小さい子、いわゆる幼児たちの体力は無限ではないかと思うこの頃だ。走り回って走り回って走り回って、止まるなんて文字は辞書に備えてなく飽きるの文字しかない。無限の欲望の二つ名を持つ私も真っ青だ。
興味の対象は次から次へとあちらこちらへと移り、目を離すとどこへいったのかわからなくなってしまう。わからなくなってしまった……
「ま、マズいッスよドクター! ドゥーエ姉が出掛けてる間、ヴィヴィオを任されていたのに見失ったとなればドゥーエ姉に引き裂かれるッス!」
「おおお、落ち着きたまえ! ドゥーエが帰ってくるまで一時間、ラボ内から出ていると言うことはなかろう! 手分けして探すのだ、ヴィヴィオくんどこだーい!」
「ゴミ箱の中にいるわけねぇだろ! 落ち着けドクター、汚れるぞ!」
はじめはしっかりと見ていたのだよ? しかしヴィヴィオくんの体力は無尽蔵だった――駆け回る彼女に着いていけずまた一人また一人と倒れふし、このザマだ!
「セインちゃん! 潜って探して来……ああ! レリック回収に行ったんだったわ……!」
「……ヴィヴィオにGPSみたいなのはつけてないの?」
「そ、それよディエチちゃん! ドクターさっそく追いましょう!」
「それだ……!」
そう言われモニターで位置を追うと……あぁ、これは嫌な予感しかしないぞ。ジッとしていてくれたまえ、お願いだから……無理だろうなぁ、ヴィヴィオくんったら私並みに好奇心旺盛だしなぁ。
「それでどこにいるんですのドクター!」
「…………ガジェットドローンVI型保管庫だよ」
「えっ」
不味いぞー、これはヴィヴィオくんが興味本意でそこらへんのボタンをポチポチ押すオチだろう? 私もそこらへんはわかるようになってきたさ……あぁ、ラボに警告音が鳴り響くなぁ。外部設置のカメラより送られる映像を映すモニター。そこにはポップな音楽を鳴り響かせながら、空を駆けていくアニマル型ガジェットドローン。
行き先は六女たるセインがレリック回収に向かっている列車。
「まぁ、うん。セインの手伝いになると考えれば上々じゃないかね?」
「あの、ドクター……隠密で盗るためにセインを向かわせたんじゃないんッスか?」
「セインちゃんから苦情の電話よぉ。大量のガジェットVIが機動六課の隊員を連れてきたって、はい」
『ど、ドクタァァァ! 何しちゃってるのさ! こんなに派手にやるなら私がでなくて良かったじゃん! トーレ姉が適役じゃん!』
「すまない」
『いや、すまないじゃなくってァァあぁぁぁ!? ちょ、ピンクの砲撃でいとも簡単に落とされてるんだけど!? AMFはどうしたの!?』
調整中のものが出ていってしまったようだ。っと、オットーとディエチがヴィヴィオくんを連れ帰って来てくれたようだ。これでひとまずは安心というものだ、ひとまずは。
「本当にすまない、まだ設置していないのが行ってしまったね、すまない」
『圧倒的に足引っ張るだけだよ!? あ、ヤバっ中まで来られ……とにかく帰ったらウーノ姉に言いつけるかんね!』
ブチンッ、と切れた携帯を机に置き考える。これは難しい問題だ――
「ふぅ……私のミスでガジェットを送ってしまったことにしてウーノに叱られるか、素直にヴィヴィオくんが迷子になってしまったと伝えてドゥーエに怒られるか」
ふと肩に手を置かれ振り返ると娘たちのなかでは一番末っ子のディードが立っていた。私の肩に当ててない方の手を上げ、いわゆるグーサインをする。
「なにかいい策でもあるのかい……?」
「ないです! 諦めて怒られましょう!」
清々しいほどの笑顔でグーサインを逆さに向けた娘を見て、うん私の娘と実感したよ。
結局ウーノとドゥーエの二人に叱られることになり、チンクにもお小言を貰うこととなった。
「ドクター? げんきだして、ね?」
「ハハ、ヴィヴィオくんは優しいなぁ……」
「ドク、ター……? はいになっちゃった……」
少し……休もう。次に目が覚めたら、ドキ☆空飛ぶスカリエッティパークを造るの、だよ……
▽▽▽▽
先日アリシアと話していたことなのだが新しいなにかを作りたい。取り敢えず拠点防衛に使えそうなものを作る、前にどんなものがいいかの話し合いを始めた。
始めたのが約一日前、固定砲の設計図を描くことを決めたまではよかったのだが……
「だからぁ! 固定砲は威力を重視するべきだって!」
「威力を重視しすぎたら連射性が落ちるって、外したときにカバーできんし防衛には不向きだろ」
「連射性は副砲でも付けたらカバーできるし! そもそも砲撃を連続で撃ってたら早々にエネルギーの限界も来るし、そもそも砲身の熱をクールダウンさせる暇がなくなって駄目になるよ!」
「んなもん魔力炉自体に繋ぎゃなんとかなるだろ、砲身は数用意してインターバル入れつつ回せばなんとかなる。そんための連射性だ」
意見が分かれた。珍しく中々擦り合わせることも出来ずに夜がふけ朝となり昼となった。いや、少しずつまとまってきてるんだけどね?
「むぅ、確かに魔力炉さえあればエネルギーの問題は解決だけど……砲身の方はいずれじり貧になると思うよ? いくらクールダウンさせても、最悪気温自体が高いと熱が中々逃げないし」
「まぁ、そうだな」
「んー、切り替えが出来るようにすればいいんだけどそうすると結局なぁ……防衛といえど相手の制圧は出来る方がいいし」
たしかに防衛といっても守ってばかりではどうにもならんか。ちょいと増援が来るまで耐えるって形でしか考えてなかったな。そういう考え方ではアリシアの攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの、火力重視も的外れじゃない。
「いや、連射性を重視したもので弾幕を張って誘導して……」
「高火力の砲台でズドン、これだよ!」
「タカマチ式防衛システムと名付けよう」
ディバインシューターで誘導、バスターでとどめを……うん、教導とか見に行ったときよくやってた。い、いやー、発想の元は身近にあるもんだな!
「よし、固定砲はこれでいいか」
「まぁ、もっと煮詰めないと防衛しきれないだろうけどね」
「そもそも魔力炉がないと始まらないしなぁ」
「それにこれ作ってもどこにつけるのかって話だけどね」
そりゃそうだ。なんとなくで話し合いはじめたし、自分たちが使うとか全く考慮の外だった。
「あっ、テスタロッサ家につけたら完璧だね」
「ん?」
「母さんが魔力炉を作る、私たちが防衛装置を作る。もしもそれを越えられても、魔導師Sランクオーバーの母娘とその使い魔がお出迎えって寸法だよ!」
「なにそれ怖い、というか防衛装置いらねぇ」
「あっ……」
プレシアかフェイトだけで並の人間なら回れ右して帰るよな。それにプレシアに至っては魔力炉からエネルギー供給受ければ、限定的とはいえランクSSになるんだぜ?
「固定砲に回すより明らかに母さんが討って出た方が速い……!」
「この頃ラスボスみたいな扱いしちゃってるけど実際のところ凄い人なんだよな」
「まぁね、私の母さんだもん!」
っと携帯が震えて、誰だ……あっ、うん。
from:親バカ
件名:キタわ
本文:何故か急に力が湧いてきたから、ちょっと新しい魔力炉つくりあげるわ。あと今日の晩御飯はグラタンよ、アリシアに伝えておきなさい。
なんでコンビニに寄るくらいの軽さで新しい魔力炉作ろうとするんだろうか、なんで晩飯のメニューと一緒に報告するのか。
ちなみに現在プレシアがいるのは陸の部隊である。レジアスさんに零から十まで全権限を持てるなら、プレシアさんが防衛装置作るのに手を貸すと言ってたと伝えたところ一度話し合いたいと言われたのだ。それが今日で今ごろ話し合ってるはずだ、話し合いになってるよな?
しかしあの人、陸の実質的なトップと話しながらメール打ったのか。
「晩御飯はグラタンだってよ」
「やったー! ……でもその前に私は一旦寝るよ」
「俺も寝る、徹夜は慣れても眠いもんは眠い」
「睡眠取らないと、成長期な私の成長が止まっちゃうかもしれないしね!」
「……そういや、だいぶん伸びたよな」
なのはたちが160cmほどあるのだが、今やアリシアもそれに負けず劣らずの丈になっている。随分と長く一緒にいるもんで変化がわかりにくいが、お互いたしかに成長している。
「ちゃんと成長してよかったな」
「全くだよ、私と一緒で身体の成長までお寝坊さんだったらちんちくりんのままだったしね……ナナシにほってかれたくもなかったし」
「ハハハ、おいおい、既に170cmを越えた俺を睨むなよ」
歯をギリギリ言わせつつ睨んでくるアリシアを笑う。未だに顔ひとつ分くらいの差があるので追いつかれることはなかろう。こふっ、アリシアが軽いパンチを打ってくるが鳩尾にジャストヒット……もう少し伸びるか縮むかしてくれ。
「ま、あと少し伸びてくれれば満足なんだけど」
「プレシアさんやフェイトを見てるにそろそろ止まるだろ、プレシアさんからの遺伝子が親バカ発揮して成長にブースト掛けなきゃな」
「静まれぇ母さんから引き継ぎし遺伝子ぃぃぃ……!」
身体を抱くようにしてプルプル震えてるがそんなもので成長具合が変わって堪るか。
「……あ、そういや前に自己防衛としてAMF的な効果備えたチャフとかどうかって話してたよな」
「うん、でもAMF自体が魔法として難しいし独立した機械に組み込むとなると更に難易度が上がっちゃうんだよね」
「それなんだがスカさんのガジェットドローンにもAMFがついてるじゃん?」
「うん」
「そして俺の倉庫にスカさんのガジェットドローンが入ってるわけよ――つまり」
「よしっ! 解体しようか!」
「よっしゃー!」
寝る予定を踏み倒し続行。
取り敢えず俺の倉庫に入ってるが、操作はできず出すと自立して勝手に動くので下準備から。まずは工具類を用意し剥き出しのコードから電流をバチバチ、倉庫から頭のみ出したガジェットドローンに当てて――ショートさせる!
なんかこれビデオかテレビで見た、電気で昏倒させから豚を解体してる作業を思い出す。
「数はある、次々かっ捌いてやろう」
「ウフフ、ほっほーう、ここがこうなって……あぁ、魔法を組み込むんじゃなくて完全なプログラムとして、いやあの人変態だけどホント変態的に天才だよね」
「ゲッ、発動とするトリガーとする魔力すら込めずにどうやってんの? これ、なんだ、電力を変質させて魔力と誤認させてるのか……?」
「魔力の電気変質を逆転させてるのかな、いや発想と技術の格の差が思い知らされるなぁ……なにこれ?」
「スピーカーだな」
ファンシーな音鳴らすあれだ。無駄に性能良さげなの使ってやがる……! 幸い電流を流したわりに無事なので、部屋で音楽聞くのに使ってやろう。
「だがこれをチャフにつけるとなると」
「チャフって形は難しいか、室内用に設置型ならともかく……」
「いや広範囲を無効化出来るようにせず、人ひとり分を覆える程度のバリアとしてなら」
「手持ちサイズの極限定範囲に絞ればいけるか……?」
チャフのような電波欺瞞紙ならぬ魔力欺瞞紙ではなく、魔力でない機械で魔力を無効化するバリア。これなら逃げながらでも使えるし、ああこっちの方が良さそうだ。
「そう上手く作れるかは別だけどねぇ、トライ&エラー、試行錯誤の繰り返しをしないとね」
「仕事の合間にやる感じか」
「いやいや、私たちはフリーじゃん? だからこれの合間に仕事をやる感じで」
「うへぇ、楽しいからいいけどよ……一機残らず解体してやる……!」
「よっし、今度こそ寝よっか。母さんが帰ってくるまでに一息ってことで、晩御飯に備えよう!」
そうしてお互い部屋に戻り寝たわけだが、この間にもピンクの砲撃がガジェットドローン(AMFなし)を凪ぎ払っているとは露ほども知らぬのであった。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
セイン、ISディープダイバーで地に潜り全力逃亡の巻。振り返るな、振り返るとピンクと金色がやってくるぞ――!
ギリギリ一週間以内に投稿できましたが、これから少しばかり忙しくなるのでペースが落ちるやもしれず申し訳ないです。また、結構間隔が開きそうな場合は活動報告にて報告しております。