さて、リインフォース・ツヴァイ製作開始から約1年。進展は半分といったところなのだがまずまずだと思う。
ま、そんな話は置いといて現在アリシアと俺はミッドのとある場所を訪れていた。前々から目指し、何気にふたりして真面目にやっていたことがある。
デバイスマイスターとその補佐の資格取得のため案外コツコツやってました。取り敢えず勉強してたら割りと本気でプレシアが病気を心配してきた。どれくらい本気って医者に連れていかれるところだった。
いつまでも脛かじってたら申し訳ないし手に職つけようとしてるって2時間ほど説明した。したら、
「あぁ…………あなた本当に自立する気あったのね」
と言われたんだけど何? 一生無職のままテスタロッサ家にいると思われてたのか。え、俺を雇うところがあると思えな……それ以上はいけない、図星を貫かれた俺が泣く。
そんな日々が約1年続いた。うん、1回じゃなくて1年間続きましたわ。二回目からただ俺にダメージ与えるためだけに心配してくるプレシアさんはいきいきしてた。
子持ちの母親が勉強してる子供に心配するふりして頭痛薬渡すのはどうかと思うなぁ! 歳考えろよー。なんて毎回なげやりに考えてたら……一度ポロッと口から漏れた。
――命懸けの鬼ごっこが始まった。デイブレイカーをすかさずアリシアが投げてくれてセットアップ、窓ガラスを突き破り外へ飛び出すまで0.1秒未満。直後に雷が頭を掠めた。それだけで怒気が刺さるように伝わってきて胸がドキドキ、なんてふざけてる暇もなかった。
すぐにバインドで捕らえられて~自主規制中~
~自主、規――制~
~自、し――■、制――、う~
………………
…………
……
「……シ! ナナシ!」
「ん、ああ、どうした?」
「会場着いたよ。なに考えてたの?」
「えーとだな……すまん、ど忘れした。それより試験への自信は?」
「実技100%、筆記試験90%くらい。ナナシは?」
「時の運に任せるつもり100%」
思えばここに来てからまともな試験とか初めてだし緊張するな、いやいやホントさっきまで関係ないこと考えてたとか全然ないから。しっかし見るからにインテリ系な人間がほとんどダナー。
なんかガチガチの無難な回答しそうな……いや、試験だしそれでいいんだけどそんな人ばっかに見える。
ここは余裕があったら珍回答で採点者の荒んだ心に笑いをプレゼントせねば。
「そんなナナシに私からアドバイスを授けようじゃないか」
「ほほう、授かろうじゃないか」
「……なんか受かりそうだからって回答でふざけないこと」
これ以上ないアドバイスだった。まぁ、真面目にやれば割りといい線いくとは思ってるよ。
そこでアリシアとは一旦別れそれぞれの試験会場へ向かった。向かった先には40~50人ほどいたけど俺は今回のなかでは最年少ぽかった……気軽に話せそうな人もいないので仕方なく最後の悪あがきにと参考書を見ようとした。
したけど、持ってきてなかったので隣のおっさんの資料を覗き見すること10分、試験官がやってきた。
始めは筆記試験から。次のストレージデバイスの処理を最適化するにはどうすればよいか書きなさい……?
取り敢えず図面を引いて次の問題へといく。
そうして進めていくなかで、ベルカ式カートリッジをミッド式に転用する方法が出てきて懐かしくなったりした……はて、実用化させて特許を取った人物の名前を二人? アリシアじゃなかったか?
「そこまで! 各自ペンを置き用紙を裏返せ!」
……うん、まあまあ手応えはあった。けど何か野球ボールをテニスラケットで打ち返したかのような変な手応えがある。
ま、気にしても仕方ないので実技試験は特筆することなく終わった、取り敢えず実技試験は。ホント珍しくスムーズに、話す相手もおらず黙々と作業を進めて終わった……なんか虚しさを感じた。
補佐ではなくマジモンのデバイスマイスターの試験はあと1時間かかるらしい。通路のベンチで1人ボーッとして過ごす。
そろそろ暇すぎて天井の染みを数え始めていると熊みたいな人がこっちに向かってきているのが目に入った。いや、縦にも横にもデカイんだけど太ってるというより骨太な筋肉質な感じで顎髭がモジャモジャなおじさま。
「こんなところに子供が1人でどうしたのだ?」
右見て左見て、もう一度右見るけど俺以外に子供がいない。というより他の職員らしき方々が距離を取ってるのは何故じゃ。
「友人を待ってまして、絶賛デバイスマイスター試験受験中です。振りかかる技術試験を華麗な手捌き、少し人様には見せられない顔でこなしてる予定です」
たぶん、きっとね。デバイスマイスターの技術試験となればそれなりの難易度なはず。つまりアリシアさんったら恐らくやる気がマッハで涎を垂らしそうになりつつ、求められるもの以上に仕上げてる。
「友人というと……同い年の子供がデバイスマイスターの試験を受けているというか?」
「同い年……あ、はい同い年です」
精神年齢的にはお互い肉体年齢の倍くらいいってそうだけど。俺は肉体年齢すらハッキリしてないけど気持ちは同い年。
「しかしずっと待っているとは友達思いで良いことだ……友人は尊い、特に同じ志を持つものはな」
「まぁ……同じ志持ってるとも言えるのかな? いえ、それより俺……いや自分もさっきまで補佐の方の試験を受けてたので時間的にはそんなに待ってませんよ」
筆記試験への後悔を胸に抱えてるだけで、ええ。最適化の問題とか今思えば図式せずに文章で回答するやつだったよあれ。やけに解答欄が小さいと思ってたけど、エクストリーム泣きたい。抱えた後悔の重さで溺死しそうだ、明日には生き返ってるけどな。
「そうか、近頃は優秀な子供が多いようだが……海が確保するんだろうな」
「海?」
さて、ここでいきなりだけど現在の管理局の体制についてのお話です。
ざっくりというと
そうなると地上本部、つまり陸は常に人員不足に悩まされているとのことだ。
いきなりなんだって話だけど『海?』って聞き返した一言から今の話を一気に聞かされました。それはもう演説って言っていいくらいに熱く語られた。取り敢えずこの人が陸大好きなことはわかった。
ついでに周りから人がいなくなってら。
話終わったあとにちょっと忌々しそうに俺も海志望か聞かれた。ズイッと顔を寄せてきて、近い近い子供なら泣きそうな迫力。
――なんか圧迫面接(物理)が始まった。
「あー……」
「遠慮せんでいいぞ、あんな話をした手前言いにくいかもしれんが海の方が給与がいいのも事実だ」
「いやー、そういうわけでもなく……フリーでやりたいなぁと」
「……フリーだと?」
まぁ、それが駄目そうなら諦めて局に雇ってもらうかもしれないけど。資格があれば入りやすいらしいし、最悪脱居候のために案に入れておく。
プレシアに煽りに煽られたナナシは脱ニートを目指すぜ……!
と、不意に目の前にいたゴツい人が後ろに下がった。下がったというより何かに引っ張られるかのように距離が開いた。
「レジアス中将、子供怖がらせたら駄目じゃないですか」
「む、ナカジマ准陸尉か。別に怖がらせていたわけではないのだが……」
「中将みたいな強面があれだけ近づいてたら十分怖いです、うちのチビなら泣いてますよ。あとオーリスさんが探してましたよ」
その言葉を受けた名も知らぬゴツい人改めレジアスさんは如何にもしまったといった顔をして走り去っていった。体格の割りに早い、やはり太ってるわけではなさそうだ。
別に後ろ姿を見て肉弾列車みたいな失礼なことを考えてなんかいないからね?
「僕大丈夫だった?」
レジアスさんを引っ張り後退させたのは、紫がかった髪の毛を後ろで一束にまとめた女性。なーんか姉御って雰囲気で上司っぽいレジアスさんにも物怖じせずに言ってた……中将と准陸尉なら中将が上だよな? 准教授とかの准と中くらいの中だし。
「僕ー? そんな怖かった? お名前言える?」
……なんだろう、普通に大人が子供に接する態度に物凄く違和感がある。性格のせいと普段接してる大人(プレなんとかさん)が主な原因だと思うナー。
「あぁ、いえいえ大丈夫です。名前はナナシです……レジアスさんでしたっけ? には陸とか海について聞いただけなんで」
「あー、ここらへんに人がいないのはそのせいね。物凄く熱く語られたでしょ、悪い人じゃないのよ? ただ熱くなりやすい性格だけど」
そして再び子供がこんなところでどうしたのって話に。さっきと同じ説明を繰り返す。
いたって真面目に、うん初対面の人ってふざけていいかの塩梅がわからないよね。さっきのレジアスさんに熊さんとかプー○んって呼び掛けたのはここだけの秘密である。
「へー、デバイスマイスターとその補佐ね。ふふ、なら受かってたときには私のも見てもらおうかしら。近代ベルカのデバイスなんだけど」
「近! 代! ベルカ! 見っ、させてー!」
言ったのは俺じゃない。視界の端から
「アリシアお疲れ、手応えは?」
「近代ベルカのデバイスを見たいです!」
「言葉のキャッチボールしようぜ」
「アハハー、たぶんなんとかなった!」
ぶい! とピース向けてくるあたり本当に出来たっぽい。解答欄に図面引いてない? あ、引いてないそうか……
「それよりも近代ベルカ式デバイスと聞いて!」
「ふっふー、合格していたらデバイスマイスター補佐になるナナシくんに見てもらおうかしらって話をしてたのよ」
「え、なにそれズルい。ここはナナシを倒して代わりに私が――!」
「はーい、そこまで。アリシアちゃんだっけ? あなたもデバイスマイスターになれたら来てくれたらいいから喧嘩はなし!」
襟首を掴まれぷらーん、と子猫が親猫に加えられたかのようになるアリシア。喧嘩じゃないですよ。いつも割りとこんな感じです。
「よし、なら結果聞きにいこう」
「落ち着け、まだ出てるわけないからな」
「そこはアレをアレして……」
「その手で銭表すのやめい」
お金の力は偉大だけど、絶大だし大好きだけど使いどころを誤るんじゃない。ほらもうどうにもならないときに切る札だからポンポン出しちゃいけません。
「そうだね、お金でもなんでも力ってのは使いどころを間違えたら駄目だよ? 受かってたらちゃんと見せてあげるから、ね?」
「はーい。よし! なら結果発表までに近代ベルカについてもっと調べとこう! そうと決まればナナシ行くよ!」
「え、今から? そうだな今からだよな、わかってた」
その後ナカジマさんに別れを告げ帰宅――の前に近代ベルカ式のデバイスについての資料を購入する。
一応、デバイスマイスターとその補佐の試験を受けた手前、ある程度は基礎は知ってる。けど基礎だけだから肉付けのため学ぶことにする。
ミッドチルダ式魔法を基板にし、古代ベルカ式魔法を模倣、再現したものが近代ベルカ式と呼ばれるもの。
特徴は古代ベルカ式……シグナムやヴィータが使用するものとほぼ同様。基本的に近接戦特化に徹していることである。
また、術式の相性の良さからかミッドチルダ式魔法と併用する者もいるってとこかな。それによって近接オンリーでなく中距離とかサポートもカバー出来る割りと汎用性高いものとなっている。
「ナカジマさんはどうなんだろう。正直ほぼ完全に近接格闘系だとは思ってる」
「そうだね、私のタックルをなんなくいなしたからね……!」
「初対面の人にタックルするアリシアに脱帽だわ」
「私は早くもお客をゲットするナナシにジェラシィーだよ」
「お客じゃなくて近代ベルカのデバイス見れることにだろ」
「イグザクトリー!」
まだあまり普及してないものだからなぁ、実際に見ることは少ないし弄れる機会となればもっとない。
資格取れたら上手くいけばメンテ、いや本当に基本的な検査くらいさせてもらえるかも……しれない。けどまず問題が残っていた。
「俺落ちたかも」
「嘘ぉ!?」
「解答欄に……図面を引いちゃったわー」
「うわぁ……引くわー」
「図面を?」
「私がだよ」
ですよね。いや、図面引いたのは一問だけだから確実に落ちたとは言えんのだがやらかした。我ながらいい出来の図面引けたし丸してもらえんかね?
「ま、気にしても仕方ないか。今は新しい課題に取り組むぞー!」
「それ俺が言うべき台詞だから。まぁ、やるけど」
「で、古代と近代の差はやっぱりミッド式魔法へのチューニングがされてるか否かだよね」
「あぁ、前にも言ってたけどそもそも戦闘スタイルがかなり異なるからな」
カートリッジシステムはベルカ式が攻撃力の強化、デバイスの変形を目的に使っているのに対し、ミッド式は魔力総量を底上げが目的だった。なのでカートリッジシステムをつける場合はシステムを合わせるだけでよかった。
ただし近代ベルカとなるとミッド式に適応させつつ、ベルカ式なんで近接格闘特化の特性を殺さないようにしないといけなくなる。そもそも近代ベルカ式の魔法自体、適性がないと使用できないらしいがそれでもベースはミッド式。けれどガチンガチンとデバイスで殴るわ斬るわして近接戦闘を行う。中距離戦やサポートが可能になったとはいえ、ベルカ式はやっぱり近接戦する人が多いからね。
そうなってくると繊細なインテリジェントでは中々に厳しいのでアームドデバイスで作ることとなる。
「ううん? 作ることになる……?」
「いつかはさ作りたいよね! てか作るよ!」
「あ、うん。頑張れ、いや俺も頑張るけど。なにはともあれ、まずは機構とか理解せにゃならん」
「それでアームドデバイスはそもそも古代ベルカ式のものだからね、アームドデバイスちょっと改バージョンみたいになってるはずなんだよ。その“ちょっと改”の部分を調べていこう」
「オッケー」
さーて、久々の新しい分野への進撃だ。なかなかに小難しい話だけどなんとかなるだろ。
この後何日か徹夜したとか、資料が足りないからユーノが司書長勤める無限書庫に突撃かましたとかそんな事実はない。ないったらないのだ。
ーーごめん、ユーノ司書長…………
ここまで読んでくださった方に感謝を。
寝たが少なくなってしまいましたがこんにちわクイントさん。きっとゼスト隊だからレジアス中将とも関係ある……はず。
あと少しここをお借りして多くの感想をいただきありがとうございます。気の効いた返信はできてないのですが画面の前では万歳。
たまにセンスがキレッキレな感想に脱帽しつつも大喜びさせてもらってます。。