37.始まりはいつも唐突
はやてが古代なんとかかんとかって部隊の設立が決定してフェイトやなのはがそこの部隊長的な立場として出向することとなった。
完全な身内部隊ワロタってはやてに言ったらこれで仕事サボり放題やでって言い返されたので早くクビにならないかなと思う今日この日この頃。まぁそんなこと言いつつ目ぼしい人材を確保しに行ってる腹黒★子狸なんだけどさ。ナカジマ夫妻の娘、その妹の方もロックオンしてるとか。
「なんでそんなこと知ってるの?」
「ヒゲアスさんとかに愚痴で聞かされた。小娘に金の卵をとられそうで胃が空っぽになってそろそろ飯も食いたいとか。婆さん飯はまだかのう?」
「やーねー、前世で食べたじゃない!」
「いや今世でも食わせろよ」
いや、そうじゃなくてだな。ネタ振ったの俺が悪いのか、ツッコミを入れずネタを被せてくるアリシアが悪いのか永遠のなぞだぜ。たぶん俺が悪いんだけど。
「でなんの話だっけ?」
「はやてが設立するっていう部隊に陸士からも人員をちょいとばかり確保してて陸のおじさんストレスマッハ」
なんか少し前から色々と大変らしい。本来陸の人員不足解決のために投入する予定だったアインヘリアルってやつ……詳細は名前しか知らないけどなんかソレを作る予定だった科学者もトンズラしたそうな。気が休まるのは昔からの友人と酒を飲んで語り合うときのみだとか、誰かあのおっちゃんに休暇をあげて。
「大変だねぇ、科学者といえば母さんだけど母さんは研究職がお株だし……」
「そうね」
「うぉ!?」
さも当然のように現れたプレシアに戦慄……! そういや今日は仕事休みだったのか。しかし娘の話題に出たからって気配なく瞬時に現れんなよ、心臓に悪い。
「大丈夫よ、あなたの心臓が止まったら電撃で消し炭にしてあげるわ」
「そこは電気ショックで除細動だろ、なんでお手軽火葬しちゃってんの? 蘇生処置なしで火葬直送しちまってんの?」
「近頃仕事が忙しいせいでアリシアといる時間があなたより短くて嫉妬の電撃が胸を焦がしてるのよ」
「ここで私がナナシに抱きつきでもすればデスゲームが始まるのか……ゴクリ」
「ゴクリじゃねぇよ、止めろ死ぬぞ俺が! こんがりだぞ!」
口に出してゴクリとか言うな。生存率0%とかまさにデス(確定)ゲームで笑えない、俺にも生存のチャンスをくれ。そんなことを考えているとプレシアがアリシアを背後から抱く、いわゆるあすなろ抱きだ。するとさっきまで眉間にシワの寄ってたプレシアさんがあら不思議、パァァァァって効果音があってもいいくらい輝いて表情も和らいだ。親バカ拗らせて娘が麻薬みたいになってない? たぶん今プレシアの上に体力ゲージがあったら一気に回復した。
「もう、一生アリシアとフェイトをこうして抱き抱えておきたいわ」
「待って母さん、さすがにそれは私も困る」
「てかプレシアさん疲れてね?」
「当たり前よ、娘と接する時間が少なくなれば疲れるわ……」
そうだね、疲れからか歳か――なんか肌にビリッとしたやつがきたヤベェ――プレシアの肌とか乾燥してきてたのにアリシアに抱きついてると潤い始めてるもんな。
……人の枠超えてない? アリシアとフェイトさえいれば永遠に生きてそう。
「フェイトはフェイトで忙しいからね、母さんも忙しいし休みが合うことが少なくなっちゃってる」
「仕事辞めようかしら……アルフ、ちょっと私の代わりに行ってきなさい」
「うぇ!?」
たまたまリビングにやってきたアルフに無茶振りするなよ。口に加えてたビーフジャーキーがポロリと落ちたし。
なんか今はオッサン臭さ漂っちゃってるアルフなんだが、近頃は子守りのバイトとかしているらしい。ジュエルシード集めるときとか海鳴でフェイトの面倒を見てたり見られたりの関係だったらしいけど思い返せば楽しかったらしい。エリオやキャロが来てたときもよく一緒にいて楽しかったみたいで子供の面倒を見る仕事を探したそうな。まぁ何かと面倒見のいいアルフだったのですぐにバイトが見つかり採用された次第である。
「……そういえばアルフも海鳴ではフェイトと二人きりだったわね、嫉妬の落雷で胸を焦がしたいわ」
「それ焦がされるのあたしだよね!? というか見境なさすぎないかい!? ナナシあんたちゃんと避雷針になりなよ!」
「無茶言うな、ただでさえこの頃愛娘と接する時間短くてカリカリしてるプレシアさんってば今漏電激しいんだぞ!」
漏電の対処法は娘、アリシアがいなきゃ俺とアルフは今頃逃亡中だ。
「はぁ、面倒ね。あなたたちの友人の八神はやてに機動六課に出向しないかとか陸から人員不足なので防衛のための開発の手助けをしてほしいとか言われてるのよ。だからアルフ、任せるわ」
「あたしには無理だよ……ナナシ任せたよ」
「だからなんで俺に振るんだ、プレシアさん頑張れ」「焼き払うわよ」
「アリシア頼む」
「母さん、お願い」
「仕方ないわね、任されたわ」
予定調和だがなんか一部おかしかった気がする。そう度々こんがり焼こうとしないでほしい。てかプレシアさんも声かけられてたのか。
「一応管理局の研究所務めってなってるのよ……どうしようかしら、正直真面目に考えると私が機動六課に呼ばれる理由が不透明すぎるのよね」
曰く、過剰戦力過ぎると。ランクがちょっと雲の上の存在であるなのは、フェイト、はやてに守護騎士たちに他にも成長の見込みのある金の卵ともいえる人員を集めている……世界の終わりにでも立ち向かうのだろうか?
「その部隊ってロストロギアを集めるんだよね、なら母さんはそれの解析……はさせてもらえないか」
「あれじゃね、部隊防衛のための固定砲台として――ノゥ!?」
「あらごめんなさい、外したわ」
電撃でなくデバイスが飛んできた。アリシアを抱いてるから電気を使わなかったのかしれないがデバイスを投げたせいで逆にアリシアがむくれた。それはもうムッスーとしてる、それを必死になだめる母親とむくれる子供の図。
「こうして見ると普通の親子だな」
「あんな光景めったに見られないんだけど、プレシアが慌ててるなんてあたしからしたら天地がひっくり返るんじゃないかと思うよ……フェイトやアリシアが絡んでなきゃ」
同意する。でもそこに娘が絡んでたらならわかるよな。良くも悪くも二人の娘に愛情全振りしてるプレシアだしね、甘やかす意味でじゃなくて今あんなだけど割りと真面目な意味での愛情。
「あ、いや拗ねてる娘を物で釣り始めたぞ。デバイス関係の」
「アリシアもピクピク反応してるねぇ……」
「前に徹夜しておかしくなったときにはデバイスと結婚したいって言ってたしな、ユニゾンデバイスにワンチャンとか」
全力で止めといた。プレシアが泣くぞと、相手が人じゃないなら結婚しなくていいじゃないかって。相手が人だと母さんに焼かれるかもしれないじゃん! って返されたときはなにも言えなかった……いや祝福してくれるかもしれないぞ? 俺がなのはに模擬戦で勝てるくらいの確率で。ゼロか、うんゼロだな。
「あ、アリシアがプレシアに抱きついたね」
「感動の仲直りっぽいけどその実モノで釣り釣られてるという汚いシーン」
「サイレント映画なら涙なしには見られないんだろうねぇ……」
「音声ありきだとただのコメディだな」
……まぁ、親子だなとも思うけどさ。しかし髪の色が違うのが気になるんだけど地雷だよな? 今まで話題に上がりすらしたことのないオトーサンの遺伝とかそういうことだろうな。テスタロッサ家にオトーサンはいない、うん。
しっかし……プレシアって子離れできるときは来るんだろうか。来ないか。
「アリシアやフェイトが一人暮らし始めたらプレシアさん死にそうだな」
「愛娘エネルギー切れをおこしそうだね」
「で今度は研究の疲れだけ溜まってどんどん老けたりな、アッハッハ」
「アッハハ、ありそうだねぇ」
「フフフフフ、そうね」
「えっ」
「えっ」
「あちゃー」
……あらプレシアさんったらもうアリシアを抱き抱えてなくていいの? あ、充電完了ですか。イヤー、プルっプルのお肌若いですネー。
「言い遺すことはそれだけかしら?」
「……逃げるぞアルフゥゥゥ!」
鬼だ、電撃を纏う鬼が追ってくる――! 誰かヘルプ!
▽▽▽▽
困ったわ。唐突なんだけどかつてなく私は困っている。後ろには残念ながら私の親に位置するドクターと優秀な姉のウーノ、そして目の前には大きな瞳に涙を溜めて今にも泣きそうな小さな女の子――ヴィヴィオがいる。私もまぁ濃い面子の揃うスカリエッティ一家のなかでは常識的な部類という自覚はあるのだけれど、だからって子供に対する接し方なんて知らないわよ。これなら脳ミソやそこらの大人の相手の方が幾分わかりやすいわ……
早くチンクが帰ってこないかしら、あの子なら常識もあるし身長的にもベストじゃない。
「ママぁ……どこぉ……?」
「ドゥーエママ、行きたまえ!」
ドクターを[自主規制]したい感情をねじ伏せて表情だけでなく気持ちも入れ換える。幼い子供は理性的な部分より本能的な部分が強い。つまり勘が鋭いから表情だけ取り繕っても直感でこの人は怖いとか見破られるのよね、とんだライアーズ・マスク殺しだわ。
「ヴィヴィオちゃん」
「だ、誰……?」
「私はドゥーエ・スカリエッティ、えーと……そう、ね。貴女の」
何かしら? ママじゃないことはたしかね。別になってもいいのだけれど
「……どうしたの?」
「何でもないわ、私は貴女の味方よ。一緒にママを探しましょうか」
最悪私が保護者になるけど、まずは出来れば他の家族を探すとしましょう。
いえ、それにしても純粋な子供って面倒と思ったけど愛らしいものね。今まで汚い大人ばかり相手にしてて荒んでた心が癒されるわ。もう、さっきまで瞳に溜めてた大粒の涙は引っ込みキョトンとした顔をしている。感情の発露が素直なのね。
そう考えヴィヴィオを眺めていると後ろからドクターが顔を出し――
「ようこそヴィヴィオくん! 私のラボへ!」
「ヒッ!?」
「引っ込め、ドクター」
「ヘブッシ!?」
ヴィヴィオを怖がらせたのでビンタを張った。
「お腹が空いたわね、なにか食べたいものはあるかしら?」
「あ、あの人は……?」
「気にしなくていいの、娘の休暇を邪魔する人だから」
「まだ根に持ってたのかい!?」
もちろんよ。満喫してたのにそれをあんな脳筋トーレに引きずられてボロ雑巾みたいになって帰宅することになるなんて……!
ありがたいことにウーノ姉さんがヴィヴィオの耳を塞いでくれているので遠慮なく話す。
「ドクターが泣いてボロ雑巾みたいになるまで恨むのをやめないわ」
「せめて泣くまで殴るのをやめないくらいにハードルを下げてもらえないかい?」
「殴って許してもらおうなんて変態ったらドクターね、引くわ」
「そこはドクターったら変態、の順じゃないかい!?」
「どっちでも変わりないと思うの、ドクターイコール変態って公式のようなものでしょ?」
ウーノ姉さんがヴィヴィオをご飯に連れていってくれるのを横目に見つつ考える。ドクターのことではなく今後のことを。
ママを探すっていうのも嘘のつもりはないのだけれどもう少し待ってもらわないといけないから、ドクターの世界を変えるって野望を叶えるまでごめんなさいね。
「やっぱり私たちは親に向いてないわドクター、やっぱり一番が自分のことになってしまうもの」
「そうだね、マッドなところは多少変わったつもりだったのだがね……」
「根本は変えられないわねー、特にクアットロあたりまでの子はドクターから強い影響があるからどうしても一番が自分になるわ」
ホント、本当に不本意ながら四番目の娘のクアットロまではドクターの性質から濃く影響を受けている。何故かトーレだけその節があまり見当たらないのだけれどあれは脳筋なので放置しておく。
「だから手っ取り早く終わらしてねドクター、それからヴィヴィオちゃんの親を見つけて私は休暇を満喫するわ」
「ああ……すまないね」
「友達がいないドクターだし私たちが手伝わないといけないのはわかってるから……気にしなくていいわ」
「とてつもない勘違いをしてないかい!? 友人くらい……い、いるとも!」
「声が震えてるけど」
「震えてないさ、待ちたまえ今メールを――」
――噂をすればなんとやら、ということなのかちょうどドクターの携帯にメールが届き震えた。
from:ナナシ
件名:へるふ
本文:やばプレシあキレタ。電気まとたオニがおつてくふスカさnヘうプ!
無言で携帯をしまうドクター。もしかしてプレシアってあのプレシア……? それにキレられて追われてるって……消し炭ね。
「……お友だちからなのでは?」
「どうしても、自分のことが一番になってしまうね……」
「ソウネー」
ドクターのお友だちに黙祷。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
いつも通り特にストーリー的進展のないままStS編始まります。
あざむくもの~偽りの仮面~、的なうたわれのネタを入れれなかった。
更新ペースが墜ちてて申し訳ない、リアルがせかせかしてましてエタってないか心配になられた場合は活動報告の方を見ていただければ幸いです。