潰れる店しか残らない。

 

「ティアってば、胸に食べた量を送ってたら破裂しちゃうって!」

「なら胃が熔鉱炉にでもなってるのね、食べた矢先から溶かしてエネルギーにしてるのね」

「あははー、食べても太らないからそうかもー」

「……」

「アイタッ!? なんで無言で叩くの!?」

「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ」

「イタタタ!?」

 

 きっと、どこかのモニターでこの様子を眺めている変態科学者は頭を抱えてる。

 甘味に魅いられた少女には世の中の常識なんて当てはまらないのだ。食べた質量が胃袋に収まりきるわけないなんて、そんなちっせぇ現実すらも食い千切り、軽ーくキロ単位のスイーツをぺろりと(たい)らげていく。

 スバル・ナカジマ、食欲の変わらないただひとりの少女……おっと母と姉がいた。今日もナカジマ家のエンゲル係数はファイヤー祭、毎日フェスティボーだ。実際問題として経済的には……実は無事である。なにしろ家族四人とも働いており、それなりに稼いでいる。割りと上手いこと回ってるのであった。

 

「けどこれが聖王のゆりかごね……これが古代ベルカの超巨大質量兵器とは思えないわ」

 

 ティアナは周辺を見渡し――また五軒分の甘味を完食した相棒を無視しつつ――そう呟く。兵器、なんて面影が感じられないほどファンシーな雰囲気に染まってしまっている。これを喜ぶべきなのか裏に何かあるべきと考えるべきなのか……取り敢えず食物に毒はなさそうなのだが。スバルがあれだけ食べて無事なのだ、いや常人があれだけ食べたら毒とかなくても死んじゃうのだが。

 

 

 一時間後。

 

 

 バンダナ少女はクールに去っていく。その場にはただひとつの食物を残さず……少女のいなくなった元甘味処にはどこからともなく木枯しが吹き抜けたのであった。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 振りおろされた刃を避けるため床を滑るかのように後退。しかし刃より噴き出された火炎が追い縋る。両手首の羽のようなブレードでクロスさせるように切り裂く。

 そして霧散した火炎の向こうから迫るは鞭のようにしなる連結刃の先端。眉間中心を突こうとするソレを首を捻ることで被害を最小に押さえつつ、今度は後退でなく前進を選ぶ。伸ばした連結刃の先端は速度が速くとも、その持ち主は即座に武器によるガードをすることができない。つまり絶好の反撃のチャンス――蹴りによる右足の二枚ブレードによる斬りつけ。

 

「――ガッ!?」

 

 斬りつけを行う直前、額に衝撃。揺れる視界のなか目に映るのは、鞘。それで額を打たれたのだ。体勢を立て直し腕のブレードの振り下ろしで再度斬りつけるが、既に鞭状連結刃より片刃の剣状に戻されたそれで防がれる。火花を散らし鍔迫り合いをするが、斬り合うため、ではなく切り裂くために設計されたようなブレードでは分が悪く弾き上げることで仕切り直す。

 

 一見、刃も相手の獲物に比べ脆く不利にも見える。だが、両手両足についたブレードは体術を組み込むことで変則的な攻撃を可能としていた。

 

 弾きあげた勢いのままバク転の要領で間合いを取る――フェイントをかけ足のブレードで斬り上げる。しかし相手の反射神経的に首を仰け反らせ前髪を掠めるに終わる。切られた前髪が散り落ちる前に再び斬り合い始める。

 

「アハハハハハハハハハ! 楽しいな!」

「フッ、なかなか速いな! もっと速度は上がるか!?」

「上がるとも! ライドインパルス――!」

 

 問うまでもなく、言うまでもなくバトルジャンキーが二人。おっぱいがふたつ、いや一人は桃髪のポニーテールとおっぱいを揺らし剣を振るうシグナム。もう一方はスカリエッティ家1の脳筋、ショートの髪をなびかせおっぱいをたゆませブレードを振るうトーレ。

 

 横凪ぎに迫るレヴァンティンをブリッジのように身体を反らせ、自己主張の激しい双丘(おっぱい)を更に主張させながら間一髪で避ける。反撃とばかりに合掌と同じ動作で両手を振るい、ギロチンのように挟み込もうとするも剣と鞘に防がれ、その衝撃は二人のおっぱいを震わせ――以下略。

 とにかくバトルジャンキー二人により、スカリエッティパークの損傷率は倍ドンとなるのであった。

 

 おっぱいおっぱい!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ちょっと行き掛けの駄賃ってわけでもないけどお宝の山、もとい元聖王のゆりかごのそこらをひっぺがしては回収していると道に迷ってた。

 迷ってたんだけど、そのことすら気づかずに右へ左へ進んでた俺たちは途中でホラーハウスって書かれた看板を見つけた。ただし何故か焼け焦げて道端に落ちてるんだが。

 

 辺り一掃、高火力砲撃……なのはか? いや、なのは一人だけじゃない感じが。なんかコンビ技的な……ウッ、頭が。

 

「な、なーんか背筋がブルッとした」

「ここ、震えが止まらない……」

「ナナシとリインがなんか震えてるよ!?」

「携帯のバイブみたいです! なにか着信しましたか!?」

 

 いや、これはあれだ。なんか電波的なアレをキャッチしたときというよりも、プレシアの地雷をポチってしまったときの感覚に似ている。経験則からくるトラウマスイッチが無意識に押されてしまったというのか……いったいここでなにがあったのか。

 

「何があった、というよりも何もないよね」

「他は割りとファンシーなところが多かったですけど、ここだけ荒れ果てた世紀末って感じです! はわっ、ツヴァイもモヒカンにするべきでしょうか!?」

「リインあたりは、この拳王には無抵抗は武器にはならぬ! とか言うのか?」

「この頃、私が武道派という風潮をどうにかしたい……武術的なのじゃなくて、ダンスとかしようかな」

「キラッ☆」

「それ歌姫です!」

 

 しかし相変わらず寒気が止まらないので移動することにする。たまに行き止まりに突き当たるわけだけど、リインパンチで横をくりぬき、クイックバスターで撃ち抜いたりでショートカットショートカット。器物破損的な犯罪に当てはまる? いやいや、聖王のゆりかごってほっといたら危ないかもしれないじゃん。なのでちょっとでも機能停止に近づける手伝いしてるだけだから。

 

「また案内板なのです!」

「よーし反対側に行くよ!」

「やってまいりました、再び剥ぎ取りのお時間です!」

「固いのは、私が剥ごう」

「さすがのツヴァイも、もうこの流れは読めてました!

私のエターナルブリザード的なアレも火を噴かせますよぉ!」

「氷の技なのに火だと?」

「しまりました!」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんか場面がコロコロ変わるわ、戦闘始まるわおっぱいで少し話が短くなっており、建前上すみません。

なんか投稿できました。けど二月は基本不定期かと。

ps.おっぱいの表現もっと頑張ろうと思いましたがなんかそれは他に投稿してる作品で頑張ればいいやと諦めました。作者は大小関係なく愛します。

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