目の前に並べられるは人の知力を数値化したのもの。
各々特色があるもの同士に分け名前付けした区別ごとに、ある集団として全員もれなくそれら全て同じ内容のものを解くことにより時には順位付けすら可能にし現実を叩きつけてくる。
そして結果が目の前に、その奥には燃えつき白い灰となった一人の少女がいた。吹けば飛びそう、吹かなくても魔法で飛ぶんだけど。
「なのはさぁ……国語の点数どうしたの? なに、地球生まれのミッド人だったっけ? かめはめだかギャリックだかの砲撃撃つもんね。スーパーミッド人にでもなるの?」
「ナナシくんが容赦なく死体蹴りをしてくるよぅ……」
「そうだね、泣きっ面に蹴りだね」
「そこまで掘り返すの!?」
今まさに合ってるかなって思って。珍しく高町家に来てるわけだけど、なのはが国語を教えてほしいと言ったのでお邪魔している。はやても来てるんだけど正直これ国語教える面子としていいのか悪いのか。語彙としてはそこそこいい線いってるけど、その線から脱線する未来しか見えない。アリシアとフェイト? どっちとは言わんが妹はともかく姉まで来てみろ、真面目に勉強できなくなるぞ。主に俺と姉が原因で……お互いそういう自覚があるので二人は留守番してる。
しゃーない、ワタシ国語大好きーくらいしか口に出せないようにしてやろうではないか、
「怖いよ!?」
「いやだって、お前これ……」
机に並べられたうち一枚のテストを手に取る。科目は国語、点数は虫の息。たしかに中学ってレベルが一気に上がるけどこれは酷い。どのくらい酷いかと言えばテスト返却時に担任に心配されたらしい。これは普段のなのはの素行がよくて他の科目も良いからこそなんだろうが、なのはにとってはただの追い討ちである。
死体蹴りかましてる俺が言えたことでもないけどな!
「まだ本格的とは言えんけど古典も入ってきたからなぁ。20点ぶんほどやけど」
「そして見事20点落としてるな」
「うっ……」
「それでいて現国に当たるとこもそりゃ小学校のときより難しいなっとるしなぁ」
「そして見事に50点近く落としてるしな」
「うぅぅぅ……」
「その結果がこれや」
何がそこまでわからないのかわからない、っていうのは通じないよな。わからんもんは出来ん、それはわかる。
おや? はやてがこちらをチラリと見て……
「……無惨なもんやろ? 嘘みたいやろ? これ……テストなんやで」
「テッちゃぁぁぁん!」
「テッちゃんって誰!? それより泣きたいのは私だよ!」
「いや、だってもうこの点数は事故みたいなもんだろ」
「正真正銘全力でやってこれだよ!」
「うはは、言わせんなよ。照れんじゃん」
「それ! 私の台詞! しかもナナシくん照れてないし! 真顔じゃん!」
まぁ、くどいようだがこの点数見たら真顔にもなる。
見てたテッちゃん、じゃなくてテストをパシンと机に置くはやて。他の教科は大丈夫なのに、いや社会もやや悲しげだがそれを除けば優秀な部類だ。国語と社会(現代)が駄目とか本当にどこ生まれなのかと思うが両親が日本人なので恐らく日本人なんだろう。バスター撃つとこ見ると死に瀕する度戦闘力の上がる戦闘民族かとも疑うが……なのはは死に瀕することなくバスターの威力が日に日に上がってるので困る。
「諦めよう、諦めてミッドに移住しようぜ!」
「いい笑顔で教える前から諦めないで!?」
だってこれはもう日本にいたくないって心が叫んでるだろ。私は世界に羽ばたきたいの、むしろ異世界に羽ばたくわ! って無自覚に思ってんじゃね?
「そ、その論法でいくと日本語が得意でミッド語が苦手なナナシくんは日本にいたがってることになるよ!」
「ごめん、とっくの昔にミッド語は習得してるから。フリーとは言え仮にも仕事してる身だぞ?」
なのはは めのまえが まっくらになった!
さて、ショックでフリーズしたなのはを横に退かしはやてとどこを集中強化するか話し合う。
「まー、真面目にやるならまずは現国の強化やね」
「えー、せっかく国語苦手ななのはのために古文式ありおりはべりいまそがり殺法、漢文式レ点一二点上下点殺法考えてたのに」
「ちょ、ちょっと待って。殺法って言ったよね、ナナシくん殺法って言ったよね?」
「今のなのはちゃんにそこまで教えると逆にどれもが半端になりそうでなぁ、言葉通り殺法になりそうや」
ナイススルーはやて……しかし、残念。鞄から出そうとした古典問題百集を仕舞う。何故かなのはが信じられないものを見るかのように鞄を見てたけど何故だろうか、わからんな。
実際現実的なことを言うなら点数配分が大きく、古典という外国語一歩手前なものに比べれば簡単な現国からやるのは良い。
「んー、見た感じ小学校でやったことを丸々頭のなかから破棄してるわけやなさそうなんよなぁ……」
「ポカミスも目立つしな……漢字間違い無くせばそれだけで10点ちょい上がるぞ」
「メイアンをわける、のメイアンを漢字で書きなさい」
なのはさんの答え、名案。名案を、分ける……そうか名案を分けるのか。
「名案分けてどうすんだよ、愚案になるの?」
「先が明るいかお先真っ暗かやねんから意味と一緒に覚えるとええんよ?」
「あ、そっか……はじめに名案が浮かんだらそれ以外出てこなくなっちゃって」
「こう、なんだな。なのはって意外に頭固いよな」
「そ、そんなことないよ!」
いやいや、本文を読んでから四択で答える問題だいたい間違えてるぞ。それも間違え方が出題者がひっかけとして用意した答えに見事に掛かっている、イヤーこりゃ大漁だな。まぁ、的外れなのを選ばずに引っかけにやられてるってことは小学校での成長を砲撃で頭の中から吹き飛ばしたわけでもないらしい。
「失礼なこと考えてない?」
「いや全然」
しかし如何せん応用力がないと言うべきか、なのはの頭の固さと言うより正しくは頑固と言うべきか。クロノとかかに聞いたけどジュエルシード事件のときも敵だったフェイト見捨てれずに封印手伝いに来たり……ここはなのはの優しさもあるんだろうけど。しかし頑固、一度決めたら引かない。
敵であるフェイトから必死に話を聞こうとしてた。時には砲撃付きで。
ヴィータからも話は聞いた。突然襲ってきたヴィータに対してもしつこい程に話を聞かせて欲しいと言ってきたと。それこそ砲撃付きで……なのはの意地と砲撃はセットなのかな?
いやいや、頑固さならフェイトも負けてないはずだが何なんだろう。この、戦闘スタイルの差か? 小回りとかの瞬時の判断が必要なヒット&アウェイなフェイトと、バインドやシューターを使いながらも基本砲撃で押すなのは。
「なのは戦闘スタイル変えようぜ、シューターをもっと活用しよう」
「ふぇ? ナナシくんがまた唐突な話題を……なにを考えてたら国語から戦闘スタイルの話になるのかわからないよ……」
やめろ、変な人を見る目で見んな。不本意ながら慣れてきた自分が怖いんだ。
「ほら、なのはって基本砲撃ばっかだし、他の基礎的なものもコントロールは鍛えてても技のコンビネーションとしてはあんま使ってないじゃん? つまり応用があまり効いてない、よって頭も固くなる」
「うぅーん。た、たしかに砲撃で決めることばかりだけど……って私頭固いって認めてないよ!」
「たまには普段とは逆に砲撃を囮にして、後頭部へのシューター一撃くらいなコンパクトさで仕留めれるくらいの応用力をだな」
「それはそれでえげつない気がするの……」
そうすると模擬戦相手の被害が少なくなる、さらに国語の点数も上がる、模擬戦相手の被害が少なくなる少なくなるんだ。
おう、俺のことだよ、そろそろ俺を誘うの止めてやれ。(ユニゾンのせいで)リイン共々死に物狂いだぞ。そのお陰かは知らないがユニゾン時間は1分30秒まで伸びた、別に嬉しくない。逃げ足はクロノに感心されるほどになった、むしろ泣きたい。
「戦闘スタイルの話に摩り替わっとるでー……まぁ、なのはちゃんの頭が固いんは事実やけど」
「チィッ、ともかくなのはの石頭をほぐそう」
「ナナシくんがどんどん雑になってない!?」
なってないなってない。残念ながらなのはの戦闘スタイルの主軸を砲撃じゃなくならせることには失敗した。だがしかし、国語は着々と弱音を吐こうとも俺とはやてが容赦なく叩き込んだ。鬼になれ俺、別にたまの模擬戦のお返しとか思ってないし。思ってないって、教えてるだけだから。ほーら国語大好きになーれー。
「も、もう無理……」
「教導隊の皆にこのテストコピーしてバラ撒くぞー、無限書庫にもチラシのように撒くぞー」
「やめて!? というかなんでナナシくんは教導隊にも知り合いがいるの!?」
「知り合いはいない、ただデバイス点検請け負ったことある人がいるだけで」
「……ナナシくん微妙に顔広いねんよな、聖王教会でもナナシくんのこと知っとる人おるし」
知り合いってほどじゃないけどね。またのご利用お願いしまーす、くらいの知り合い未満他人以上の風が吹けば消えるような関係。ないよりはいいけど。
てか、なのはは問題解け解け。もう頭は固くていいから問題の傾向を覚えろ。これは方程式だ、こういう質問イコールああいう答え。ちょっと様子がおかしいがこのまま叩き込む――!
「にゃははー、方程式だ……!」
「あかん、なのはちゃんが壊れ始めた」
「ほぅら、ゴニョゴニョな質問イコールチョメチョメな答えになるだろ?」
「す、数式と変わらないよ……!」
「違うでー、全然違うでぇ。ナナシくんストップや、なのはちゃんの目がグルグルになってきとる」
ついでに頭の上にくるくると星が回ってきてるがスターライトブレイカー撃てるので問題ないだろ、たぶん。頭の上の星もブレイクできるって、きっと。
「ちょー待ち待ち!」
「ん? 大丈夫、もうすぐきっと国語大好きっ子になのははなれる!」
「国語への拒絶反応と疲労と他諸々がしっちゃかめっちゃかなっとるだけやろ!?」
「む、ならもとに戻すか」
お星さまとお目目がくるくるローリングしてるなのはにソッと近づき――耳元にフゥッと息を吹きかけた。
ブッワッ、という効果音が一番適してただろうか。なのはの毛が逆立ったように見えた。そして、一拍遅れて悲鳴。
「にゃあぁぁァァァあアアああ!?」
「なんちゅう……ことを」
「うむ、効果覿面だな。現実世界へお帰りなのは、国語は大得意かい?」
「だっだだだだ!」
「ダイソン、世界でただひとつ変わらない吸引力?」
「違うから! 大の苦手だよ! ってそうじゃなくてナナシくん何してるの!?」
涙目で詰め寄ってくるなのは。ひとまず落ち着いてほしいんだがな、具体的には肩を掴んで前後に揺するのをやめてほしい。これが他の人間なら気持ち悪くなるところなんだけど、あまりにもなのはが非力すぎて眠くなってくる。
「まぁまぁ、なのはちゃん落ち着きぃな。これ見てみ?」
「国語の問題……あれ、はやてちゃんかナナシくん解いてたなの?」
「いや、それなのはが解いてたやつだぞ? 虚空を眺めつつ、うふふーコクゴダイスキーって言いながら」
「怖いよ!? え、ホントに私がやってたの!?」
「国語は方程式とか言うてたなぁ……」
そんなバカなとワナワナ震えてるなのは。そうだな、身に覚えのないことが起きると怖いよな。何より怖いのは解いた問題の九割が正解なことだよな。
そのままその日は無意識のままなのはの頭も疲労度マックスとなっており解散となったのだが……後日。
「ナナシくん! 明日テストなの、だから私を前の状態にして!」
「無茶を言うな、おい……普通に勉強しとけよ」
「無意識に解けてたなら出来るかなって」
「それで一応試したら五割以下と……潔く散れなのは」
「うぅぅぅ、無意識に解けてたのになんで……!」
「暗記パン食うか?」
「えっ、あるの……ってそれただの食パンと油性ペンだよね!? お腹壊すだけだから!」
「ヤカンに水入れてきたよ!」
「ちょっと待ってアリシアちゃん! 今アリシアちゃんまでここに参加したら本当に私のテストが不味いの!」
結局その日の夜中まで国語の一夜漬けというなんとも異色の勉強に付き合わさせられたのだが結果は推して知るべし。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
空白期が予想外に延びてるというのに全く関係ない話をぶち込む作者はこーこだ。本編進めない方がやり易いとか思ってないです。
完全にタイトルの出落ち感。決して、なのははアホの子なわけでなく国語が壊滅的なだけ。他の科目が良いだけあって周りもツッコミにくい中ナナシとはやては容赦なく弄る。そんな仲。