ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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34.ヒヨコさん十きゅう歳

 私が一番時間を共に過ごしてるのは誰か。

 それはきっと目の前で陸士から請け負ったデバイス整備の数に呻き声をあげているナナシだ。理由は簡単、昔はフェイトやアルフに母さんが仕事に出てる間も私たちは家にいてデバイスを弄って遊んでいた。ついでにこの頃になってもお互いフリーでデバイス関係の仕事をしつつも家にいる機会が多いのだ、家族であるフェイトや母さんより圧倒的に。まぁ、そこは家でやれる仕事が多いからかな? デバイスの本格的な点検とか整備、もしくは今のナナシみたいに備品としてのデバイス点検を数こなすときなんてよくもって帰ってきてるしね。

 

 何だかんだで一緒に暮らし始めて約9年が経つ。本当に死んでいた状態から生き返った私と死んだら巻き戻しのかかるナナシ。この頃『やり直し』してないよねって聞いたら日常で早々死んでたまるかって言われた、そりゃそうだよね。

 出会ったときからどうしてだか息が合っていたのは二人して少し異常なところがあったからかもしれない。決してお互いに頭のネジが足りないからではない、ないのだ。まぁ、ナナシは本当は別世界から転生してきたけど記憶ないとかなんとか言ってたんだけどそこは正直どうでもいいかなーって、闇の書だって転生してたし。生き返ることと大差ないよね。

 

 陸へ送るデバイス整備の請求書の数字とにらめっこをしつつ口から呻き声をあげ続けているナナシ。懐かしいなー、初めはミッドの文字を読むことすらままならなかったのに今では仕事までしてるんだもんなぁ。

 

「アリシアー、新暦65年式のストレージデバイスの処理機能装置ってギリでカートリッジ適応前だっけか?」

「んー、そうだよ」

「センキュー」

「なんのなんのー」

 

 ふぅ、あの年代はミッド式のストレージデバイスとインテリジェントデバイスにカートリッジが適応し始めたからややこしいよね……全くどこの誰が考えたのか。うん、私たちだったね。

 なんで開発しようと思ったんだっけ? たしか月とスッポンほど実力差があるのに可愛い過ぎるマイシスターから模擬戦に誘ってくることがあったんだ。断ればよかったんだろうけど愛しき妹のお願いは聞くしかなかった……あの断ろうとした瞬間、フッと残念そうな顔をしそうになってから私に気を使って頑張って笑顔にして『な、なら仕方ないよね!』って言う姿がぁぁぁ! 受け入れるしかないじゃん! 笑顔のつもりかもしれないけど眉だけ悲しそうに下向いてるんだもん!

 

「……なに芋虫みたいに身体捻ってんだ?」

(しな)つくってたんだよ」

「ハッ」

「鼻で笑われた!?」

「全く艶かしくなかったぞ、むしろ生々しかった」

「チッ、惜しい!」

「なんも惜しくないだろ」

 

 若干のデジャヴを感じた。作業に意識を戻すナナシを眺めつつ思い出そうと頭を捻る、捻るのは頭であって身体ではない。この頃やっと成長期に入ってきたかというこの身体、ようやく凹凸がつき始めた。いやー、フェイトやなのはたちがナイスバティになってくから少し焦ってたんだけど無事私も成長してるようで良かったよ。何せ一回死んでるから下手すれば伸びないかもとドキドキしてた――ってそうじゃないそうじゃない。

 

 なんでデジャヴを感じたんだっけ……あ、お風呂だ。8~9年前くらいに連日徹夜でユニゾンデバイスを作ろうとしたあのときだ。まだまだナナシも単純作業以外単独ではあまり出来なかったあの頃、徹夜明けの風呂で似たことやったら10年後に出直せと鼻で笑われ、た……あれ、今ってほとんど10年たったけどまた流された? た、たぶん本気で(しな)つくれば反応も変わるはずだって、きっと恐らく……しかもこの身体はまだ推定14~15歳ボディだし伸び代はまだまだあると見たよ!

 でもナナシも身長伸びたんだよね、170cm越えたんじゃない? 腹立たしいのでよく上から押さえつけてたけど効果はなかったよ。

 

 因みに年齢が推定な理由はナナシは年齢不詳だから、私は年齢の定義付けが難しいから。だから、

 

「ナナシ何歳だっけ?」

「推定19歳だな」

 だから私が生き返ってから肌年齢が干支一周を軽く超えるくらい若返った母さんはちょっとよくわからない。なんか次元が別ものだと思う。実年齢何歳だったかな……聞いたら焼かれちゃうんだよね、ナナシが。よくよく考えたらナナシが私より体力のある理由の一端はそこかもしれない。もちろん男女差とかもあるんだろうけど、よく逃げ回ってたナナシは知らない間にタフになってたのかもしれない。決して真似したくないなー、真似できないけど。

 こうやって推定ってナナシも付ける。私的には永遠の17歳とかでもいいんだけど歳を取れないのは少し寂しいので止めといた。いや、いくら名乗ったところで実際は歳は取っちゃうものなんだけどね。

.

 

「急に年齢なんざ聞いてなんだ?」

「んーん、そろそろお酒飲めるなぁと思って」

「ならプレシアさんと飲んでやれ、めちゃくちゃ喜ぶぞ」

 

 それは我が親ながら目に浮かぶよ。本当に喜んでくれるんだろうなぁ……ちょっと照れ臭いけどやっぱり嬉しいよね。肌で感じる暇なく見れば感じる親からの愛、ダイレクトアタックでヒシヒシと伝わってくる。

 

「でもナナシと飲むのも楽しみにしてるんじゃない?」

「そうか……? 言葉のドッジボールしてそうだぞ」

 

 それも私から見れば言葉のキャッチボール出来てるんだけどなぁ……ただお互いに変化球とデッドボール投げすぎっていうだけで。

 母さんって割りと仕事の立場的に偉いからズケズケと物言う人って少ないんだよね。その点、意図的にか意図せずかは知らないけど、よく口が滑って遠慮なく物言ってくるナナシ。それは母さんにとっても珍しいから話してて楽しいはずなんだよね。

 やっぱり本音で話すってのは大切だよ。

 

「きっといつか行くことになると思うなー」

「親バカの娘自慢を延々と聞かされそうだな、おい」

「むしろお酒のせいで口が軽くなって母さんの地雷をタップダンスで軽快に踏み抜くと見た!」

「やめてくれ、洒落にならんぞ……」

 

 作業する手を止めず器用にも、うげぇというのが一番適しているかのような表情をする。うむむ、母さんは楽しそうなんだけどナナシはあんまり楽しくなかったのだろうか?

 ナナシは物事を基本的にあるベクトルに単純に考えるから読みやすいんだけど人間関係についてどう思ってるかだけは読めない。ま、普通そんなものだけどさ。考えてることが丸々わかるなんて気持ち悪いし。

 

「いや、別にプレシアさんといて楽しくないわけじゃないんだけどなぁ……俺が地雷踏んだときが大変でな」

「踏まないようにすればいいのに」

「つい、この口が……俺は悪くねぇ!」

「ナナシのせいでしかない件について」

 

 やっぱり無意識だったようだ。半分くらいはワザとな気もするけどね。上手い匙加減で話して誰とでも仲良くすると思いきやたまに滅茶苦茶怒られたりするナナシ。母さんとはもうそういうノリ(・・)なんだけど、そうですらなく稀に本気で怒られてることもあるんだよね。本人は反省して次は匙加減を間違えないと言ったりしてる……反省してる?

 

「ナナシってなんでそういう性格になったの?」

「え、なに。今俺遠回しに喧嘩売られたの?」

「いやいや、純粋な疑問だよ」

「なお悪いように感じるぞ」

「そんなことナイヨー、ほらほら教えてよ。暇だよー」

「人が仕事してるってのに……あー、性格だったか? どう性格を形成したとか哲学かデバイスかよ……」

 

 そこでさらっとデバイスが出てくるあたり好きだよ。

 

「まぁ、こっちに来たばっかはそれなりに慎重に動いて……なかったわ。ジュエルシード叩きつけたり色々してた」

「えぇ……」

「そもそも記憶がなかったから動くしかなかったとも言える」

 

 それで開き直る原因になったのがうちの妹――フェイトだったという。魔法ってのはナナシにとって未知だったみたいで喋る動物も初めてだったらしい。私たちにとっては常識だけどナナシにとっては非常識。

 

 ――この世界は俺にとっての非常識が普通なのか。

 

「なら俺も非常識でもよくねってなってな?」

「なんかおかしい」

 

 でもそれは間違ってなかったのかもしれないけどね。物事を深刻に考える性格だったらやってられなかったかも。異世界に跳ばされて記憶がなくなったことだけわかる状況。

 

 そういやナナシに記憶が戻ってほしいと思ったことがあるか聞いたことあったなぁ……

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私が生き返ったことについて吹っ切って日も浅いある日。ふと、気になった。

 

「ナナシはさ、記憶がなくなったんだよね?」

「あー、そうだな。正確には無くなったことだけわかるっていうよくわからん状態だがな」

「記憶を取り戻そうとしなかったの?」

「しなかったなぁ、それに今さら戻っても邪魔だし」

 

 邪魔……? どういうことなんだろう。元々どういう生活をしてたとか気にはならないのかな? 私なら、気になる。って思うのは今私に記憶がちゃんとあるからなのかな。

 

「今の俺にはもう今の記憶があるだろ、それに上書きだか追加だかでぶち込まれても困るわ。10年前に返しやがれ」

「アハハ、そうだね……ナナシの頭の容量はそんなに大きくないからね!」

「うっせ、否定できないこと言われると悲しいだろうが」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんともなぁ……らしいというか開き直りが良すぎると言うべきかな?

 

「アリシアもなんで」

「なに? 性格のこと?」

「そんなちんまいんだ?」

「うるっさーい! 長い間死んでた(寝てた)からだよ! 三年寝太郎とか目じゃないくらいに! というか成長してきてるし!」

 

 もう150cmにも達してるっていうのに失礼な! フェイトとかボイン! になってるけど私だって膨らみ始めてるんだよ……! な、なーんかフェイトのときより年齢的に比べて伸びが微妙な気がするけど気のせいだと私は信じてる。

 

「伸びてきてはいるな。俺との身長差は開いてるけど」

「数年前はお互い130cmちょっただったのに……! なんで170cmになってるの!?」

「何でって言われても困る、伸びたからとしか」

「うぎぎぎ……縮めぇぇぇ!」

「ちょっ頭押さえ、やめっ作業中……ぉぉぉああ!?」

 

 パチュンッ! と変な音。久しく聞いていなかったこれは……デバイスの配線を変に繋げたとき、魔法の撃ち出しの向きを決める配線をかなり駄目に繋げたときの音だ。

 

「…………おい、アリシアさん?」

「…………てへっ」

「てへっ、じゃない! このミスめんどいんだぞ!? 魔法が杖の先じゃなくて何処から出るか撃つまでわからねぇから自分で撃って確認するしかないんだぞ!?」

 

 そうなんだよねぇ……だから確認時に下手したら自打球ならぬ自発球だか自撃球に当たる。けどそんなこと私だって、

 

「知ってるとも、なにしろ教えたのは私だからね!」

「ない胸張って自慢気に言ってんじゃねぇぇぇ!」

「ない胸とは失礼なぁぁぁ! 育ってきたよ!」

「知るか! ……クッソゥ、確認せにゃならんよなぁ」

「……私がやろうか?」

「あー、いいって……フォトンバレット」

《Photon Bulle》

 

 そして生唾を飲み込み一番軽くフォトンバレットを撃ったナナシが――

 

「ゴプォッアァ!?」

「ナナシィィィィィ!?」

 

 部屋の機材もろもろ巻き込んで後ろに弾け飛んでいった。杖の何処から魔法が出るかと思ったら杖の持ち手から出てきてナナシのどてっ腹に直撃した。ぶっちゃけ一番外れな感じなんだけどある種の期待を裏切らないナナシに脱帽――とか言ってる暇じゃない!

 

「ナナシ大丈夫!?」

「HPが赤ゲージまで削れた気がする……正直ここまでクリティカルヒットするとは思わんかった」

「ちょっと休んどきなよ、私が直しとくよ」

「ん、助か……いや、もともとはアリシアのせ」

「よっしゃー! やっちゃうよー!」

 

 ちょっと原因不明の不幸な事故で負傷したナナシの代わりに私が不具合を直してあげようじゃないか。私ってば健気だなー、後ろからの視線が突き刺さったりするなんて事実は全然ない、ないんだよ。

 さてさて、持ち手からナナシの腹に当たる感じで出たってことは――ここら辺をちょいちょいと切って繋いでゴニョゴニョすれば、完成!

 

「出来たよ!」

「早い、休む暇もなかった」

「また世界を縮めてしまったね」

「身長も縮めばいいのに」

「肉体年齢15歳になんてことを」

 

 見た目は15歳、中身は19歳アリシア・テスタロッサだよ。行き先は事件まみれな某少年みたいな年齢と見た目のギャップがないからかパッとしないや。

 

「アリシアさんや」

「なにさ、ナナシさん?」

「机に何かよくわからんやつがあるんだが……これ組立てって納期明日じゃね?」

「アッハッハ、それはらいしゅ……明日だ!?」

「さて、時計の針は現在23時を指したとこだな」

 

 仕上がりはギリギリ三割。て、て――

 

「徹夜だぁぁぁぁ!」

「俺は終わったぜ」

「相変わらず憎たらしいドヤ顔だね! いや、ごめんなさい手伝って!」

「しゃーねーなー、内容は?」

 

 えっと……ちょっと安定してないユニゾンデバイスがあるみたいだからそれの応急処置用の整備ポッド。なんかあんまり深く踏みいるなって感じだったからそれ以上は聞いてないよ。

 

「うん、明らかに一晩でやるもんじゃない」

「そうだよ、だから口より手を動かしてナナシ!」

「待って、それ俺の台詞だろ」

 

 初歩中の初歩にして痛恨のミスだよ……! 知らない人じゃないけど話したことはほとんどない人からの依頼。厳つい顔だったし遅れたときのこととか考えたくない。

 

「アリシアー、ツヴァイの整備用のポッドの設計図いる?」

「いる! ってなんで持ってるの?」

「アリシアみたいに毎度図面を引くのがめんどくさくて今まで製作したやつのは全部取ってるぞ?」

「後光が見えるよ……!」

 

 これなら間に合う、たぶん。

 ツヴァイの時には精々50センチ台だったポッドが何故か1メートルを超えた。

 久々の徹夜だった、それはそれは壮絶な……途中で詳細を聞いてないということはマルチに対応した整備ポッドに仕上げないといけないと気づいたが最後。あれよそれよと機能を付けるに比例して大きくなる整備ポッド。

.

 

「で、出来た……サイズについては明言されてなかったしいいよね?」

「そんなことより一徹くらいなら何ともなくなってる自分が怖い」

「手伝ってくれてありがとね」

「なんの」

 

 凝った身体をほぐしつつなんでもないように答えてくれるナナシ……うむうむ。

 

「この借りは仇で返すよ!」

「さーてスパナはどこだ、このポッドぶっ壊してやる」

「嘘だから止めて!?」

 

 腕捲りして割りと目がマジだったナナシを止める。あとはお届けするだけなんだけど大きすぎる。

 

「ナナシ、もう一仕事」

「知ってた、もう仕舞ったし行こう」

「早っ! さすが察しがいいね!」

「また身長を縮めてしまった」

「縮まないから!」

 

 この後知ったんだけど依頼人はクイント・ナカジマさんが所属する部隊の隊長さんだった。顔が超怖いってナナシがストレートに伝えたら落ち込んでた……いい人っぽかったんだけどナナシはもう少し歯に衣つけようよ?

 

 ――盛大なブーメランだなんて私は気にしない。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
何となくアリシア視点をぶち込んでみましたが後半なんかいつも通りになりました。

断じてお茶濁しとかじゃない。

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