フェイトが執務官試験に合格した。なんていうと二度目で合格したようだが実はそれは落ちている。しかしそのときには初めて落ちたときのようにフェイトは落ち込まず、不合格だったけど前より手応えがあったと前向きだった。
そして三度目の正直というのか、三回目の試験で見事執務官となった。
そのときに合格パーティーなんてやったりして、忙しいなか皆がお祝いに来てくれたりした。全員の帰宅後にどこから聞き付けたのかスカさんまでひょっこり祝いの言葉を言いにやって来た。
「私のような人間を捕まえれるほどになりたまえ」
とか自分で言ってた。プレシアは通報してた……フェイトが逮捕するまでもなくいつか捕まりそうだ。
――そしてその年のうちになのはが魔導師ランクSを取得した。翌年フェイトが魔導師ランクSを取得した。
…………え?
「ミソッカス緊急会議を開きます! ランクSってなに? ランク消滅? 規格外ですって言外にいってるのかな」
「掃討かもしれないぞ」
「殲滅……かもしれない」
なのはたちがちょっと理解できないレベルに到達してる。プレシアも限定的にランクSSだが、なのはとフェイトはいつでもランクSだ。
「はー、フェイトは血筋としても、なのはもはやても地球生まれの魔導師ヤバいな……」
「血筋っていうなら私は? ほら、目をそらさず私を見て答えようよ」
ほっぺを両手で挟まれ逸らそうとした顔が固定される。しかし、視線までは固定できるはずもなく右へ左へ泳がせながら答える。
「頭脳、頭のよさは受け継いだじゃん?」
「まぁね!」
「そういえば、私の魔力値は……何がもととなっているのだ?」
アリシアさんったら、頭いいんだから魔力低くてもいっか! とか笑い合ってるとリインがふと疑問を投げ掛けてきた。ピシッと固まる俺たち……
「ま、まずは素体としたものの質だよね。これは最上と言えないまでもいいものを使ったよ……?」
「あっ、あとは、あとはー……リイン自身のもともとの保有魔力も微細ながら関係している……はず。これは確定じゃないからなんとも言えないんだけどな」
「…………それで一番の元になったのが私たちのコアかな」
「ごめん、恐らくはやてとかのコアならランクAくらいになってたと思う」
基礎部分にミソッカスの俺たちのコア、言うなれば魔力を生成する部品を安物で済ましちゃった訳だからその分リインの魔力はゴリゴリ減った。
けど、リインが許してくれるであろうことはわかってる。今も冷や汗流してる俺とアリシアを微笑んで見てるし、きっと気にしてないと言ってくれるのだろう。ただ純粋な好奇心で聞いただけだと。
「そうか……気にするな。まぁ、魔力が低くなったことは周りから見れば、いいことではないかもしれない……」
「だよね、ツヴァイは推定だけどA~AAはありそうだし……」
「けど、私は悪くないと思うぞ……? 魔力が低くなったお陰で、お前たちと……お揃いだからな」
「天使か」
「女神だよ」
キャー、リイン愛してるー! と抱きつくためダイブするも未だ小柄なアリシアは容易にキャッチされた。
一通りハシャいだあとにお昼を食べるために外へと出る。作ってもいいけどはやてほど美味しいもの作れるわけでもないし、正直めんどくさい……というのが三人一致の見解だった。
「そういや、アリシアってフェイトに比べて成長遅いよな」
「うーん、こればっかりはなぁ。長い間
「あー、そうか。というか肉体年齢的には成長期がまだの可能性もあるもんな」
「ここからの数年に期待だね」
寝ていたら……育つものじゃないのか? なんて言いながら首を傾げるリインだけど、永眠っていう睡眠じゃない眠りだったからな。ま、そこはテスタロッサ家の秘密なので笑って誤魔化す。
「それに比べるとナナシは伸びてきたよね」
「鼻の高さか、目指せピノキオ」
「えっ、天狗になるほどの実力あった? 発想はともかく技術的にはまだまだだよ!」
「真顔で驚くのはやめてやろうぜ、俺が傷つくじゃねーか」
「身長、の話だろう。たしかに私が初めて会ったときよりも、大きくなったな」
そう言われればそうかもしれん。出会ったときにはリインの胸か肩かの身長だったけど、そろそろ追いつきそうだ。そんなわけで今更ながらアリシアと身長を比較すれば……この通り。
「兄妹、みたいだな」
「黒髪と金髪だけどねー。ま、私もそのうちおっきくなると信じて今は待つのみだよ」
鳴り響くサイレンの音をBGMに和やかに会話しつつ昼食の店を探す。ミッド文字は既に余裕で読めるわけだけど、店の位置とかはあんまり把握してないしな。
テスタロッサ家自体が市街から少し外れたところにあるわけで、車とかの通りが少ない道をプラプラ歩きつつ飲食店を端末で検索……うーん、サイレンがうるさい。
「兄妹っていえばリイン」
「なんだ?」
「ツヴァイとはどう? なかなかにノリが良くていい子だと思うんだが」
「ああ、たまに振り回されることもあるが……一緒にいて楽しいよ。姉、という立場も新鮮だ」
「なにか困ったことがあったら姉歴が上の私に聞いてくれたらいいよ!」
「ふふ……ああ、そのときは頼む」
それからリインから八神家でのツヴァイの様子を聞いた。ヴィータは妹が出来たみたいで嬉しがってたとか、はやてとテレビで漫才を見て色々学んでるとか。
明るくて無邪気な反面、どこの誰の影響か無茶な振りをしてくることがあって特にシグナムとかが困ってることがあるとか。誰の影響かな?
けど、そんな些細なことは置いといて八神家末っ子として楽しく過ごせてるようでよかった。
「あとは、大黒柱……に成り上がりたいとか。本当に、今まででは考えられないほど楽しいよ」
「イヤー、楽しそうでナニヨリナリ!」
「なり?」
「なんでもない、なんでもな……あれ誰か来て」
キラリン、と光ったものが飛来し足元に着弾。わー、魔法だ……魔法?
市街地で普通使われないはずの魔法がいきなり飛んできたことで硬直、リイン含めてである。
そして悲しいかな、前方からかなりのスピードで移動しながら戦闘をこなしこちらへやって来る人影がふたつ、うち一人が急加速した。
俺、アリシア、リインの真ん中をすり抜け――俺たちのうち一人をかっさらった。
「ヤバい、なにがヤバいって人質に取られた」
「それのなにがヤバイって人質に取られたのがリインなんだけど……胸か、胸の差か!」
「いや、違うだろ」
一般人(リイン)が人質に取られたことに対してか悔しそうな顔をする局員と思われるお兄さんに、動くとこの女ぶっ殺すぞと叫ぶ犯罪者らしき男。せっかく楽しく会話してたのに邪魔されて不機嫌、ニギニギと拳の握り具合を確認するリイン。
今さらだけど魔法には非殺傷設定がある。それは人を直接傷つける可能性を極限まで削って、魔力のみのダメージを与える設定。けどもちろんそれを解いてしまえば、まぁ地球でいう銃弾と変わらない。
何でこんな話したかっていうと、俺たちを庇うように前に立ってくれてるオレンジの髪の色したお兄さん。あちこちから血を流している。リインを人質にしてる男が非殺傷設定を無効にしているようなんだ。
リインがこちらをチラリと見る。念話を使わず口パクで『伏せろ』と言った。
それに従い俺たちが伏せると――局員のお兄さんに注意が向ききっていた男が、キリモミ三回転捻りを加えて宙を舞った。
見事なアッパー……いや、フックか。見間違いでなければガゼルパンチだった。そんなもんどこで覚えた?
しかし相手も一筋縄ではいかない奴だった。ギャグシーンの一コマのようにブッ飛んでいるにもかかわらず、手に持ったデバイスは正確にリインを捉え魔法が撃ち込まれ――る前にリインが追撃のニーキック。
股間を捉えた、股間を捉えたんだ。膝が、男の子の息子を、見てられない。
あ、あぁぁぁ……死んだ、あれは非殺傷設定がどうとかそういう問題じゃない。男ならわかる、死んだ。
男はトラックに轢かれたかのように回転し、軽く100mは地面に打ち付けられ転がっていく。倒れた男はピクリとも動かない。
あんまりにもあんまりな光景に両手で目を隠しながら指の間からチラチラ見てた俺とアリシア。プレシアの次に怒ると怖い気がしてきた。
「ふぅ……さ、ご飯にいこうか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「……なん、だ?」
表情の変化が普段からわかりにくいリインなんだけど、珍しくすごく面倒そうにしている。横のアリシアを見る、こちらもメンドくさそうだ。
「ナナシも面倒臭そうじゃん」
「だってあれだろ、リインが犯罪者を倒した。そのリインはユニゾンデバイスだったナンダッテーから」
「作ったのは誰だ、私たちだ。うわ、やっぱ面倒」
「まぁ、俺は技術的に鼻が天狗にならないレベルでしかないから問題ないけどな! ウワー、アリシアさん大変ソウダナー」
別にさっきのことを根に持ってなんてない、ないったらないのだ。デバイスマイスター補佐資格取れたし、そこそこにはなれたかなーと思ってたのに傷ついたとかそんな事実は一切ないんだからな!
言われたことが事実で反撃の糸口がここしかなかったとかそんなこともない、ないない尽くしなんだ。
「うぐぐ、撤退! 撤退だよリイン!」
頷いたリインはお兄さんの前まで歩いていき……猫だまし。
パァンッ!! と掌を素早く合わせ叩く、手に火薬でも仕込んでたのかと疑うレベルの空気を叩くような音。猫だましの風圧でお兄さんの髪の毛がたなびいたし。
「うお!?」
怯んだ隙に横をすり抜けたリインは両脇に俺たちを抱え猛ダッシュ、その走る姿はまさに韋駄天。
ちなみにその後、逃げ切ったはいいのだが俺とアリシアはぐったりしてた。足が速いのはいいんだけど魔法の補助もなにもなかったので上下に揺れる揺れる。結果的に少し酔った。
「あれだね、速度的に私たちは風になってたよね……」
「風じゃなくてあれはトラックでドナドナされる子牛だろ……」
「すまない……逃げることだけ考えてたんだ、すまない」
謝りながらも昼食のサンドイッチを頬張るリイン。面倒そうにしてた理由はお腹が空いてたからだったらしい。
「しかし、逃げてきたけどよかったのか……?」
「別に悪いことはしてないからいいんじゃないかなぁ、たぶん」
「それよりもリインの戦闘力が恐ろしいことになってる件について」
「主はやてがな、私の身体能力が高いことを知られてから……でんぷしーろーる? を見てみたいと言われたので地球のボクシングを練習してたんだ」
身体を∞の軌道で揺するリイン。まだ上手く∞が描けなくてな……とか言ってるけど普通そこまで出来ないから。
「……なにを参考に?」
「主の持っている漫画だが? それを見せられ、お願いされたからな……主には秘密で練習しているので、黙っていてもらえないか?」
「あ、うん、いやいいんだけど……」
はやてぇ……あれだ、絶対まっくのうちまっくのうち! って掛け声のある漫画見せただろ。無茶振りのつもりで見せたろ?
けどある意味ツヴァイより純粋かつ実現するだけの身体能力があるリインが、今まさに漫画の幻想を現実にしようとしてるぞ……! 実際さっきはガゼルパンチ放ってたし。
リインなら空気投とか虎王とかもいつかやりそう。
「最近私たちの周りが戦力過多すぎる!」
「俺たちが魔導師ランクEで他は最低Aランクくらいってどうなってるんだろうか」
「B、C、Dはどこに行ったのかな?」
「よくよく考えれば、凄まじいな……」
戦力がすごいだけじゃないけどな。はやてはこの頃上級キャリア試験に合格したともいっていたし、なんか皆ミッドで自分の道を歩み始めてる。
「ただ、なのははこっちで過ごすにしても国語の呪縛から逃しはせん」
「あー、中学校にあがってからまた難しくなったって言ってたね。今度ナナシに教えてほしいって泣きそうになってたよ」
「泣きそうなのは国語のせいか、俺に習うのが嫌すぎてかどちらか……そこが問題だ。まぁいいか、ありおりはべりいまそがり殺法で打ちのめしてくれるわ」
「バスターで撃ちのめされないくらいにしなよ?」
「撃ちのめされるってナニソレ怖い」
というか、なのはもさすがに勉強できない腹いせにバスター撃ってくるような奴じゃないから大丈夫。たまにレイジングハート握りしめて睨んでくるから怖いけど大丈夫、きっと大丈夫。急にレイジングハートが恋しくなってるだけだろうし問題ない。
「まー、それぞれ皆自分の道を歩み始めてるんだなぁ」
「私たちがある意味自分達の道の最先端走ってそうだけどねー。ナナシもこの頃は色々回ってるんでしょ?」
「気ままにふらふらーとだけどな、聖王教会とか陸とか……」
「そのふたつって仲が悪いはずなんだけど」
知ってる、たまに陸で会うおじさんが愚痴ってたり聖王教会のカリムさんが整備する横でなんか会話相手探してくるから、暇なの?
まぁ、そんなこんな色々あるけどそれなりに出来ている。こっからどうなるかはわからんけど、今はこれでええんじゃなかろうか。
「さて、気を取り直して飯、だ……リインどんだけ食うの?」
「皿の山が出来そうだよ」
「動くと、腹が減ってな……」
「そんな設計はしてないよ……!?」
感想感謝です。
ミソッカスの一人くらい戦力があってもいいじゃない……なんて建前投げ捨てて、ちょっと前回ミスにより失敗したフラグ折りにいきました。
しかしナナシじゃどうしようもないのでフィジカル★リインに丸投げ。そ