ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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27.エースの墜ちた日

 なんで俺が技術職というか戦闘しないでいいデバイスマイスター補佐を目指したか。理由は色々あるのだがどうしても無視できないものがある。

 圧倒的魔力のなさだ。一応のレベルで訓練をたまーにしたりもしてたんだけど未だに魔力ランクはDにも届かない。まぁだからって別に周りの優秀さに劣等感抱いてたりするなんてことは一切ない。ここまでミソッカスだとむしろ笑えてくる、というかアリシアといつも笑ってる。持ちネタのひとつにするくらいに気にしてない。でも、だからって実際にフェイト(断れないあの笑顔)と模擬戦したりすれば改めて戦闘に向いてないことは自覚させられるわけで。

 

「そんなわけでなんで俺が武装隊の遠征に連れてこられてるんすかね? ね、なのはさん?」

「えーっと……」

「ね、高町さん?」

「あれ、なんか他人行儀に……」

「ねぇ、高町武装隊士官候補生なんでですかね?」

「答えるから普通に呼んで!? その、今回の異世界への遠征にはすごい荷物が多くてね?」

 

 そこで困っている隊長たちを見てなのはは何か思い出した。四次元空間とかいう馬鹿デカイ倉庫を持ってる友人がいるじゃないか。

 

「それにナナシ君なら基本的に予定が空いてるかなーって」

「帰る」

「ま、待ってぇぇぇぇぇぇ!」

 

 腰にしがみついたなのはを引きずりながら転送ポッドに向かう。全く、俺だってこの頃はデバイスマイスター補佐試験結果待ってたりして忙しいってのに……あ、よくよく考えたら暇だったわ。ピタッと止まる。

 

「いや、でも渡された荷物全部持ち逃げしたらかなりの額にならね?」

「なに恐ろしいこと言ってるの……その場合武装隊の皆に追われることになるんだけど、私含めて」

「サーテ、セイイッパイガンバルゾー」

 

 実は本来ヴィータも来る予定だったらしいのだが緊急的な事件が起こり、そちらが人手不足のためにそっちに出向いてるそうな。なにしろ守護騎士が一人、経験は豊富なため階級的には低いが選抜されちゃったそうだ。特別俸給が出るらしく晩飯が豪華になるぜとヴィータは意気込んで行ったそうな。

 さて、お給料も出るわけだし俺も普通に頑張ろう。主に遠征で調べる異世界(ここ)でモンスターが現れた場合の戦闘に巻き込まれないように。

 

「でも一応ナナシ君もデバイスあるんだし、いざというときは少し」

「ごめん、家に置いてきた」

「えっ?」

「いやさ、玄関に忘れないように置いてたら裏目に出て忘れるとかあるよな?」

「あるけど! あるけどデバイス忘れたの!?」

 

 やめろ、大きな声で言うなよ。周りの武装隊の方々がアイツマジかよ……って目で見てんだろ。誰しも忘れ物くらいするだろ、そんな目で見るなよ。

 四次元空間に入れときゃよかった。

 

「デバイス忘れる人はいないかな……あ、はい。すみません、ありがとうございます」

 

 隊長らしきおっちゃんがなのはの肩を叩きなにかを渡した。

 

「予備のデバイスを貸してもらえたよ」

「やったななのは、デバイス二刀流ダブルスターライトブレイカーが撃てるな!」

「やらないよ! ナナシ君に貸してくれるんだって!」

「え、それは申し訳ない」

 

 隊長にお礼を言いに行ってから予備のデバイスをなのはから受けとるけど……うわぁ、使いにくい。こういうときに普段何気なく持ってるもののありがたみがわかる。

 

「デイブレイカーありがとう……」

「家に忘れてきたのにね」

「るっせ」

 

 さて、そんな会話を終えたあと移動を開始し始める。徒歩移動であるため俺も普通についていける。この世界はそういう季節なのか常にこの気候なのか雪がちらほらと降り続けている。なのでとても寒い、バリアジャケット展開したら結構なんとかなるんだけど予備のデバイスでやると帰るまでに魔力切れを起こす。体内で魔力を燃焼して身体を暖めたいのだがそんな器用なこともできない。下手したら自爆するし。ってなわけで周りがバリアジャケットに身を包むなか一人防寒具を着込み凍えている。

 

「初めてなのはの魔力を妬んだ、寒い、魔力寄越せ。暖だ、暖が足りない……!」

「あの高町ちゃんなら今先頭にいるわよ?」

「いや、すみません一人言です」

 

 お姉さんに心配そうな目で見られるが気にする余裕も無ければ元から気にする質でもない。その後30分ほど歩いた先をベースキャンプとすることとなり、久々に活躍している四次元空間からテントなどをドサドサっと出していく。

 そうして建てられたテントのしたで一息つきつつ、震える手でデバイスを弄っているとなのはがやって来た。

 

「終わった?」

「そんな早く終わらないから、今からだよ。ってなにしてるの?」

「やることないのでデバイス弄っとります」

「借りてるものを弄るのはやめようよぅ……」

「ダイジョウブ、最悪弁償する! もしくは当社比1.5倍以上の性能にして返すから! てか暇だから許して」

「最後のが本音だよね」

 

 なのはは微妙な視線を俺に送りながら俺に見送られてこの世界の探索に行った。うーん、ややこしい文章。

 デバイスを弄り始めて1時間ほどたった。

 どうやら遺跡らしきものが見当たったらしく部隊の大半がそこを探索してるらしい。

 こちらもキリが良いところまで出来たので一旦フレームを閉じて暖を取っていると先程のお姉さんがやって来た。

 

「……あら、君は探索に出ないのかしら?」

「ん、どうも。いえ、ミソッカス魔力かつ部隊員でもなく荷物持ちに来てるだけなんで」

「……あらら、ならちょっと遺跡を見に行かないかしら? 私がついていくわよ?」

「えーと丁重にお断りします」

「怒られそうだからかしら?」

「いや、寒いじゃないですか。しかも遺跡って……温泉なら行きましたけど」

「つまりやっぱり寒いからね……」

 

 うん、寒い。恋人といるときの雪って特別な気分に浸れて私は好きですとか言ってらんねぇ。寒さで顔面蒼白なって白い恋人になっちゃうから。インタビュー受けてる場合じゃねぇ、炬燵だ、炬燵を用意せよ! 炬燵の魔力は凄い、ランクで言えばSSSランクだ。

 

「魔力ランクSSSあればいいんですけどね……」

「なんの話かしら……? まぁまぁ、そう言わずに行きましょ。きっと面白いものが見られるわよぉ」

 

 ガシッと腕を掴まれズルズル引きずられる。何故じゃ、俺は行きたくないのに。見上げると見えるお姉さんは少し冷や汗をかきつつもどこかで見たような笑みだし。見た顔ではなく笑み。

 

「うーん……あ、思い出した」

「どうかしたのかしら?」

「スカさんだわ、笑い方がスカさんに似てる」

 

 ダラダラと滝のように流れ始める汗。どうでもいいけどこんなに寒いのに、よくそんなに汗かけるよね。冷えて風邪引きそうだ。

 

「汗凄いんすけどジェイルさん」

「誰のことかしらねー、スカリエッティーとかドクターとか知らないわー」

「潔すぎるくらいの自白」

「私はドゥーエとか言う名前の次女で変装して紛れ込んでるなんて事実はないわよ? さ、遺跡に行きましょう」

 

 ナナシは知っている。人間開き直ると最強だって、間違いなくわざと全部自白したドゥーエは俺を引っ張って遺跡に行く足を止めない。

 

「いやね、ドクターからバレないようにあなたを遺跡に誘導して欲しいって言われたのだけれど笑みでバレるとは思わなかったわ」

「誤魔化せばよかったのに」

「そこまでするのは面ど……いえ、正体を見破ったあなたへの報酬よ」

「明らかに面倒って言いかけたぞこの人」

 

 スカさんったらなかなかに濃い娘さんッスね。鼻歌混じりに引きずられ、もとい運ばれ遺跡に到着したはいいのだが……そこは地獄絵図が広がっていた。

 こう、なんというのか。遊園地とかにあるコインを入れたら背中に子供をのせて動く動物の形をした乗り物。正式名称は電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物だったっけか?

 

 あれが撃ち込まれる魔法弾や砲撃を無効化しながら、その場の雰囲気をぶち壊すファンシーな音楽を流しつつ武装隊へ進撃してきていた。武装隊の面々は魔法が効かないことに目を白黒させつつ、見た目はともかく性能は驚異的な動物型乗り物をどう対処するか大混乱。

 

「うわぁ……」

「これがドクターの開発したガジェットドローンVI型よ、もともとはもっと無骨な機械だったのだけれどどこかの誰かの進言のせいでああなったわ」

「ウワー、ダレダヨー」

 

 いや、楽しい感じのがいいって言ったけどさ。100をゆうに超えるライオンやゾウ、カバその他動物型ガジェットドローンが押し寄せてくるのはまさしく地獄絵図だった。

 というか性能がヤバいくせして見た目がファンシーなのは普通にホラーだ。

 

 ――ッ!? そんなことを考えている暇ではなかった。前に出すぎたなのはが魔法を無効化された挙げ句に囲まれた。

 

 急いで駆け寄ろうとするものの間に合うはずもなく――ポスン。ポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスン。にゃあああああああ!?

 

 ……お尻を動物型ガジェットに押された運動音痴、略してウ○チであるなのはは転げた。そのあとに数台の動物型ガジェットに揉みくちゃにされている。

 

「ウプッ! へプッ! あ、ナ、ワプ!? ナナシくんたすけてー!」

 

 久々に真剣になったんだけどなー。その反動のせいかやる気がマイナスにいった。揉みくちゃにされるなのはを置いて鼻ほじりながらドゥーエさんとこに戻る。

 

「な、ナナシくーん!?」

「どう? これがガジェットドローンVI型よ。魔法に対し有利な力を保ちつつあの癒し効果のあるふんわりした外郭――力作よ!」

「あ、はい。癒しに撃墜された挙げ句にふかふかに溺死しそうななのはったら楽しソーネー」

「じゃ、私はこれ見せたかっただけだから帰るわ!」

「え、ガジェットVI型は?」

「あげるわ!」

「いらねぇ! 広げた玩具は片付けていけよ!?」

 

 そんなツッコミ虚しくドゥーエさ……ドゥーエは帰っていった。あーもー、なんか面倒だなー。

 ほら、なんかなのはがへばったのを感知したのか揉みくちゃにするのをやめた動物型ガジェットこっちに来てるし。ファンシーな見た目に音楽鳴らしてトコトコとやって来る。

 

「……そういやあげるって言ってたよな?」

 

 ガジェットドローンVI型(あれ)は俺のもの。つまりあれは俺のいうことに従うはず……!

 

「止まれい! ぷへ!?」

 

 そんなことなかった。ダメージ入らない代わりに滅茶苦茶ひたすら鬱陶しいアタックが繰り返される。

 ……貰った、イコール所有権は俺。言うこと聞いてくれないけど所有権は、俺。俺のもの。

 

 よし、玩具は片付けよう。四次元空間をおっぴらき突撃してくるガジェットを仕舞っていく。フハハー! 所有権が俺にないと仕舞えないんだけど、こんな活躍するとは思ってなかった。

 結果的に半分くらい収納し、半分くらいは逃げていったので未だに地面に伏しているなのはのところへ行く。

 

「おーい、大丈夫か?」

「うぅ……ナナシくん助けてよ……」

「いや、真面目に助けようとしたのに結果的に楽しそうだったじゃん? なんか一気にどうでもよくなって」

「私は大変だったんだよ!?」

「あぁ、なにが大変ってさっき隊長がミスってなのはが撃墜されたって報告送っちゃってたのが一番大変だと思う」

「ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 まぁこんなことがあったので探索は一度中止となり帰還することとなったのだが、むしろ帰ってからが大変だったんだ。

 なにしろなのはが撃墜されたってある意味正しいが誤解される誤報が送られたのだ。

 

 結果、フェイトやはやてたちが押し掛けてきてなのはは再び揉みくちゃに。

 

「なのは! 大丈夫!? げ、撃墜されたって! なのは!」

「うにゃー!?」

「なのはちゃん! 怪我はないかー!? ほら、隅々まで見せてみい! ぐへへぇー」

 

 なんか、おっさんが紛れてるな。見た目は少女、中身はおっさん……うーん、この最悪な感じ。

 

「なのはは撃墜されたのに今はピンピンとしている……バーサーカーなのは始まります」

「それ怖すぎるからやめろアリシア」

「というか本気で心配したんだけど無事でよかったよ」

「まぁ、一応本当に落とされたんだが相手に攻撃力が一切合切なくてな。今みたいに揉みくちゃにされて終わった」

 

 涙ながらに抱きつくフェイトに身体中をまさぐるはやて。フェイトはまだ混乱してるがはやては明らかに楽しんでるし。

 このあとユーノ、クロノ、リンディさんにプレシア、守護騎士の面々にリインと続々やって来た。皆今晩の予定を全部キャンセルして駆けつけたようでなのはが凄く申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「まぁ、今日の一件は前に出すぎるな。無茶をするなって教訓にしよう?」

「うん、そうするよ」

「次から無茶するたびに鼻からスパゲッティな」

「ジャイアニズム!?」

「もしくは私がレイジングハートを改造します」

「……無茶は駄目だよね!」

 

 さて、せっかく皆が集まったということでこのあとはパーティーばりに賑やかな夕食となった。あまり話す機会のないユーノとも話したりしたのだが、今日俺が行ってきた遺跡にもいつか行きたいとか。そういや元々は発掘とかそっち系だったっけ?

 リインはガジェットVI型の話を聞くと私なら勝てたと胸を張る。そうね、肉弾戦のみランクAA越えだものね。製作に関わった一人としてはその拳が鉄板くらい軽々抜けることくらい知ってるから説得力が半端ない。

 

 なんにせよ遠征も無事……うん、無事終わって滅多に揃うことのない面子で集まって晩御飯も食べれてよかったと思う。

 

 

 

 ――そのとき俺たちは知らなかったんだ……この日がエースの墜ちた日と語り継がれることになるなんて。

 

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
どうでしたでしょうか、空白期内でも随一のシリアスを誇る高町なのはの墜ちた日は。作者としても大変悩みましたがこんな作品ですが外すわけにもいかず……皆さんにはとんだシリアスを読ませてしまいました。

ガジェットに落とされ囲まれ一切の反撃を許されず、一方的に攻撃されるなのは――これだけ読むとなんて酷い、いやホント酷いな。

イヤー、シリアスダッタナー

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